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レイ・ライダー  作者: 真中太陽
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夢は現実に

 

 その時、後ろの大きな扉が開く音が聞こえた。


「よ~やく、よ~やくお会いできましたねえ! この数日間、あなたとの会合をどんなに待ち望んでいたことか! ご機嫌麗しゅう、レイ王様!」


 声の主は、長身でセミロングの白髪。欧米系のやせこけた顔に丸メガネをかけて、白衣を羽織ったいかにも科学者と言わんばかりの初老の男。

 彼の後ろには護衛だろうか、二匹のケモノを連れながら仰々しく礼をしながら参上した。


『ケビン・テラー!』


「この裏切り者が!」


 レイとレジーナの怒声が響く。

 だが、ケビンと呼ばれた男は少しも意に介さず、大げさな動作と共にレジーナに詰め寄る。


「ああ、レジーナ隊長まで一緒に来てくださるとはなんたる光栄でありましょう! どうぞ、ごゆっくり!」


 大きく身振り手振りをし、また深々と礼をする。

 まるでピエロのようだ。

 そして彼の興味は俺に移る。


「きみは……だれ?」


 首を傾け、子供のような純粋な疑問。……ただ、その姿にひどく嫌悪感を覚える。


「ねえ、だれ? だれなの? なんでこんなとこにいるの? どうしてきたの? どうやってきたの? なんなの? きみなんなの?」


 狂ったような質問攻め。


「……俺は――」


「ああ~、いい、いい! 聞きたくない! 聞く気もない! 一般のゴミに興味はない」


「ご……っ!」


 一気に頭に血が上る。

 会っていきなり人をゴミ呼ばわりしやがって!

 しかも聞いてきたのはそっちなのに!


「んん? な~に、その目は?」


 レイたちのは気にしなくても、俺が睨んでくるのは気に入らないらしい。

 やつが手をあげると、二匹のケモノが近づいてくる。

 手が異様に長い猿と、異様に長い毛で体が真ん丸に近い羊だった。

 ただ、そのケモノの目は、どこか異様だった。

 人間で言うなら、まるで麻薬でもやってまともな思考ができないような――どうせこいつが何かやったに決まってるんだろうが。


「……くっ」


 こいつらも、何か特別な力を持っているんだろうか。

 俺は視線を逸らすしかなかった。


「ひっひっひ。怖いよね~、勝てないよね~、無理だよね~……。おとなしくうつむいてればいいんだよ、餓鬼が!」


 左手で俺は殴られ、地面に倒れる。


「なっ!」


『きさま……!』


 レイとレジーナがさらに怒りを増す。

 口の中から血の味が広がる。

 くそ! じじいのくせになんて硬い拳だ。まるで金属で殴られたみたいだ。


「さあ、レイ王様! 取引をしようじゃありませんか!」


 ケビンは両手を広げ、勝ち誇ったように言い放つ。


『……取引?』


 レイが疑問を投げかける。


「そう! 取引だ!」


 意気揚々と答える。


「ふん! 貴様なんかと取引などするはずがないだろうが!」


 レジーナのその返答に、ケビンはニヤニヤと嗤う。


「おや~? おやおやおや~? いいのですか、そんなこと言って? 貴女にも深く関わってくるんですよ~?」


「……なに?」


 レジーナが訝しげな顔をする。

 俺はなんとか体を起こし、奴の方を見る。

 ケビンはレイの方に向き直ると、小さく、ある単語を口にした。


「……”世界のワールド・ロウ”」


『……っ!』


「なっ……」


 二人が驚愕の表情を見せる。

 その反応に、奴はたまらないといった感じで背中を震わせ、笑いだす。


「ひっ……ヒッヒッ……ヒャーハッハッハッハッ!」


 男は顔に手を当てて笑い転げる。


「ひ~、おもちろ~い! お二方とも分かり易すぎ! 私の想像通りの反応! あ~、涙出てくる。……持ってるんだ? まだ持ってるんだね? ありがと~私のために! ヒャーハッハッハ!」


