第二章 そこに在ってないもの
毎度どうも、天義です。
いつ見ても恥ずかしい文章ですね、いやマジでw
夏の暑さを吹き飛ばすような、糞寒い文章なので、部屋にクーラーのない方は最高に冷えるのでいいと思いますよww
所変わってとある村。
澄み切った空の下、一軒の豪勢な家があった。
誰が見ても、それは大きな屋敷のようで、初めて見る人は驚いて腰を抜かすだろう。
「.........。」
窓越しに空を見つめるまだ若い女性がいた。
彼女こそ、先程言っていたジョンの会いたい女性、エルノア・L・セレモアント。
気品ある優雅な様はそれこそジーナとは比べ物にならない...、といっては怒られるだろうが、何者に対しても優しさを保つ瞳、そして彼女の持つ声は人だけでなく生きとし生ける動物全てを癒すであろうと思われるほどに美しさの代表格となる人物だった。
一言でいうと、生ける女神だ。
正直、先程の神とやらより、幾分こちらの方が神様らしいのかもしれない。
「エルノア、前禮祭だ。今すぐ巫女の衣装を着ろ」
男性がズコズコと部屋にやってきたかと思うと、その気品な女性へ両手に抱えて持っていた着物を多少強引に渡すと、潔く帰っていった。
「...」
エルノアは虚ろな目をしながら、その衣装をぼんやりと見ていた。
「そろそろ落ち着いたなら、何でアンタがあのお嬢様のところに行くのか、教えてくれない?」
優雅なエフェクトから粗野なエフェクトに変わった場合はみんなに謝罪しよう。
非常にすまなかった。
「えっ、あぁ、実は...、その...、前から俺たち会っていたんだよ、隠れて」
ハァ?
と、ジーナの代弁をしてみる。
それはもう、やるせない表情で彼女はジョンをただボーッと見ていた。
「あんた、そういう趣味あったの?」
なんて、軽蔑した言い方。
「そんなんじゃねーよ。そういうけどさ、ジーナとは段違いなんだよ、色々と」
そしてその直後、有無を言わずに破壊的な拳がコチラ目掛けて飛んできた。
「すみませんでした」
「分かればいい」
二人の仲睦まじい光景を捉えるのはここまでにして、二人の生まれ育ったアルヴァ村に入るところで急にジーナが立ち止まった。
「ちょっと、お父さんとお母さんに別れを告げてくるね。多分、許してくれないだろうけど、必死で説得してみる!」
と言って、村にポツンと建っている少し廃れたというか少々貧乏なさまの家に、ジーナは入っていった。そしてこの時、ジョンはなぜ彼女が事情を説明じゃなくて「別れ」を「告げてくる」となったのかに、微かな疑問を抱いていた。
村でも陽気に振舞っているように見えても、あぁ見えて彼女はジョンと同じく困窮な生活を強いられていたようだ。
だからこそ、ジョンと色んなところで惹かれあうところがあるのではないだろうかと、ジョン自身深く思いつつあるのであった。
あれから3分ほど経ってからであろうか、ジョンがそこいらに立っていた古びた看板に腰掛けていた時、
「出て行け!!!」
と、それはもう凄まじい轟音といえるような迫力に満ちた荒々しい男性の声音が、村に響き渡るのが聴こえた。
一瞬、メガホンでも使っているのかとも思えた声量だった。
村にいた人々の目線は発声した地、ラシュフォード家へと一気に降り注がれた。
その渦中の人物こそが、ジーナの親父さんと彼女だったのだ。
ジーナは怒り狂っていたのか恥ずかしかったのか、赤面した顔でジョンの方へ近寄って、ジョンに「こんな村、二度と帰らない...! 行こう!!」と言った。
旅立つ日の親との惜別が、このような形でいいのかと半ばジョンは不安だったが、彼女がそう願っているのなら仕方ないと思い、何も語らず喋らず村を後にした。
村を出て三十分経っただろうか、ジョンは我慢できずに遂に口走った。
「なぁ、ほんとにいいのかよ! 実の親との別れ方があぁで...。なんか、後で後悔とか――」
「うるさいわね! 人の家庭のことなんだからほっといてよ!!」
「...。」
ジョンは自分のした質問に対する答えが、どう返ってくるのかなど、百も承知だったのか、それに抗おうとせず、ただ黙ってジーナを見ていた。
アルヴァ村とジョンの小屋を覆っていた、クラムダウトの森を抜けて、漸く澄み切った大地と晴れ渡る空を見つけることができたというのに、二人の心の天候は曇天へと化していた。
そして二人は、三つの矢印で記された看板を見つけた。
左方ヴァルーシカ金鉱 右方レスペルトの町
後方クラムダウトの森、アルヴァの村
何とかしてこの空気を打開しなくては!
