表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レイ・ライダー  作者: 真中太陽
26/31

晋一の絆と隼人の勇気



【ハヤト! しっかりしろ、ハヤト!】


 スピーカー越しに、ティスト博士の声が響く。

 ああ、やっぱり無理だったよ。

 いや、オレも頑張ったんですよ? あいつは巨体で力はあるけど、だからこそスピードはついていけないほど速くもなかったからさ。あいつの攻撃を必死に避けて、こっちの攻撃はバシバシ当てて。

 でもさ、防御力は桁違いだね。こっちのパンチも蹴りも、何十発当てても全く効いてる感じがしない。しかも、こっちはたった一発でこの通り、壁に激突して床ペロしてます、ハイ。

 な~んか、無力感っていうかさ……哀しいですわ。

 オレの今までの努力って何だったの、って思っちゃうくらいだわ。

 それぐらい力の差がありすぎ。無理。勝てない。倒せない。


【ハヤト! しっかりしろ! ……ぐっ! くそ、もう少しなのに……】


 鬼ゴリラは、オレに興味をなくしたのか、奥の部屋の扉をガンガン叩きまくって壊そうとしている。オレからは見えないけど、ティスト博士はオレに呼びかけながら、奴がやってくる恐怖と戦いながら、必死でプログラムを打ち込んでいるんだろう。

 その恐怖を増幅させるかのように扉が歪に変形を始める。壊れるのも時間の問題だった。

 ごめん、博士。肝心な時に役に立てなくて……。

 頬から伝わる冷たい地面の感触が全身の熱を奪っていくみたいだ。口から出た血が床の上を少しずつ塗り替えていく。鬼ゴリラが扉を叩く姿を見ながら、オレはゆっくりと目を閉じた。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・


 って、そんな簡単に諦めるオレ様じゃないってぇの!

 カッと目を見開く。ダメージを負ってうまく体に力が入らない。それでも何とか腕に力を込めて何とか体を起こし、震える足に活を入れて立ち上がる。


「……(すぅ~)」


 大きく息を吸って、気合を入れなおし、鬼ゴリラを睨みつけて叫ぶ。


「おい、てめえ! さっきからガンガンうるさくて寝てられねえんだよ! オレを倒した気でいたのか? 残念でした、こっちだって軟な鍛え方してねえんだよ! おら、オレはまだ戦えるぞ、くそヤロウ!」


 啖呵切ったオレに、鬼ゴリラは再びゆっくりとこっちを振り向く。


【ハヤト! 良かった、生きてたんだな!】


「勝手に殺さないでくださいよ。それより、プログラムの方は……おわっと!」


 話している最中にも関わらず、鬼ゴリラの巨大な拳が飛んできた。

 オレはそれを倒れるようにしてかろうじて避ける。いや、避けようとして倒れてしまった、というのが正しい。


【何とかなりそうだが、あと五分、いや、三分でいい。時間を稼いでくれ!】


 三分!? 三分も!? 試合の時間、カップラーメンの待ち時間、カラータイマーよろしくのあの三分か!?

 くそ、万全の状態なら問題ないだろうが、この瀕死のダメージを負った体で三分はきつい。持つのか……?


「……へっ。泣き言なんて言ってたら、あいつに笑われちまうよな」


 だろ、シン!






(シンイチ。お主に託すぞ……)


 雲を突き抜けて空へと飛び出したレイは、不思議な心地よさを感じていた。

 背中には守るべきで、そして共に戦う契約者の姿はない。されどなぜか、心はひどく落ち着いている。

 それは、仲間とは違う、契約をした者同士が持つ”絆”なのか。


(信頼、か……)


 相手は会って間もない、しかもレイたちからすれば異界に住むただの少年である。

 しかし、彼は信じてみたくなった。

 ギャンブルと言った。その思いは変わっていない。所詮”賭け”でしかない。

 だが、レイは確信ともいうべき思いを持っていた。根拠は、ない。それでも、きっと成功すると、信じて疑っていない自分に、逆に戸惑うほどだ。


(不思議な少年だ……)


 普段の自分なら、決して了解しなかっただろう。だが、今なら……。


『――ゆくぞ』


 この世界にも月はあった。そしてその月光を背に浴びて黒く巨大なドラゴンのシルエットが雲に映し出される。その影が徐々に小さく、原寸大になってレイが再び雲に侵入する時、雲はレイが放つソニックブームによってかき消された。

