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レティス王女の近衛7騎士  作者: 相馬あさ
疾風迅雷編
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第十三話 女王陛下と王女殿下

 エウニス学園職員室。


「せ、先生……教師が生徒にこんな事していいと思ってるの?」


 シアメイは瞳に大粒の涙を溜めながら、ダリウスを睨み付ける。


「いいもなにも、お前が暴れるからだろう」

「こんないやらしい縛り方するなんて……これからボクにどんな辱めを――ぐえっ!」


 縛られた身体をくねらせると、脳天にげんこつをお見舞いされた。


「い、いったぁぁああ! ちょっと先生! 少しは加減しなよっ!」


 シアメイは先ほどまで職員室での話し合いを盗み聞きしていたのだが、扉の立て付けが悪くなっているのをすっかり忘れており、扉ごと室内へダイブ。


 直後、取り押さえられた際に必死に抵抗した結果、椅子にぐるぐる巻きに縛り付けられる結果となった。


「まったくお前という奴は……。それで? いったいどこまで聞いていた?」

「……駅の近くで傷害事件が起こったって」


 現在は警察が逃走した犯人を捜索しているが、エウニス学園が近いこともあり、学園の教師にも捜査に協力してほしいということらしい。


「ねえ、ダリウス先生が捜査に向かうんだよね? ボクも連れて行ってよ!」

「ダメに決まっているだろう。お前はそこで大人しく反省していろ」

「なんでよ、いいじゃん連れてってよ! 二年生の中には、こういう時先生に同行してサポートする人もいるって聞くよ?」


 シアメイは、この事件も先日聞いた連続事件の一つだと直感していた。


 同時に、自分一人では危険だが、教師と一緒ならば比較的安全に捜査に関われると考え、同行を申し出たのだ。


 全ては彼女の底知れぬ好奇心ゆえの発言だった。


「どこでそんな情報を仕入れてくるんだ……」


 聞き分けのないシアメイにダリウスが呆れていると、二人の間に一人の女性教師が割って入る。


「シアメイ、好奇心旺盛なあなたの気持ちは分かりますが、今回の事件は危険性が極めて高いです。この件で連れていける生徒となると、二年のローズ姉妹くらいのものでしょう」

