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レティス王女の近衛7騎士  作者: 相馬あさ
明鏡止水編
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第十八話 隠蔽工作

 結果として魔法軍の協力を得ることは叶わず、敵の潜伏先と思しき山岳地帯への襲撃作戦のメンバーはシーラとその7騎士であるローズ姉妹、セリーヌとマサムネ、レティスの7騎士であるティア、魔術対策としてヒルダ、いざという時の脱出用にアルフレートの使い魔リーゼロッテが任命された。


 ただの学生であるヒルダと王女のシーラはリーゼロッテの転移魔法の存在を理由に作戦への参加をソフィアから許可された。


 23時。

 ジェイクとアルフレートの二人は男子寮で時計を睨みつつ、作戦の成功を祈っていた。


「なあ、アル。フローラはソフィア女王やレティス王女と一緒にオーウェル城にいるんだよな?」

「あとセルゲイさんもね」

「ならお前は作戦に参加してもよかったんじゃないのか?」

「いや、何があるか分からないからさ。例えば――」


 アルフレートの言葉は鳴り響く警報音で遮られる。


「何だぁ!?」

「ああもう、どんなタイミングだよ! 行こう、ジェイク!」

「お、おうっ!」


 ジェイクは傍らに置いてあった『天羽々斬(アメノハバキリ)』を掴むとアルフレートに続いて寮の外へと出る。


 外では軍人たちが慌ただしく走り回っていた。


「あの警報って学園に侵入者が入ったってことだよな?」

「うん。こういうことがあるかもしれないから、僕は学園で待機するように言われてたんだ」


 ジェイクは刀を持っている左腕を右手で撫でる。


「……ちくしょう、これがフィルターって奴なのかね。魔力を練ると異常なほど冷静になっちまう。この前あんなことがあったってのに、今はもう怖くもなんともない」

「いいことだよ、たぶん。おかげでパニックにならないで戦えるんだから」

「ああ、そうだな」


 二人は校舎の方向へ走り出した。




 寮から校舎へと続く緩やかな坂道を登り終えたところで、二人はトウヤと激しい戦いを繰り広げる二人の魔道士を目撃する。


 一人は担任教師であるシェリー・メルヴィル、もう一人は軍服の女性だった。


 銀に近いグレーの髪をなびかせ、どういう原理なのか空を飛んで戦っている。


「おらぁぁあああ!!」


 女性は荒々しい口調で叫び、緑色の魔法陣から目に見えない魔法の刃を飛ばす。


 トウヤは気を纏った刀から斬撃を飛ばして魔法を相殺した。


「へえ、今のを防ぐか……」


 女性はニヤリと口角を上げるとシェリーの隣に降り立つ。


「ここが住宅街の近くじゃなかったらもっと簡単なんだがなぁ」

「やめてくださいよ。隊長の魔法はシャレにならないんですから」

「隊長って呼ぶなよな。あたしの誘いを断って教師になったくせに」

「分かりましたよ、メイブリック大尉」

「うえっ、気持ち悪っ! やっぱり隊長でいいよ」

「き、気持ち悪いって――」


 会話する二人めがけてトウヤが再び斬撃を放つが、二人は即座に反応して散開する。


 斬撃はそのまま校舎の蒼い壁に直撃して抉ったが、数秒後には自動で修復された。


「俺を前にしてくだらない会話をする余裕があるのか」

「お前こそ、たった一人であたし達と対峙して生きて帰れると思うのか?」


 女性は正面に右の手のひらを突き出すと緑色の魔法陣を展開する。


「ドラゴンブレス!」


 魔法陣から目に見えない風の渦が放出され、トウヤに迫る。


「何っ! ぐ、おぉぉぉおおおおおっ!」


 トウヤは叫び声を上げながら魔法を刀で受け止めて何とか斬り伏せるも、片膝を付いた。


「隊長! いきなりなんて大技撃ってんですかっ! あいつが防げなかったら街が消し飛んでましたよ!?」

「いや、こいつがあたしを前にして舐めた態度取るからさ。それよりも――」


 女性は少し離れたところで戦いを眺めて立ち尽くしていたアルフレートとジェイクに視線を向ける。


「お前ら、戦えるなら校舎内に向かってくれ。あたしの部下が先行してるが、室内でこいつと同レベルの奴が相手だとやばいかもしれない。悪いがあたしは狭いところが苦手なんだ」

