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レティス王女の近衛7騎士  作者: 相馬あさ
明鏡止水編
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第十六話 魔術の力

 11月23日。


 潜伏先の山奥で眠っていたジークは鈴の音を聞いて目を覚ます。


「……来たか?」


 近くの木の枝に引っ掛けてあった鈴はグーニラが置いて行ったもので、拠点周辺に張った結界内に人が侵入すると鳴るように魔術がかけられている。


 ジークは跳ね起きると、薪に炎魔法で火を付けて少し離れたところにある茂みに隠れる。


 しばらくすると、焚火の近くにトウヤとミヤコ、そして長い黒髪の少女が姿を見せた。


「ジーク、戻ったぞ」

「――どうやら、目的は達成出来たみたいだな」

「ああ」


 ジークは茂みから出るとトウヤとミヤコの間に立つ小さな少女に目を向ける。


「本当に信用出来るのか?」

「賭けではあったが……協力する気はあるようだ」

「……昔の感覚も取り戻しつつあるらしい。少なくとも私よりは強い」


 ミヤコはどこか諦めたような顔で言う。


「正直俺はまだ納得できないな。お前、名前は?」

「……理沙です」

「リサか。俺はジーク。ジークベルトだ。リサ、お前はどうして俺たちに協力する気になったんだ?」


 ジークの問いにリサは感情のない表情で淡々と答える。


「私は過去の失敗で九条家を追放された身です。ですが、統也様は今回の任務に成功した暁には私を九条家へ迎え入れてくれると約束してくださいました」

「そうか。ならこれを飲め」


 ジークは血のような赤い液体が入った瓶をリサに渡す。


「ちょっと待て、ジーク。なんだそれは?」

「グーニラに渡されたんだ。気味の悪い話だが、あいつの血から作った秘薬だそうだ。飲むとあいつに逆らえなくなるらしい」


 トウヤは怒りをあらわにしてジークの胸倉を掴む。


「お前、本気で言っているのか?」

「本気だよ、嫌々だがな。冷静になれトウヤ、逆の立場ならお前はリサを信用出来るのか? こいつはさっきまで学園にいたんだぞ?」


 トウヤは奥歯を噛み締めながらジークを掴んだ右手を放す。


「だからと言って、はいそうですかと容認できることじゃない。こいつは父が勝手に追い出しただけで、俺たちの……」

「――ご安心ください。効果は3日ほどで切れるものですから」

「……帰っていたのか。全く気が付かなかった」


 暗がりから微笑をたたえた女性が4人に歩み寄る。


「グーニラ、効果が3日で切れるというのは……本当だろうな?」

「もちろんですトウヤ様」


 グーニラはリサを見ると興味深そうに目を細める。


「なるほど」


 リサは興味なさそうにグーニラから視線をトウヤへと移すと尋ねる。


「トウヤ様。今回の任務はここにいる人間だけで行うのですか?」

「ん? ああ。だが、お前とミヤコが協力すれば十分だろう」

「ええ、そうですね。今の私でもなんとかやれそうです」

「おいトウヤ、作戦内容の説明は秘薬を飲んでからに――」


 次の瞬間、諌めようとしたジークの視界からリサが姿を消す。


「やはりこうなりましたか」

「理沙! お前っ!」


 トウヤとミヤコに一呼吸遅れるようにしてジークがグーニラの方へと顔を向けると、そこにはグーニラへ向かってナイフを突き出すリサの姿があった。


 リサのナイフはグーニラが魔術で作り出したと思われる黒い霧に受け止められている。


「私の気が通らない?」


 トウヤが抜刀しリサを容赦なく斬り付ける。


 胴から半分に切り裂かれたリサの身体は空気に溶けるように消え失せた。


「気功分身か! ミヤコ!」

「……ダメです、私ではあの子を捕捉出来ない!」

「ご安心を、星の見える夜に私の陣の中で逃げられるものなどいませんよ」


 グーニラが地面に手をつくと辺り一面に光の線が伸びていく。


「なんだこれ? まさか、これ魔法陣なのか?」


 驚くジークを他所にグーニラは冷静な声で告げる。


「捕らえました」


 山一帯を覆っていた魔法陣がある一点へと収束していく。


「では、向かいましょう」

「お前……何者なんだ?」

「今回は条件が揃っていただけですよ。万全の準備と絶好の条件が揃って初めて、今のような強大な魔術が使えるのです」


 グーニラは夜の山をためらいもなく突き進む。


 ジークはトウヤとミヤコを連れて炎魔法で辺りを照らしながらグーニラを追った。


 少し山を下った所で、輝く魔法陣の上に這いつくばっている少女を発見する。


「これは……何か上から力が加わっているのか?」

「正確には、何倍もの重力が彼女を襲っています。ですが驚きました。この状態でまだここまで抵抗出来るとは」

「……ぐっ……ま、まだ……」


 リサは手に持っていたナイフをグーニラめがけて投擲する。


 金属音が夜の山に響く。


 ミヤコがグーニラに当たる直前でナイフを弾き飛ばしていた。


「危ないところでした。感謝します、ミヤコ様」

「……いや、グーニラなら自力で防げたんじゃないか?」

「買い被りすぎですよ。さて……」


 グーニラは圧し潰されまいと耐えるリサの右腕を掴むとローブから取り出した注射器を突き刺す。


「あっ……がぁ……ぐっ!」


 声にならない悲鳴を上げて理沙が苦しみだす。


「お、おいグーニラ! 理沙に何をした!」

「先ほどの秘薬ですよ。注射の方が飲むよりも即効性が高いです」

「何を勝手なことをっ……」


 思わずグーニラに向かって抜刀しそうになったトウヤの手をミヤコが止める。


 トウヤはミヤコに制止されたことで冷静さを取り戻し、構えを解く。


「後遺症は残らないのか?」

「そうですね。もう一本ほど注射すれば完璧な私の傀儡になる代わりに元にも戻せなくなりますが、今のままなら数日で効果は切れるでしょう」

「そうか。ならくれぐれももう一本は注射してくれるなよ?」

「残念です。彼女ほどの逸材は私も欲しかったのですが」


 グーニラはリサが意識を失ったのを確認すると魔術を解く。


「やはりもう……この子は俺を兄とは呼んではくれないんだな」


 トウヤはうつ伏せに倒れているリサの横顔を眺めながら呟いた。


 どこか遠い目をしたトウヤに、ジークは少しだけ気を使いながら尋ねる。


「作戦の後、秘薬の効果が切れたらどうするつもりなんだ?」

「分からない……だが、連れて帰る気にはならないな」


 倒れていたリサの指がピクリと動く。


 目を開けて起き上がると、顔や服に付いた土を軽く払う。


「お目覚めのようですね。初めまして、私はグーニラ・マイヤー。あなたの名前は?」


 グーニラは満面の笑みを浮かべて自己紹介をする。


 対する理沙は、先ほど以上の無表情で答えた。


「私は――九条理沙です。よろしくお願います、グーニラ様」

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