「せっちゃん……」

「せ、せっちゃん? シアメイお前、ファネル学園長に向かってなんて呼び方を!」

「いいのです、ハルフォード先生。シアメイとは友人同士でもありますから。まあ、他の生徒の前でもその呼び方をされると困りますが」


 セリーヌ・エウニス・ファネル学園長。


 シアメイは学園の風呂で意気投合してからは、アリサが付けた『せっちゃん』というあだ名で呼んでいる。


 学園長という立場だが、まだ30後半ほどの年齢であり、生徒目線で親身になって話を聞いてくれるので、学園では新任美人教師のシェリー・メルヴィルの次に人気の先生だ。


 シアメイは人前ではファネル学園長と呼んでくれと頼まれていたのだが、とっさのことでいつもの呼び名が出てしまった。


「せっ――ファネル学園長。それってボクにはまだ実力が足りなくて危険だから連れて行けないってことですよね?」

「ええ、そうなります」

「なら、それを補ってくれる人をタダで紹介できるって言ったら、連れて行ってくれますか?」


 セリーヌは目を細め、ダリウスはこめかみを押さえた。


「何を言い出すかと思えば。シアメイ、この国に来て数ヶ月のお前にそんな知り合いなどいるわけがないだろう」


 シアメイはダリウスを挑発するように、不敵に笑って見せる。


「それがいるんですよ。ダリウス先生やファネル学園長を凌駕するほどの実力者が」

「冗談もいい加減に――」

「待ちなさい、ハルフォード先生」


 セリーヌがダリウスの言葉を遮り、手で制する。


「シアメイが嘘を言っているようには見えません。シアメイ、その人物……信用できるのですか?」

「そこは安心してください。ていうか先生たちも知っている人ですよ。何と言っても、クライン家のお墨付きですから」




 オーウェル城。


 アルフレートたちは急いでティアのいる部屋まで戻った。


 部屋の前で待っていたティアが彼らに気付いて詰め寄ってくる。


「遅かったじゃない! 別の場所でお茶してくるって、あなたたち一体どこに行っていたの?」

「い、いや、なんていうか、色々あって」

「ん? あなたは……」


 アルフレートはティアが自分の後ろに視線を向けたので振り返ると、そこにはレティスの姿があった。


「あれ、付いて来ちゃったの?」

「ええ。では、行きましょうか」


 レティスはアルフレートを追い越すと、ルーファスと共に廊下を進んでいく。


 彼女に先導される形で大きな扉の部屋の前に辿り着いた。


 ルーファスが扉を開けると、彼に一言お礼を言ってから彼女は部屋へと入っていった。


「クルーガー様とクライン様もどうぞお入りください」

「は、はい……」


 アルフレートとティアは一度顔を見合わせてから、並んで部屋に入る。


 煌びやかな装飾が施された一室の中央でレティスと共に出迎えてくれたのは、ソフィア・ヴァレンティナ・アデライード・オーウェル女王陛下だった。


「ようこそ、オーウェル城へ」

「ル、ルクレーシャ・クラインです。本日はお招きいただきありがとうございます」


 ティアは緊張のあまり声を若干ひっくり返らせながら自己紹介する。


「アルフレート・クルーガーです」

「フローラです」

「リーゼロッテだよ! ロッテって呼んでもいいぞ!」

「こ、こらっ、リーゼロッテ! 申し訳ありません、女王陛下」


 リーゼロッテは逆に緊張しなさすぎだった。


「ふふっ、そんなにかしこまらなくてもいいわ。私も休みの日くらいはかた苦しい喋り方はしたくないし。私の事もソフィアって呼んでいいからね、ロッテちゃん」


 ソフィアは笑顔でリーゼロッテの頭を撫でる。


「うん。よろしく、ソフィア」


 テレビで見るのとは全く違う、気さくな女王がそこにいた。


「陛下、さすがにそれは……」

「ルーファス。私がいいと言っているんだからいいのよ」


 たしなめようとしたルーファスはやれやれと呟いて引き下がる。


「ほら、レティス、あなたも挨拶なさい」

「はい」


 ソフィアに促されてレティスがアルフレートたちの前に進み出る。


「レティス・メーベル・ウラニア・オーウェルと申します」

「ん、オーウェル? レティス、君って」


 ふいに、ティアの肘がアルフレートの脇に直撃する。


「ばかっ、ロッテじゃないんだから、失礼よ」

「ご、ごめん。えっと、レティス――様、あなたはいったい……」


 アルフレートが言葉を改めると、レティスは悲しそうな顔をする。


「その、騙していてごめんなさい。今のがわたくしの本当の名前です」

「あら、仲良くお茶していたと聞いたのだけど、まさかアルフレート君はレティスが私の娘だと知らずにいたの?」

「む、娘?」


 レティスがソフィア女王陛下の娘。


 アルフレートにとって衝撃の事実だったが、彼はその言葉に違和感を覚えた。


 瞬時に自分がこの数年間勉強して蓄えてきた記憶を探り、アデライード王国の王女に検索をかける。


「いや、そんなはずは……。王女様のお名前はシーラ様だったと思うのですが」


 再びティアの肘が脇腹へ打ち込まれる。


「ば、ばかっ! シーラ様は第一王女、レティス様は第二王女よ。あなたなんでそんなことも知らないのよ!」

「ご、ごめん……」


 ここに来て、記憶喪失のボロが出てしまい、アルフレートは自分の勉強不足を痛感する。


「アル様……」

「あ、えっと――な、なんでしょうか、レティス王女殿下」


 アルフレートがそう呼ぶと、レティスはこれまで見たことがない鋭い表情に変わる。


「やめてください。アル様は先ほどのわたくしとのお話をもうお忘れですか?」


 レティスは一歩二歩とアルフレートに近付くと、白く柔らかい手で彼の両手をしっかりと握った。


「そ、それは……」


 女王陛下の目の前で、田舎者で世間知らずの平民がこんなことを言ってもいいのだろうかと思ったが、強く握られた手に彼女の必死さを感じ、アルフレートの中の葛藤は吹き飛んだ。


「悪かったよ、レティス」

「本当です。次に殿下なんて呼んだら許しません」


 レティスは満足したのか、にこやかな笑顔でソフィアの隣へと戻る。


「ふうん。面白いものが見れたわね。アルフレート君、娘をこれからもよろしくね」

「は、はい」

「それにしても、間近で見ると益々疑わしいわね」


 ソフィアはアルフレートに顔を近づけてまじまじと観察する。


 アルフレートはそれがどういう意味なのか分からず、されるがまま直立不動となる。


変な汗が噴き出してきたのを感じた。


「アルフレート君、本当に君、男の子なの?」

「へ?」

「だって、どう見ても女の子じゃない。しかもすっごい可愛いし」

「そ、そうでしょうか?」


 初めて会った時にジェイクに指摘されていたので、アルフレート自身も女顔だとは自覚していたが、女子に見間違うほどと言われると、少し傷付いた。


「ティアちゃんもそう思わない?」

「わ、私ですか? た、確かに顔つきは……っていうか、ティアって――えっ?」


 急に話を振られた為か、ティアはしどろもどろに返答する。


「セルゲイから聞いているわ。あなた、ティアって呼ばれているんでしょう?」

「あ、父に……。そうですね、家族や親しい友人にはそう呼ばれることが――」


 ティアがそこまで口にしたタイミングで、『ぐぅぅぅうう』とお腹が鳴る音が響いた。同時にティアが口を半開きにした状態で固まり、額から滝のように汗を流し始める。


 そこからのティアの顔色の変化は劇的で、青ざめたかと思うと、恥ずかしさのあまりリンゴのように真っ赤になった。


 そんなティアの心中を察してか、ソフィアが両の手のひらを合わせて提案する。


「そ、そういえばそろそろお昼時だったわね。みんなでランチにしましょうか」

「……ありがとうございます」


 ティアは弱々しい声で感謝の言葉を述べた。

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