最初の作戦会議
家から、学校に通うのが大変なこともあり寮生活をする事になった。金曜日の夕方に、家に帰り月曜日の朝に登校する形である。
「よっ、相棒。寮生活なんだって?」
「ん?あぁ、家が少し遠くてな。」
ペンをクルクル回したりして言う。
「なら、俺と同じ部屋だな。」
暢気に言って、隣に座る。
この学校の寮は、男子寮と女子寮が別れており部屋分けはグループのメンバーどうしである。もちろん、1人の場合はあんまり日当たりの良くない部屋で1人である。レンは、昨日のレポートをかたづけるため腕まくりをしてペンを構える。
「だっ、駄目だ……。このレポート、強敵すぎる。ノアは、レポート終わったのか?」
「昨日のうちに、サクッと書いてもうとっくに提出した。それより、明日からランキング戦タッグでの初試合だ。お前は、どう考えてる?」
「さすが、優等生。そうだな、分からん!」
シーン……。教室が、静まり返る。
「お前なぁ……。」
ため息をついて、俺は思う。レンは、戦いのことになるとたまに鋭い勘を発揮させる。だが、もともとが脳筋なのか基本は頭が悪い。
「だって、やってみないとわかんないじゃん。」
「確かに、結果はやってみないと分からない。でもな、過去のデータや資料を見てそれを丸呑みせずに参考程度に見とくだけでもまた違うものなんだぜ。まぁ、強制するつもりは無いけどな。」
そう言って、ノートを閉じる。
「苦労しているね、優等生君。」
「生徒会長、俺に何か用ですか?」
「うん。ノア君、うちのグループに来ない?」
ざわめく教室の人達。上ランクグループは、抜け駆けした生徒会長に抗議の視線を送る。そして、レンはビクッと背中を振るわせてからノアを見ている。ノアは、ノートをしまい素っ気なく言う。
「お断りします。まだ、コンビを組んで一試合もしていないんですよ?なのに、少し失礼なのでは?それでは、俺は図書室に用があるので失礼します。じゃあ、レンまたなぁ。」
スタスタと、教室を出て行く。レンは、レポートを素早く完成させるとノアを探すために図書室に向かう。リーダーは、自分なのに参謀のノアだけが苦労するのは間違っていると思ったからだ。
「あのさ、ノアを見てないか?」
「ノア君なら、7番の書庫で戦闘記録を見てるわよ。でも、凄く集中してたし作戦でも考えているのかしら。とにかく、そっと声をかけてね。」
この生徒は、こう言ったが例え無言で来ても姿を消してても気配を閉ざしてもノアにはすぐに見破れる。経験と実績が、自然と身についた結果なのである。そして、レンにも気付いて本から目線を上げて見る。レンは、少し驚いてから言う。
「ごめん、邪魔したな……。」
「いいや、気にしてない。それで、レポートは終わったのか?随分とはやかったな。」
薄く笑い、本を閉じて本棚になおす。
「おう、何とかな。それで、何か分かったか?」
「レン、保健室はここを出て右の廊下の突き当たりだぞ。きっと、熱でもあるんだろ?」
「おい、ちゃかすなよ。俺だって、出来ることなら力になりたいんだ。だから、教えてくれ。」
すると、ノアは少し驚いてから笑う。
「何だ、熱じゃ無いのか。そうだな、ここで話すのもあれだし近くのカフェに行かないか?」
「分かった、どうせ授業は午前中だけだし。」
カフェ〖猫のしっぽ〗にて……
「へぇー、こんなカフェがあったのか。」
「俺より、むしろお前が詳しいと思っていたけど。あまり、こういう所は行かないのか?」
首を傾げ、椅子に座る。そして、ノートを出してペンで〖今から言うのは、全くの嘘だ。スルーしてかまわない。〗と書く。レンは、少しだけ驚くがノアなりの理由があるのだろうと思い微かに頷く。ノアは、策士としての黒い笑みを浮かべる。
こいつ、怖ぇ……。敵に回さないようにしよう。
レンは強く、心に誓う。
「さて、俺達の対戦相手は双子のタッグだ。」
「双子かぁ……。息が合ってそうだな。」
暢気に言って、水を飲む。ノアは、メニューをレンに渡しながら頷く。ため息をつくレン。
「兄が前衛で、弟が後衛をしていてコンビネーションもバッチリだってさ。それに、情報戦でももしかしたら負けるかもな……。かなり、厄介だ。さて、リーダーはどうする?」
「どうするって、言われてもなぁ……。」
すると、近くの席の生徒が支払いをして出て行くのを見る。ノアの黒い笑み再び……。
「さて、フェイクは終わりだ。ここからが、本当の作戦会議な。さっきのは、忘れてくれ。」
「はいよ。でっ、いつから気付いてた?」
真剣に、ノアを見ながら言う。
「そうだな、俺が教室を出てから友人に俺を見張らせてた。そして、学園を出たとたん本人達が後ろからつけてきたからあえて偽の情報を握らせて追い返した。そんなところだ。あっ、ガトーショコラ美味しそう。レンは、何食べるんだ?」
別に、こんな事当たり前だろ?と言いたげな様子で何を頼むか聞くノア。レンは、ゾッとしてから頭を抱えて心の底から敵じゃなくて良かったと思う。そして、ノアはそんなレンに首を傾げる。
「あー、すまん。俺は、フルーツケーキで。」
「そうか。それにしても、大丈夫か?顔色が悪い気がするけど体調でも悪いのか?」
レンは、心の中で……
お前のせいだ!お前の!
