第一章 託されたもの、委ねるもの
どうも、天義です。
本当にガチガチに詰めすぎた文章なので読みづらい事この上ないかもしれませんが、予めご了承下さい(._.)
自分で見てて、よくこんなことかけたなと、正直思います笑
あれから幾年の月日が流れて...。
そこは見渡す限り一面が水と緑で出来た森、クラムダウト。
澄み渡る晴天の下、両手で円を描いて心身を高めている。
そのポーズを傍から見れば、奇人呼ばわりされても、おかしくはないだろう。
なぜそんな事をするのかと言われると、実はこの青年もうすぐ念願の人物に会えるからである。それ故、嬉しくて興奮してしまう自分を抑えつけるために、こうしいて瞑想しているのである。
それを理由とおくには、如何せん意味が分からないかもしれないが、今簡潔に説明するとしたらそう言う外ない。
そんな時、春風のような生暖かいふんわりとした風が吹いたかと思いきや、その風に乗ってきたかのように都合よく女性がやってきた。
「おはよう、ジョン」
元気に挨拶してきた女性に、ジョンはなぜかすましながら
「おはよう」
と、言った。
心を落ち着かせていたのに話しかけられたのが癪に障ったのか、少し怒っているようにも捉えられた。
無論、彼女が彼の会いたい人物・・・ではないことは、言うまでもない。
「あのさぁ、もう少し...こう『気遣い』みたいな、......静かに見守るとか...、そっとしとくとかできないかなぁ...」
自分の瞑想を邪魔されたのが余程にイヤだったらしい。
彼女がうそ笑むと後ろに立っていた木々の間から、またしても風が吹いた。
吹き荒ぶ風の流れとともにジョンは口を開いた。
「で、今日は何の用事? 村の前禮祭の報告ならもう来ているけど」
日夜、神事を胡散臭いと考えるジョンにとっては、そんな行事などあってないようなものだった。なので、きな臭い宗教行事を追っ払うようにジョンは目を背けた。
「来週、ジョンの誕生日でしょ? 私その日に予定入っているから、禮祭みたく前祝いに...ね?」
ジョンはどう悦んでいいのかわからず、とりあえずは、その場凌ぎに愛想笑いで軽くやり過ごした。
「何? 花束でも持ってきてくれたの?」
と、ふざけてみせるジョン。
彼女の名はジーナ・ラシュフォード。
ジョンの面倒を唯一見ている、村で温和な性格を持つと思われている女性。彼の前ではありのままの姿を見せ、時々恐ろしく凶暴になる。
ジョンにとって彼女は家族同然の存在でもあるし、彼女にとってもきっとそうである。
ジョンはジーナから貰ったもの以外では、毎日ほとんど自給自足なのだ。
「あのねぇ、花束なんて持ってくるわけ無いでしょ。それよりその...エル――」
「...悪い、ちょっと小屋に帰るわ」
その一言で空気は死んだ。
ジーナはゴメンと謝ることさえままならず、辺りの自然が静寂を奏で始めた。
ジョンはまるで落ち足のような足取りで小屋へ帰っていった。
小屋へ帰ったジョンは、机の引き出しから母と自分が写った写真を手にとって眺めていた。
心配に思って後から来たと思われるジーナは、木製で出来た小屋のドアをジョンが見えるか見えないかくらいまで開けて、彼をただじっとみつめていた。
ジョンは何を思ったか、包帯でぐるぐる巻きにしていた右手を頻りに強く、強く握り締めていた。
「...チクショウ......信じ...」
ジーナはボソッとジョンが何か呟いたのを僅かながら聞き取れた。
その時、外にいたジーナは彼の声に上乗せするように、空耳のような微かな声で誰かが囁いているのを聞こえた。
...時ガ...、来タレリ...
同じくしてジョンにも、あの時の声が聞こえた。
分かりますか?
