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レティス王女の近衛7騎士  作者: 相馬あさ
明鏡止水編
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第二十一話 グーニラ・マイヤー

「ケイオス? 人違いでは? 私はグーニラ。グーニラ・マイヤーです」


 グーニラは肩をすくめてみせる。


「シアメイちゃん。ケイオスは男性でしょう?」

「男とか女とか、そういう見た目の話はあいつには関係ないと思う。ただ、こいつの不気味な気はケイオスにそっくり――いや、そのものなんだ」

「何でもいいさ。どっちみちこいつらは取り押さえて調べ上げなくちゃいけないんだからな。やることは同じだ!」


 アイリーンが風魔法を放つと、グーニラが即座に闇魔法を召喚して風を飲み込む。


「ちっ、闇魔法を貫くには装備が足りねえ。シェリー、シアメイ、一斉に攻め込むぞ!」

「了解です!」

「はいっ!」


 アイリーンがグーニラと魔法を撃ちあっている間に、シアメイがシェリーの援護を受けながらトウヤと激しい戦闘を繰り広げる。


 自力で劣るシアメイだが、シェリーの的確な水魔法の援護のおかげでトウヤとの戦力差は埋められていた。


「壱之太刀・紅蓮!」

「させないわ! ピスケス・シールド!」


 トウヤが炎を纏った刀で斬りかかると、すかさずシェリーが水魔法で二重の盾を召喚してシアメイを守る。


「ならお前から先に墜とす!」


 トウヤは刀に雷を纏わせて空中を飛び回るシェリーに向かって放つ。


 しかし、シアメイが土魔法で巨大な壁を召喚してそれを防ぐ。


 魔法自体は砕け散ったが、それによって稼いだ時間でシェリーは難なく雷を回避する。


「ふむ。お互いの力が拮抗してしまったようですね」

「どうだろうな。あたしとシェリーは体力には自信があるんだ。このまま夜明けまで戦い続けることだって出来るぞ?」

「それは困りましたね」


 持久戦になれば魔法軍の救援が期待できる分、グーニラたちが不利なのだが、彼女は余裕の笑みを絶やさない。


「想像以上に美夜子と理沙が遅い。向こうはどうなっているんだ、グーニラ?」


 グーニラはトウヤを横目で一瞥すると、小さくため息をつく。


「あちらは少々面白いことになっていたので、もう少し楽しみたかったのですが、仕方ありませんね。プランをBへと変更します」

「プランBだと?」


 トウヤはプランの変更を聞いて一瞬だけ恨みがましい目でグーニラを見た。


「不服ですか?」

「……いや、任務の成功が最優先だ。従おう」

「では、校舎内にいる私を使いましょうか」

「新しいものは出せないのか?」

「学園の魔術士の仕業でしょう。かなり複雑な結界が張られていますので不可能です」


 グーニラが空中にいるアイリーンに向かって両手をかざす。


「まずは想定外の駒に大人しくして貰います」


 漆黒の魔法陣から放射状の闇魔法が放たれる。


「ドラゴン・ブレス!」


 アイリーンはグーニラの闇魔法と同サイズの風魔法をぶつける。


 二人の魔法が衝突し、競り合う。


「くそっ、あたしの風魔法がこうも止められるなんて!」


 アイリーンは悪態を付いていると、彼女の耳に付けられた通信機から部下の声が聞こえてくる。


 風魔法を放ちながら、アイリーンは後方にそびえる校舎へと振り返った。


 校舎の入り口から黒いローブ姿のグーニラが姿を現す。


「な、どうなってやがる?」

「ふふっ、どうなっているのでしょうね?」


 困惑して二人のグーニラを見比べるアイリーンを、後方に立つグーニラが嘲笑い、そのままグラウンドの方へと走り去る。


「シェリー、追えるか?」

「む、無理ですよ。私が抜けたらシアメイがやられます!」


 シェリーとシアメイは相変わらずトウヤと互角の勝負を繰り広げており、追撃にまわる余裕はない。


 校舎からはグーニラに遅れるようにしてアイリーンの部下たちが姿を見せる。


「お前ら、奴はグラウンドへ向かった! 向こうの学生と教師の命を最優先で守れ!」

『イエス、マム!』


 アイリーンの部下たちは指示通りにグラウンド側へと追撃を開始した。

 




