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転生爛漫 ~魔法が使えない魔王子の我儘異世界譚~  作者: 森 晶
第五章 冒険者編
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第54話 『曇りのち晴れ』


「何よ、一生あの深淵体(アビス)の姿になっちゃったかと思ってたのに、元に戻れるんじゃない」


「破力一切出してない今はな。気ぃ抜くと……『ズオォー』ほらな」


「何だか、拍子抜けですね」


 衝動が治まるとあの状態は解除出来た。全身に破力を漲らせれば何度でも変体出来るようだが、逆に言えば破力を少しでも出すとこの状態になってしまうということだ。街中等でテンション上がって突然ポンと変わってしまうような事がないように訓練しなければ。


「あんな化け物三体も相手取ってやっつけちゃうなんてねぇ。アタイ、ダーリンに惚れ直したよ」


「うむ。先程までとは全く違った。禍々しく危険だと分かっていても思わず見惚れてしまう秀麗な、この世に二つと無い名剣のようだ」


「あの第三階位(フォービドゥン)級三体が瞬コロだー。破力ってすごいなー」


「世の中にゃもっとやべえ奴がいるぜ? あんなノロマな奴とは違う第三階位(フォービドゥン)級十体を相手取った夫婦とかな」


「なにその末恐ろしい夫婦。どこの国の人よ」


 フェリクスの両親か。今の俺なら二人に並べるか? ……いや、無理か。ざっと脳内シミュレートする限り、強化ディヴァイダー八体までなら、相打ちで行けるってとこ。おまけにあの夫婦は国民を保護しながら戦闘を行っていた。力は勝るとも劣らないだろうが、技量が違う。


「あれ? 鉄蔓が枯れてってるよ」


 ヴァンの指さした箇所。俺が破術で貫き抉られた鉄蔓から白色化し、ボロボロと朽ちていっている。こりゃ不味ったかな? 何か遠くから崩れるような音が聞こえるし。


「四層目辺り。沈下した」


「四層目は一本道でした。閉じ込められてしまいましたね」


「えーっ! じゃあどうやって外に出るんだーっ!?」


「鉄蔓が洞窟を支えてる説は正しかったね」


「アズール石一個も採れてないけど、どうするの? 帰るならあの穴から飛んで帰るわよ」


「おー、その手があったなー」


「ロン、あなた自分も飛べるの忘れてない?」


 アズール石、か。そういや、この海の中のような空間。アズール石は海で採れる宝石という説と、何か繋がりがあるのだろうか。

 こんな地下深くにわざわざ海を見立てた部屋を造り、タイタン以外には何も無く、ただ一輪の巨花だけがぽつねんと咲いているだけ。昔の連中はこの部屋にある何かを求め、ひたすら掘り進めていた。そして幾人かが辿り着き、タイタンの餌食となり、この白い砂になるまで砕かれた。

 アズール石。鉄蔓。扉。そしてフォービドゥンタイタン。


 ……何だ? この、誰かに誘われ、試されたような感覚は。

 





