第二話 招集
シェリーの特別授業を終えて、生徒たちは寮へと向かう下り坂をのんびりと歩いていた。
「冬場は星が良く見えるね~」
ヒルダこと、ヒルデガード・エメットが呟く。
「そういや、お前ら三バカと一緒に帰るのは初めてだな」
「んなっ! 誰が三バカだ! 俺の成績はお前より上だ!」
「言いやがったな……。いつもバカやってるのはお前じゃねえか!」
「全く。見苦しいぞ二人とも。お前らは二人ともバカだろう」
「「インテリメガネは黙ってろっ!」」
ジェイク、エルヴィス、ヴィニーの三人が言い争いを始める。
「ねえ、アル君。三バカって何のことだい? あの三人、ジェイク君よりバカには見えないけど」
「ああ。シアメイは隣のクラスだから知らないか。エメットさんとレイモンド君、アーノルド君は、三人でよくバカ騒ぎしているから、ジェイクがそう呼んでいるんだよね。この前なんて、校舎の屋上に動物の血か何かで魔法陣を描いて、怪しげな儀式をしようとしていたんだよ」
その時のことを思い出したのか、フローラとリーゼロッテが身震いする。
「あれは気持ちが悪かったですね」
「変な匂いがしたし、掃除も大変だったよ……」
「いやホントに……あれ、シアメイ?」
アルフレートの説明を聞いたシアメイの表情は、とても険しいものになっていた。
シアメイはジェイクと戯れる三人に歩み寄ると、自己紹介をする。
「ねえ、ボクはリー・シアメイって言うんだけど、君たちの名前を教えてよ」
三人は突然後ろからシアメイに話し掛けられて驚くものの、すぐに立ち止まってシアメイに向き直る。
「私はヒルデガード・エメット。ヒルダって呼ばれてるよ」
「俺はエルヴィス。エルヴィス・レイモンドだ」
「ヴィンセント・アーノルド。ヴィニーでいいぞ」
シアメイは品定めをするように三人を観察する。
金色の巻き毛のヒルダは、ティアやシェリーほどではないがそれなりに整った顔立ちをしており、ふわふわした独特の雰囲気がある。
濃い栗毛のエルヴィスは喋るとジェイクと同様にバカっぽい。彼は10月の魔法戦技トーナメントに出場していたので、シアメイはしっかりと記憶していた。
二回戦でティアに負けていたが、一回戦ではランクCと思われる土魔法を巧みに操って勝利しており、実力は一年生でも上位だろう。
ヴィニーはサラサラのアッシュブロンドの髪の真面目そうなメガネ男子で、いかにも勉強が得意そうだ。
先ほどのやり取りを見るに、エルヴィスのブレーキ役のような立ち位置かもしれない。
「ちょっと聞きたいんだけど、三人は魔術を使えたりするのかい?」
「おいシアメイ、いくらこいつらがバカやってるからって、魔術士呼ばわりは――」
「黙って、ジェイク君。ボクは真剣に聞いてるんだ」
シアメイは間に割って入ってきたジェイクを押しのけて三人を見つめる。
「……シアメイさん。先に聞かせてくれ、まずどうしてそんな質問をするんだ?」
「えっ、それは……」
「教えて貰えないのなら、こちらも質問に答えることは出来ないよ」
ヴィニーに質問を返され、シアメイは自身の胸の内を渋々打ち明ける。
「一ヵ月前の誘拐事件の時、ボクや王女様を誘拐した犯人が魔術を使っていたんだけど……君たちが屋上で描いたっていう、血の魔法陣は魔術なんじゃないかって思ってさ」
「ふむ……どうするエルヴィス?」
「俺に聞くなよ。ヒルダが決めることだ」
ヴィニーとエルヴィスに続くように、その場にいた全員の視線がヒルダに集まる。
「あはは……こういう空気は苦手だな~。まあ、ジェイク君にバレた時に覚悟してたし。うん、そうだよシアメイちゃん。私――っていうか、私の家は大昔から続く魔術士の家系なんだ」
ヒルダの告白を聞いてシアメイの口角が釣り上がる。
「ジェイク君、知ってたんだ?」
「……まあな。俺はあの戦いで転移魔術の罠にかかったし、似たようなものかもと思ったんだ。魔術士ってのはここじゃ悪口として使われる言葉だからな、他の奴にはバラさないってヒルダと約束してたんだ」
シアメイの纏う気が膨れ上がったのを感じ取って、アリサがシアメイの手を掴む。
「どうしたの、アリサ?」
「だ、駄目だよ、シアちゃん。まだそうと決まったわけじゃない」
「そんなこと分かってるよ。でも、手掛かりにはなりそうだ」
二人のやり取りを聞いて、エルヴィスがシアメイを睨む。
「おい、まさかヒルダを誘拐犯の仲間だとか疑ってるんじゃないだろうな? もしそうなら――」
