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レティス王女の近衛7騎士  作者: 相馬あさ
明鏡止水編
33/90

第三話 ローズ姉妹の未来予知

 11月14日。エウニス学園。


「今だっ! 頼む、アル!」

「任せて!」


 ジェイクの合図でアルフレートはヒルダに向けて風魔法を発射する。

 風の刃はヒルダの身体を真っ二つに斬り裂いた。


「よし、やっ――うわあっ!」


 突然の後ろからの衝撃にアルフレートは体勢を崩して前のめりに倒れる。


「――何だ? って、アリサ?」

「痛たた……ごめんね、アル君」


 アリサの身体は細かな切り傷だらけで痛々しい。

 どうやら、相手をしていたヴィニーに魔法で投げ飛ばされたようだ。


「大丈夫かアリサ! ヴィニーよくも!」

「余所見している場合かよ、ジェイク」


 二人のもとへ駆けつけようとしたジェイクが、エルヴィスの木魔法で拘束される。


 同タイミングでアルフレートとアリサもヴィニーの水魔法に包み込まれて動きを封じられてしまう。


「準備完了だ」

「決めてやれ、ヒルダッ!」


 エルヴィスとヴィニーが合図を送ると、何もない空間が揺らぎ、10メートルほどの炎魔法を空中に創り上げたヒルダが現れる。


「嘘だろ? ど、どうなってんだ!」


 ジェイクが叫び、アルフレートとアリサが驚愕の表情を浮かべる中、無情にもヒルダの炎魔法は3人に向かって落下し、全てを焼き尽くした。




「くっそー、負けたぁあああ!」


 シミュレーションマシンから出るなり、ジェイクは大声で悔しがる。


「へっへーん! 勝った、勝ったぁ!」

「ジェイク、約束通り昼飯おごれよ」


 ヒルダとエルヴィスは満面の笑みでハイタッチをして、遅れてマシンから出てきたヴィニーとも手を合わせる。


「ん~、まさかエルヴィス君チームが完勝とはね……やっぱり連携って大事だわ」


 見届けていたシェリーがシミュレーションルームの巨大なモニターを眺めながら呟く。


 アルフレートたちが宮殿で帝国軍の不審な動きについて知らされてから、エウニス学園の魔法科でも大幅なカリキュラムの変更が行われた。


 シーラ王女の7騎士であるリアン・ローズが休日に調査をした結果、エウニス学園で良くない事が起こる可能性があるという『未来予知』をセリーヌ・ファネル学園長に伝えたからである。


 生徒たちには帝国の不審な動きに対応するためとだけ発表しており、不確定要素の多いリアンのスキルについては伏せられていた。


 結果、一般科目の授業を全て魔法科目に変更され、エウニス学園で唯一実戦経験のあるシェリーを中心にして、学園のシミュレーションマシンを使って生徒たちにとにかく戦闘経験を積ませることとなった。


