プロローグ
大陸の南を統べる巨大国家、レオンティウス帝国。
その皇帝であるヨハネス・アウデンリートは、赤毛の青年を睨み付けていた。
「まさか私がオーレンドルフを頼らねばならないとはな……」
「俺もまさか、皇帝陛下が俺たちのような穢れた一族をこの城に招いてくださるとは思いもしませんでしたよ」
赤毛の青年は不快感を隠しもせずに、皇帝を睨み返す。
「俺はジークベルト・オーレンドルフ。ジークとお呼びください、陛下」
皇帝はジークの言葉には返答せず、控えていた側近の女性に視線を送る。
「では、ジーク様。早速ですが、ご紹介したい方がいらっしゃいます」
「紹介?」
「はい。今回の依頼において、ジーク様をサポートしてくださる方々です」
ジークの表情がより一層険しくなる。
「いらねえよ、そんな奴ら。俺は家族しか信用しない」
「ふふっ。そう言わずに、どうぞ彼らの実力をご体感ください」
側近の女性が言い終わるのとほぼ同時に、ジークは後方へ飛び退いた。
先ほどまでジークがいた場所の床が細切れになる。
「ほう、今のを避けるか。西の国の人間も侮れないな」
「何の真似――」
ジークが言葉を切り、表情を強張らせる。
彼の首筋には人間の手刀が触れていたからだ。
「……もしこれが手ではなくナイフだったなら、お前は死んだ」
ジークが戦慄して冷や汗を流すさまを見て、皇帝は手を叩いて喜んだ。
「素晴らしい。これが東方人の力というわけか」
ジークの首筋から手刀が離れ、皇帝の前に二人の東方人が立ち並ぶ。
刀を持った小柄な男と、冷たい雰囲気の美しい女だった。
「――っはあ……く、くそ……」
ジークは緊張の糸が切れ、両手と膝を床に付いて息を整える。
「いかかでしたかジーク様。二人の実力ほどは」
「い、いいも悪いもあるか……。お前は俺を笑いものにするためにここに呼んだのか!」
屈辱に顔を歪ませたジークは、側近の女性を睨み付けると、吐き捨てるように言う。
「滅相もございません。陛下はあなた達オーレンドルフ家の実力を高く買っておられます。ですが、今回の依頼をこなすには少々力不足。ですので、東方の裏社会で名をはせるお二人を協力者としてお呼びしたのです」
ジークは立ち上がると、側近の女性に尋ねる。
「依頼内容を聞かせてくれ。この二人だけでなく、俺たちを必要としたからには、相当な規模の話なんだろう?」
「ええ。それはもう。今回の依頼の目的は――」
「待て、グーニラ。私が話そう」
皇帝が側近の女性の言葉を阻み、口を開く。
「私の目的は、アデライード王国との戦争中に盗まれた国宝の奪還だ」
「国宝……たしか『時の魔眼』とかいう」
「そうだ。その片割れが、とある学園の宝物庫に保管されているという情報を掴んでいる」
学園という言葉を聞いて、ジークの脳裏に嫌な予感が巡る。
「その学園とは?」
ヨハネス皇帝はジークの目をしっかりと見て答えた。
「アデライード王国のエウニス学園だ」