 レイはいとも簡単に、音速を超えた。


 ケビンはレイたちが追うのをやめた後も全力で飛んでいた。

 何をしてくるかはわからないが、現状で捕まる確率はかなり低い。


(追ってこないなら好都合、このまま撒いてしまおう。……私の勝ちだ)


 舌なめずりをして笑みが零れる。しかし、その考えはすぐに甘かったことを悟る。

 ケビンは何気なく、後ろを振り返った。その時ちょうど、雲に穴が開いたのが見えた。


『……なっ!』


 意味を理解したときには、すでに遅かった。

 レイが圧倒的スピードでケビンに迫っていた。


『くそっ!』


 焦る彼をよそに、レイはどんどん差を縮めていく。


(バカな! なぜだ、なぜだ? あの少年は!? まさかホントに自分から死――!?)


 次に彼が振り向いた時、レイの顔がすぐ近くにあった。


『んなっ、ぐげっ!?』


『つかまえたぞ、ケビン!』


 レイは全力で全身でケビンを縛り上げる。


『んぐ、このっ!』


 マルフォウスの尻尾で応戦しようとしたが、それよりも先にレイの長い尾が身動きを封じる。


『なら、これなら!』


 金属の羽を超至近距離で撃つ。


『ぐふっ……なんのっ!』


 それでもレイは力を緩めるどころかさらに万力のように締め上げる。


『ぐげえぇ、く、苦し……ん!?』


 もみ合っている内に、いつの間にか月の光が降り注ぐ場所に来ていたレイとケビン。

 そこでケビンの瞳に月が映り、同時に、黒い点も映りこむ。


『ん? ……なっ!』


 二度目の驚愕。黒い点は徐々に大きくなってそれは人の形をとっていった。


『こ、こぞおおおおおぉぉぉぉ!』





 レイから手を離した時、俺は慣性の法則にしたがって、スピードは落ちるがそのまままだ空へと上っていった。

 雲を突き抜けると同時に、逆にレイが雲に侵入してケビンを追いかけていく。

 それを見届けたあと、俺の体は空中で止まる。


 それは放物線の頂点にきたことを告げる、無重力状態。


 ふと上空に目をやると、巨大な月が見えた。

 地球のそれとは大きさも見え方も異なるけど、見事な満月と言えばいいのか。

 真円を描いて雲に光を降り注いでいる月を見て、もったいないと思ってしまう。

 雲にじゃまされず、この広い世界を照らせばいいのに、と。

 俺の思いが届いたのか、雲にぽっかりと穴が開いている。レイの通った後だろう。しかも、自分もちょうどその穴に向かっているようだった。

 前に進みつつ、同時に重力にも引っ張られる。

 その力はいよいよ増し、俺はパラシュートなしのスカイダイビングへと移行する。

 風圧がやばい。下手すれば意識を持っていかれそうになる。

 それでも、歯を食いしばって耐える。目もあけられないほどだが、それは手でなんとか防げばいい。


 俺の考えた作戦は単純だった。


 レイがケビンを捕まえる。そして俺が落ちるところにケビンを持ってくる。そこで俺が斬る。たったこれだけ。


 存外、自分でも本気でバカかもと思ってしまう。でも、他に方法が思いつかない以上、やれることをやるしかない。そして……俺、ホントに斬れるのか?

 親父が教えてくれた”薄葉斬り”。まだ一回も成功していなのに、いきなりそれの応用で、しかも本番。それを俺は足場もなく態勢も不安定な落下してる中で行う。

 ああ、うん。バカだな。生きて戻れたら、きちんと隼人に勉強教えてもらおう。

 そんなことを思っているうちにも、下の世界との距離はどんどん縮まっていく。

 なんとか目を開けて見た時、俺の描く放物線状に、レイにしっかりとつかまったケビンがいた。レイは、やってくれたんだ。

 だったら今度は、俺がやる番だ!

 胸に熱いものが燃え広がっていく。全身に力が漲る。

 一回も成功したことない。ぶっつけ本番の上、態勢も最悪。

 なのに、どうしてだろう。今は、成功するイメージしかない!

 俺は腰につけておいた刀を鞘を投げ捨てるように抜き放つ。風圧に負けないよう、絶対に離さないように、両手で、力を込めて握る。


『こ、こぞおおおおおぉぉぉぉ!』


 ケビンの驚きの叫びが聞こえる。同時に、レイがケビンの口を塞ぐのも見えた。

 その時、一瞬突風が吹いたと思ったら、頭から落ちていた態勢が足からに変わる。

 レイだった。

 レイが飛びながら、その羽で俺にも風を与えてサポートしてくれていた。レイの思いに応えるためにも、絶対に成功させる!


