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転生爛漫 ~魔法が使えない魔王子の我儘異世界譚~  作者: 森 晶
第五章 冒険者編
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第42話 『向こう側』

「…………皆さん、ご無事ですか?」


「何とかね。あんな高い所から落ちて生きていられるなんて奇跡だよ」


「あてててっ、腰うったぁ。くそー。剣なら無敵なのによぉ」


「お腹空いた」


「荷物にまだ食料入ってたわよね? 一緒に落ちてきたから近くにあるんじゃないかしら。真っ暗で何も見えないけど」


「…………。だああああっ!! おどれら何時まで人の上に乗っかってんじゃいっ!!」


「きゃっ」「ぐぇ」「おぉう」「うわわ」「あぅ」


 落下姿勢の関係か、一番最初に落ちた俺へと狙いすますかのように、上からポンポンと落ちて俺を下敷きにしやがった仲間達を起き上がり跳ね飛ばす。つーかティア、お前なにこっそりギュッと抱きついてんだ。


「あー、耳ん中急な気圧変化でガサガサしやがる。スコール、耳の圧迫感から落下距離算出出来ねえか?」


「振り出し」


 折角ヒイコラ言って登ったのに結局地表付近まで落ちてしまったらしい。まずは現状を把握しなければ……お。丁度太陽が中天に差し掛かったようだ。太陽光が天の咢の内部に降り注ぎ、辺りを照らした。

 冷たいと感じていた地面は苔がこびりついた石畳であり、角ばった大石を積み上げて作られた、俺達の背丈程の石柱が囲んでいる。その殆どが雑草と蔓にまみれていて、地を這い壁を伝い頭上をほぼ完全に覆っている。俺達が落ちてきた跡がまるで厚手の繊維を破いたように、蔓の天井の中心を引きちぎった形として残っている。高々度からの長い長いノーパラシュートダイブにも拘わらず無事でいられたのは、この絡まり合い厚い層となった蔓がクッションの役割を果たしたからだろう。九死に一生、地獄で仏だ。


「…………」


 そして俺達の他に先客がいたらしい。アリンと同じかそれ以下の年頃の、ボロボロびしょびしょの一枚服を着た、くすんだ赤い髪の少女が祈るような姿で固まっていた。





 第42話 『向こう側』





 少女は俺達を見て絶句している。こっちも何が飛び出すのやらと様子を伺っていると、少女はゆっくりと口を開いた。


「……っ、……っ、○×※△□○××?」


 あぁ参ったなこりゃ。危惧していた事案その一が発生。異言語だ。俺達が普段日常で使うエウスル語ではない。


「リオが予想してた通り、話す言葉が違うみたいだね」


「じゃあやっぱり新しく言葉を覚えないといけないのね。はぁ、冒険者になればお勉強は無いと思ってたのに」


「ん? 何だティア、勉強嫌いなのか? あんなに面白えのに」


 ヤイヴァは意外にもその性格に似合わず勉強好きだったりする。破術の構築式を編んだりするのに必要だというのもあるが。


「すいません。お尋ねしたい事があるのですが、よろしいですか?」


 なんと、アリンが少女へと近づき、身振り手振りで話始めた。最初は身構えた少女であったが、深く頭を下げたアリンに呆気を取られたのか、徐々にアリンと同様にジェスチャーを用い答え返してくれた。


「はい。はい。ありがとうございます。リオ、この方の名前はテリム。この近くに住んでいるそうで、外まで連れて行ってくれるそうです」


 そんなに意思疎通とれるもんなのかとアリンに聞けば、昔口下手だったころの杵柄とのこと。あと察しと思いやりは使用人の嗜みだと胸を張られた。俺たちゃ冒険者だがな。





 落とした荷物を全て回収したのち、テリムという少女が使っていた松明を乾かし着火させ、蔓だらけの洞窟内を進む。時折こちらを振り返っているが、どうやら俺に関心があるらしくチラチラと視線が全身を撫でる。