 アルフレートが張った風の結界の中で、ジェイクとアリサの攻防が続く。


 ジェイクはひたすらにアリサに話しかけ、彼女を苛立たせていた。


 もはやアリサに最初の冷徹な印象は無く、呻くような叫び声を上げて暴れまわっている。


「『ビーストマスター』、気を付けろ!」


 不意に、聞き覚えのある声が聞こえてアルフレートは振り返る。


 そこにはグーニラを追いかける軍人たちの姿があった。


「ど、どうする? 僕は水魔法を出しているから何も出来ないぞ?」


「俺は鎖とは別に自分の魔法も出せるけど……鎖の制御が不安定になるかもしれない」


 アルフレート、エルヴィス、ヴィニーが身構えると、軍人たちが地面から魔力を通して3人の前に防御魔法を張ってくれる。


 しかし、グーニラは3人の横を素通りしてジェイクとアリサが戦っている風の結界に近付くと、戦いを眺めるように立ち止まった。


 その間に、軍人たちがアルフレートたちの隣に到着する。


「あなたたちは、さっきの」

「遅れてすまないな。校舎内で急にあいつに襲われて、全員足止めを食っていたんだ」

「それよりも、箱はどうなった?」

「あそこです。僕たちの友達が……その、洗脳されていて。箱を持って暴れているんです」


 アルフレートはアリサを指さして状況を説明する。


「洗脳だって?」

「はい。別人のように人が変わってしまっているんです」

「凄まじい、動きだ。あれでは拘束するのも難しい。それと――そっちの女は校舎に潜入していた奴だな?」


 軍人は炎の鎖と氷の魔法で完膚なきまでに拘束されたミヤコを見ると、少しだけ憐みの視線を彼女に送った。


「ええ。この女は僕と彼に任せてください」

「よし、頼んだぞ。『ビーストマスター』、すまないがあのローブの女を捕まえるのを手伝ってくれ」

「分かりました」


 アルフレートと軍人たちが立ち止まったグーニラに近付くと、彼女はゆっくりと振り返った。


「ミヤコ様、リサさん、たった今からプランBに作戦が変更されましたので、お願いいたします」

「プランB?」

「この状況で二人に作戦の変更を伝えたとして、何ができる?」


 軍人がグーニラに向かって炎魔法を放つ。


 火炎は彼女に直撃すると、彼女の全身を包み込み焼き尽くす。


「な、何?」


 グーニラは軍人の炎魔法で灰になり、絶命した。


「どうして……」


 完全な無抵抗で殺されたグーニラに対して、魔法を放った軍人が一番動揺した。


「はあああぁあああ!」


 突如としてアリサが叫び声を上げながらジェイクに肉薄する。


「ぐっ、アリサ、止めろ!」


 防御や回避を全く考えない捨て身の攻撃だったゆえに、彼女を傷付けたくないジェイクは反撃出来ずに木魔法で突き飛ばされる。


「まずいっ!」


 ジェイクがアリサの木魔法と風魔法の結界で挟まれそうになったので、アルフレートは反射的に風魔法を解除した。


 ぶつかる相手を失ったジェイクの身体はグラウンドに転がる。


 その隙を突いてアリサはミヤコの方向へ一直線に走り出した。


 アルフレートはジェイクの『視覚強化』のブラッドスキルがどれほど強力なものだったのか、身をもって体感した。


 アリサの進路上にいたアルフレートと軍人たちは誰一人として彼女に触れることが出来なかったのだ。


 まるで風が通り抜けたかのようにアリサはミヤコの元まで最短ルートで接近した。


「まずいっ! エルヴィス、ヴィンセント、逃げろっ!」


 起き上がったジェイクが叫ぶ。


 エルヴィスがとっさにヴィニーを庇う様に土魔法の大盾を召喚して身を守ったが、アリサの強力な木魔法によって盾ごと突き飛ばされた。


「……かはっ……ごほっ、す、すまない……」


 二人の拘束から逃れたミヤコが起き上がってアリサから箱を受け取る。


「……じゃあ、プランBだから」

「はい。任せてください」

「……ごめんね、理沙」