世界が何を求めているのかを...。
「ぐぁぁぁぁぁああ!!」
それまでの静寂とは打って変わって、計り知れない波動がジョンを中心に波打った。
そしてジョンは一変して全てを破壊する者へと変貌を遂げた。
表象から発せられる波動は自然のありとあらゆるものを破壊していき、その様は言葉では表せなかった。そう、有が無に還るとでも言おうか。その様をあえて例としてあげるなら、コンピュータがプログラム処理のために地面をえぐり削っているしているような、そう正に世界崩壊と言うべきだろう。
予想を遙かにしのぐ情景が幾重にも重なったジーナは、とりあえずジョンの身の安全が第一だと考え、彼の元に駆け寄った。
「ジョン! 落ち着いて。私が悪かったから、私が悪かったから!」
ジーナはその身体でジョンのからだを包むように抱いた。その瞳から溢れ出る涙が、ジョンの身体にひたひたと零れ落ちる。
そしてついに、彼女はジョンの左手に触ってしまうのである。
一閃の光がジーナを貫いた。
そして、ジョンの左掌にあったあの白鷺の表象が見る見るうちに消えていった。
そしてそのシンボルは彼女の身体に乗り移り、今度はジーナの身体が容赦なく分解されていき、その身体は消えゆく光と共に姿を失った。
ああ、私、このまま死んじゃうのかな...
その時、波動は治まり、世界崩壊は免れた。
そしてジーナは眠るように瞳を閉じた...。
目が覚めると、そこは何一つない白の世界だった。
「ここは...」
「目を覚ましたようだね」
そこには、見るからにジーナより一回り年上の女性が佇んでいた。
「お前が今回の聖訂者となるわけか。まだ若いのに、少々不安だわ」
ジーナはぽかんとしていた。
なぜ? それもそのはず。ただでさえ状況を把握できないのに、急に見たことも聞いたこともない言葉を、それも自分目掛けて語りかけられているのだから。
とにかく、この白の空間。
そう確信したジーナは、ココが何処なのかを聞こうとした。
しかし、女性は事もあろうか、彼女の質問が心の中にある内にその問いに答えた。
「ここは、時の行き交う場所。私はレイト、レイト=ドラグナース。聖の神で水の神と風神を配下にしている」
バカにしてるの。
絵にかいたような漫画的設定、そのあまりのデタラメな返答にジーナは憤慨した。
「いい加減にしてください。出口は何処ですか? 帰らせてもらいます!」
ジーナはプンプンと頭から湯気を出して、ただ無限に広がる道を進もうとした。
「ほう、帰ると申すか」
レイトと名乗るその神は彼女のその行動に慌てるどころか、出られるものなら出ていけと言わんばかりに微笑んだ。
「そこは人の心の道、マインドパスだ。帰るどころか、自分の心の中にある迷いに漬け込まれて未来永劫帰れなくなるぞ」
「はぁ......」
無論信じる気はないが、得体のしれない場所なので如何せん臆してしまう。
その為、一呼吸するつもりが溜息に変わってしまった。
ココが何処だかは分からないが、今だけはこの奇妙奇天烈な女性を信用するほかないようだ。
ジーナは足を止め、仕方なくレイトという者の言うとおりにした。
「ありえねぇ.........」
一方ジョンは目が覚めると、小屋を始め、森にあった草木や水、風にいたる全てが周囲10メートルくらいを境に消滅している事に気がついた。
ジーナがいないことにも...。
それより何より驚いたのは
「!?」
息が出来ないことにも気付いたのは数秒後だった。
まるで宇宙で何も着ずに一人呆然と立っているみたいだ。
よもや、宇宙で「立つ」という使い方は、間違っていると思うが。
それはさておき、急いで息のできるところに逃げ込んだ。
にしても、息が出来ないのによく目を開けること、否、意識を取り戻す事ができたなということを後に疑問に思ったのは言うまでもない。
ジョンはそこであるものを、目の当たりにするのである。
洞穴である。
(ハァ? ふざけるな)
母が亡くなって8年近く小屋に住みついていたが、今の今までこんな明けっ広げな洞穴は、生まれてこの方見たことがないので、不気味で仕方なかった。
それでもやっぱり興味をそそられるジョンだった。
「お邪魔しまーす」
何が居るか分からぬ空間にそんなことを呟くジョン。
実はここに店でもあって、「本日のご来店、誠に有難う御座います」なんていうオチを期待していたのだろうか。
何という妄想家。