「この子って魔人族なのかしら。落ち着いた色の赤髪だけど」


「髪の間から見えた目は焦げ茶色でした。特異混血(シングラー)には……ちょっと見えないですね」


「さっきスコールが探知したけど、魔力は殆どないってさ」


「オレよりガリガリな見た目通り非力っぽいぜ。こんなに力を感じられねえ奴は初めてだ」


「向こうじゃ居なかった新種族だろう。スコール、警戒は怠るなよ」


「うん」


 見ず知らずでまともな疎通も出来ない連中に親切する義理はねえと思うが、このテリムとやらからは敵意を感じない。底抜けのお人好しなのだろうか。巧妙なフェイクで罠に誘い込もうというのも考えられなくはないが、そんな事が出来るようにも思えない。

 やがて洞窟内の壁面がはっきりし始めると、テリムは松明に石包みを被せ火を消した。出口に着いたらしい。太陽光が視界を覆い一瞬白くなる光景に色が付くと、そこは草木の少ない荒地であった。


「なんだこりゃ。つまんねぇ場所だな」


 ヤイヴァの言う通り、周囲を見渡すも特にこれと言った構造物や動植物がいる訳でも無く、ただ荒涼としたなだらかな丘陵地帯で、風すら錆びれているようだ。


「×※□○」


 こっちだと言ってるのだろう。歩き出したテリムに続く。暫くすると、灰色の枯れ木に寄りかかるように作られた掘っ立て小屋が、荒野に寂しく佇んでいた。


「○○××」


「いいんですか? ……上がっていいそうです」


 テリムの手招き応じ中へと入る。小屋は凄まじくボロボロだった。隙間風が吹いているし、天井は補修されずそのままで、日差しが零れている。砂だらけの床はボロ切れ毛布一枚の布団をも侵食しており、壁に掛けられた小さな農具はどれも錆び、刃が欠けている。


「○×※△□、○××○×※△□○××」


 汚れた床に密集して座ると、テリムが何やら話し始めた。だがその内容は言うまでもなくさっぱりであり、アリンも丸々翻訳とはいかず苦戦する。


「えーっと、偉い人? ワタシ達がですか? いいえ、違いますよ。ワタシ達は冒険者と言いまして……」


「誰か近づいて来る」


 小屋の外の気配にスコールが気付いた。外へと目を向けた俺達にテリムが反応し出て行った。何事なのかと後に続けば、中年の汚らしい男が腕に麦束のようなものを抱え、不満そうな顔をしブツブツと漏らしながらこちらに歩いて来る。


「○○、※※、×○……!!?」


 男は俺達に気付くと手に持っていた束を落とし、血相を変え大急ぎで引き返して行ってしまった。


「あー、こりゃあれだ。侵入者発見。直ちに報告へ向かうってやつだな」


「とすると、村か集落が近くにあるのかな。だったら何でテリムはここに住んでるんだろ」


「こんな辺鄙なとこにあんだから仮小屋とかじゃね?」


「もう。言葉が分かんないって不便ね。何とかならないかしら」


 こういう時こそ魔法の出番なのだが、そう都合よくいかないのが世の中だ。

 俺達が生まれ育ったグランディアマンダ国の公用語は、大昔から続くエウスル語と呼ばれる言語であり、周辺諸国も多少癖はあったりするものの同様である。というか、自分達が話している言葉はエウスル語であるという事すら知らない者がいる。言語とはエウスル語であり、それ以外は存在しなかったからだ。

 意思疎通を図る手段が十分にあるのなら、そこに魔法を挟む必要は無い。故に青ダヌキが出すコンニャクのような便利な魔法も道具も無い。


「○××っ、○×※っ、△□○××っ」


「駄目? 危ないですか? すいません、何が危ないのか……え? リオと、ヴァンと、スコールが、ですか?」


 何やらわたわたと慌てるテリム。俺の髪を指差し、ヴァンの肌を指差し、スコールの耳を指差し。そういうことか。


「魔人含めた亜人ほぼ全般で、迫害受けてるんじゃねえかってリュシン爺ちゃんが言ってたが、どうも本当らしい」


「おいおい男共しっかりしろよぉ。お前らのせいでオレらまで被害受けんだぞ?」


「男女差別」


「ちょっと違う気がしますが……」


 恐らく隠れてくれと訴えているのであろうテリムは無視し、遠くから徒党を組んでやって来るみすぼらしい者共を観察する。手に持つ武器はどれもボロボロ。革一枚の頼りない軽装。


