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レティス王女の近衛7騎士  作者: 相馬あさ
疾風迅雷編
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第十九話 覚醒

 二トラ市南部。

 ティア、シアメイ、ジェイクの3人は魔法軍の保護下から脱走していた。


 魔法軍は暴徒とかした市民への対処に追われていて、脱走自体は比較的簡単に成功した。


「――ごめん、遅くなっちゃった」


 別行動していたアリサがティアたちと合流する。


「アリサ! どうだったんだ?」

「うん。セルゲイさん、ちゃんと報告していたみたい。ここから西にちょっと行ったところにある、立ち入り禁止区域だって」


 アデライード王国には戦争の爪痕が未だ多く残っており、アルフレートがいるとされる場所も、戦いによって破壊され、復興が間に合っていない場所だった。


「でもすごいわね。誰もアリサに気が付かないなんて」

「えへへ……。私の影の薄さが役にたってよかったよ」

「いや、影が薄いとかそういうレベルの隠密能力じゃなかった気もするが……まあいいか。とにかく出発しようぜ」


 4人で駅まで移動する。

 暴走した市民は軍人を徹底的に狙うように操られているのか、ティアたちには一切の攻撃を行ってこない。


 恐ろしいのは、市民の中には魔道士も混じっていることで、道路の破壊や航空機への狙撃まで行われ、結果的にティアたちの方が軍よりも先に廃墟へとたどり着いた。


「アリサお姉ちゃん!」


 廃墟に一人残されていたリーゼロッテが4人に駆け寄ってくる。


「ロッテちゃん! 一人なの? アル君たちは?」

「3人でもう潜入しちゃったよ。あたしは兄ちゃんの脱出用にここに残ってるんだ」


 リーゼロッテはアルフレートたちが潜入した廃ビルを指さしながら答える。


「なるほどな、いざという時はアルと王女様だけでも脱出させようってことか」

「そういうことなら、アリサとシアメイはここに残っていて。ここからは私とジェイクの二人で行くわ」

「そうだな、後は俺たちが勝手にやることだ、お前らまで付き合うことはねえよ」


 ティアとジェイクはリーゼロッテが指さした廃ビルの入口へと歩を進める。そんな二人の行く手をシアメイが遮った。


「ま、待って! やっぱり、止めた方がいいよ。二人が行って何になるのさ」

「どいて、シアメイ。魔法軍があれだけ足止めされているのよ。ならこっちも、軍が来るまでの時間を稼ぐことぐらいしないと」

「王女様やアルが大怪我していたらどうすんだ。俺の魔法なら応急処置ぐらいは簡単にできる」


 二人はシアメイを押しのけて先へ進む。


 シアメイはそんな二人の背中を見つめながら、自分の弱さを恥じた。


「二人は――怖くないの?」


 ティアが足を止めて振り返る。シアメイが絞り出すように呟いた言葉を彼女は聞き逃さなかった。


「そりゃ怖いわよ。でも、この判断は正しいって思うから。何もしないで後悔するほうがもっと怖いもの」


 ティアの決意を秘めた真っ直ぐな目を見て、シアメイは亡き兄を思い出した。


「……義を見てせざるは勇無きなり――か」


 シアメイはゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着けてから、歩き去ろうとする二人の背中に声をかける。


「待って二人とも! ボクも行く!」




 廃ビル地下。

 アルフレートたちがフローラの案内で地下に降りると、そこは外観からは考えられないほど広く、複雑な地下構造になっていた。


「バカな、地下鉄じゃあるまいし、なぜこんなにも広い空間があるんだ?」

「これも何かの魔術によって開発された場所とみて間違いないでしょう。おそらくは他の建物の地下とも繋がっているのかと。こうなってくると、フローラの鼻だけが頼りですね」


 マサムネに頼りにされたのが嬉しかったのか、フローラは元気よく先頭を駆ける。


「匂いはこの階段の下に続いています」


 一行が階段を降り始めたところで、後方から微かな笑い声と足音が響く。


 危険を察知したマサムネが前を歩いていたアルフレートとフローラを躊躇なく階段から突き落とした。アルフレートは咄嗟にフローラを抱きしめると、彼女を庇うようにして階段を転がり落ちていく。