そう考えたジョンは試行錯誤の中、その看板を見つめる。
ジョンは、あっ! とした表情をしてみせる。
そして、
「ジーナ、今から金鉱へ行ってゲル(硬貨)でも手に入れてくるか(笑)」
ジョンの心を察したのか、ジーナはその質問に
「アンタが働いて、私が見学するって立場なら考えてあげてもいいわよ」
とジョンは、彼女が珍しく「今日はノッてくるなぁ」と思わせられた。
「冗談いってないで、早く町に行くわよ!」
空気が和んだところで、改めて気分を切り替えてレスペルトの町へと向かう二人であった。
一方、こちらレスペルトでは...
「姉貴...」
エルノアの部屋に一人の、背が高くてガッチリした男性がやってきた。
「まぁ、アルヴェス...。どうしたの?」
エルノアは可愛らしく首を傾げた。
するとその男、アルヴェスは入り口のドアを閉め、エルノアの方へ近づいた。
「今日は前禮祭、まさか今日もアイツと会う気ですか?」
アルヴェスは部屋に掛けてあった、薔薇を持つ女性の肖像画を見ながらそう呟いた。
「えぇ...。でもこれだけは分かって? 私はあの人――」
男は俯いては溜息を吐いて、虚ろな表情を浮かべてこう言った。
「やっぱり...、姉貴は何一つ分かっちゃいない!」
そしてその男の一声で空気は静まり返った。
窓から心地のよい風が吹くにもかかわらず、だ。
「いいかい、姉貴。アイツは下賤なやつなんだ。この、セレモアント家に入れては、いけない輩なのだ」
アルヴェスは想像上のジョンを作り出して、それを汚いものを見るような目で見ていた。
まるでジョンを害虫のように...。
「でもね、アルヴェス...」
「姉貴は世の中を知らないんだ! どうしてルビスが死んだのか、姉貴が一番分かっているハズだろ?」
エルノアは視線を逸らし、黙りこくった。
「この世の中に、心の奥から本当に優しい人間なんて存在しないんだ...。」
そういうとアルヴェスは、それからずーっと肖像画を見つめていた。
アルヴェスのその一言は物凄く重みがあって、深みがあって、それは人生を一言で例えてしまうほどだった。
「じゃぁ俺は柔術の稽古があるから、下に降りるよ...」
そういうと、ヒラリと身を翻して部屋を後にした。
部屋を出る時に、手をドアノブから離す際に紅い、まるで鶴のような刻印と『ⅲ』という文字があった...。
「私だって、分かっています。でも、変えようがないのよ。この世の真理なんて...」
エルノアは人の居ない部屋で一人、膝を折り花が置かれている机に寄りかかりながら、そして俯きつつも窓の外を見てそう呟いた。
鳥が羽ばたいていた。
鳥はまるで、その大空を我が物のようにして、ただ風に身を任せながら、飛び立っていった...。
「ここがレスペルトの町?」
ジーナは初めて来たのか、どこまでも続く街を大きく、大きく見渡していた。
そこに横槍を入れるが如く、
「ジーナ、田舎モノ丸出しだぞ...」
と発言し、一歩退くジョン。
だが、しりぞく前に鉄槌は下ったので、彼の頭に握り拳くらいのタンコブができたのはいうまでもない。
それにしても、広すぎる。
街にしては広大で、本当にここに
「城があっても何一つ違和感がないくらいデカいな」
と、ナレーションの台詞を威風堂々とジョンが奪うくらいに壮大だ。
「私、村から出た事ない...というか、親にクラムダウトから出させて貰えなかったから、ココに来るのも勿論初めてだったけど、まさかここに昔お城があっただなんてねぇ...」
「本当にあったのか?!」
まさか、自分の考えが的中していたのかと、驚愕の事実を知って浮かれかけのジョン。
少し自分を偽って大袈裟にも見えるくらいに...。
「あくまで仮説だけど、かつてこの町が村ほどの規模しかなかった時代に、近くで大規模な戦争が勃発してしまって、この村が城として面積的にも大きく作り変えられて、そうやって町の形の基盤が出来たって村の図書館で見たことがあるわ」
