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レティス王女の近衛7騎士  作者: 相馬アサ
疾風迅雷編
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第一話 契約

この世界の登場人物は基本的に共通語と呼ばれる言語を使っているので、この小説は共通語で書かれたものを日本語で翻訳したものだと考えて欲しいです。

 『落ちこぼれの魔術使い』

 それが、エウニス学園で付けられたアルフレートのあだ名だった。優秀な魔道士に異名が付けられることはよくあるが、これは蔑称だ。

 曲がりなりにも国内最上位の学園に入学出来たことから、アルフレートも当初は自分に隠れた才能が有り、学園側はそれを見抜いたのだと期待した。

 しかし、気付けば魔法の成績は底辺、おまけに歴史と古典も酷いありさまだった。あまりの才能の無さにクラスメイトから本当に入学試験を合格したのかと疑われる始末だ。

 魔法を使うことが出来る人間を魔道士というが、魔道士にもランクというものが存在する。扱える魔法の大きさや強さで、大きく分けて5段階にランク付けされるのだ。

 一番上がランクA、そこからB、C、Dと下がっていき、一番下がE。細かく分けるなら、各ランクの最後に+を付けることもある。

 ちなみにこの『A、B、C、D、E』といった文字はこの地域の古代文字であり、国によっては通じないこともある。

 世界の言語が統一されていない時代など、想像したくもないほど不便な話だが、古典の授業では律儀にも昔の言葉や文字を覚えさせられるので、この国の人間なら小学生でもこの26文字の順番くらいは覚えているものだ。

 話を戻そう。

 アルフレートが『落ちこぼれ』だと囁かれ始めたのは、入学して一週間も経たない頃からだった。

 魔道士のランクは扱える魔法の大きさと強さで決まる。つまり彼が魔法を使っているところを一目見れば、実力の程はほとんど分かってしまうのだ。

 全属性ランクE。それが、アルフレート・クルーガーが担任教師に判定された魔道士としての実力だった。

 細かく分けるとE+ではあるのだが、同学年の生徒たちから見れば同じようなものらしい。

 彼以外の生徒でも苦手な属性の魔法はランクEという者は何人かいるが、全ての属性がランクEというのは、天才が集うエウニス学園の生徒としては酷く異様だった。

 そうしてアルフレートは『落ちこぼれ』という看板を背負うことになるのだが、それと同時に一つの疑問が浮かび上がった。なぜ彼はこのエウニス学園に入学することが出来たのだろうか、ということだ。

 エウニス学園は、アデライード王国を治める王族の先祖にあたる『蒼氷の少女(初代アデライード)』が最も信頼を置いていた部下である、エウニスという女性が造ったとされる由緒正しい学園だ。

 その魔法科の入学試験は受験者に一時的に魔法を使う力を与え、初めてでどの程度の魔法が使えるかを見るという、魔道士としての才能を試す試験内容になっている。

 当たり前の話だが本来人間は魔法なんて使うことは出来ない。魔法学校で配られる魔力種と呼ばれる植物の種を体内に寄生させる事によって、初めて魔法を使うことが出来るのだ。

 試験で配られるのは数時間後に消化されてしまうタイプで、疑似魔力種という名前らしい。

 王族でもない限り、事前に魔力種を入手することは不可能な上に、練習する時間すら与えられない。完全な一発勝負である。

 この試験内容では、勘でマークシートを埋めたらそれが大当たりして奇跡の入学、なんてことには絶対にならない。普通科の試験なら別かもしれないが。

 更に言えば、アルフレートは入学試験の時もランクEの魔法しか出すことが出来ず、その他大勢の受験生と一緒に肩を落として試験会場を去ったのだが、なぜだか学園から合格通知が届いてしまったのだ。

 彼自身、何かの陰謀かと本気で疑ったものだ。

 しかし、その疑問も入学から一ヵ月経った頃には回答を得ていた。

 どういう訳か、アルフレートは二つの属性の魔法を同時に扱うことが出来たのだ。

 分かりやすく言うと、右手から炎を出しながら、左手から水を出す、といった具合だ。

 あまりにも当然のように出来たことだったので、彼はこれが特別なことだと気が付かなかったのだが、そんなことはランクAの魔道士にも出来ない芸当だった。

 入学試験で偶然にも二種類の魔法を同時に使って見せたことで、その特異な能力が試験官の目にとまり、特例で入学と相成ったというのが、事の真相らしい。

 そういう訳で、クラスメイトたちがその事に気付いた時に、彼のあだ名は『落ちこぼれ』から『落ちこぼれの魔術使い』に進化した。

 魔法ではなく魔術というのがポイントで、魔法とは似て非なるものであり、現代では失われた劣化魔法を使う者という意味が込められているらしい。


「――聞いているのか? おい、クルーガー」

「えっ、あ、はい!」


 アルフレートの目の前には、メガネをかけた若い男性教師が立っていた。

 男子の体育と戦技訓練、それと魔法戦術学を担当している教師のダリウス・ハルフォードだ。


「いいか、最終確認だ。儀式を初めてしまったら、もう後戻りはできない。本当に賞品はそれでいいんだな?」


 ダリウスに問われて、アルフレートは手のひらの上に乗っている七色に輝く宝石を見つめる。

 その宝石は、彼が今日の試合で準優勝した賞品の『魔獣石』という名前の石だ。

 優勝した同じクラスのティアと呼ばれている少女と共に、学園の倉庫に保管されていた古代魔術具(ロストアイテム)――魔法の力を秘めた道具――を見せてもらい、その中から選び取ったものだ。