 ミヤコは全速力で学園の裏門の方向へと走り出す。


「行かせるか! 全員、攻撃!」

「行くよ、フローラっ!」


 アルフレートと軍人たちが魔法を放つ。


 しかし、その全てをグラウンド奥――ミヤコが向かう方向から走ってきた黒いローブの女性たちが闇魔法で受け止める。


「そんなっ!」


 ミヤコは脇目も振らずに走り抜ける。


 先ほどまでグラウンドの奥でローブの女性たちと戦っていた学生や教師、軍人たちが状況を察して直進してくるミヤコへと魔法を放つ。


「……舐めるなっ!」


 ミヤコはいくつもの気功分身を作り出して狙いを絞らせず、比較的弱い魔法を放つ学生の魔法を手刀で斬り裂いで進んでいく。


「ダメだ、あれじゃ逃げられる! フローラ!」

「――アル! あぶねえ!」


 フローラに乗ってミヤコを追いかけようとしたアルフレートにアリサが斬りかかり、ジェイクが右手の『水魔力器官』で生み出した強力な水魔法の氷盾で庇う。


「邪魔するな」


 アリサはジェイクの氷盾を手甲鉤で破壊すると、アルフレートの腕めがけて鎖を投げる。


「うわぁ!」


 腕に鎖が絡まったアルフレートをそのまま横薙ぎに振り回し、ジェイクにぶつけて突き飛ばす。


「くそ……ダメだ、完全に逃げられた……」


 ジェイクは裏門の方を眺めて呟く。


「任務失敗か……せめて、奴らだけでも取り押さえろ!」


 軍人たちがローブの女性たちに手をかざす。


「どうやらここまでのようですね。もう少し理沙さんの戦いを楽しみたかったですが、任務の成功が最優先ですので」

「なんだ? あの人たち、全員同じ?」

「ああ。さっきの黒い霧みたいな魔法といい、これってあのケイオスって奴の分身と同じじゃねえか?」


 アルフレートとジェイクはローブを着た女性たちが全員同じ顔であることに気が付く。


 王女誘拐事件の時に対峙したケイオスが何人もの分身を作り出していたのを思い出し、全身に悪寒が走る。


「では、ごきげんよう」


 ローブの女性たち――グーニラたちは自分たちに向けて闇魔法を放つ。


 黒い竜巻のような闇魔法の直撃を受けて、彼女たちはバラバラに分解されて消滅した。


「な、何がどうなってるんだよ……」


 負傷したのか、ヴィニーに肩を貸してもらいながら一部始終を見ていたエルヴィスが唖然としながら呟く。


「考えるのは後だ、とにかく今は――」


 ジェイクは盗まれた箱の事や、消滅したグーニラたちの事を頭の隅に追いやり、目の前にいるアリサに意識を集中させる。


「アリサ、正気に戻ってくれ!」

「黙れっ! 私は理沙――九条理沙だっ!」


 アリサがアルフレートの右腕に絡まった鎖を強引に引っぱる。


 アルフレートは右腕を左手で押さえるようにして抵抗し、逆にアリサの動きを封じる。


「ジェイク、今のうちに!」

「ああ。アリサ、周りを見てみろよ。お前はこれだけ暴れても誰一人として殺してない。それは優しいお前の意識が残っているからだ。俺の知ってる、優しくて、恥ずかしがり屋で、いたずら好きなアリサ・サクライの意識がまだ残ってるからだろう?」


 アリサはアルフレートに繋がった鎖を放り投げると、頭を押さえて呻く。


「黙れっ! 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ! 私はアリサじゃない! 私は――」


 アリサの目が見開かれ、ジェイクを捉える。


 それは、ジェイク以外の人間に取って一瞬の出来事だった。


 『視覚強化』のブラッドスキルによって超人的な動体視力を手に入れていたジェイクすら対応が遅れる程の速度で、アリサはジェイクの懐へと潜り込む。


 ジェイクの口から鮮血が噴き出し、背中からは四本のカギ爪が飛び出した。

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