「ふーん」
ジョンはジーッとジーナを見ていた。
「何よ」
ちょっと照れ気味だった。
しかし、その照れる仕草も次の一言で瞬時に怒りへと変わるのであった。
「お前ってヲタクだったのだな」
そして満面の笑みでボソッと何かを呟くジーナ。
「本気で痛い目見たいのかしら?」
いつも以上にバッキボキと拳をならす、ジーナ。
そこに女らしさといえる気品は微塵もなかったのはいうまでもない。
「すみませんでした!」
握りこぶしの鉄槌が下る前に即座に謝ったジョン。
とまぁ、ギャグの十八番にありそうな展開を綴るのは、これまでにしておこう。
そして広場に着くと、ジーナは一言発した。
「えっ! 禮祭って、みんな同じ日にするんじゃないの!?」
と、驚きを隠せない模様だ。
禮祭は、それぞれの町や村によって時期が異なったりすることを知らなかったのだ。
「ヲタクさんは、こういうところは調べな――」
「――まだ懲りないのかな?」
拳をバキボキいわせながら。
「が、がさつな女は嫌われるぞ!」
ジョンは必死だった。
と、その時である。
「ジョーンッ!」
前方から、なにやら煙をたてて急接近してくる人らしき物体が確認できた。
コチラに向かって全力疾走しているその人物は、ジーナがいることに気付いてか急ブレーキをかけて、ゆっくりと歩いてきた。
「どうも初めまして、俺の名前はセディウス・G・マルクォートと申します」
と、ジーナに一礼した。
「は、初めまして。ジーナ・ラシュフォードといいます...」
『何コイツ...』
ジーナの無粋な心はそう発言している事だろう。
彼女が顔を引き攣らせるのは初めて見たんじゃないのだろうか。
そう思い、ジョンは貴重なシーンを獲得した。
「おいおい、セド。お前、俺との初対面の時と接し方が断然――」「――おい、あれはお前のコレか?」
と、またしても発言中に引き止められる。
そして、定番っちゃぁ定番の質問を聞かれた。
今日は運がないのだろうか。
そしてセディウスは小声でジョンに、
「くだらないこと言ってないで、早く状況を教えてくれよ」
ジョンがそういうと、セディウスは懐から計画書のような一枚の紙を広げた。
そして、気安くもジーナに肩を寄せるようにした。
セディウスがとった浅はかな行動に、ジョンは
『コイツ、こんな女が趣味なのか...。まぁ、正体を知らぬ今が華ってとこか』
と、心に思うジョンであった。
すると三人は、こぞって集まり、セドは小声でブツブツと語り始めた。
「今日は禮祭だ。そうなりゃ、恒例のセレモアント家の代継式が執り行われる。今日はその時を狙って忍び込むぞ」
「ちょ、ちょっと待って! その代継式って何? それに忍び込むって何、一体どういうこと?」
「ジョン、説明してなかったのか?」
ジョンは少し後ずさりした。
そして、苦虫を噛み潰したような表情で頭を掻きながら、
「だって言い辛いじゃねぇか...。エルノアの家がかつて存在していた城そのものだったなんて」
ジーナはその場で凍りついた。その真実と、ジョンが実は分かっていたということに驚きを隠せなかったのだ。
ジョンには、そうなる事が大体予想できていたのか、心配というより淀んだ表情をしてジーナの顔色を窺っていた。
めくるめく想像以上の出来事に、ついにジーナは気を失った。
その時ジョンには、彼女がどこか普通に気を失うのとは違うような感じがしてならなかった。
すかさず、ジョンがジーナを支えたのは言うまでもなく、それからジョンは
「ジーナは、コッチで何とかするから、セドは屋敷へ先に行っといてくれ」
と言い、セディウスはそのまま屋敷のある町の北西へと向かっていった。
セドが去った後もジーナは気絶していた。
普通、それ程驚くか...?
