第五話 異変
11月18日。
学園の授業が終わり、生徒たちが下校を始めた頃。
ジェイクに誘われてシミュレーションルームに自主訓練へ向かっていたアルフレートとティアの携帯端末にソフィア女王からのメールが届く。
確認すると、そこには帝国海軍に新しい動きがあったという情報が書き込まれていた。
「アル、どうする?」
「どうするも何も、僕たちは近衛7騎士なんだよ?」
二人が踵を返したので、ジェイクが声をかけた。
「お、おい! どこ行くんだよ?」
「ごめん、ジェイク! レティスの所に行ってくる!」
「詳しくは後でメールするわ!」
二人が階段を駆け下りていると、同じように別の階から走ってきたシーラとローズ姉妹とが合流する。
「やっほー、二人とも!」
「先輩! シーラ様も!」
「私たちは女王陛下のもとへ向かいます。あなた達はレティスの所へ」
「「はい!」」
学園の正門の前には一台の車が用意されていた。
「来たわね。私の車で送ります」
「ファネル学園長! 助かります」
アルフレートとティアが車に乗り込もうとしたので、セリーヌはそれを腕で制止する。
「何をしているのですクルーガー君。あなたとクラインさんは早く転移なさい」
「――あっ!」
いざという時のためにレティスのもとに使い魔を置いて来たというのに、アルフレートは気が動転してすっかりその事が頭から抜け落ちていた。
急いでフローラを呼び出す。
地面に真っ白な魔方陣が現れ、その上に光が集まってフローラの身体を作り上げていく。
「お待たせしました、ご主人様」
「よし、じゃあ、今度は僕とティアを連れてリーゼロッテの所へ転移するんだ」
「かしこまりました」
アルフレートとティアがフローラと手をつないだところで、アルフレートの肩が引っ張られる。
「うわっ――とと。な、何するんですかフラン先輩?」
「ごめんね。ちょっと聞きたいんだけど、フローラちゃんの転移魔法ってアルフレート君は使えないの?」
「は? どういうことですか?」
「だから、フローラちゃんとリーゼロッテちゃんはお互いかアルフレート君のいる場所に転移出来るんだよね? アルフレート君は自力で二人のいる場所に転移出来ないのかなって思って」
「そんなこと出来るわけ……」
否定しかけたところでアルフレートは昼に見せてもらったフランの『ブラッドスキル』について思い出す。
「で、出来るんですか?」
「何となくだけど……出来る気がするんだよね。それに」
フランは妹のリアンの方をちらりと見る。
「なるほど、そういうことですか。アルフレート、私の勘では今もこのエウニス学園からはとても嫌な感じがするんだ。だが今はリードクイン宮殿とオーウェル城の方向からも嫌な予感が漂っている」
「なら、早くレティスの所へ行かないと……」
「確かにそうだが、私の力ではどの場所が一番危険なのかまでは判断できない。だが君の力なら今上げた三つの場所を一瞬の内に移動できるのだろう? しかも定員は自身も入れて3人。この力を最大限活用するにはどうするのが一番だと思う?」
アルフレートはそこで、フランとリアンが何を考えているのかを理解した。
「……僕とフローラとリーゼロッテがそれぞれ3つの場所に待機して、状況によっては転移魔法で別の場所の救援に向かう――ってことですか」
「そういうことだ」
3人の会話を聞いていたティアが口を挟む。
「あの、それならフラン先輩の力を使えばもっと詳しいことがわかるんじゃないですか?」
「うん、その通りだな。姉様、お願いします」
リアンがフランに向き直ると、フランは明後日の方向へと視線をそらした。
「……やはは、ティアちゃん痛いとこ突いてくるね」
「姉様?」
「隠してて、ごめんね。私ってリアンほど遠い未来の出来事までは勘が働かないんだよ」
「えっ、そんな……」
「そうか。だからフラン先輩は食堂が混んでいることが朝の段階では分からなかったのか」