 最後尾を歩いていたセルゲイは身を翻して大鎌で後ろに立っていた人物に斬りかかる。


「驚きましたよ。まさか匂いだけでここを特定されてしまうとは。その魔獣、あなたの使い魔ですか?」


 大鎌はあと一歩のところで黒い霧に阻まれ、不気味な笑顔を浮かべる男――ケイオスは楽しそうにセルゲイに話しかける。


 セルゲイはケイオスを無視してマサムネに指示を送る。


「マサムネ、アルフレートたちを連れて先に行け」

「なっ! しかしその男は」

「分かっている。こいつの実力は他の二人とは段違いだ。だが、だからこそお前は先に行け。今回の任務の最優先事項はレティス王女殿下の救出だ」

「……分かりました。ご武運を!」


 マサムネはセルゲイに背を向けて階段を駆け下りると、階段下にいたアルフレートたちを連れて先へ進んだ。




 アリサとリーゼロッテと別れたシアメイ、ティア、ジェイクの3人は迷路のような廃ビルの地下を闇雲に駆け回っていた。


「どうなってるのよ、ここは」

「いくら何でも広すぎるな。こりゃ、周りの建物全部が地下で通じているんじゃねえか?」


 この迷路のような地下構造は広さもさることながら、どの場所も目印になるようなものがなく、自分たちが既に調べた場所がどこなのかが分からなくなってしまうのが最大の問題だった。


「そうだ、シアメイ。マサムネさんの居場所を突き止めた時みたいに、王女様のオーラを探れないのか?」

「オーラ? ああ、気のことかい? アリサなら出来たかもしれないけど、ボクはそういうのは苦手で――」


 会話の途中で、シアメイは何かに気が付いたようにキョロキョロと辺りを見回したあと、床に手を付いて目を閉じる。


「ん? どうした、シアメイ?」

「レティスの居場所が分かったの?」

「ごめん、ティア。王女様はいないかも。でも、手掛かりになるかもしれない相手を見つけたよ」


 シアメイは巨大な魔方陣を展開すると、床目がけて土魔法を放って大穴を開ける。


「ティア、ジェイク君、力を貸して。ボク一人じゃとても敵わない相手だ」


 シアメイの恐怖と決意の入り混じった表情を見て、ティアとジェイクは気を引き締めた。


 ジェイクが水魔法で氷の階段を作り出す。


「ティアは援護射撃、シアメイは防御を頼む」

「うん」

「分かったわ」


 シアメイとティアはいつでもジェイクの援護が出来るように警戒しつつ、彼に続くようにして階段を降りた。


 下の階に到達し、ジェイクが氷の階段を消したところで、待ち受けていた女性が3人に声をかける。


「せっかく助かったっていうのに、まさか自分から帰って来るなんてね。どういうつもりだ? シアメイ」

「カーミラ。あんたを捕まえに来た……って言ったら?」

「面白い冗談だな」


 カーミラの足元に魔法陣が出現し、そこから灰色の触手がシアメイ目がけて伸びる。


 その触手を、ジェイクが氷魔法の盾で受け止めて凍らせる。


 急速に温度を奪われて凍り付いた触手は、バラバラに砕け散った。


 カーミラは顔をしかめて、忌々し気に舌打ちした。


「やっかいそうな仲間を二人も連れてきやがって。私は市民の制御で忙しいってのに……」

「いいこと聞いたわ。あなたが二トラ市の市民をコントロールしているのね」

「なら、こいつを倒せば魔法軍は簡単にここまで来られるって事だな」


 ジェイクが氷の剣を召喚してカーミラへ迫る。


 その瞬間、カーミラの口角が釣り上がったのをシアメイは見逃さなかった。


「待って、ジェイク君!」

「もう遅い!」


 カーミラは自分の手のひらをナイフで傷つけると、その手を床に叩きつけた。すると、コンクリートの床に描かれていた模様が赤く輝く。


「な、何だ? 血の――」


 血で描かれた魔法陣の上に乗っていたジェイクが、一瞬の内に消滅した。




「次の突き当りを右です」


 フローラの案内のおかげで、アルフレートとマサムネは迷うことなく地下迷宮を進んでいた。


 突き当りに到達したところで左方向から何かが崩れるような轟音が響いたので、3人は同時に足を止めた。


「フローラ、右なんだよね?」

「はい。レティスお姉様の香水の匂いは右に続いています。ですが……」


 フローラは左手側に向き直り、目を閉じて匂いを嗅ぐ。


「うっすらとですが、あちら側からティアお姉さんたちの匂いがします」

「何っ! ティア様の?」

「はい。この前ティアお姉さんが攫われた時にお役に立てなかったので、今回はしっかりと匂いを覚えています。間違いありません」

「そんな、どうやって――いや、ここの場所はセルゲイさんが連絡していたし、あの騒ぎの中なら脱走してここまで来られなくもないのか……?」


 マサムネは苦虫を噛み潰したような表情で一瞬だけためらったものの、踵を返して右側の道を進もうとする。


「今は王女殿下の救出が最優先だ」

「待ってください、マサムネさん。あの音は戦闘が起きているってことじゃないんですか? レティスはいなくとも、誘拐犯のどちらかがいるのかもしれません」

「だから何だというんだ。勝手に脱走してきたティア様たちを助ける為に、王女殿下を後回しにするなど出来るはずがない」

「二手に別れましょう。マサムネさんはティアを、僕とフローラはレティスを助けに行くんです!」


 アルフレートの提案にマサムネの心は目に見えて揺らいだ。彼も内心ではティアを助けに行きたいと思っているのは明白だった。


「…………お前がティア様を助けに行ってくれ。お前なら――」


 そこまで言いかけて、マサムネはアルフレートがフローラとセットでなければ戦力にならないということを思い出した。そして、自分一人ではレティス王女の居場所へたどり着けないということも。