それはそれとして、中は結構シリアスな雰囲気漂う場所だった。
子供が居たら絶好の秘密基地にも成りうるくらいに。
そしてジョンは見つけてしまった。
押してくださいと言わんばかりのスイッチを。
「これ、押したらどうなるかな。典型的な冒険活劇だと、次の螺旋階段が」
出てきたりした。
ご親切なことに、階段の外側には、ランプ代わりの蝋燭が並んでいた。
気味悪い
骸骨でも出そう
とまあ、第一印象は最悪だった。
そう愚痴を並べつつも、気になるという心境には変わりないので、下へ下へと向かっていった。
次第に光が蝋燭の炎だけになる。
ほぼ真っ暗。
蝋燭、意味ないじゃん。
最後に何段か足を踏み外したものの、そこが最下層であってよかった。
目の前に一人の男性がいた。
ヤッホー! とかハロー! とかいうノリでは、到底反応してくれないような、仏頂面した男である。
「ここに来ていただいたということは、あなたがジョン・ウォールド様ですか」
何その知ったような口ぶり。そして何故丁寧すぎる口調なのか。
ジョンは少し距離を置いて話すことにした。
「いかにもその通りですが、アナタ一体何者ですか? こんな所初めて来たし、俺は生まれてから今までこの近辺で暮らしてきたけどこんな場所がある事すら気付かなかったし、ここは一体何なのですか?」
「神の畔への入り口ですよ」
ジョンの脳裏にかつてのトラウマがことごとく過ぎった。
黒鷲。
バケモノ。
あの時の言葉――
私はマルク。もし今度、私に逢いたくなったら10年後に神の畔へ――
「大丈夫ですか、大丈夫ですか?」
知らぬ間に男が近寄っていた。
心配でもしていたのかな。心配してくれるのは嬉しいが少し近すぎて逆に引いてしまうジョンだった。
それにしても瞳孔反応が凄まじい。目が一点を集中して凝視していた様で、気がつけば目が乾いていた。
どうやら長い間、意識が遠のいていたみたいだ。
「あ、あぁ...。すみません」
こいつ、一体何者なんだ。
なんで神の畔がここにある。
色々整理したい物事が山積みになって、ジョンは頭いっぱいになった。
「確か、あれから10年経つのですよね? いやぁ、この世界においても時間の流れはややこしいものです」
やっぱりコイツ、あの惨事を知っている!?
只者じゃない。
ジョンは気味が悪くなったので退き帰そうとした。
が、帰れない。
勘付いた男は帰りたい衝動に駆られたジョンに対し、こう言い放った。
「そのまま帰られると、マルク様にきつく叱られますので。いや、何もしやしませんよ」
「お前、名前は?」
とりあえずは名前だけでも。
今にも潰れそうな心臓を押さえて、薄っすらとした自我を確かなものにしようと頑張った。
「クリス・ローレット。マルク様に仕える者です。これをアナタに渡すよう、言われましたので――」
そういうと、懐からペンダントを取り出した。
一方コチラは、何の目的で連れてこられたのかさえ把握できていないジーナ。
「で、何で私をここへ呼んだの? まともな理由じゃなかったら帰らせてよね...」
得体の知れない場所に呆然と立ち尽くすジーナ。
もはや、ジーナはジョンの事しか頭が回っていないのか、早く帰りたくて仕方がなかった。
「そう急かずともよい。なれど、単刀直入に言おう」
「今より汝を聖訂の者とする。即ち、刹那に世を滅ぼしかねぬ存在である、虚無神の紋章を持った少年と相反する存在となってもらう。汝には、その青年の紋章を抑制する存在として生きて欲しいのだ」
意味分からない...。
「もうちょっと分かりやすく、崩して言って! こっちとさ、色々あって物事を整理でき――」
「紋章よ、『鳥の形』をした、紋章...」
「え......」
信じたくない。
ジーナの顔は暗く重くなっていった。
「...誰の事を...言っているの...?」
まさか、まさかそんなハズはないと、ジーナは確信のない趣で自分を偽ろうとした。
「虚無神の紋章は黒鷲だ...」
最初は笑って誤魔化していた。
きっと嘘をついているんだろうと。しかし、彼女に嘘をつくメリットはないと言っても過言ではない。
その事実を次第に理解していくとジーナの感情は変わっていった。
ジーナは俯き、ここでも涙した。
今度はさっき以上に涙が出ているのかもしれない。
事実を事実として認めたくない。
ただ、今は信じたくなかった。
だってそうでしょう?