「あれで戦うつもりなのかしら?」


「の、ようだな。あんなオンボロでもあいつ等にとっちゃ無いよりマシなんだろう。相当貧困した部落か」


 しかし一体どこの弱小種族だろうか。髪は亜人ほどはっきりとはしておらず、茶色をベースに濃かったり薄かったり、ほんの少し赤みがのっていたり黒かったりと、なんか生前の地球人を彷彿とさせる容姿をしている。特徴らしい特徴も無えし……まさか、本当にただの人間って事か?


「○×※△□○××! ×※△×っ、○×○×※※△□×!!」


「っ、○○……○×※、○××」


 テリムは若い青年村人A(仮称)と何やら揉めている。とは言っても、もっぱら村人Aが怒鳴りつけるばかりで、テリムが萎縮しながらも抗議しているように見えるが。


「○○っ!」


 あ。村人Bがスコールに斬りかかった。避ける素振りすら見せず、瞬きすら見せないスコールの肩口に錆びた剣が衝突し、折れた。どんだけナマクラなんだよ。


「!? △□×っ、○※○!!?」


 村人Bは予想外だったようで尻餅をつき後退る。他の連中も動揺し、意気込みは萎縮し怯えが見え始めた。


「【剛牢魔功(マットスケイル)】は上手く稼働してるみたいだね」


「まだちょっと遅い」


 【剛牢魔功(マットスケイル)】。俺達の羽織っている外套の内側に織り込んである魔法紋に追加で書き加えた魔術だ。防御力は下位防御魔法の一つである【剛硬体(シェルター)】に劣るものの、秘匿性が非常に高く、傍目からでは魔術発動及び効果が判別出来ない。スコールからはもっと早く展開できるようにしてほしいと要望があり、ヴァンとアリンが式を最適化したがスコールはまだ不満のようだ。


「いきなり襲い掛かるなんて、なんて礼儀知らずかしら」


「切れ味の悪い刃物を使うのは危ないですよ?」


 そういう問題では無いのだが。問答も一切無しに殺す気でかかってきたということは、完全に俺達を外敵と見ているということだ。やはり亜人が迫害を受けているというのは間違いない。いや、こいつらが何かしでかしたか亜人に襲われた過去があるってのも考えられるしそれとも風習……って、きりがねえな。


「どうするよ? こいつら全員のしちまうか?」


「ヤイヴァ、まだ何も知らない土地で遺恨を残すのは止めたほうがいいと僕は思うな」


「イシシシ。一人残らず始末して埋めちまえばいいだろ」


「死人に口なし?」


「二人とも物騒なこと言わないでちょうだい」


 だがこのまま黙って引き下がる訳にもいかない。この辺りで怪しい六人組がうろうろしているとでも噂が広まれば今後の行動に支障が出る。さて、どうするか。また誰か追加で来たようだし……なんか慌ててんな。


「ハァッ、ハァッ、ハァッ……○、○×○ッ!! ××深淵体(アビス)○×※△□!!」


「ん?」「え?」「深淵体(アビス)」「って言ってました?」「言ったわね」


「まずは事実確認だ。スコール」


「八体。ダーク級ぐらい」


 ダーク級か。別に大したことは……ありゃ、全員血相変えて一目散に帰っちまった。


「たかだかダーク級で何であんな危機感抱いてんだ?」


「あの人達、どなたか探知のような魔法を使った様子もありませんでしたし、走るのも遅いですし……何だか心配です」


「俺達も現場に行くとしよう」


 騒ぎに乗じて何かしらの情報を掴む。火中の栗を拾うようなまねにならなきゃいいが。





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