と思ったジョンは、ジーナが何かに感づいているように思えて仕方がなかった。
とりあえず、町の広場で立ち往生しているのも何なので、ジョンはジーナを療養所へと運んだ。
療養所は町の東側、屋敷の真逆だったので急いでジーナを運んだ。
そして、いざ辿り着くと、一つの問題に出くわした。
「しまった...。金がない...。」
地団太を踏んでは落ち着こうと思ったのか、療養所のベンチへ腰掛けていた。
すると、一人の男性がやってきた。
「どうしました? そちらの方は意識がないご様子ですが」
「そうなんです! ちょっと広場で喋っていて、そしたら突然倒れてしまって。軽い失神だと思うんですけど...」
そういうとジョンはジーナの顔を窺うと、まるで氷を思わせるジーナの無表情に若干の恐怖を感じた。
「宜しいでしょう。コチラへ、その方をお運びいただけますか?」
すると、その男性は外へ向かうよう指示をした。そして、
「ついて来て下さい。意識を取り戻させる事なら簡単ですから」
言われるがまま、ジーナは個室のベッドに連れてかれていた。
「私はちょっと席を外しますので、彼女の事を少し看てやっていて下さい」
というと、その奇妙な男は運ぶだけ運んで早々に姿を消した。
キラッ――!
その時、ジョンは一瞬だが空間が光に包まれたのを感じた。
すると突然、気を失っているはずのジーナが
「ちょっと、ジョン...!」
と小声で語りかけているではないか。
「お前元気だったの――」
と、ジョンが心配の言葉を投げかける余地もなく、彼女は
「いいから私の話を黙って聞いて!」
と小声で、話し始めた。
「ジョン、アンタさっきエルノアの家がお城だったって言ったわよね?」
「あ、あぁ」
なぜそんなにジーナが焦っているのか、ジョンには分かり兼ねなかった。
「じゃぁそのお城、どうして今のように造り変えられたか知ってる?」
「そりゃぁ、お城のままだと何かと不便だったか――」
「――人殺しの生業を隠蔽するためよ」
再び殺伐とした空気が辺りを漂った。
「私ある日にね、見つからないように図書館の禁書棚で調べたの。レスペルトの町に出かけたくて、それでこの町の事知りたくて。それで、知らなくていいことを知ってしまったの...」
ジョンは信じられない、の一言に尽きる反応を示していた。
「この町に住むおおよその人は、その生業を殺人、つまり殺し屋として生きているの」
「え?」
ジョンには意味が分からなかった。
それまで、普通に買い物やエルノアに会いに来ていたのに、どうして今まで生きていられたのかが不思議で仕方がないのだからしょうがない。
「というのも、普段から人を殺しているわけではないの」
ジョンは少し安堵した。
その安堵感もホンの数秒だけだったわけだが。
「自分の生業に気付かれたものを殺すのよ」
「じゃぁ俺達...」
「生かしては、おけませんねェ...」
そこにいたのは先程の奇妙な男とアルヴェス、それにセディウスだった!
