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レティス王女の近衛7騎士  作者: 相馬あさ
明鏡止水編
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第一話 ブラッドスキル

 魔導暦2017年。11月10日。エウニス学園。


 10月の王女誘拐事件から一か月ほどが経過し、学園の生徒たちはいつも通りの日常を取り戻していた。


「今日はみんなにブラッドスキルについて教えるわ」


 魔法科の一年生全員を前にして教壇に立つのは、美しい金髪に金色の瞳の新任美人教師、シェリー・メルヴィルだ。


 年が近いこともあって生徒たちとの距離が近く、多くの生徒にはシェリーちゃんと呼ばれている。


「ブラッドスキル? 聞いたことねえな。教科書にも載ってないだろ」

「あらジェイク君。勉強嫌いのあなたが教科書に載っているかどうかなんて、よく分かるわね」

「ぐはっ、酷えなシェリーちゃん。俺だって教科書くらい読むわ!」


 周りの生徒たちからクスクスと笑い声が漏れる。


「ブラッドスキルに関しては、二年生で習う内容だからみんなの教科書には載ってないわ。でも、今年は私がいるからね。一足先に教えちゃおうと思って、ファネル学園長にお願いしちゃったの」

「ん? どうして、シェリー先生がいると一足先に教えられるの?」

「さっすがアル君、するどいね!」


 シェリーはビシッとアルフレートを指さす。


「ブラッドスキルっていうのは、親から子へと受け継がれる特殊な力のことなの。絶対に遺伝するわけじゃないし、そもそもスキルを持ってない人がほとんどなんだけど――」


 シェリーは自身の大きな胸の上辺りを右手の拳でトンっと叩く。


「シェリー先生はそのブラッドスキル持ちだったりしちゃうんだな~、これが!」

「ほんとかよ、シェリーちゃん」

「ホント、ホント。でね、ブラッドスキルってまだ研究がそこまで進んでいなくって、先生たちにも分かっていないことがたくさんあるの。二年生で習う内容も、こういう能力があるよ~っていう、ザックリとした説明だけなのよね。だから、実際にブラッドスキル持ちである私が、教科書には載ってない事とか色々教えちゃおうってわけ!」


 シェリーの言葉に、一組の生徒及び魔法科の女子生徒全員が「シェリーちゃんらしい」と納得した。彼女はやりたいことは悩む前にやってみようという性格なのだ。


「ちなみに、みんなは入学時に身体検査を受けたと思うんだけど、その際に取った血液からみんなにブラッドスキルがあるかどうかは確認済みなんで、これから発表しちゃいます!」


 シェリーの一言で、教室全体がざわつく。

 自分には魔法以外にも秘められた力があるかもしれない。誰もが内心で期待し、名前を呼ばれることを願った。


「それじゃ発表するわよ――アル君、アリサちゃん、エルヴィス君、ヒルダちゃん、ジェイク君、ティアちゃん、シアメイちゃん、ヴィニー君の8人。あなた達の血液から、特殊な成分が検出されたわ。まず間違いなく、あなたたちはブラッドスキル持ちよ」




 数十分後。

 シェリーのブラッドスキルの授業を聞き終えて、生徒たちがぞろぞろと教室を出て行く。


 事前にブラッドスキル持ちであると宣言された8名のみが教室に残る形となった。


「さてと、それじゃあシェリー先生の放課後特別授業を始めるわ!」


 夕日の差し込む教室で、シェリーは楽しそうに追加授業の開始を宣言した。


 ジェイクたち8名はブラッドスキルについて学ぶだけでなく、実際に使いこなせるようになる必要がある為、呼び止められたのだ。


 特に居る必要はないのだが、アルフレートの両脇の席には使い魔である魔犬の双子がニコニコしながら座っている。


「まずは、自分のブラッドスキルがどんなものなのか確認してね」


 ジェイクはシェリーに渡されたプリントに目を通す。


『ジェイク君のブラッドスキル!』

・感覚器官強化(何かしらの感覚器官が強化されます。ジェイク君は視力が良いから、たぶん視覚強化かな~?)

・魔法強化(すごく珍しいスキル。持っている人が少なくて、まだ分からないことが多いみたい。ジェイク君のことだから、きっと水魔法がパワーアップする力だよ!)


『ブラッドスキルの使い方!』

・文字通り血液に秘められた力なので、心臓から全身へ広がっていく血液を意識しよう。

・血液が自分のスキルに対応した部位に集まるのを強くイメージして、力を解き放つ。

・戦いの中で目覚める人が多いみたい。シミュレーションマシンを使って戦闘経験をどんどん積むこと。


「シェリーちゃん。ふざけてる訳じゃあないんだよな?」

「失礼な。先生はいつだって本気だよ」


 ジェイクは絶妙に可愛い表情でムッとするシェリーを怒る気になれず、ため息を付く。


「ふ~ん。なるほどね。ボクたちの力はブラッドスキルの一種って訳か」

「名称は違うけど、やっぱりそういうことだよね」


 みんながシェリーのプリントを見て首を傾げる中、東方人であるシアメイとアリサだけが頷きながら何かに納得していた。


 ジェイクは気になって、隣に座っていたアリサのプリントを覗き見る。


『アリサちゃんのブラッドスキル!』

・オーラ増幅(オーラを増やして身体能力を上げる力。アリサちゃんは隠していたみたいだけど、シェリー先生には最初からお見通しだったのだ!)