 再び、轟音が響く。

 ティアたちが魔法戦を繰り広げているのだろう。


「――分かった。お前は先にレティス王女の救出に向かってくれ。俺もティア様を連れて必ず駆けつける」

「はい!」


 マサムネはアルフレートの目を見て頷くと、ティアたちの方へと駆け出した。


「通路に目印を書いておいてくれ!」


 アルフレートはティアたちの無事を祈りつつ、フローラの案内で先へ進む。分かれ道や階段に差し掛かるたびに、フローラが風魔法で壁に矢印を掘った。


 そうしてたどり着いた部屋の扉の前でフローラが立ち止まる。


『この部屋です。ご主人様』


 ドアノブを回そうとするがロックがかかっていたので、アルフレートはフローラを腕輪に変身させた。


 風魔法の刃を使ってドアを破壊して、中に入る。


「誰だっ!」


 部屋に入った途端にアルフレート目がけて炎魔法が飛来する。


 咄嗟にフローラが風魔法のバリアを展開したおかげで、アルフレートの身は守られた。


「お前……学園生か? どうやってここへ来た」


 赤黒い髪をした男――アッシュが苛立ちを露わにアルフレートに尋ねる。


 しかし、アルフレートの耳にはアッシュの言葉は届かなかった。彼の意識はある一点に集約していたからだ。


 アッシュの横には、椅子に縛られて血まみれになった少女の姿があった。


 俯いてぐったりとしているが、微かに肩が上下していることから、死んでいるわけではないようだ。


 ドクンと心臓が音を立てる。


 心臓から手足の先まで血液が運ばれていくのが分かる。


 シアメイの動画を見た時とは比べ物にならないほどのドス黒い感情がアルフレートから発せられ、腕輪の姿を取っていたフローラは怯え切って何も喋ることが出来なくなった。


 返事をしない事に腹を立てたアッシュが怒鳴り、土魔法を放つ。


 みるみるうちに接近してくる直径一メートルほどの大きさの岩を、アルフレートは右腕一本で払い、打ち砕いた。


 心臓から送られてくる血液が熱い。ドクドクと脈打つたびに、身体の奥底から膨大な魔力が溢れ出る。


「……なんだ、この感覚?」


 アルフレートは記憶を失ってからの6年間で初めて、人に対して殺意を抱いていた。


「お、お前、素手でどうやって……何者なんだ?」


 アルフレートは右手に視線を落とす。皮膚が少し裂けている程度で問題なく動いた。


「……オレは――」


 血まみれの少女を指さす。


「レティスの友達だ」


 アルフレートは自分の口調がいつもと違うことに頭の片隅で気付いたが、すぐに取るに足らない事だと考えるのを止めた。


「お前の声、あの動画で聞いた声だ。確かアッシュとか言ったよな。レティスをそんなにした目的はなんだ?」


 アッシュはアルフレートの異常性を感じ取りながらも、やっと自分に意識を向けた事に気をよくして、語り始める。


「目的か? 俺たちはこいつらが憎くてたまらないんだ。ただ殺すだけじゃあ全然足りない。いたぶって、這い蹲らせて、惨めに命乞いさせて、それを踏みつけてやらないと気が済まないのさ!」


 そう言ってアッシュは笑いながらレティスを椅子ごと蹴り飛ばす。


「女王と二人の王女を殺し、その血縁者も皆殺しにし、最後には魔道士全てをぶっ殺すのが俺の目的だ!」


 もはやアッシュに説得の余地はないことをアルフレートは悟った。激しい怒りと憎しみを抱きながらもギリギリの所で感情を抑え込んでいたのだが、その最後のブレーキをアッシュは見事に打ち砕いてしまったのだ。


 話は終わりだと言わんばかりに、アッシュはアルフレート目がけて炎魔法を放つ。


 アルフレートはフローラの風魔法を使って暴風を生み出して炎魔法を吹き飛ばした。


 その圧倒的な風力によってアッシュは数歩後ろへと押し込まれた。


「――ん……う、ぁ……」


 気を失っていたレティスが目を覚ます。


 ゆっくりと顔を上げると、かすむ目に段々と焦点が合っていき、目の前にいるのがアルフレートだと気が付いた。


「……アル様? に、逃げてください……」


 弱々しい声で紡がれたレティスの言葉に、アルフレートは首を振る。


「安心しろ、レティス。こいつを倒してオレは君を連れて帰る」

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