 ――――――――。





「ん?」


「どうしたのリオ? あ、花が……」


 今のは何だろうか。声? いや、何か意思のような。あの鉄蔓の花が発したのか? 花は輝きを強めながら花弁を閉じて収縮し、中心へと集まった光をぽたりと垂らした。

 光の雫は真っ直ぐと、思わず伸ばした俺の掌に収まり、一際強く発光すると、淡く蒼い色の石となった。


「……アズール石」


 それは誰が呟いたのか。見て直ぐにアズール石だと脳が認識したことに驚く俺達を、部屋全体が轟音を立て現実に引き戻した。


「目的の物も手に入ったし、ここから出るとしよう。ティア、クラウ達を頼む」


「まっかせなさいっ!!」


 竜化したティアの背に有無を言わせずクラウ達をほいほい放り乗せ、最後にアリンが乗った所でティアが飛び立った。


「俺らは落石と深淵体(アビス)を除去する係だ。足場は破力剣で作っから、適当に跳べ」


「了解っ!」「(こっくり)」


 再び深淵体(アビス)モードへと身を堕とし、中空に破力剣を生成する。早速ヤイヴァが操り適度な間隔で浮かばせた足場へとヴァンとスコールと共に蹴り上がる。


「【飛刃斬(スプリット)】っ!」

「【飛刃斬(スプリット)】」

「「【破術・飛刃斬(デヴィル・スプリット)】!」」


 跳んで間もなくティア達の頭上から落下する岩盤を三つの飛翔する斬撃で粉砕。スコールが落石をも利用し先頭に躍り出る。ヴァンがティアに並び、魔術を連発。アリンも両手に銃を構え、次々と岩を撃ち落とした。


「全く! ダーリン達におんぶに抱っこでみっともない! このまんまじゃアタイら餓鬼の遠足以下だね! お前らっ! 雷花団の意地、見せてやるよ!!」


「全くだ。これでも狙撃の腕には結構誇りがある。アリンに負けていられない」


「わたしは戦闘向きじゃないけど、岩を弾く防壁ぐらいなら張れるから」


「オイラもオイラもー。ヴァーン、視界飛ばすぞーっ」


 砕き、避け、上昇を繰り返し、繰り返し。興奮に湧き上がる心に破力が再び俺を殺意の衝動へと誘った。大量の深淵体(アビス)が落下してきたのだ。


「なんだなんだぁ! わざわざオレ達を見送りに来たのかぁ!」


「こんな人っ子一人居なかった所は退屈だったろう? 光栄に思え。一匹残らず“連れてってやるよ”」


 物量で押し込めようと今の俺には物の数ではない。前に躍り出て二体目のタイタンを倒した時と同様、黒焔をばら撒き破力剣に着火させると、ヤイヴァが勢いよく巻き上げた。

 展開された黒い虚は、我先にと襲いかかり、全ての深淵体(アビス)を喰らいつくした。









 書物と口伝にのみ記されていたアズール石は確かに存在した。アズールの町は昔々の熱気が蘇り、何十年ぶりと長く無かった宴が催された。

 広場の中央に置かれた適当な台座にはアズール石が乗せられ、それを囲うように焚べられた火に照らされ、煌々と深く静かに輝いている。


「これが本物のアズール石かー。何だか見てると不思議な気分になるぞー……」


「そうねぇ。心がスーッと落ち着いて、嫌な事全部許せそうな気にさせられるわ……」


「男のおれでも惚れちまう石がこの世界にあるなんて、思ってもみなかったぜ……」


「まったくだ……。なぁ、これ、売っちまうのか?」


「いや、ボスが売らねえってさ。大金持ちになれるかもしんねえけど、アズール石がまだ採れるって知った外の奴らが、町を滅茶苦茶にしちまうかもしれねえから、だってよ」


「そうした方がええ。こーんな別嬪な石に、人が勝手に価値を付けるなんぞバチが当たるってもんだ」


 石に見とれ、うっとりと表情を零す連中がいる一方、酒に酔い妙ちきりんな踊りを披露し、それに釣られ手を叩きながら、町を笑い声で満たす奴らもいる。


「おいスコール、酒の匂いが嫌ならあっちで食えゃいいじゃねえか」


「へひほほほひゃひひふ(背に腹は変えられない)」


「ん、そへほほあぁいっ(それもーらいっ)」


「あっ! もうティアもスコールも、お行儀が悪いよっ」


「魚に炒った水豆と香草を詰めて包み蒸してみました。お味はどうですかリオ?」


「火の通りも味付けも上出来だ。ただ川魚だけあるな。小骨が気になる。圧力鍋で調理すりゃ骨まで食えんだがなぁ」


 いやぁ、久方振りに暴れられて大満足だ。破力も澱みなく落ち着いてるし、体中痛えがストレスは感じられない。ただ、三大欲求に比肩するほどにかなり強い欲だ。破壊欲とでも言えばいいだろうか。適度に発散する方法を考えとかないとな。