自分の身内のような人が、一夜にして世界を滅ぼしかねない人物だったなんて。
でもどうしてか、ジーナはそこまで深く傷ついてなかった。
それは彼女が、ジョンの母親の一件を知っていたからなのかもしれない。
でもそれでもやはり、涙は止まらないという矛盾。
「それで私は、どうしたらいいの?」
泣きべそを掻いて顔を崩したジーナは、強気な顔をムリして作りながら神様に訊いた。
「今から場所を移して、汝に聖訂者として最低限度の聖訂魔法と魔力を与える。それこそこの魔法は、他の魔法より遥かに力があるが、あくまでこの魔法は初歩的なものだ。また、少年の暴走を食い止める手段としては最も効率はいいが、少年自身の体力を極限まで奪う形になる。少しでも力を残せば虚無神にとり憑かれるからな。世界には各地にここに通じる道、下界ではカルチャナと呼ばれる場所がある。そこにすぐにでも向かいなさい。それと、何か黒鷲の紋章をもつ者に異変があるようならば、今から教える唱文を唱えるといい」
「唱えたら何が起こるの」
ジーナは静かに聞いた。
「虚無神の刻印を持つ少年から生気を奪い、奪った力を聖なる力に変換し、聖訂すべし者へ与える」
「それって...」
ジーナは悪寒がしてならなかった。
「最終的には少年は死ぬことになり兼ねない」
神様という存在は本当に残酷な方でして、たとえその真実が惨いものであろうとも一から十まで説明するような人だったのだなと、ジーナはこの時痛感した。
そしてレイトは目を瞑った。
その姿はどこか神々しかった。
「Luminous・Cal・Descatool・Reith――我、世を聖訂す」
ジーナは頭が追いつかないのか、先程からずーっと俯いたままである。
「この言葉を覚えないと世界は滅ぶ」
脅迫めいた言い方で、彼女に言葉を覚えさせるよう促した。
「でも、私には!――...私にとっては...」
もう正直いって何がなんだか分からない。
でもジョンの持つ紋章が世界を滅ぼす元凶であることには間違いない。
そう、世界を滅ぼす元凶――。
「仕方ない、とにかく唱文は必ず覚えるのだぞ。今から転生の間へと場所を移す」
「転生って、...私、死んでないよ?」
話題が変わったお陰か、多少心に余裕が戻った。
「何も死者が生まれ変わるだけが転生ではない。汝は、ただの人から聖訂者として生まれ変わるのだ...。そう、ただの人から...」
内心このまま、ずーっとただの人であり続ける事が、どれ程幸せな事なのだろうと、一人黙って考えていた。
その頃、ジョンは洞穴から出て再び新鮮な空気を吸った。
えっ...!?
そこにジーナは光を帯びて舞い降りた。
「やーね、どうかした、ジョン?」
何で空から降りてきたんだよ! とか言い出すだろうと思いきや、
「天使みたいだな」
と、いつものように冗談じみた言い方をして見せるジョン。
しかし、彼女は平然としている。
いつもなら、笑いながら追っかけてくるのに、逆に不気味だ。
そしてジーナは極めて僅かな時間進まぬ顔になり、ジョンには決して聞こえないであろう声でこう呟いた。
「アタシが天使なら、アンタは悪魔よ...――」
「――え?」
「なんでもないわ。さ、これからどうする?」
何でもないワケないだろう...。
いかんせん半信半疑だが、あえてその事を深く聞くのを止めとこうと思った。
で、これからの予定が決まってない二人。
しかし、その流れを変えたのはジョンだった。
「あ、そうだ! 俺、ちょっと寄りたいところあるんだけど、いいかな?」
「寄りたいところ?」
顔を傾けてちょっとお茶目(?) なポーズのジーナ。
「可愛くないよ」
ボコッ!
と一発、拳銃のような拳という弾丸が、ジョンの頭部に直撃した。
その対応をジーナが思い出してくれて、至極喜んでいるジョンだった。
「煩いわね!」
照れて顔をすぐさまプイッと横にそらした。
「で、また何で?」
「今日ちょっと逢いたい人がいて、その人と待ち合わせしてたんだ」
ジーナは、顎に右手をやり、すました顔でジョンを見た。
「その人の名前は?」
ジョンはジーナの顔を見ては呆れ果てた。
「普通、そこまで聞くか?」
ジーナは笑顔で黙って握りこぶしを作りつつあった。
それはもう般若が笑ったような威圧感だった。
仕方なくジョンは降参し、その名を挙げた。
「エルノアだよ」
「エルノアって、あのレスペルトの町一番の、貴族屋敷のエルノア・L・セレモアントかい?!」
ジーナの声はいつもの3倍は大きく張り上がったように思えた。
周りの木が枯れるくらいに...、というのは大袈裟か(笑)
「騒ぎごとが嫌いなあんたが、またどうして?」
そして、少し真剣な顔をしたジョンがつぶやいた。
「それは...」
ふわりとジョンが顔を空に仰ぐと、洞穴であった事の続きを回想しだした。
「また洒落たペンダントだな」
ジョンは褒めるワケでもなく、ただその物品をボンヤリと見ていた。
次の瞬間、その言葉を男が口にするまでは――。
「デリス・C・ウィリウス」
「!?」
空気が凍りつくとは正にこのことをいうのだろうか。
ジョンは狂ったようにただ震えて一点を見つめていた。
「何故、親父の名を知っている...? 何故親父の本名を知っている!?」
それまでのそれとは思えないほど、ジョンは自分を見失い狂気の沙汰に陥った。
「以前、これを所有していた者の名前です」
違う!