「アリサやシアメイの使う気功は、ブラッドスキルだったってことか?」

「……ちょっと違うかな。私たちが使う気功は気をコントロールする技のこと。でも東方人の中には稀に常人の何倍もの気を持っている人が生まれることがあったの」

「つまり、ボクやアリサは東方人の中でも特別ってわけ。まあ、アリサはボクよりも更に気の量が多いみたいだし、ホントはボクより強い気がするんだよね~」


 アリサはシアメイに半目で睨まれて、びくりと背筋を伸ばす。


「や、止めてよ、シアちゃん。私はシアちゃんみたいに格闘技はやってないんだから……」

「……冗談だよ、冗談。それよりシェリー先生、ボクのスキル二つあることになってるんだけど、これ本当?」


 シアメイに尋ねられ、シェリーは待っていましたとばかりに笑みを浮かべる。


「普通、ブラッドスキルは一人一つしか持ってないわ。でも、親同士がスキル持ちだったりして血が混ざりあっていくと、極まれに複数のスキルを持って産まれる子供がいるみたいなの」

「じゃあ、ボクは特別の中の特別ってこと?」

「そのはずだったんだけど――」


 シェリーはちらりとプリントを真剣な表情で凝視しているティアを見やる。


「――シアメイちゃん、アル君、ジェイク君、ティアちゃんの4人はスキルを複数持っていることが分かったの。それにその中でも、ティアちゃんに至っては血中の情報量が多すぎて正確な解析が出来ない程だったわ。少なく見積もってもスキルを3つ以上持っているだろうって研究機関から返答が来て驚いたものよ」

「3つ以上?」


 驚くシアメイにティアが震えるようにして自分のプリントを見せる。


「あ、あはは……なんか私、本当に天才だったみたい」


『ティアちゃんのブラッドスキル!』

・魔法耐性(珍しいスキル。特定の属性の魔法攻撃を受けた時に、ダメージが軽減されるらしいわ。ティアちゃんのことだから炎耐性かな?)

・魔法強化(すごく珍しいスキル。たぶん炎魔法がパワーアップする力!)

・感覚器官強化(何かしらの感覚器官が強化されます。ティアちゃんはどこだろ~?)

・???(研究機関もお手上げの未解明スキル。どんな能力なのかワクワクするね!)


「何だいこれ。いくらなんでも凄すぎないかい?」

「ほんっとすごいよね~。私クラスのレアスキルまで持っているなんて驚きだよ」


 シェリーは子供のようにキラキラした瞳でティアを見る。


「うぅ……でもこれ、完全に親の七光りってことですよね……」

「それはまあ、そうね。ブラッドスキルは親から受け継ぐものだし」


 ティアは深いため息を付く。


「ていうか、シェリーちゃんのスキルってさっきの授業で聴覚強化だって言ってなかったか? 感覚器官強化なら俺にもあるし、そんなにすごいスキルには思えないけど」


 ジェイクの問いにシェリーはニヤリと笑って見せる。


「私のスキルは聴覚強化だけじゃあないのだよ、ジェイク君。まあ、凄すぎて私自身も使いこなせてないんだけど、肉体強化のブラッドスキルを持っててね――」

「肉体強化? それ腕力とか脚力が上がるスキルだよな? 普通じゃね?」

「ジェイク君。話は最後まで聞いてよね。私のスキルで凄いのはその強化される部位なのですよ」


 そういうとシェリーは自慢げに自身の頭を人差し指でトントンと叩く。


「……頭? まさか石頭になるスキルか?」


 ジェイクの回答にシェリーがズッコケる。


「そ、そんなわけないでしょ? 脳よ、脳。頭脳強化」

「頭脳強化……要はめちゃくちゃ頭が良くなるってことか?」

「そうね。思えば子供のころから異常に記憶力がよかったのよね。計算も速かったし、同時に5つくらいのことを考えることが出来るしね」

「そ、それ、すごくねえか?」

「だから言ってるでしょ。シェリー先生はすごいんだから」


 シェリーは胸を張ってドヤ顔をする。

 ジェイクは、この美しくも子供みたいな先生への認識を改めた。


「なんつーか。人は見かけによらないな」

「む。聴こえてるわよ。ジェイク君」


 ジェイクはアリサに小声で話し掛けたのだが、シェリーの地獄耳の前には筒抜けだった。

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