戦いのあと
「……はっ!」
目が覚める。
そこは見知らぬ天井。どうやら俺はいつの間にか眠っていて、今はベッドの上にいるようだ。そして、よく知った声が聞こえてくる。
「お・は・よ。目が覚めた? お風呂にする? 朝食にする? それともワ・タ・しげろばぁっ!」
「あ、わり。思わずグーでいってしまった」
胸筋をピクピクさせながら目の前にせまってきた親友を遠慮なく殴った。
「てめえ、シン! グーはないだろ、グーは! ちょっとしたオチャメ心じゃないか!」
「ごめん、本当に気持ち悪かったから」
俺は体を起こして、地面に倒れた隼人を見る。
「そこまで!? 傷つくわ~。丸一日以上眠っていた親友に快適な目覚めをと思っていたオレの優しさを返せ!」
「今返してやっただろ? ていうか、俺、丸一日も寝てたの?」
そこで、正面にあった扉が開く。
「あ、シンイチくん! 良かった、気が付いたのね!」
「ケイア!」
扉から出てきたのはケイアだった。手には洗面器のようなものに、水とタオルが入っている。
話を聞くと、ケイアが泣いて、落ち着いた時、俺は急にぶっ倒れたらしい。
そのまま意識が戻らず、とりあえずレイが先王の間に運びこみ、そこで寝かせて丸一日以上眠っていたとのことだった。
「……それはなんというか、ご迷惑おかけしてすいません」
俺の横に洗面器をおいて、隣にあった椅子にこしかける。隼人も、その隣に座る。
「気にしないで。ずっと戦いっぱなしだったし、それにいきなり契約技も使ったんでしょ? 倒れてしまっても仕方ないわ。それに、迷惑をかけたよういうなら、私も……」
そう言って、ケイアがもじもじとして赤くなっていく。
「? ……あ」
ケイアが泣いたこともそうだろうが、どうもシヴァに言われた”旦那にするなら”を気にしているようだ。
……いや、確信はないんですが、そうなのかな~って。
ていうか、そんな反応されたら、こっちも意識しちゃうんですけど!?
「……」
「……」
お互い赤くなって固まっている。超恥ずかしい。
「……うおっほん」
隼人がわざとらしく咳をする。隼人のジト目が怖い。
「あ、あ~……そういえば、みんなは?」
「あ、み、みんなは、もうお城の修繕を行っているわ。まだ休んでいる人たちもいるけど、ほとんどのライダーやケモノのみんなも、シヴァのおかげでほとんど回復できたみたいだから……」
「そっか……」
シヴァのおかげで最悪の事態は免れた。でも、そのシヴァを失ったことに変わりはない。
「ごめん、ケイア……」
「え?」
俺は思わず、謝っていた。
「俺が情けないばかりに、シヴァは……」
「シンイチくん、それは違うわ」
ケイアはきっぱりと否定した。
「誰かのせいじゃない。みんな、できることをやった。確かに、大切な人を失ったけど、完全に全部なくなったわけじゃない。思いは、紡がれているのよ」
そこでまたドアが小さく開く。
『アンっ!』
カロだった。カロは俺が起きているのを見ると、嬉しそうにタタタッと走ってきてベッドに飛び乗り、俺の顔を舐めてきた。
「わっ、こら、カロ。くすぐったいって」
ペロペロと顎の下から鼻のあたりまで舐められる。そんな様子を、微笑ましく見ているケイアと隼人。
「カロ……」
俺はカロを優しくなでた。母親を失ったばかりというのに、むしろ、俺を気遣ってさえいるようだった。
本当に、ケイアもカロも、みんな、俺なんかよりずっと立派で強い。
「……マルフォウスは? みんな助かったんだよね? それに、レジーナは……」
そこで、二人は顔を見合わせて止まる。
え、なんだよ……そこで止まるなよ。悪い想像しちゃうじゃんか。
「……レジーナは大丈夫、だと思う。今も、みんなとお城の修繕をしているはずよ。ただ、マルフォウスが……」
「……」
ドキドキしながら答えを待っていると、ケイアが言いづらそうに話す。
「彼も助かったし、無事に正気も戻った。でも、ひどく自分を責めているみたいで……」
「そう、なんだ……」
助かったことに一安心する。でも……自分を責めたい気持ちは、わからなくもない。