「一応私の弱点でもあるから秘密にしてね。それでアルフレート君、何か分かったら私がすぐに教えるから、君は私たちと一緒に来てくれない?」
「……分かりました。フローラ、今すぐティアを連れてリーゼロッテのもとへ行って」
アルフレートは大して悩むこともせずに返答し、フローラに指示を出す。
「はい!」
「アル、いざという時はちゃんと助けに来てよね?」
ティアがフローラと手を繋ぐと、二人は光に包まれて転移した。そしてその直後に再び魔法陣が出現し、光の中からフローラが姿を見せる。
「じゃあ、フローラはジェイクたちと合流して、何かあったら知らせてね」
「お任せください」
アルフレートはフローラの頭を撫でてから校舎へと送り出す。彼女は軽快な足取りで走り去っていった。
「……だいぶ時間を浪費しました。急ぎましょう」
「あっ! はい、すみません!」
アルフレートはシーラに急かされ、慌ててセリーヌの車の後部座席に乗り込む。
「シーラちゃん、もっと優しく言わなきゃ。だからアイスプリンセスとかあだ名付けられちゃうんだよ?」
「む……善処します」
シーラが助手席、フランとリアンがアルフレートを挟むように後部座席に乗り込むと、セリーヌの車はリードクイン宮殿へ向けて走り出した。
エウニス学園、シミュレーションルーム。
ジェイクとアリサはいなくなったアルフレートの代わりに、帰ってきたフローラを入れてエルヴィスたち三バカとシミュレーションをしていた。
「負けた~、悔しい!」
シミュレーションマシンから出るなり、ヒルダは楽しそうに声を上げる。悔しそうには全く見えない。
「どうよ、エルヴィス。俺たちの連携も結構上達しただろ?」
「いや、おかしくねえか? なんでアルよりも使い魔のチビッ子の方が強いんだよ!」
「チビッ子だと? 失礼な人間だな、食い殺すぞ」
「怖っ! お前、性格変わりすぎだろ!」
「ん? こいつは前からアル以外の男にはこんな感じだぞ?」
そう言ってジェイクは笑いながらフローラの頭を撫でたので、嫌がったフローラに噛み付かれた。
「痛ってて。何か俺に対しては、より攻撃的なんだよな」
「ジェイクはベタベタ触ってくるから嫌いだ」
「……ふ~ん。嫌いなんだ」
シェリーはフローラの制服の後ろに空けた穴から飛び出している尻尾が嬉しそうに揺れていることに気が付いていた。
口では嫌いと言いつつも、ジェイクに懐いているのは明白だ。
「それにしても、ローラちゃんの強さには驚きね。アル君は使い魔の力を全然引き出せていなかったってことがよく分かるわ」
「ご主人様は本番に強いタイプですから。普段はお優しい性格が災いして本気を出せていないだけです」
「本気……か。それを言ったらアリサちゃんとヒルダちゃんも、そろそろ私に本気を見せて欲しいわね」
シェリーの一言で、アリサとヒルダが同時に身を震わせた。アリサは黙り込み、ヒルダは不自然に笑う。
「や、やだな~、シェリーちゃん。私はいつだって本気だよ?」
「そうかしら。私はもっとヒルダちゃんの本気の魔術を見てみたいけどね」
「うっ、あれは条件が揃わないと――って、あれ? シェリーちゃん知ってたの?」
「そりゃ気付きますとも。たまに使ってる透明になるやつは魔術でしょう?」
「う、うん。結界魔術の応用で、こんな感じに――」
ヒルダは実際に透明になる魔術を使おうとして、動きを止める。
「どうしたの? ヒルダちゃん」
「――シェリーちゃん、屋上の鍵って持ってる?」
「え? うん、持ってるけど?」
「一緒に来て!」
ヒルダはシェリーの手を掴むと、シミュレーションルームを飛び出した。
「行くぞ、ヴィニー」
「分かっている!」
続くようにエルヴィスとヴィニーも部屋から出て行く。
「な、何が何だか分かんねえけど、とりあえず俺たちも付いて行こうぜ?」
最後にジェイク、アリサ、フローラの三人が困惑しながらも後を追いかけた。