「待て、エルヴィス。少し落ち着け」
ヴィニーがエルヴィスの肩を掴んで止める。
「アリサもエルヴィス君も勘違いしないでよ。ボクはヒルダさんを疑ってる訳じゃない、ただあいつを捕まえるには魔術を――」
「ここにいたか!」
シアメイの言葉を遮る様に、凛とした女性の声が響く。
一同が声の方向へ視線を向けると、そこには赤紫色の髪をした女生徒が立っていた。
「アルフレート、それとルクレーシャ・クライン、二人とも一緒に来てくれ」
「――え? わ、私?」
「いや、というより何の用ですか?」
「説明なら後でする、時間が惜しいから早くしろ、『ビーストマスター』に『ブリュンヒルデ』!」
騎士名を呼ばれて二人の表情が変わる。
内容は不明だが、彼女の要件は近衛7騎士である二人に関係があることだと分かったからである。
「ごめんみんな、先に帰ってて」
「行くよ、フローラ、リーゼロッテ!」
アルフレート達は赤紫髪の女生徒に駆け寄り、彼女に付いて行く。
「レティスに何かあったんですか?」
「私もまだ詳しくは聞かされていない。とにかく全員で来いと言われている」
5人は校門前に待機していた車に乗り込む。
「行き先はどこなんですか?」
「リードクイン宮殿だ」
「アル様、ティア様、お待ちしておりました」
宮殿の一室で待っていたレティス王女が二人に声をかける。
「これで全員が揃いましたね。席に着いてください」
ソフィア女王に促され、アルフレート達は空いている円卓の席を見る。
ソフィアの左右には女王近衛7騎士のセルゲイとマサムネが座っていたので、ティアはそれに倣うように自身が守護するレティスの左隣の席に座った。
レティスの右隣の席にはリーゼロッテが、その右に続くようにアルフレートとフローラが腰を下ろした。
アルフレートたちを連れてきた赤紫色の髪の女生徒はシーラ王女の隣に座る。すると、シーラを挟んで反対側に座っていた、よく似た容姿の女生徒が話しかける。
「リアン。アルフレート君と何か話した?」
「あ、いえ……特には」
「え~、そんなんじゃいつまで経っても――」
「二人とも、私語を慎みなさい」
シーラに注意された二人はピタリと話を止めた。
シーラ王女近衛7騎士である『牡丹』と『黄金』。エウニス学園での通称は『未来予知』のローズ姉妹。
赤紫色の髪をした美しい双子の二年生であり、天真爛漫でマイペースな姉のフラン・ローズと冷静沈着で生真面目な妹のリアン・ローズは、シーラを抑えて二年生の中でトップの成績を誇っており、歴代の生徒の中でも一二を争う大天才と言われている。
アルフレートは7騎士として顔合わせをして以来とても気に入られており、彼自身も二人の先輩を好ましく思っていた。
「さて、今日集まってもらったのは、魔法軍が掴んだ極秘情報をシーラとレティスの7騎士たちにも共有しようと考えたからです」
ソフィアはいつもアルフレート達に接する際の優しい口調ではなく、アデライード王国の女王として話す。
「レオンティウス帝国の魔法軍――特に海軍に不審な動きがあるようなのです」
ソフィアの言葉を聞いてティアの身体がびくりと動く。
「そんな……また、戦争が始まるのですか?」
「帝国も我が国と同じように先の戦争で非常に多くの魔道士を失いました。表立った戦争を仕掛ける余裕はないはずです。ですが、明らかに戦争の準備をしているような動きが帝国の各地で散見されています。まるで隠す気がないどころか、私たちをあえて警戒させるためにやっているようにすら見えるほどに」
アルフレートとティアが息をのむ中、フラン・ローズが手を上げて発言する。
「あの~、女王様。それだったら、リアンに調べてもらうのはどうですか?」
「ね、姉様?」
「フラン、あなたまさか」
驚く妹のリアンとシーラにフランは無邪気な笑顔を向ける。
「その通りだよ、シーラちゃん。リアンのブラッドスキルなら、帝国の目的が何なのかまでは分からないにしろ、この国のどこが危ないのかは分かると思うよ」
「姉様。私の力はそこまでのものでは――」
「リアン、謙遜は時に美徳とは限らないんだよ」
「いや、謙遜ではなくて……」
「『黄金』の騎士のブラッドスキル……。あなた達が『未来予知』の力を持っているという噂は私も聞き及んでいますが、詳しく聞かせてもらえますか?」
「は、はい……」
ソフィアの真剣な眼差しに観念するように、リアンは自身のブラッドスキルについて語ることになった。




