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レイ・ライダー  作者: 真中太陽
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時間逆行



 それは、ほんの一瞬の出来事だった。


 レイの目から見ても、晋一には気が満ちていた。きっと成功する。そう確信させるものがあった。暴れるケビンも、しっかりと捕まえている。逃げることは不可能だ。

 ケビンは力を無くしたようにがっくりとうなだれる。負けを悟り、反抗する気も失せたかに思えた。


 しかし、それはケビンの作戦だった。


 ケビンはマルフォウスの感覚をほぼ手中に収めていた。ゆえに、レイがほんの一瞬気を緩めた隙を見逃さなかった。

 一気に力を入れ、口を押えるレイの手を振り払うと、ケビンは少年に向かって空気の弾を放った。


『吠え玉!? しまった!』


『ヒャハハハハ! インストールはあと三秒で完了する! 私の勝ちだあああぁぁぁあ!』


 後悔しかなかった。ほんの一瞬の気の緩みが、勝利から一転、敗北へと転落した。

 ケビンの放った吠え玉は彼を直撃し、大きくバランスを崩すと同時に刀も手放してしまう。


(なんてことだ……我の、我のせいで……)


 刀をとることも、態勢を立て直すこともできず、晋一はみるみる落下していく。


『……シンイチ!』


『残念だったな! そして今、インストールが完了した! これでマルフォウスは完全にこの世から消え去ったんだ! レイ王、貴様のせいでな!』


 レイの瞳から涙が流れた。


(……友を失った。レジーナにもなんと詫びればいいのか。契約者のシンイチはさぞ我に落胆し、我を恨むだろう)


 少年がついにレイたちの横を落下する。その時レイは、信じられないものを見た。


『!』


 それは、晋一の瞳だった。その瞳は、この状況に置いてもまだなお、光を失ってはいなかった。彼は、諦めていなかった。


「レイっ!」


 なぜ、と思う瞬間、すれ違いざまに晋一はレイの名を叫んで手を伸ばす。

 その姿に、レイはシヴァの言葉を思い出す。


《あんたの相棒を、最後の最後まで信じぬくんだ》


『シンイチっ!』


 レイは無意識のうちに晋一に手を伸ばしていた。

 ケビンはしてやったりと、レイの手から逃れる。

 レイが晋一の手を取る。


 その時、二人の頭の中に見知らぬ声が響き渡る。


《異なる種の絆を結びし者たちよ。汝らに力を与えん。その力用いて、皆の光たれ。未来に平和と祝福を――》


(これは、契約した者たちに送る”祝詞”!? しかし、これは……)


 それは、晋一とレイだけに聞こえた言葉。同時に、与えらた”力”。

 ”契約技”――真に絆を結んだ契約者たちが使える、特殊な力。

 そして二人が与えられた力は、今この場において最も効果を発揮する、奇跡ともいえる、逆転の一手!

 二人は、合わせずして声をそろえ、この奇跡に感謝をしつつ唱えた。



『「執行――”時間逆行タイムリバース”!」』






 町を守るために戦っていたレジーナとケイアに、暴走したケモノたちが襲い掛かる。力のつきた二人は、もはや為す術はない。

 ケモノの攻撃が二人を襲おうとした時、その背後に、巨大な剣が見えた。


「!?」


『ギャハワアッ!』


 振り下ろさた大剣が、ケモノの背を割く。その倒れるケモノの先に現れたのは――。


「あ、あれは!」


「……そ、総隊長!?」


 自分の身長の倍以上の剣を楽々と担ぎ上げる。その小さな背とはアンバランスな筋骨隆々の男が立っていた。


「よう、無事か、おめぇら!」


 髪もひげも白く染まっている。彼女たちの記憶する彼の姿と比べると若干痩せこけているみたいだが、発するオーラに微塵も衰えはない。

 彼の背後から、さらに声が聞こえてくる。


「総隊長! 全員、武器を取り戻し、三分の一は城内で応戦、残りはこちらに増援の予定です!」


「ようし、わかった! いいか、絶対に町に入れんな!」


「はい!」


 そして彼以外にも、ぞくぞくと仲間がやってくるのが見えた。


「隊長……自分たちも」


「レジーナ、ケイア!」


「「は、はい!」」


 二人はいきなり名前を呼ばれて驚く。


「よくやったな。そこで少し休んでいろ」


「……!」


 頼もしい背中を見せて、総隊長を含め、他のライダーたちも暴走したケモノたちに応戦していく。


「よかった……!」


「皆……。そうか、彼が言ってた増援とは、このことだったのか……」


 二手に分かれる前、二人は隼人が言っていたことを思い出す。


《レジーナさん、ケイアさん、必ず増援を送りますから! だからそれまで、なんとか持ちこたえてください!》


 増援とは、他のライダーたちのことだった。盲点だった。いや、助けなければとは思っていたが、その余裕がなかった。彼らが来てからはなおさら、めざましく変わる展開の速さで、それどころではなくなっていった。そのことを彼は気づき、皆を助けだしてくれた。