「セド!? どうしてお前まで...」
「いやぁ、真実に触れさえしなければ、一生の友達だったのに...なぁ?」
もはやつい先程とは、別人と化していたセド。
その時、右隣に顔を俯けて立っていた男性が一歩前進してきた。
紛れもなくそれはアルヴェスであった。
「貴様のせいで...、貴様のせいで姉貴が堕ちたんだ!」
「落ち着いてください、レイヴン公。ここで無闇に暴れられては面倒なことになります。ここは私、ヴェインにお任せを...」
そういうと、冷静な面持ちでこちらに近寄り、且つ背筋も凍るような微笑みでジョンをターゲットに近づいてくる...。
その時、ジーナはレイトから教わったあることを思い出した――。
「汝を現世に送り返す前にもう一つ、微々たる力だけど法霊術を教えておこう」
すると突然床が波紋を打つと共に、底から杖が這い上がってきた。
「法霊術?」
「一種の呪霊唱術よ。『刻印の力を一時的に封じる力』の解放をリスクにして、その解放された力から派生した魔力で結界を作る、そしてその結界で覆われた空間は今ある別の時空間に転移される、いわば時空結界魔法」
ジーナはイマイチ理解できたような、できてないような、あやふやな気持ちで納得した。
「要するに、刻印者の本来持つ力を借りて、今在る場所に違う次元を生み出すということ」
なんとなく合点がいったジーナ。
「ただし注意すべきは、その解放する量に比例して効力も増大するという点。限界点を通り越して魔法を使えば、たちまちのうちにやつは正気を失い...後は言わずもがなよ」
正直使いたくなかった。
だってジーナにとっては、この術だけとは限らないけどこういう事をするのって、ジョンがこの世の災厄の元凶である、という事を認めるということに他ならないからである。
だが今この状況でそんな御託を並べている暇はない。
使おう。
ゴメン、ジョン...。
「光壁よ、我が前に並列せよ!」
すると、呪文のスペルらしき光状の文字がジーナの目の前に現れては、それらがジーナの頭の中に取り込まれていった。
次々と起こる信じられない光景についていけないジョンは、なぜか精神力から様々な物が奪われていき、その場に卒倒した。
「Alfirius Trakeniun...吾、聖の下にて仕えけり」
そして、眩いばかりの光はジーナの頭から、今度は二人の盾を模した壁となった。
丁度そのときである。
ジョンの右手の甲が輝きだした。
光は普通の輝かしい黄金色ではなく、どこか仄暗い感じを漂わせる灰色のようなモノであった。
その様はまるで、ジーナが生み出す力に相互的且つ、相反的反応を示しているかのようにも捉えられた。
そしてジョンは、この世のものとは思えない表情をして起き上がると、悪魔のような笑みを浮かべてこう呟いた。
「無に還れ...」
すると、先程の光壁は微塵に砕けた。
いや、砕けたというより、この場合は相殺したとか消え失せたというべきだろうか。
そんな渦中、
「やはり貴様、ツェッカに関係があるのだな...」
と、この場に相応しくない発言をしたのは、顔を左腕で隠しているアルヴェスであった。
ジーナはその発言が少し気がかりだったが、どうしたの等と悠長な事を聞いている暇も全くない。
なぜか先程まで殺意に満ちていたセディウス、ヴェイン、アルヴェスの三人は暴走しつつあるジョンを尻目に一時その場を退いた。アルヴェスは苦虫を潰したような見幕で、ヴェインは嘲笑した笑みをそれぞれ浮かべていた。ただ一人、セドはどこか悲しげな表情を浮かべていた。
しかし、それにしても一向におさまらないジョン。
事もあろうか、ジョンの目は人やモノ、全ての物質を虐げるような眼光をしていた。
「ねぇ、ジョン...」
もはやジョンは微笑みを浮かべる様子すら微塵もない。
「ねぇ、本当にアナタはこの世を滅ぼす元凶なの? ねぇ、嘘よね!?」
「.........――」
答える気など毛頭ない。むしろ、そこにはジョンは居るようで居なかった。
しかしジーナが法霊術の杖を消すと、ジョンの顔色は何事もなかったかのように血色が良くなり、当の本人は、というと、何が起こっていたのか把握できていない感じだ。
風が吹くと水は波紋を打ち、草木は揺れる。
しかし風が止むと、その静けさを取り戻す――
「ジョン!!!」
