第十七話 疑惑の視線
エウニス学園、学園長室。
セリーヌ、マサムネ、シアメイ、ジェイクの4人は失踪したアリサについて話し合っていた。
「先ほどアリサの実家に確認の電話を入れましたが、アリサの本当のご両親については明かせないとのことでした。なんでも、養女として引き取る際の契約だとか」
「状況からみても、アリサは九条家の娘という線が濃厚でしょう」
「アオイさんも似ているって言ってたもんね」
「俺が拘束される少し前に、師匠――いや、九条重盛は若い女と再婚していました。恐らくはその女が産んだ統也達とは腹違いの妹だと思われます」
「…………アリサ」
ジェイクはソファに腰かけ、いまだに信じられないといった顔でアリサの名前を呟く。
「しかし、アリサはどこへ向かったのでしょう? マサムネさんでも敵の潜伏先は感知出来ないのでしょう?」
「いや、俺はそもそも気の感知能力に関してはシアメイ以下です。よほど強力な気を垂れ流していない限り場所などは分かりません」
「ボクも分からないな。そもそも襲撃があった時でさえ、グラウンドの方で九条家の人間が暴れているなんて感じなかった。もともと暗殺者として訓練されているなら、気を周囲に振りまかないように戦うのは得意なはずだから、向こうから意図的に気を向けられない限りは感知なんて出来ないよ」
「ふむ……ということは、向こうからアリサへ接触を試み、アリサはそれを感知して出て行った――ということでしょうか」
「ま、待ってくれ!」
ジェイクが立ち上がり声を荒げる。
「なんでアリサが九条家の奴ら側についたって決めつけるんだよ! アリサは敵じゃない! それ以上アリサを侮辱したら許さねえぞ!」
「落ち着けバカ弟子」
マサムネは手刀をジェイクの額に振り落とす。
ジェイクはソファに転がって大袈裟に見えるほど痛がった後、マサムネに目で抗議する。
「誰が敵側についたなどと言った。俺やファネル先生はアリサが透也や美夜子の元へ向かったのではと言っただけだ。俺だってあの子が――ティア様の友人がそう簡単に敵に寝返るとは思っていない」
マサムネの言葉を聞いてジェイクは黙り込む。
「しっかし、ボクとアリサ、アオイさんに師匠と、九条家に関係がある人間がこうも同じ場所に集まるって、何かの陰謀じゃないの?」
「……マサムネさん以外の3人がこの学園に来た原因を作ったのは私ですが、私は九条家の存在など知りませんでしたし、そう思いたくもなりますね」
「ファネル先生は前から3人と知り合いだったのですか?」
「全員、私が東方の国々を旅行中に出会い声をかけた人たちです。アリサの場合は保護者のサクライ夫妻にですが」
セリーヌの告白を聞いて、他の3人が彼女に怪訝な視線を送る。
「な、何ですかその目は。まさかとは思いますが、私を疑っているのですか?」
「だって……ねえ?」
「ああ。偶然にしては少々出来すぎだな。それに、思い返せば俺が大和国でエルネ様とセルゲイ様に出会ったのも、あなたが仕向けたことでは?」
「えっ? た、確かにセルゲイに大和に行くように言ったのは私ですが……」
セリーヌは額に汗を浮かべてうろたえる。
「これって黒?」
「グレーといったところだろう」
「ちょっと待ってください! 偶然です! 私を疑うのは止めなさい!」
セリーヌが席から立ちあがって叫ぶのとほぼ同じタイミングで学園長室の扉がノックもなく開かれる。
「セリーヌ! やりましたよ!」
「シ、シーラ? どうしたのですか?」
扉を開け放ったシーラは、部屋にセリーヌ以外の人物がいることを確認すると、切らした息を整えて平静を装う。
「――失礼。ファネル学園長、ヒルダが敵の潜伏先を発見しました」
「本当ですか?」
「はい。どうやらここから南西にある山岳地帯の一点に小さく強固な魔術結界が張られているそうです。今日の夜にでも私と母、それと妹の7騎士を使って襲撃しようと思います」
「魔法軍は……動かないかもしれませんね」
「要請は出しますが、情報源がヒルダの魔術ですからまず動いてはくれないでしょう。ですが、私は信じています」
「話は分かりました」
セリーヌはシーラの隣まで移動すると、自分を疑ったマサムネたち三人に宣言する。
「あなたたちが私を疑うのなら、私は自分の手で敵を捕らえて疑いを晴らして見せましょう」
「疑い? いえ、それよりも、一緒に来てくれるのですか?」
「こう見えても私はランクA魔道士です。実力はソフィアやセルゲイより上ですよ」
セリーヌはシーラと共に部屋を出て行く。
「せっちゃん、怒ってたね」
「まあ、あれだけ疑われればな。でも、怪しいもんは怪しいんだよな」
すると、出て行ったはずのセリーヌが戻ってきてマサムネを睨む。
「『黒風の太刀』、何をしているのです。あなたにはソフィアの7騎士として協力してもらいますからね!」
「あ、ああ。もちろんだ……」
部屋に残されたシアメイとジェイクは顔を見合わせる。
「ボクたちは留守番かな?」
「だろうな。悔しいけど、九条透也が相手じゃまだ俺たちは力不足だ」
シアメイはジェイクに力不足と言われたことに対して不満そうな顔をしつつも、反論はしなかった。