「それで? ジェイク君チームはちゃんと作戦とか考えて戦ったの?」


 シェリーに問われてジェイクは目を反らす。


「いや、その……俺とアリサで一人ずつ足止めして、その間にアルが上級魔法で各個撃破……みたいな?」


 シェリーはジェイクの作戦とも呼べないようなアルフレート頼りの戦法に頭を抱える。


「ジェイク君、アル君、アリサちゃんの3人はダリウス先生の補習教室へ移動。もう一度チーム戦の基礎を叩きこんでもらいなさい」

「ええっ! シェリー先生、私たちもですか?」

「さっきのはジェイクが指揮官の設定だったから言うことを聞いただけで、僕かアリサが指揮官だったら、もっと違う戦い方が出来たと思うんですけど」

「お、おい! アリサ、アル、俺を見捨てる気かよ!」


 アリサとアルフレートの肩にシェリーが微笑みながら手を置く。その手には二人が顔を強張らせるほどの力が込められていた。


「安心してね、ジェイク君。3人はチームなの。あなた一人だけ補習なんて受けさせないわ。ねえ? アル君、アリサちゃん?」

「「は、はい」」




 エウニス学園、学生食堂。


「はぁ……あいつら遠慮を知らねえんだもんな……」


 ジェイクはアルフレートと二人で昼食をとっていた。


 少し離れたところで異様に豪華な昼食をもりもり食べている三人組がおり、ジェイクは彼らを恨めしそうに睨む。


「仕方ないよ。負けたら何でもおごるって約束したジェイクが悪いんだし」

「冷たいじゃねえかよ、アル。俺の魔法より冷たいぜ」

「誰のせいで補習を受けることになったと思ってるのさ……」


 アルフレートは少しだけ不機嫌そうにパンをかじる。


「そこの席いいかな?」

「へ? あっ! フラン先輩!」


 二人に相席を迫ってきたのは双子の二年生。ローズ姉妹だった。


 許可を待たずにフランは二人の向かいの席に着く。リアンもフランの隣に腰を下ろした。


「いや~、今日は妙に混んでるねぇ。こんなことならリアンにお弁当作ってもらうんだったよ」

「私は作るといったのに、学食を食べるからと頑なに拒否されたのは姉様ですよ?」

「やはは、ごめんごめん」


 そんなローズ姉妹のやり取りを眺めていたジェイクが食事の手を止めて尋ねる。


「あの、先輩。ちょっと聞いてもいいっすか?」

「うん? いいけど……えっと」

「ジェイクです。ジェイク・マクスウェル。アルの親友です」


 ジェイクに肩を組まれて親友をアピールされたアルフレートは、ちょっと嬉しいような恥ずかしいような気分になった。


「ジェイク君ね。それで何かな?」

「先輩達って、『未来予知』が出来るって聞いてたんですけど、違うんすか? もし出来るなら、今日学食が混むことも分かったんじゃないかと思って」


 ジェイクの問いに、フランは嬉しそうに笑う。


「私たちの力に、興味あるの?」

「あります」

「どうしよっか~、リアン?」


 ジェイクは即答するものの、フランはわざとらしく焦らし、リアンに視線をやる。


「そうですね……アルフレートはどう思う?」

「え、僕ですか? まあ、その……いいんじゃないですか?」

「そうか。なら話そう」


 アルフレートがリアンの態度を不思議に思っていると、ジェイクに肘で脇腹を突かれる。


「おいアル。お前先輩とどういう関係なんだ?」


 ジェイクが小声で話し掛けたので、アルフレートも小声で返す。


「し、知らないよ。7騎士の顔合わせで何度か話しただけだし……」

「二人は一年生だけど、『ブラッドスキル』についてはもう習ってるんだったよね?」

「はい、習ってます」

「俺もアルも、複数のスキル持ちなんですよ」


 ジェイクの言葉にフランは「そうだろうね」と軽く返事をして続ける。


「私たちの力も『ブラッドスキル』の一種だよ。『第六感強化』っていうの。『感覚器官強化』のレアスキルだね」

「まあ要するに、ものすごく勘が鋭いんだ。私たちは」


 ジェイクは首を傾げる。フランたちが嘘を言っている訳ではないとは思うのだが、予想とはずいぶん違った能力だったからだ。


「あの、そこは『未来予知』じゃないんですか? 勘が鋭いってなんかすげえ中途半端な能力な気がするんですけど」

「あ、ジェイク君。私の能力のすごさが分かってないみたいだね。勘が鋭いってのは『未来予知』とほとんど同じことなんだよ? 例えばね……」


 フランはキョロキョロと辺りを見回すと、一人の生徒を指さす。


「あの普通科一年の女の子。今から大変なことをしでかしちゃう気がするな~」

「なるほど、とすると……先ほどから嫌な予感がプンプンしているあの辺りで事件が起こりそうだな」


 今度はリアンが、ティアたちが楽しそうに話をしているテーブル付近を指さす。


 ジェイクはまさかと思いつつもフランが指さした女子生徒を黙って観察する。


 彼女は受付でトレーに乗った料理を受け取ると、空いている席を探しながらリアンが指さした地点へと歩いていく。


「おいおい、マジか。ホントにあの場所まで行きそうだぞ」


 指定した地点へ到達する直前、急に彼女の近くに座っていた男子生徒が勢いよく椅子を引き、立ち上がった。


「「あっ!」」


 突然の事に彼女は反応できず、椅子の足に引っかかりバランスを崩す。


 すると持っていたトレーは綺麗な弧を描いて空中へ投げ出され、上に乗っていた料理はティアの頭上に降り注いだ。


 一瞬の静寂の後、シアメイが大慌てでティアの頭に乗った料理をどけるものの、ソースたっぷりのパスタだったせいで、綺麗な銀髪は見る影もなくグチャグチャになり、制服も洗濯しても落ちなさそうなほど汚れてしまった。