「「は、はいっ!」」


 二人は言われるままに校舎へと走る。


 疑問を口に出来るような相手ではないと、先ほどの戦いぶりをみて感じ取っていたからだ。


「お前、その刀は!」


 トウヤがジェイクの持つ刀に反応するが、シェリーが二人を守るように立ち塞がる。


「悪いけど、私の生徒に手は出させないわ。あなたはここで私たちに捕らえられるのよ」

「くっ……」

「あたしの部下を頼んだぞ、『ビーストマスター』」


 ジェイクはトウヤを一瞥すると、アルフレート共に校舎の中へと走り去った。




「あの人、すごい強さだったね……」


 アルフレートは校舎内を警戒しながら進みつつ呟く。


「知らねえのか? あの人はこの国で最強の魔道士、『龍の逆鱗』のアイリーン・メイブリック大尉だ」

「最強の魔道士……確かにそんな感じだったね」

「アル、フローラは呼べるか? あの人の部下が苦戦するレベルの相手なら、たぶん九条美夜子って奴のことだぞ」

「ちょっと待って――」


 アルフレートはフローラにテレパシーを送り情報共有を行う。


 足元に白い魔法陣が現れ、光がフローラの姿を作り出す。


「お待たせしました、ご主人様」

「頼むよ、フローラ」

「はいっ!」


 フローラは腕輪の姿に変身してアルフレートの右手に装備される。


「よし、まずは宝物庫へ向かおうぜ」

「うん。二階の開かずの扉の先だね」


 二人が階段を駆け上がると、3人の軍人と遭遇する。


 軍人たちは出会い頭にアルフレートたちに手をかざして魔法陣を展開するが、二人が学生服を着ているのを確認すると腕を下ろす。


「――なんだ、ここの生徒か」

「いや待て、君は『ビーストマスター』か?」


 アルフレートは『龍の逆鱗』のアイリーンに頼まれてここへ来たことを説明する。


「なるほど、隊長が……それなら捜索に協力してくれないか? 侵入者を追いかけて校舎に入ったものの、奴は足音を消して走ることが出来るようで、完全に見失ってしまったんだ」

「宝物庫の場所は聞いていないんですか?」

「いや、もちろんそこは聞いているし調べたさ。しかし、誰もいなかった。念のために自分たち3人で入口のここを見張っているんだ。他の隊員には上の階を探してもらっている」


 アルフレートとジェイクは顔を見合わせる。


「ジェイク……敵の目的って聞いている?」

「いや、正式に聞いたわけじゃないけどよ、エルヴィスが敵の狙いは宝物庫にある箱だって言ってたぜ。なんかすごい古代魔術具とかなんだろうけど……」

「うん。僕もソフィア女王陛下からそう聞いている。でもさ、そもそもどうやって九条家の人は見たこともない箱を学園の宝物庫の中から見つけたんだと思う?」


 ジェイクがアルフレートの質問に考え込んでいると、話を聞いていた軍人の一人が答える。


「敵には魔術士がいるという話だし、何かしらの魔術具を使って在りかを割り出したのではないだろうか?」

「恐らくはそうなんだと思います。そして、それなら隠し場所を変えても無駄だとも女王陛下は仰っていました」

「ってことは、箱はまだ宝物庫にあるってことか?」


 ジェイクはおもむろに開かずの扉を開けて通路の奥――宝物庫の入り口の壁を覗く。


 そこには修復された傷一つない壁がそびえていた。誰かが通った形跡はない。


「アル、お前は宝物庫に入ったことがあるんだよな。壁を壊さないで入る方法ってあるのか?」

「魔法の鍵があるんだよ。でも、その鍵はソフィア女王が持っているんだ。だから扉を壊さずに入ることは不可能だよ」


 軍人たちは周囲をより一層警戒しながら言う。


「なら、やはり襲撃犯はこの校舎内に潜伏して機会を伺っているというわけか」

「……そんな悠長なことするのかな? 急いで撤退しないと不利になるのは向こうだと思うんだけど」


 アルフレートが呟くと腕輪になっていたフローラがテレパシーで彼に話しかける。


『ご主人様、外の音が聞こえます』

『外? ああ、うん。外では先生や軍の人たちが戦っているから――』


 そこで、アルフレートはあることに気が付いた。


「――窓が、空いている?」


 アルフレートたちが現在いる場所は、校舎の東館と西館を繋ぐ連絡通路にあたる部分だが、そこの窓が一つだけ開けられていた。


 丁度、人が一人通れそうな幅に開け放たれた窓を見て、アルフレートは宝物庫の壁に駆け寄る。


「アル? どうした?」


 ジェイクに返事をするよりも先に、アルフレートは壁めがけて拳を振るう。


 すると、宝物庫の壁は波のように揺らめいた。


「これって!」


 アルフレートは揺らめく壁を引っ掴むと、思いっきり下へ引っ張る。


 布が破れる音と共に壁は裂け、宝物庫へと続く大穴が姿を現した。


「な、なんだそれ?」


 ジェイクは目の前で起きた信じられない現象に驚く。


「分からないけど、分かったことは一つあるよ!」

「ああ。箱は既に奪われた後だ!」


 瞬時に状況を理解した軍人たちは仲間に通信機で連絡を入れる。


 アルフレートは開け放たれた窓によじ登ると、振り返る。


「行くよ、ジェイク!」

「お、おう!」


 アルフレートとジェイクは窓から学園のグラウンド方面へと飛び降りた。

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