 ティアは魔力を秘めた真紅の外套を選び、アルフレートは七色に輝く魔法の宝石を賞品として選んだ。

 別にアルフレートはその石が高級そうだったから選んだという訳ではなく、石が放つ七色の光が自分を呼んでいるような感覚を覚え、目が離せなくなってしまったからだった。

 魔獣石は、魔力を込めることで魔界から魔獣を召喚し、使い魔として契約する力があるという。

 当然アルフレートはそんな石だとは知らずに選んだので、説明を受けた時は躊躇したのだが、すぐに好奇心が不安を追い越した。


「大丈夫です。何が出てきても、ちゃんと僕が面倒を見ますから」

「……覚悟は出来ているようだな。では私たちは少し離れるぞ」

「クルーガー君。頑張ってね」


 ダリウスとティアが自身から一定の距離を取ったのを確認して、アルフレートは右の手のひらに乗った石を目の前に掲げる。

 ありったけの魔力を石に込めると、石はより一層の輝きを強め、空中に浮かび上がった。

 すると、目に見えて異変が起こり始めた。

 アルフレートたちがいた学園のグラウンドに強い風が吹き始めたのだ。その風はグラウンドの砂を巻き上げて石の周りを竜巻で覆ってしまう。

 更に、辺りが暗くなってきたかと思うと、夕焼けに染まっていた空に真っ黒な雲がかかり、ゴロゴロと雷が鳴り始めた。

 そして次の瞬間。

 雷鳴とともに稲妻が何本も走り、その全てが竜巻へ直撃した。

 竜巻は爆風となって四散し、近くにいたアルフレートは尻餅をついてしまう。


「うわっ! くそっ、目に砂が……」


 目に入った砂をまばたきと手の甲でなんとか拭いながら立ち上がると、目の前の地面には二つの魔法陣が展開されていた。

 一つは黄緑色、もう一つは橙色の見たことがない魔法陣だ。

 その魔法陣の上に二人の人物が立っている。

 そう、それは見るからに人の形をしていた。


「へえ、兄ちゃんがあたしたちを呼んだのか?」


 女の子のような高い声だ。


「こらっ、失礼だぞ」


 いや、声だけではない。

 アルフレートが魔獣石で呼び出した二匹の魔獣は、どこからどう見ても二人の小さな女の子だった。


「き、君たちが……魔獣?」


 ボサボサに伸びきった栗毛に、動物の皮で作ったような原始的な服を着た少女に、アルフレートは恐る恐る話しかける。


「ん? あったりまえだろ? って、この姿じゃ分からないか」


 二人の少女は顔を見合わせると、真っ白な光に包まれる。

 その光のシルエットが見る見るうちに形を変えていき、二人は二匹の大犬へと姿を変えた。

 あまりの出来事にアルフレートが声も出せずにいると、再び二匹は光に包まれて少女の姿へと戻る。


「どうだった、兄ちゃん?」

「これで私たちが魔獣だと信じていただけましたか?」

「――あ、う、うん。それはもう」

「ではまず、自己紹介をさせていただきますね。私たちは魔犬オルトロスの幼体で、私はフローラといいます」

「あたしは双子の妹のリーゼロッテだ」


 礼儀正しい翠色の瞳の子がフローラ、元気な琥珀色の瞳の子がリーゼロッテと名乗る。

 アルフレートは二人の名前を反芻して覚えた後、思い出したように名乗った。


「――そうだ、僕の名前はアルフレート・クルーガー。よろしくね、二人とも」

「はい。それでは早速、契約に移りましょう」

「契約? そんなことするの?」

「当然。じゃないと兄ちゃんはあたしたちの力の半分も使えないよ」


 アルフレートが契約書にサインでも求められるのかと要らぬ想像を巡らせていると、二人の少女は彼に近付いて手を差し出す。

 アルフレートは流れのままに差し出された手を両手でそれぞれ握る。


「契約したら、何が出来るようになるの?」

「意識のみで会話したり、お互いの場所へ瞬時に移動したりすることが可能になります」

「……へ?」

「それもあるけど、これをすることで兄ちゃんのことがよく分かるからな」

「待って、それってどういう――」


 突如として、両腕から電撃を流されたかのような鋭い衝撃がアルフレートの身体を駆け巡る。

 全身の細胞全てが崩壊するような感覚に襲われながら、彼の頭には膨大なイメージが送り込まれた。

 そのあまりの情報量に脳が耐えきれなくなったのか、アルフレートは糸の切れた人形のようにその場に倒れ、意識を失ってしまう。

 遠くから見守っていたダリウスとティアが駆け寄ってくる中、フローラとリーゼロッテは冷静な表情で視線を交わす。


「どう思った?」

「いいと思う。少なくとも、あたしは兄ちゃんのこと気に入ったよ」


 フローラはしゃがみ込み、倒れたアルフレートの頭を優しく撫でる。


「これからよろしくお願いします。ご主人様」

アデライード王国周辺は大昔は英語圏だったという設定です。

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