第二十四話 王家の責任
エウニス学園学生寮、中庭。
男子寮と女子寮の間にある休憩スペースでアルフレート、シアメイ、ティア、フローラ、リーゼロッテの5名は無気力に夜空を眺めていた。
あの戦いの後、ケイオスの分身は全て消滅した。
暴徒と化していた二トラ市の住民たちはというと、ジェイクがパソコンを斬り裂いたタイミングで全員気を失ったらしい。
地上に出たアルフレートたちは、付近でケイオスの分身と戦っていたらしいセリーヌ・ファネル学園長や数名の教師たちにこっぴどく叱られた。しまいには新任教師のシェリーが泣き出したのを見て、アルフレートたちはその場の勢いと感情に任せた自分たちの行動を深く反省することになる。
駆け付けたマスコミによってレティス王女は女王近衛7騎士『不死身の大鎌』セルゲイ・クラインと、その娘のルクレーシャ・クラインを筆頭としたエウニス学園の同級生たちによって救出されたと報道されてしまい、セリーヌ学園長の判断で早急にエウニス学園へと連れ帰られた。
「それにしても、ティアは一躍有名になっちゃったね~」
「止めてよ、私は静かに暮らしたいわ……」
本来なら退学処分になるほどの規則違反をしたティアたちだが、マスコミによって英雄として報道されてしまったために退学にするわけにもいかず、一週間の寮内謹慎と三ヶ月の奉仕活動という、比較的軽めの処分に変更されていた。
「ていうか、有名になっちゃったのはシアメイも同じでしょう? あの動画は国が削除しているみたいだけど、一度ネットに流れると完全に消し去るのは難しいだろうし」
「あ~、それね。さっきジェイク君に見せてもらったけど、あれは恥ずかしいなぁ。それに父さんが一度帰って来いってうるさいんだよね」
シアメイは父親からのメールを嫌そうに眺めながら、携帯端末の電源を切った。
「……一度帰ったら、二度とこっちに来られなくなりそうだよね」
「そんな、嫌よっ!」
アルフレートが呟いた言葉を聞いて、ティアがシアメイに抱き付く。
「あ、ありがとうティア、でもちょっと苦しい……。アル君も怖いこと言わないでよ」
「ごめん」
シアメイは深いため息を付くと、再び空を見上げる。すっかり日も落ち、美しい星々が瞬いていた。
しばらく全員が無言の時間が続いたが、突然フローラとリーゼロッテがベンチから跳ね起きる。
「ど、どうしたの二人とも?」
「兄ちゃんたち、あっちだよ」
二人が指さした方向から数人の大人たちが歩いてくる。
アルフレートは大人たちの間からこちらに手を振っている少女の存在に気が付いた。
「レティス!」
「アル様、お待たせいたしました」
レティスは専属の魔道士によって治療を受けた後、ソフィア女王やセルゲイと共に報道陣への対応に追われていたのだが、一時間ほど前にアルフレートに学園に向かうと連絡を入れてきたので、全員で彼女を待っていたのだった。
「どうやって学園内に入ったの? 外は張り込んでるマスコミだらけだったでしょ?」
「はい。ですので、一部の者しか知らない地下通路を使わせてもらいました。あ、これはあまり口外しないでくださいね」
「う、うん。そんなのあるんだ……」
王女であるレティスとこんな外のベンチで話をする訳にもいかないので、全員で学園の校舎内にある応接室に移動する。夜勤の警備員はレティスを見るとすんなりと鍵を貸してくれた。
レティスの専属メイドであるテッサを残して、護衛の魔道士たちには部屋の外で待機してもらうことになった。
「ねえ、レティス。アッシュがどうなったか聞いてる?」
「ええ。先ほど目を覚ましたと聞きました。意識もはっきりしているそうです」
それを聞いて、アルフレートは胸を撫で下ろす。
ケイオスの創り出した空間から戻った後、アッシュの呼吸が回復していたのでそのままセルゲイに引き渡したのだが、やはりケイオスが何らかの魔法か魔術で治療したとみるべきだろう。
