第十九話 シアメイの武器
正門前で戦うシェリーとアイリーンは続々と駆け付けてくる教師や生徒たちをグラウンドの方向へ誘導しつつ、トウヤとの戦闘を続けていた。
「ちっ、意外としぶといな。それにその刀、普通じゃねえ」
最初こそアイリーンの風魔法で圧倒出来ていたのだが、途中からトウヤが別の刀に持ち替えたことで一方的な戦いではなくなっていた。
「あの刀、マサムネさんの言っていた……」
「知ってるのか? シェリー」
「詳しくは知りませんが、古代魔術具の類だと思われます」
「だろうな」
アイリーンが風魔法で作り出した見えない翼で空を飛び、上空から風魔法を放って攻撃する。
しかし、そこに黒い霧のような魔法が割込み風魔法を飲み込んでしまう。
「……闇魔法か。そっちの女もただものじゃねえな」
アルフレートたちを校舎の中へ誘導した後にトウヤを援護するように現れた黒いローブを着たグーニラは、アイリーンの強力な風魔法を闇魔法で無効化し続けている。
「ふふっ、世界最強の魔道士と称されるあなたにそう言って頂けるとは、光栄ですね」
「他人が勝手に言ってることだ。あたしはただ暴れるしか能がないだけだよ」
アイリーンは身体の正面に巨大な魔方陣を展開して風魔法を放つ。
「させません」
「こっちのセリフだっ!」
風の刃はグーニラの闇魔法に当たる直前で向きを変え、円を描くようにトウヤの後ろを取る。
風魔法は見ることが出来ないが、トウヤは空気の流れと魔力が発するエネルギーを身体を覆う気で感じ取り、完璧なタイミングで振り返って風魔法を斬り伏せる。
「――っ、あれを見切るのか」
「次はこちらから行くぞ」
トウヤは人間とは思えないスピードで地上にいたシェリーに迫り、刀を一閃する。
シェリーは水魔法を氷に変化させて防御し、一瞬だけ刀の進行を遅らせ空中へと飛び上がって回避する。
その際にシェリーが来ていた蒼いコートが輝き、彼女の服が鎧とドレスが融合したような見た目のものに変化した。
「あ、危なかった……」
「お前も飛べるのか」
トウヤは蒼いドレスから生えた水の翼で空を飛ぶシェリーを見上げて舌打ちする。
「ならこれはどうだ」
トウヤの刀の刀身が稲妻を帯びて輝く。
「あれはやばい! シェリー!」
「はいっ!」
空中にいる二人が風魔法と水魔法で同時に攻撃する。
「無駄だっ! 肆之太刀・轟雷!」
トウヤの刀から放たれた雷の斬撃によってシェリーとアイリーンの魔法は消滅する。
斬撃をかすめたのか、シェリーの左肩から血が噴き出した。
「くっ、避け損なった……」
「治そうか?」
「大丈夫です」
シェリーのドレスが輝き、彼女の傷とドレスが修復される。
それこそが彼女の持つ古代魔術具『天使の外套』の力である。
ティアが持つ『戦乙女の外套』と対を成す存在であり、蓄積された魔力を消費して形を変え、所有者の傷を癒す効果があった。
「便利な服だよな――ん?」
アイリーンはトウヤへと駆け寄る一人の少女に気付く。
もちろん、気功の達人であるトウヤも気付いており、振り返って少女の剣を刀で受け止めた。
力負けした少女は払い飛ばされるも、くるくると回転して綺麗な着地を決める。
「さすが、九条透也。ボクの剣じゃ通用しそうにないかな?」
「大和の人間か? いや、その武器、晋共和国だな」
「ご名答。ボクの名前はリー・シアメイ。これは過保護な父親が送り付けてきたボクの家の家宝さ」
シアメイが持っていた剣を上に投げると、剣は小さな宝石へと変化して彼女の耳飾りにはめ込まれる。
シアメイの耳には左右に二つずつの耳飾りが付けられており、アイリーンとシェリーは戦場での経験から、それらが全て古代魔術具であることを見抜いた。
「シアメイちゃん、あなたはグラウンドの方へ行きなさい。そいつの相手は私たちに任せて!」
