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転生爛漫 ~魔法が使えない魔王子の我儘異世界譚~  作者: 森 晶
第五章 冒険者編
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第43話 『同じ太陽』

 村の規模はそこそこ。しかしどの家々もテリムの小屋とまではいかなくとも少し廃れている。肝心の住人達は深淵体(アビス)に恐怖し家に籠る奴もいれば、どこに行くつもりなのかやたらめったらに危険から遠ざかろうと足を動かしている。先程俺達に武器を向けていた連中が、今度は深淵体(アビス)相手に距離を取りながらも戦っていた。


「っ……」


 芳しくない村の様相に、テリムはガタガタと俺の服の裾を掴み震えている。昔のアリンのようだ。


「ダークコング。頭部が無く、二足ないし両腕を用い四足で行動する深淵体(アビス)。見た目の体格通り力は強いが、機敏に動き回る俊敏さも持ち合わせている。胸部と腹部の中間あたりに単眼があり、同時に弱点でもある。そんな手こずるような深淵体(アビス)じゃないけどなぁ」


 そりゃ強烈に振り回される両腕を掻い潜り正確に弱点を突くなど、見切られるだけの目を持ったヴァンや、高速で動けるスコールにとっちゃ容易だ。アリンは遠くから弱点狙って狙撃すりゃいいし、ティアは地力がコングより上だ。苦戦する要素が無い。


「で? どうすんのよ。助けるの?」


「助けたとこでこっちに利なんかなさそうだがなー。コイツら斬りごたえねーし」


「人道的に考えるのなら損得無しに助けるべきだと思いますけど。情けは人の為ならずって、前にリオが言ってましたよね?」


「いずれ巡り巡って帰ってくることが分かってたり、期待出来そうな相手に恩を押し付けて、その利息で生きるのが順風満帆安心安全な人生の構築方法だ」


「世知辛い」


 スコールのグサッと心にくる言葉を受け止めながらも、やはりアリンの言う通りここは助けておくべきかとは思う。恩を売って村の連中が俺達に抱いているであろうマイナスイメージが、帳消しとまではいかなくとも軽減されればそれで御の字。っと、こういうのはヴァンに任せるんだったな。


「ヴァン、お前が決めろ」


「……やっぱり助けよう。こっち側の世界は知らないことが多すぎるよ。少しでもいいから情報を集めるべきだと思う。言葉の通じない人達から聞き出すのは凄く大変だけど、切っ掛けさえ掴めればそれで充分じゃないかな」


 結局そうなるか。スコールとティアは戦闘態勢に入り、ヴァンとアリンは怪我人の手当てをしに走った。


「さて。久方ぶりにヤイヴァ無しの素手でやってみっか。どうせやる気無いんだろ?」


「雑魚狩ったとこでなんの面白味もねーからな。どうせ一瞬だろ?」


 確かに。ああそうだ。折角だし破気がどれだけ強化されたか実験してみるか。


 



 第43話 『同じ太陽』





 テリムは生まれてすぐ、実の両親に捨てられた子である。何故なら、少なくとも彼女が知る限り曾祖父の代より、人々から神の敵と言われ、悪魔の象徴とされる、赤い頭髪をしていたからであった。神の怒りを恐れた両親を含めた村人達はすぐ山奥へと捨てたが、その日の夜に深淵体(アビス)の襲撃を受け両親は死に、村は壊滅寸前の状態へと陥った。これは悪魔の呪いによるものだと、一人テリムを捨てる事に反対していた女性長老は言い、村人達はテリムを心の中で拒否しつつも、渋々ながら受け入れることにした。

 その後、村では不幸な出来事が続き、更には村を覆っていた木々草花は減少の一途を辿り、必要な備蓄の八割にも満たない年もあった。これら全てはテリムの呪いによるものだと村人達は口々にし、やがては村に起こる小さな事件ですら、全く無関係であるテリムのせいだと言い始めた。

 テリムが五歳を迎えた頃。ついに村人の中から彼女を亡き者にしようと企てる者が現れ、他の者達はそれを知りつつも黙認し、真夜中にそれは実行される、筈だった。首謀者が原因不明の発作を起こし、二日後に息絶えたのだ。

 もはやテリムに近づこうとする者はいなくなり、ぎりぎり監視の届く範囲に立てた小屋にテリムを押し込め、その日選ばれた食事係が一日一回だけ、少ない食物を手に運んだ。時折長老がテリムの様子を見に足を運んでいたが、それを咎める者はいない。長老には特別な力があり、それが守護しているのだと村人達は言う。事実、長老はその力を持ってして村を支え続けていた。

 何もかも不自由な生活を送るテリムにとって唯一憩いの時間が、神の柱と呼ばれる大岩山に通じる洞穴の中で静かに祈ることだった。祈りという行為が一体何なのかもよく分からないまま、神という見ず知らずの存在に長老から聞かされた言の葉を、神棚すらない場所で毎日捧げていた。



 この世界を包み、我らに消えない温もりと闇を祓う光を与える紅様(あかさま)よ。今日も世界の万象を享受し紡いだ魂は、火と成り天へと昇り貴方の元へと還る。我ら、輪廻の時を巡り光を永久の未来へと繋ぐ者。其は世界の礎。其は命の道標。どうかいつまでも、途絶えずたゆまぬ不動の光を我等に……



 内容も、込められた意味も知らぬまま絶やさず捧げ続けるテリム。もはや日課となったその行事を今日も行っていたテリムだが、口上を終えた途端、松明の火が消えた。突如として光を失い背筋を凍らせるテリムだったが、暗闇の中大量の蔓を引きちぎる音がした後、すぐ目前で石床に何かが叩きつけられる。更に音は続き、計六つの塊らしきものが蠢いているらしく、謎の声を発している。

 やがて今まで一度として光の無かった洞窟に天上より明かりが降り注ぎ、目も眩むほど美しい紅い髪の青年が、テリムを見下ろしていた。





 テリムの見た光景は、全て残像として脳に焼き付いたものが記憶として残り、それを思い出しているだけのものである。


 銀の髪の獣のような少年が消えた途端、四体の深淵体(アビス)の胸に風穴が空いた。


 空色の髪の少女が身の丈に合わぬ鉄爪を軽々と薙ぐと、三体の深淵体(アビス)がバラバラに分断された。


 そして、最後に残された深淵体(アビス)に近づいたのは例の青年。自分と同じ色の髪の、否。比べるのもおこがましいと思うほど。この世のものとは思えない圧倒的な存在感を持つこの青年は、果たして何者なのか。テリムだけでなく、村人全員が、深淵体(アビス)という凶悪な殺意による恐怖を忘れ、彼の一挙手一投足に、これから彼が行うであろう成り行きを見つめた。


「  」


 短い、本当に短い言葉を、青年は深淵体(アビス)へと、挨拶をするかのように投げかけた。するとどうだろうか。深淵体(アビス)は狂い、もがき、叫び、自身の単眼を満身の力で叩き始めた。直ぐに眼は潰れ、辺りに黒い血が飛び散るも、その異様な行為は止まることなく続く。最後には両腕を叩きつけ、まるで自分を抱くかのような姿勢で突っ伏し、深淵体(アビス)は絶命した。


「おお……あれはもしや、(まこと)の紅神様かの?」


 テリムの隣へと寄り添った老婆が、テリムにだけ聞こえるよう小さな声で呟いた。


「絶対そうだよ。長老様が言ってた通り、お天道様みたい」





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