「ね? 大変な事になったでしょ?」

「い、いやすごいけど! すごいけども!」

「先輩、さすがにあれが起こることが分かってるなら、止めてやれよ!」

「やはは、確かにそうだったね。ごめんごめん」


 ティアは何が起きたのか分からず固まっていたが、やがて状況が理解できたのか大きな瞳から大粒の涙こぼし泣きだしてしまった。




 数分後。

 アリサやシアメイたちと共にティアは食堂を出た。


 料理をぶちまけてしまった女子生徒もしきりに謝りながら付いて行った。おそらくはシャワールームへ向かったのだろう。


 ちなみに元凶ともいえる男子生徒は食堂のおばちゃんと一緒に掃除をしている。


「ごちそうさまっと」


 あの騒動の中、マイペースに食事を続けていたフランは満足げにお腹をさする。


「あの、先輩たちの『第六感強化』がすごいのは分かったんすけど、それならなんで今日学食が混むことが分からなかったんですか?」

「そこなんだよね~、さっすがジェイク君。私たちも万能じゃないっていうかさぁ」

「私たちの力には発動する条件のようなものがあってな。例えば私の力は『場所』に対して発動するんだ――って、言ってる意味分かるか?」


 ジェイクが首を傾げたのを見て、リアンはやれやれと前置きして続ける。


「私は今日の昼休みに学食へ行くと、良い事がある気がしていたんだ」

「良い事?」

「悪い事の間違いじゃないんですか?」


 リアンはしまったと小さく呟く。


「……アルフレート君、教えてあげようか。リアンにとってのいいことってのは、君にあえ――むがぁ!」


 フランが何か言いかけたところで、リアンが彼女の口に食べかけのパンをねじ込んだ。


 フランは目を白黒させてもがいていたが、なんとかパンを咀嚼して水で流し込む。


「な、何するんだよリアン! お姉ちゃんを殺す気?」

「今のは姉様が悪いです……」


 リアンは不機嫌そうにそっぽを向く。


「……なんか、無性にアルを殴りたくなってきたな」

「ええっ、なんで?」

「そういうとこがだよ。で、リアン先輩、話の続きはどうなったんですか?」


 アルフレートは納得いかないという表情をしていたが、ジェイクは無視してリアンに続きを促す。


「ああ、えっと……そうだな。私はあの場所で何か嫌なことが起こる気がしたんだ。だが、未熟な私に分かるのは場所だけ、それに誰が巻き込まれるかとかは分からないんだ」

「そこで私の出番ってわけ。私の第六感は『生き物』に対してだけ有効なの。だからあの一年の子が転んで料理をぶちまけちゃうことが分かったんだ」


 アルフレートは話を聞き終えて、『第六感強化』の力の凄さを再認識した。


 それでも、ジェイクはまだ何か引っかかっているようで、腕を組んで難しい顔をする。


「フラン先輩、やっぱりちょっと分からないんすけど……」

「ん? どの辺が?」

「リアン先輩の能力よりも、フラン先輩の能力の方が明らかに分かることが多いですよね」

「そうだね。私の能力は人に会わないと分からないけど、会っちゃえばリアンの力を借りなくても色々分かっちゃうし」

「だったら、先輩の能力でリアン先輩を見れば、学食が混んでて困っちまうことくらい分かったんじゃないっすか?」


 リアンがハッとしてフランを見る。


「確かにマクスウェルの言う通りだ。姉様、本当は分かっていたのではないですか?」

「あ~、ええっと。や、やはは……さすがジェイク君。君には見抜かれちゃうんじゃないかって気がしていたよ」


 フランは困ったように、無理な笑顔を作る。


「姉様……何か企んでいませんか?」

「や、やだなぁ~。なんだかリアン、私が正直に話すまでこの話終わらせてくれない気がしてきたよ」

「分かっているじゃないですか。その通りです」

「じゃ、じゃあ白状するけどさ。お姉ちゃんとしては、妹の初恋をおう――あぶなっ!」


 リアンがものすごいスピードで突き立てたフォークを、フランはギリギリで避ける。


「リ、リアンちゃん……? いくらなんでもそれはやりすぎじゃあないかな?」


 リアンは顔を真っ赤にして震える手でフォークを握りしめている。


「姉様。私言いましたよね? 余計なことはしないでほしいと」

「それはそうだけど、やっぱりちょっとは応援してあげたかったし――うわっ!」


 リアンが更にフォークを突き立てようとしたので、フランも手元のフォークを掴んで妹の突きを受け止めた。


「だから、私は好きだとは一言も言っていないじゃないですかっ!」

「言わなくたって分かるよ! いつも心の中は『好き好きぃ~』って想いでいっぱいじゃん!」

「う、嘘つかないでください!」

「嘘じゃないよ!」


 ローズ姉妹がフォークで激戦を繰り広げる中、アルフレートはそっとジェイクに耳打ちする。


「な、なんかすごいことになってきたね。止めた方がいいのかな?」

「俺はこの状態で平然としていられるお前の方がすごいと思うけどな」

「ジェイクだってあんまり動じてないじゃない」

「俺は当事者じゃないからな」


 アルフレートがキョロキョロと学食内を見回すと、ほとんどの生徒が食事の手を止めてローズ姉妹の喧嘩を眺めていた。食堂のおばちゃんがやれやれとこちらへ向かって歩いてくるのが見える。


「どうした、アル?」

「いや、この中にリアン先輩の好きな人がいるのかなーっと思って」


 アルフレートはこの時初めて、親友からゴミを見るような視線を向けられた。

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