そうじゃない!
ジョンは錯乱しているのか、速やかにクリスの胸倉を掴んだ。
「お、落ち着いてください! 我々はアナタの父上の人生に関与するようなことは一切合財しておりません!」
それを聞いてどこか安堵を抱いたのか、冷静になってクリスを放した。
豹変ぶりに慌てるクリス。
「じゃぁ、質問に答えてくれ。どうして親父のモノをお前が持っているんだ?」
どこか刺々しくなった発言のジョン。
もはや今の彼に、冗談は何一つ受け付けない状態だろうと思われる。
「アナタの父上デリス様は現世での死後、天界に在らせられるマルク・ハイデイス神の付き人として存在しています。それで今回、アナタの身を案じられてマルク様に許しを得た上で貴方様に渡すようにと仰せられたのです」
「親父が...神様の付き人だと......――そうか、ハハハハハッ!」
ジョンは真面目な顔で考えたかと思うと、突如右手で顔面を覆って馬鹿笑いした。
そして、
「テメェ、嘘を吐くなら、もっとマシな嘘吐けよ?」
と、それまででは想像もつかない憤りを顕わにした。
「本当です、真実です。現にアナタを護ったこともあります。言いたくはなかったのですが...」
すると、クリスは俯いて黙ったかと思うと、すぐに顔を上げて、
「アナタが刻印を委ねられた、8歳のあの事件当日、マルク様を呼び寄せられたのは他の誰でもない貴方の父上です」
「あの時、マルク様を呼ばなければ貴方は完全に刻印に呑まれ、その身を虚無神に奪われていた事でしょう」
何だと...。
確かに、あの時に、あのタイミングで救いの神様が訪れるのも虫のいい話だとは思っていたが、まさか本当に親父が助けてくれていたなんて...。
その時は鵜呑みさえ出来なかったが、何故か全否定する事もままならなかった。
「話を続けます。このペンダントは生命の霊玉とも言われていて、自らの精神を何処の空間世界にも持っていくことが出来る、マルク様の創られた魔宝1です」
クリスは得意気に難しい言葉をスラスラと並べていくが、正直ついていけない。
あえてジョンは気になった単語があったので、それについて問い質してみた。
「ちょっと待て。空間世界ってなんだ?」
「...」
それまでお喋りというほど、喋りに喋っていた男性クリスは、その質問と同時に瞬間凍結でもしたかのように固まって黙した。そして静かに口を開いた。
「私はあくまでマルク様の使いの者。人の人生の岐路を変えるようなことは禁忌と見做され、罰せられる。それ以上を説明する事は出来ません」
なんか、危ないことを聞いたようだ。
ジョンは改めてその身を控えた。
「時の行き交う場所へ向かうヒントとして、今から言う言葉を道標に進んでください」
「高貴なる者、空間世界、死」
おい、最後の死って何だよ!?
そう問答を始めようとした途端、ジョンは気付かぬ内に洞穴の外に飛ばされていた。
「ジョン! ジョン!!――ちょっと、大丈夫?!」
シャレにならないといった見幕でジョンを伺うジーナ。
気がつくとどうやらジョンは虚ろな目をして、今にも死にかけた人のような表情をしていたようだ。
「あ、あぁ。悪い。」
それまで心配した顔は一気に激怒した顔に奔り、大きく握りこぶしを作り
バシコーンッ!
と、周囲を轟かし、森にいた鳥たちが驚いて空に舞う程の爆音を立ててジョンを殴った。
「もう、目が覚めた?」
「あぁ、逆に眠りそうなくらいにな」
いつものノリと違い、ジーナは一言余計なことを知っていて、あえて突っ込まずにコチラに寄ってきて
「ホントに、心配したんだから...」
とそっぽを向き、普段見せない顔でボロボロ泣いていた。
御拝読有難うございます。
途中出てきた文章に聖訂とかありますが、後半そんなに出てこなかった気がします。(ぉぃ
てか、カルチャナの存在が違う方向に向かってるので、そういう意味では伏線の回収能力皆無だなと痛感させられましたw