「それと、シアメイ様に謝らなくてはなりません。申し訳ございませんでした」
「そ、そんな、誘拐されたのはボクが軽率だったからであって、王女様のせいじゃないですよ!」
「いいえ。わたくしは誘拐されている間、アッシュから、彼とカーミラの話を聞きました。彼らがあのような行動に出たのは、わたくしたち王族の責任なのです」
そうして、レティスはアッシュから聞いた話を語り始めた。
「彼は、先の戦争の被害者でした。二トラ市の廃墟はご覧になりましたよね。戦争によって破壊され、いまだ復興の目途が立っていない地域はあそこだけではありません。彼が住んでいた街も、戦争によって焼かれ、家族や隣人を失ったそうです。カーミラも似たような境遇だと言っていました」
「待って、おかしいわ。その境遇には同情するけど、それなら憎むべきは王族じゃなくて、敵国だったレオンティウス帝国じゃない」
ティアが苛立ちを隠そうともせずに話を遮る。
「確かに、アッシュは帝国のことも憎んでいました。ですが彼が憎む対象はそれだけには留まらなかったのです」
アルフレートはアッシュとの戦いの中で彼が言っていた言葉を思い出す。
「アッシュは、魔道士全てを憎んでいるって言っていたね」
「なによ、それ! 自分だって魔道士のくせに無茶苦茶だわ」
「さすがにわたくしも飛躍しすぎだと思いますが、彼が王家の人間を憎むのは当然だと考えています」
「どうして?」
「前回の戦争は、亡きサンドラ女王――わたくしの曾祖母が帝国に一方的に仕掛けた戦争だからです」
レティスの話に今度はアルフレートが口を挟む。
「でもそれは、娘夫婦を帝国に暗殺されたからじゃないの?」
アルフレートは歴史の教科書に書いてあったことを思い出しながら尋ねる。
その質問に、レティスはバツが悪そうな表情を浮かべたのを見て、ティアが呟く。
「やっぱり、噂は本当なのね」
「……はい。わたくしの祖父母を暗殺したのは帝国の人間だという証拠は一切ありません。全て自分の娘を殺害されて錯乱した曾祖母が作り上げた話です。しかし、曾祖母は帝国の皇帝の言うことに耳を貸さず、一方的に同盟を破棄して魔法軍を動かし、帝国の人々を虐殺しました。だからこそ、帝国は反撃に転じた際に街を焼くことをためらわなかったのです」
今までは根も葉もない噂でしかなかったことが、レティスの口から語られることによって、真実となった。その衝撃にアルフレートとティアが押し黙る中、シアメイが口を開く。
「外国人のボクが言っていいのか分からないけどさ……。やるせないよね、そういうの」
「どういうことですか?」
「だって、王女様のひいおばあさんがしたことなんでしょ? なら、王女様はもちろん、今の女王様にだってどうしようもないことじゃんか。責任は誰にあるのかって言われたら、今を生きている王族になっちゃうのかも知れないけどさ、やっぱり納得は出来なくない?」
「そんなことは……」
シアメイに問われ、レティスの表情が確かに揺らぐ。
「シアメイ、そこまでにしてあげて。レティスにも王女としての立場があるのよ」
「あっ……ごめん」
「……いえ、確かにシアメイさんの言うような感情がないわけではありません。ですが、それでもわたくしはこの国の王女として、この問題に向き合っていきたいと思っています」
レティスの開き直った真摯な言葉に、シアメイは苦笑した。
「強いな、王女様は」
先ほどまでの真剣な表情とは打って変わって、レティスは朗らかな笑顔を浮かべる。
「わたくしなんて、まだまだですわ。今回の件でそれを痛感いたしました。なので、お母様と相談して新しい試みを実行しようと思っています」
「新しい試み?」
「ええ。実はですね――」
レティスは大真面目に、誰もが驚く内容を話した。