「まあ、でも、みんな無事だったんだし、本当に良かったわ! シンイチくんも、本当にありがとう!」
「え、あ、ああ……」
俺は生返事しか返すことができなかった。
「元気になったら、みんなにも顔を見せてあげて。みんな心配してたし、レイ王様のライダーがどんな人か気になってると思うから。私はまだやることがあるから。じゃあね」
「あ、うん……ケイア! いろいろありがとう!」
俺の言葉に、ケイアはにっこり笑って部屋を出た。
さて、俺も行きますか。
「……オレの知らない間に、ケイアさんと何があったんだ? 答えろ、シン!」
「な、なんにもねえよ!」
「嘘だ! あの間は何か良いことがあった間だ! くそう、オレが瀕死になるほど頑張っていたというのに、シン、おまえってやつは~!」
「だから、ホントに何にもないって! 隼人、お前も生きていてくれて、本当に良かったよ!」
「お、おう、まあな! オレ様が死ぬわけないだろ! はっはっはっ! ……で、何があった?」
「……」
無言で俺はケイアが持ってきてくれた洗面器で顔をかるく洗い、部屋を出た。
長い階段を下りて、家でいう母屋というか、本城の方へと歩いていく。
「……これは確かに、直すの大変そうだな」
城の中は、玄関から、階段から、暴走したケモノたちの爪痕か、かなりボロボロだった。
隼人の話によると、城はかなり頑丈な造りらしいが、それでもこれだけ破壊されているとなると、ケモノたちの力は言うに及ばない。本当に、勝てたのが不思議なくらいだ。
「……む、もしやシンイチ殿、ですかな?」
「え、あ、はい……」
しばらくして声をかけてきたのは、初老の男だった。が、背は俺より低く百六十センチほどしかないが、その肩幅は隼人よりもでかい。腕の太さは女性のウエスト並みにありそうな、親父とも負けず劣らずの筋肉モリモリの人だった。その人が、上や後ろで作業している人たちに大声で声をかける。
「おい、おめえら! レイ王様のライダーがお目覚めだぞ! 挨拶しやがれ!」
その言葉を聞いて全員が作業をやめて、俺に向かって深々とお辞儀をする。
「おはようございます、シンイチ様!」
「……へ? さ、様!?」
俺は思わず、隼人の方を見る。
「あ~、シン。お前、ライダーっていうのがどういうものかはレイ王様から聞いたよな。で、さらにお前は、この世界の王である”レイ王様の契約者”になったわけだ。しかも、元凶であるケビンを倒したってことで、お前はレイ王様とほぼ同列の扱いを受けているわけだな」
「……はぁ~?」
俺が? 王様? なんの冗談ですか?
「いや、冗談じゃなくて、実際オレたちがただの異界の小僧でも皆さんにとっては――」
「心を読むなって! いや、それでも困ります。俺は――」
「何か御用がおありなら、何でもおっしゃってください」
初老の男は俺の言葉を遮るように、にこやかに挨拶してくる。
「ちなみにこの人はライダーの総隊長さん。レジーナさんたちの上司、だな」
え、そんな偉い人が俺なんかに丁寧に接しているの?
状況についていけず困惑するが、ひとまず置いといて、俺はもう一人の探し人のことを訪ねてみる。
「……あの、レジーナはどこにいるか、知っていますか?」
「レジーナですか? 今資材の買い出しに出ていて、もうすぐ戻ってくると思いますが……」
「そうですか、ありがとうございます。……あの、あと、敬語はやめてもらっていいですか? 年上の方にそのように話されるのは、なんか申し訳なくて……」
「何をおっしゃいます! 貴方は我らが王の契約者であり、皆を救ってくれた方なのですから! ……お、ちょうどレジーナが戻ってきたみたいですよ」
総隊長さんの視線を追うと、窓の外にちょうどレジーナが返ってきた姿が見えた。
俺は言いかけようとして、やっぱりやめた。たぶん、今は聞いてくれないだろうし……後で頑張って説得してみよう。とりあえず今はレジーナだ。
俺はお礼を言って、その場をあとにし、レジーナに声をかけるために外に出た。