 おそらく、ケビンはケモノたちの力を衰えさせないために、殺せなかったのだろう。だが、そのおかげで皆が助かった。


 増援が来てくれたのは嬉しいが、まだ安心はできない。暴走したケモノたちは、それだけでも強い。実際にライダーたちが集まってからは押し返せたが、ケモノたちも集まりだすと、拮抗し、徐々に押されだした。


「てめえら! それでもライダーか! 根性いれろ!」


 大剣を振り回しながら檄を飛ばすも、戦況は良くならない。

 が、ほどなくして、ケモノたちの動きが急に止まり、バタバタと倒れていく。


「ああん!?」


「これは……!」


「ああ……! あの二人が、成功したんだろう」


 二人は暴走したケモノたちが次々に倒れていく様子を見て、プログラムが成功したことを確信する。

 レジーナはケイアに傷を癒してもらい、二人は総隊長のところに行く。


「そういや、レイ王様はどこだ?」


「レイ王様は……」


「……上だ」


 レジーナが指をさす。


 そこには、ぽっかりと穴があいた雲から差し込む月光に照らされた、黒く巨大なドラゴンと、小さな人影。そこから離れていく翼の生えた狼が、青白い大きなシャボン玉のようなものに包まれている姿があった。





『バ、バカなああああああああああああああっ!』


 ケビンの渾身ともいえる絶叫が空に響き渡る。


 ”時間逆行タイムリバース”――その名の通り、時間を戻す。


 昔、隼人が言ってたっけ。


「時間ってさ、早くも遅くもなるし、長さも違うよな。一分がすげえ長く感じたり、一年があっという間に感じたり……まあ、感じるその人や気分とかで勝手に決めてるだけだろうけど。でも時間って、絶対止まらないし、巻き戻すこともできないよな。だからオレたちは後悔しないように、今を精いっぱい生きていかなきゃな」


 あの時は、何を真面目に哲学ぶってるんだと笑ったけど、今ならその意味がよく分かる。

 時間は止まらないし、戻らない。だからこそ、ある意味無理やりかもしれないけど、人は前に進めるのかもしれない。進まなきゃならない。


 しかし、その世界の法則ともいうべき時間を、巻き戻す奇跡が起きた。


 発動した瞬間、俺たちを青白い光が大きなシャボン玉のように包み込む。そしてその中で俺たちの意識だけ残して、すべての時間が停止した。落下する俺は空中で止まり、レイのはばたく翼も動かず、逃げ出したケビンもピタリと制止していた。


 そして、ゆっくりと、逆再生のように戻っていく。握っていたレイの手を自然と離し、同時に落下していた俺は空へと引き上げられていく。手には刀が吸い付くように戻る。

 逃げ出したケビンはレイの下に戻り、レイは俺から離れた後、再びケビンをガッチリと捕まえる。締め上げる。ケビンが放ったマルフォウスの吠え玉も、口の中に戻っていく。


『あっ、ありえん! 時間の巻き戻しだと!? そんな技をたかが一ライダーごときが使えるわけ……ま、まさか、”世界のワールド・ロウ”か! 秘宝が貴様たちに力を与えたとでも言うのか!? ありえん! たかが一人の小僧と、一匹のケモノにそんな奇跡ともいえる力を……ぐえっ!』


 締め上げていくレイの力に、ケビンの言葉は中断される。そして、俺たちを包んでいた光は、シャボン玉が壊れるように、弾けて消えた。

 時間にして、約五秒。たった五秒だが、今の俺たちには十分すぎる。

 そして再び、時が進みだす。


『くっ、だが……!』


 ケビンが再び吠え玉を繰り出そうとしている。


『二度も我がさせると思うか?』


 レイがすぐさま口を全力で押さえつける。


『んんんんんんんん~っ!』


 一言もしゃべることができなくなったケビン。もはや奴に打つ術は、無い。

 どんどん近づいてくる。俺は全神経を集中させ、刀を握る手に力を籠める。


『終わりだ、ケビン!』


『んんんんんんんんんん~~~~~~っ!』


 目が見開かれ、俺を睨んでくるケビン。

 皆、信じていたんだ。でも、裏切ったのはお前だ。お前のせいで、皆が傷ついた。レイも、レジーナも、ケイアも、マルフォウスも、シヴァも、隼人も、ティスト博士も、人もケモノたちも、皆!

 すごく勝手だけど、皆の思いをこの一撃にのせて振り下ろさせてもらおう。この悲劇を、俺が断ち切る!


「うおおおおおおおおおおおおおっ!」


 全ての力を一点に集中して、俺は、自分の出せる最高の力で、斬った。


『ぎゃああああああああああああっ!』


 間違いなく、俺はケビンのチップのみを切断したと確信できる手ごたえが有った。


 マルフォウスの声で、マルフォウスでは決してない絶叫が響き渡る。

 それは、下で見上げているレジーナたちに、俺たちの勝利を告げると共に、戦いの終わりを告げる叫びとなった。



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