シェリーの指示をシアメイは「やなこった」と言って拒否する。
「確かに先生とそっちの軍人のお姉さんはボクより強いと思う。でも、気功を使う相手の戦いは慣れてない。ボクの力が必要なはずだ」
「へえ、言うじゃねえか。お前なら何とか出来るのか?」
シアメイは左耳の耳飾りの一つに触れる。
青色の宝石が輝きながら空中へと飛び出し一本の棒へと形を変える。
「なんだそれ? 棒切れでどうにかしようってのか?」
「棒切れって……『棍』っていうんだけど。まあ、見ててよ」
シアメイは黄金の棍を掴み取ると、トウヤへと走る。
トウヤは迎え撃つようにシアメイに炎を纏った刀で斬りかかる。
金属のぶつかり合う音がしたかと思うと、トウヤの刀が中ほどから砕け散り、破片がコンクリートの地面へと突き刺さる。
「――何っ?」
「そこだ!」
自慢の刀が破壊されたことで生じた隙を見逃さず、シアメイは棍による連続の突きをトウヤに浴びせる。
トウヤは激しく動揺しつつも、折れた刀で棍の軌道をずらして防御していく。
「くらえっ!」
シアメイが地面へ棍を突き立てると、そこから水の柱がトウヤめがけて噴き出す。
水は氷へと変化してトウヤの動きを封じた。
「よし、今だよ先生たち!」
「させません!」
グーニラの闇魔法がシアメイの作り出した氷を破壊しトウヤの拘束を解く。
トウヤは氷が消えると同時に飛び退いてグーニラの隣に並ぶ。
「やるなあ。正直、シェリーより強いぞ」
「隊長、さすがにそれはないですから。でもシアメイちゃん、あなた棒術なんて使えたのね」
「そりゃあね。剣、刀、槍、棍の四大武器くらいはそれなりに使えるように仕込まれてるさ」
「じゃあ、今までどうして使わなかったの?」
「単純に素手の方が好きだからね。でも、実戦ではそうも言っていられないでしょ」
シアメイはトウヤとグーニラへ向けて棍を構えなおす。
アイリーンは楽しそうな笑顔を浮かべて、シアメイの上に移動する。
「気に入ったぜ、シアメイ。あたしとシェリーで援護してやる、思いっきり暴れな」
「ありがとうございます!」
トウヤは砕かれた刀を見て悔しそうな顔を一瞬だけ見せたが、すぐにシアメイに視線を戻して構えなおす。
「その刀で戦うのですか?」
「安心しろ、『天之尾羽張』はまだ死んではいない」
そう言うと、トウヤは気を増幅して刀に流し込む。
刀が輝き、地面に散らばった破片へと光が伸びる。すると破片が浮き上がり、刀へと再び集約していく。
数秒後には美しい輝きを取り戻した『天之尾羽張』がトウヤの両手に収まっていた。
「やっぱりか、古代魔術具はこれだから面倒なんだ」
「どういうことですか?」
シアメイの質問にアイリーンとシェリーが答える。
「学園ではまだ教わってないのか。古代魔術具は魔力を流せば元の形へと復元する力を持っているんだよ」
「九条透也でもそれが出来たということは、魔力ではなくて気でも復元可能ってことみたいですね」
シアメイは棍を耳飾りの宝石へと戻し、今度は別の耳飾りの宝石を槍へと変化させる。
「ならやっぱり、本体を叩かないとダメってことか」
シアメイの気に反応して槍が炎を纏う。
振りかぶってトウヤめがけて炎の槍を投擲する。
「面白い古代魔術具をお持ちのようですね」
グーニラがトウヤの前に出て闇魔法で炎の槍を受け止める。
闇の霧はそのまま炎の槍を飲み込もうとしたので、シアメイは槍に戻るように念を飛ばした。
炎の槍は小さな宝石へと姿を変えてシアメイの耳飾りへと即座に帰還する。
シアメイはグーニラを睨みつけるとじっくりと彼女を観察した。
どんな状況でも余裕を見せ、笑みを絶やさない不気味な女。
底知れない闇魔法。
それらの情報から、シアメイはあることに気が付いた。
「お前…………ケイオスか」