 嗤い声が、しゃべる声すらものすごく耳障りだ。


『……なぜ、幹部の者でもごく一部しか知らん秘宝を、貴様が知っている!?』


 レイに焦りの色が見える。


「ん~? それは秘密だよ~ん。何はともあれ、持っててくれて良かった。いや、良かったのは貴方の方かもね、レイ王様」


『なに?』


 こいつの言ってることは意味がわからない。


「さあ! 取引だ! レイ王、”世界のワールド・ロウ”を私によこせ!」


『断る!』


 レイは即答だった。

 しかし、ケビンは余裕の表情を崩さない。


「おや~? いいのかな~? いいのかな、そんなこと言って~? 取引のモノがなんなのかちゃんとわかってるの~?」


 楽しくて仕方がないといった感じだ。

 このやり取りも奴のシナリオ通りなのだろうか。


「いいかな、レイ王。お前たちが差し出すのは、秘宝”世界のワールド・ロウ”だ! 私が出すのは――お前たちの命だ!」


『……!』


 絶対的勝者の余裕。

 ケビンは再びクックックと笑い、レイを見る。


「さあ、どうする?」


『……く』


 レイは迷っていた。

 命を天秤にかけるほど、その秘宝は大切なものらしい。

 だが、このままではむざむざ殺されるだけだ。

 かといって、渡したところで助かるかというと……。


「渡してはダメです! 王よ!」


 レジーナが叫ぶ。


「私たちはどうなってもいいですから! それだけは! 絶対にこいつの手に渡さないでください!」


 ……あれ? 今、さらっと俺も死ぬことになってなかった?


「うるさいんですよおおおぉぉぉぉ!」


 ケビンはどうやって隠していたのか、左袖からレイピアのように細い剣を取り出し、レジーナの首元に突き付ける。


「ぐっ!」


「どうなってもいい? 簡単に言ってくれますね! ですが、あの優しいレイ王が簡単に貴女を見捨てられるはずがないでしょう!」


 ……俺は見捨てることができるということか?

 いや、奴の勘定に俺が入ってないだけか……そう信じたい。

 ケビンはレイを見る。


『……』


 レイは、それでも答えが出せないまま悩み苦しんでいた。


「……おや?」


 ケビンの声に、苛立ちが混じる。


「おやおや? レイ王様、レジーナ隊長が死んでも良いとおっしゃるんですか?」


 ケビンの顔が、怒りに染まっていく。


「出すしかないんですよ! 出すという選択肢以外あるわけないでしょ!? 命に代えても守るつもりか!? そんなクソみたいなもん、いらないんですよおおおぉぉぉ!」


 沸点はかなり低いのか、大声でわめきだす。剣をさらに彼女の首に突き付ける。

 切れたのか、首元に赤い血が流れ落ちていく。

 それを見た瞬間、俺の怒りも一気に沸点を突破し、叫んでいた。


「やめろおおおおぉぉぉぉ!」


「っ!?」


 突然の俺の叫びに、ケビンが驚く。


「てめえ、身動きできない女とちっちぇドラゴン脅して、俺よりクズ野郎だな! 弱い者いじめがそんなに楽しいか! そんなに殺したいなら、まずは俺からやってみろ!」


『なっ……!』


 レイの驚きと呆れが混じったような声が聞こえた。


「……」


 俺の啖呵に、ケビンは熱が冷めたのか、やる気のない目で俺を見てくる。

 俺は、まだこの現実を甘くみていたんだと思う。


「……はあ~」


 大きなため息を吐きながら近づいてくる。


「この――! 待て、そいつは関係ない! やめ――」


 レジーナが叫ぶ。

 本当に殺すはずはない……なんて、どうして俺は勝手に決めつけていたんだろう。


「まったく、これだから何も知らない餓鬼は……」


 ぶちぶち文句をいいながら、やつは俺の後ろへとゆっくり回る。


「……?」


 右肩に手を置き、何をするんだ、と思った瞬間――。


「え?」


 トスッという音が胸のあたりから聞こえた。





 そして、冒頭の出来事が起こる――。





 どうして、こんなことになってしまったんだ……。

 本当に、俺は大馬鹿野郎だ。

 普段なら絶対にしないようなことも、今日に限ってどうしてこんなにも……。

 たった十七年しか生きてない俺の短い人生の中でも、今日ほど悪い日はない。

 朝目が覚めてから……いや、目覚める前の、夢ですら既に悪かった。

 まさに”最悪”の日だ。


 俺は、遂に死ぬのか。



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