と叫ぶ。ノアは、心配そうに見ている。
「いや、大丈夫だ。それより、作戦会議だろ?」
「あぁ。まず、双子なのは教えたとおりだ。2人とも、前衛で仲が悪い。だが、戦闘になると息がぴったりで情報戦は凄く苦手だ。」
そして、黒い笑みを浮かべ呟く。
「そして、精神攻撃に物凄く弱い。」
うわぁー……。何か、敵が可哀想になってくる。
「なるほどな……。」
すると、ウエイターがケーキと飲み物を運んでくる。2人は、話しを中断して礼を言い受け取る。
「さて、大地ならどう戦う?」
「戦いながら、精神攻撃をするかな。」
すると、ノアは薄く笑いコーヒーカップを手に持ちながら暢気に言う。
「なぁ、レンは激戦の中で声をかけられてちゃんと聞き取れるか?相手の言葉を。」
「えっ?うーん、自分の戦いに手一杯でたぶん気にもしない……なるほど……。」
「そう言うこと。だから、戦闘中の言葉による精神攻撃は余り意味が無い。さて、ではいつ精神攻撃を仕掛ければ良いでしょう?って話だ。」
コーヒーを飲み、ケーキをパクリと食べるレンを見る。レンは、うなりながら考える。
「分かんねぇ……。」
「答えは、開戦直前だ。開戦前は、敵は集中しているし案外だけど言葉が通る事が多いんだ。」
コーヒーカップを置いて、ケーキを食べる。
「と言うことは、通らない事もあるのか?」
「あるよ。例えば、相手が格上ならばサラッと受け流すし怒りを覚えてもパワーと戦略で叩き潰される。格上には、使えない底辺ならではの作戦だな。まぁ、格上でもたまに引っ掛かるけど。」
過去のデータを思い返し、思わずドヨーンとして最後につけたす。レンは、なるほどと頷く。
「全く、君らの作戦会議はためになるね。」
周りの生徒達も、思わず頷く。
「盗み聞きか?それなら、よそでやれよな。」
冗談っぽく笑うノア。その顔には、歴戦の参謀の余裕がある。この程度、聞かれても対策は出来るからあえて聞かれているのを知りつつも黙っていたのだ。そして、話をかけた彼もそれを理解しているから話をかけたのだ。
「良いなぁ~、レン。羨ましいよ。」
思わず、レンに言う。
「ロイ。まぁ、運が良かったとは思う。」
「安心しろ、まだ確定じゃないからな。」
冗談っぽく、ノアは言う。すると、その場の生徒達の雰囲気が変わる。青ざめる、レン。
「そっ、そうなんだよな……。」
「なら、僕にもチャンスは有るかな。」
ロイは、含みを込めて呟く。
ノアは、それに答えない。かわりに、こう言う。
「今回の、結果次第だな。」
「全力で頑張る!」
拳を握りしめ、レンは真剣に言う。
「頼りにしてるぞ、リーダー。」
「任せろ、相棒!」
ノアは、含みを込めた笑みを浮かべた。