「……ねぇ、ダーリン。明日出発するって、マジなのかい?」


 俺の隣で静かに酒を飲んでいたクラウが、今一度確認しようという、静かだがはっきりとした声音で問いかけてきた。ああと短く答えれば、手に持った小樽を一気にあおり、アナベラに注げと押し付けた。


「ボス、これ以上は飲み過ぎだぞ。明日どうなっても「いいから注ぐんだよっ!!」……はぁ、全くしょうがない人だ」


 再び満たされた酒を口角から零れるほどの勢いで飲み干すと、小樽を火の中へ放り投げた。まだ中に少し残っていたのだろう。ごうと火柱が上がり、驚いた雷花団と町民の視線が暴挙に出たクラウに集まる。クラウはよろりと立ち上がり、三白眼で睥睨したのち、最後に俺へと焦点を絞った。


「アタイはねぇっ、中途半端が嫌いなんだっ! モヤモヤすんだよっ! だからっ、白黒はっきりつけたいのさっ!!」


 ……負けると分かっていても、真正面からぶつかるか。いいね、そういう奴は大好きだ。

 立ち上がり、クラウの全身をじっと見据えると、クラウは大げさなほどに深く長い深呼吸をし、翠玉色の瞳を俺の視線と直線で結んだ。揺らぐ瞳は炎のように情熱的でいて、冷たい水面のように憂いを帯びている。


「アタイはっ! リオスクンドゥムが好きだ!! 難しいことは言わねえ! アタイの傍にいてくれ! アタイの旦那になってくれ!!」


 なんと清々しいド直球な告白だろうか。思わず笑いが込み上げクツクツと零れ、自分でも分かる程に歪んだ笑みを浮かべてしまった。

 だが、それまでと言う事だ。タイタンと対峙した時の方が喜びが勝っている。俺をモノにしてぇなら最低限超えて欲しいラインだ。残念だったな、クラウ。お前への返事はたった一言。それで俺の想いは全て伝わる。


「断るっ!!」


「だああああぁぁぁぁチクショオオオオォォォォ振ぅぅぅぅらぁぁぁぁれぇぇぇぇたぁぁぁぁっ!!!!」


「呑みましょうボス!! 今宵は徹底的圧倒的徹頭徹尾酒に溺れましょうっ!!」


「そうですよボス!! 折角の宴なんすから!! 全部忘れてパーッとやりやしょう!!」


「男なんてぇぇぇぇっ! 男なんてぇぇぇぇっ!! こんな超イケメン忘れられるわけないだろうがよぉぉぉぉっ!!」


「さて、アリン。さっきの包み焼きまた作ってくれ」


「僕のもお願い」「シュタッ(手を挙げる音)」「アタシもっ!!」「オレも食いてぇ」


「クスス。ちょっと待って下さいね」


「淡泊っ! アニキ達すっげぇ淡泊!! 血も涙もないっ!!」


「もうヤケだ!! ヤケクソだ!! ヤケ酒だ!! テメェらで憂さ晴らししてやるよ!!」


「うおおおボスがご乱心だ!! 逃げろ逃げろ!! 雷撃が飛んでくんぞおっ!!」


 大暴れするクラウに巻き込まれる雷花団。町人達は遠巻きにやんややんやと囃し立て、宴は日が昇るまで続いた。





 ああ、いい感じの疲労感だ。お日様が黄色い。新しい一日の始まりだ。


「いやっほおおぉう!! 次の町行くぞオラァ!!」


「おいリオ! 荷物荷物! だぁクソっ、オレは背負われる側だってのに!! 水と食料は入ってんのか!?」


「必要な量は確保してありますっ。路銀は二週間分程度を確認しましたっ」


「元気になった途端これだよ! ねえリオっ!! お願いだから服脱ぎ捨てて川泳いで渡るのはやめて!! 戻ってきてー!!」


「水人族でもないのにどう泳げば水の上跳ねんのよっ!? みんなっ、川超えるから捕まって!! スコールもリオの真似しようとしなくていーの!!」


「えー」


 俺達は昇る太陽とアズールの人々との別れを背にし、町を後にした。





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