っと、ジーナが飛び起きて叫ぶと、そこには何事かと驚くジョンと先程の正体不明の男ヴェイン、そして宿のベッドに寝ていたと思しきジーナの身体があった。
「な、何だよ! お前、体大丈夫なのか?」
ジーナは現状が全く理解できない。男は白衣を纏っていて先程までの人物とは、別人と言える位に優しい表情でコチラを窺っていた。
「体って...、アンタこそさっき暴走寸前だったんだから! それよりヴェインさんでしたっけ? 何の恨みがあって私達を襲う必要があったの?!」
その訴えとは裏腹に蕭然とした空気が一同を包んだ。
「ジーナ、この人と知り合いなの?」
「知り合いも何も、アンタ襲われかけたのよ? いい加減に――」
「えーっと、以前お会いしましたっけ...?」
先程とは似ても似つかない、物腰を落としてボソボソ喋るとても謙虚な別人格。
その時、ジーナは拍子抜けした表情でヴェインたる男の顔をみていた。
「あなた、ヴェインじゃないの?」
「はい、確かに私の名前はヴェイン・カルフェストですが、なぜご存知なのですか?」
ジーナは呆気にとられていた。
ご存知も何も、さっき思いっきり自分目掛けて襲ってきた人間なのだから知らないわけがないだろう。それが今や縮こまって、頭にははてなマークをつけてこちらの様子をさも不思議そうに窺っているのだから。
こちらにとっても、不思議極まりない。
「ジーナ、本当に大丈夫か?」
ジーナは、現状を理解するのに必死で、ジョンの声には見向きもしなかった。
これがさっきの術の力...。
唖然として脱力したジーナは、すっかり空気が抜けて萎んでしまった風船のようだった。
「...どうやら、私が治癒する必要がなくなったようですね...」
というと、愛想笑いをして後退した。
そこにジョンが、
「あの! ジーナのこと、有難う御座いました」
と、きちんとお詫びをしてみせた。
私は何もしていませんよと言わんばかりに笑顔を浮かべて首を振り、「お体に気をつけてください」と残して部屋を後にしたヴェイン。
ふとジョンは部屋にあった掛け時計を見ると時間が18時を指していた。
「やっべぇ!」
と大声をあげると、ジーナに
「おい、今から体動かせるか?」
の一言。それに対し、ジーナは
「動かせない事もないけど、どうして?」
と対応。
「今からセレモアント邸に行くから。急いで、エルノアに会わないといけないんだ」
ジーナは少し膨れた表情で
「そろそろ理由ぐらい教えてくれてもいいじゃない、彼女の家に行く理由――」
すると、ジーナにとっては恐ろしく意外な回答が帰ってきた。
「彼女は、エルノアは影でこの紋章について研究していたんだ。そして、この紋章の意味を漸く理解できたから、会いにいくんだ!」
それを聞いて、ジーナは胸のうちが非常に痛くなった。
遂に彼が、ジョン・ウォールドが自分自身をこの世界にとってどういう人間なのか、どうせざるを得ない人間なのかを知る事になるのだからだ。
「ねぇ、もう夜も遅いんだし、明日行くことにしなよ。こんな夜更けに、人の家に上がりこむなんて家の人にも迷惑よ」
というと、ジョンは意外にも自慢気な笑みを浮かべ、
「そこは大丈夫。俺と彼女しか分からない『秘密の場所』があるんだよ」
そういって、宿を後にしたジョンとジーナは、一路セレモアント邸へと向かった。
歩いている途中、ジーナはふいに思ったことを質問した。
「でもさぁ、屋敷なんだし正門はどうやって開けるのよ?」
「バーカ、正門から行ったらそれこそアウトだろ。裏門から行くんだ。その為にもわざわざセド呼びつけたんだしな」
セディウス・G・マルクォート...。
彼は一体何者なんだろう。ここではないどこかでは、明らかに私達を襲ってきたみたいだし。それにしても本当にあの世界は――
「着いたよ」
とジョンはジーナの肩をポンと叩いた。
紅いレンガを何段にも積み重ねた塀、昔の王城を思わせる屋根、それは正にジーナが思っている以上に壮観だった。
御拝読有難うございました。
なんか、この辺りから設定がぐちゃぐちゃになってきた覚えがあります。
正直書いてる自分でも、解読不明で乱雑な文章だなぁと書きながら思っていました。
ま、ゲームを文章化したと思っていただければ、読みやすいかと思います。
それでも無茶苦茶ですが、色々と苦笑