第二十四話 ジェイクの秘密
病院の屋上に移動したアルフレート、シアメイ、レティス、フローラはティアとリーゼロッテの報告を聞いていた。
「――本当に私も驚いたわ。あれだけの実力者が居たのに、あそこまで苦戦するとは思っていなかったもの」
「なんか、同じ顔の女の人がいっぱい出てきて怖かったなぁ」
「それでは、敵は赤毛の男と魔術士の女性の分身が複数ということですか。実質、二人だけでこちらの主力を引き付ける算段だったのでしょうね」
リーゼロッテが感想を述べ、レティスが分析するように話をまとめる。
「ええ。魔術のトラップとかもいっぱいで上手く攻め入れなくて、想像以上に時間がかかってしまったの」
「魔術のトラップか……でも、フラン先輩やリアン先輩がいれば、トラップに掛からないんじゃない?」
「確かに先輩のブラッドスキルに従えばトラップは避けて通れたわ。でも、それだと時間がかかり過ぎたの。ある程度は強行しないと夜が明けてしまうほどだったわ」
「なら、師匠は? 師匠の強さなら、トラップとか跳ね除けて全部片付けられる気がするんだけど」
「マサムネは確かに強かったけど、誘拐事件で戦った時と同じで力が封じられているって言っていたわ。それでも私たちの中では一番強かったし、敵の魔術士を何人も倒してくれたけどね」
「同じ顔の魔術士か……学園に現れた魔術士と同じかな?」
「話を聞く限りだとそうだろうね。たぶんボクが相手をしていたのが本体だよ」
「……そっちの戦いについても、詳しく聞かせて貰える?」
ティアはお返しとばかりに学園での戦いについて質問を始めた。
アルフレートとシアメイが掻い摘んで話していると、そこにレティスを探してシーラが現れる。
「レティス、ここにいたのですか」
「お姉様。どうされましたか?」
「あなたには先に報告しておこうと思いまして」
「報告……ですか?」
シーラの後ろにはローズ姉妹、ヒルダ、アリサ、ジェイクの5人が付いて来ていた。彼女が視線をやると、ヒルダとアリサの二人が前に進み出る。
「ヒルデガード・エメットとアリサ・サクライ。先ほどこの二人を私の近衛7騎士に任命しました」
突然の報告に、アルフレートとティア、シアメイの三人は声をあげて驚く。
レティスも驚いてはいたが、二人とは面識がないのでアルフレートたちほど衝撃は受けておらず、話を進める。
「こちらのお二人を7騎士に……素晴らしいことだと思います。騎士名はお決めになったのですか?」
「ええ。ヒルダには『真紅』、アリサには『漆黒』の名を与えます」
「真紅に漆黒ですか。お姉様らしいシンプルな名ですね」
「あなたのビーストマスターも似たようなものだと思いますが……それよりも、先月の誘拐事件に続いて今回の学園への二度に渡る襲撃。戦争が終わっても、真の平和がこの国に訪れたとは言い難い状況です」
「はい。わたくしもそう思います」
「ならばこそ、あなたも早急に騎士を揃えるべきだと考えます」
「わたくしの7騎士ですか? 確かにそうかも知れませんが……学園に通っていないわたくしには、魔道士の知り合いもほとんどいませんし……」
レティスがアルフレートとティアを見てからうつむく。
彼女には信頼のおける魔道士など、二人以外には思いつかなかった。
「何を言っているのです、もう一人いるではありませんか」
「え?」
シーラは後ろを振り返って、ジェイクに目配せをする。
「あの……し、シーラ王女殿下、俺――いや、私はその……」
「ジェイク、ここには私が信頼を置く者と、あなたの友人しかおりませんよ」
「そ、そりゃあ、そうなんですけど……」
「アリサとのことは私も聞きました。それならば尚の事、お金が必要なのでは? 7騎士の給料は高いですよ?」
「うわ~、シーラちゃん、それ王女様のセリフとしてどうなの?」
「黙りなさい、フラン。ジェイク、ここにあなたの父親はいないのですよ?」
「くっ……わ、分かってますよ。いや……分かったよ、シーラ姉さん」
ジェイクは何か諦めたような顔でレティスに近付く。
「よお、レティス。こうして話すのは何年振りだろうな?」
「…………良いのですね?」
「ああ」
目の前で繰り広げられるジェイク、シーラ、レティスのやり取りに、ジェイクの友人たちは揃って首を傾げる。
「れ、レティス、ちょっと待ってよ。ジェイクをレティスの7騎士にするってこと? というかジェイクと知り合いだったの?」
「はい。幼い頃はよく遊んでもらい、兄のように慕っていました」
「遊んでもらったって……」
アルフレートの視線に、ジェイクは顔をそらす。
「ジェイクの父親は私たちオーウェル家と遠い親戚関係なのです。父親との衝突からか、もう何年も顔を見せなくなりましたが」
「親戚……マクスウェル家なんて私は聞いたことがないわね」
ティアが呟いた疑問にシーラが答える。
「そうでしょうね。マクスウェルはジェイクの母親の旧姓ですから」
「は? ジェイク、あなた偽名を名乗ってたの?」
「それってあり? 本当はなんて名前なんだい?」
ティアとシアメイに詰め寄られ、ジェイクは脂汗を流す。
「い、いいだろなんだって」
「よくないわよ。友達でしょ!」
「うっ……わ、分かった! 教えるよ!」
ジェイクは観念したように言う。
「ジェイク・アーサー・レインウォーター。俺の本当の名前だ」
「――れ、レインウォーター!?」
ティアが大声をあげて驚く。
「へえ、ジェイク君、レインウォーター家の人間だったんだ」
ティアほどではないがヒルダも驚き、物珍しそうな顔でジェイクを見始める。
「レティス、レインウォーター家って有名なの?」
記憶の無いアルフレートは墓穴を掘らないようにレティスに小声で尋ねる。
「はい。昔は四大貴族と呼ばれたほどの大貴族ですね。貴族制度が廃止されてからも、西部のマリネラという大きな都市の地主として土地の運用をしています」
「要するに、ティアと同じで大金持ちの子供ってこと?」
「クライン家よりもずっと歴史のある家柄ですよ。総資産も桁が違うかと」
アルフレートから見ればクライン家も相当な金持ちなので、とりあえずはレティスの家の次にすごいのだろうと思うことにした。
「それで、レティスはジェイクを7騎士にするの?」
アルフレートの一言で、騒いでいた一同の注目がレティスに集まる。
「……ジェイクお兄様の実力と活躍は聞き及んでおります。もしも叶うのなら、これからはわたくしの騎士としてこの国のために力を振るって頂きたいです」
「俺にレティスの近衛7騎士なんて……務まるのか?」
「大丈夫だよ、ジェイクの実力は僕やシアメイがよく知ってる」
「そうそう。それに、これから師匠に鍛えて貰えば、数年後には立派な7騎士になってるって」
「そうか? なら、やってみる――いや、やらせてくれ、レティス」
「はい。よろしくお願いします、お兄様」
こうしてジェイクはレティスの近衛7騎士として任命された。
その後、名前を偽っていたことを二人きりの時に打ち明けなかったことに対してアリサがへそを曲げてしまうのだが、ジェイクが抱きしめたら大人しくなった。