「うおおおおおおおおおおおっ!」


 今までに感じたことがないほど、集中しているのが自分でもわかる。

 いける! その手ごたえが、ある!

 






【ハヤト、もういい、立つな! このままでは君は……!】


「……いやあ、そ、ういうわけ、には、いかない、でしょう」


 オレは扉に体を預けながら、ボロボロの体で何とか立ち上がる。が、すぐに足がふらつく。歩くことすらままならない。

 へっ、まるでノックアウト寸前のボクサーの気分だな。


【ハヤト……もう、やめてくれ。もう……】


「あき、らめない、で、ください、よ。あと、少し、でしょ?」


 オレの感覚では、もう二分は過ぎてる。あと三十秒くらいか?

 あのあと、何発も攻撃を入れるも、やはりやつには効かず、こっちは三発くらって瀕死の状態だ。一発食らうたびに地面に倒れ、奴は扉を壊しに行く。扉はもう限界だった。


【……ああ! あと十秒でいい。十秒で、完成する! そうすれば!】


「……へっ、りょう、かい、っと」


 どっちにしろ、次で最後だ。オレが死んで扉もプログラムも壊されるか、オレたちが間に合って暴走を止められるか。


『ブオオオオオオオオ!』


 鬼ゴリラもわかっているのか、雄たけびを上げて間合いを取り構える。ショルダータックルだ。


「……え?」


 突き出した右肩に、鬼ゴリラの角の一つが移動したように生えてくる。巨大化というおまけ付きで。完全にオレごと扉を串刺しにするつもりだ。


「……うそでしょ~?」


 呆れる。瀕死のやつ相手にそこまで念入りにする?

 と言ったところで、聞いてもらえるわけもない。

 時間は残り五秒。今にも突進してきそうだ。さて、決着の時だ。


「ふぅ~……コオオオォォォォォォォオォッ!」


 空手の呼吸法で、気合を入れる。

 オレが出せるのは、あと一発だけ。つまり、一発勝負。オレが防げるか、あいつが貫くか。


『ブガアっ!』


 雄叫びと共に全身に力をこめ、最短距離を最速で突っ走ってくる。

 車どころではない。まるで戦車が至近距離から高速でぶかってくるようだ。百パーセント勝ち目はない。でも――。


「――シン、お前なら……絶対に諦めないよな!」


 鬼ゴリラが突進してくる。

 両手を開き、肘を背中側に思いっきり引く。そしてオレは――左に飛んだ。


『!』


 鬼ゴリラはそれに気づくが、別に構わないといった様子で扉に向かって突き進む。

 端からわかっていた。こいつには勝てないことくらい。普通の動物にだって人間は勝てるかわからない。ましてや、この世界のケモノたちはさらに巨大で強い。鍛えたといっても、今のオレじゃあ、物理的に無理なのは目に見えている。

 でも、無理だからって、すべてを諦めるのは、間違っている。

 この勝負は、倒すか倒されるかじゃない。守れるか、守れないかだ。

 それは、時間。あと三秒、ティスト博士の時間を守れば、時間を稼げれば、オレたちの勝ちだ。だったら、オレがやることは一つ。

 横に飛ぶ。着地の衝撃すらオレの足は受け止められそうにないくらい弱っている。引き金を引いたように全身に痛みがはしる。筋肉の繊維がプチプチと切れていく感覚。


 構わない! この一撃さえ打てれば、あとは!


「くらえっ! 隼人オリジナル――」


 横に飛んだ衝撃をギリギリのところで耐え、奴のタックルのすれ違う瞬間、鬼ゴリラが地面を踏むために出した足の、着地する寸前のタイミング。そこに、オレの今出せる全力をぶち込む!


「双天砲掌撃イイイィィィィィッ!」


 あとのことは知らない。半ば捨て身の、一撃必殺。

 タイミングはドンピシャで、やつの踏み出した足の、ちょうど膝のところに命中した。


『!?』


 踏み込みの足を崩され、鬼ゴリラの態勢が大きく崩れる。

 直進するスピードが速ければ速いほど、軌道をずらされた時の影響は大きい。巨体だったのも、狙い易くて助かった。さすがのやつも、全力できていたところを打たれては、倒れるしかない。


 オレの、勝ちだ。


 倒れれば、間違いなく間に合わない。あとは、ティスト博士がうまくやってくれる。


【ハヤト、避けろおおおおお!】


 そう、オレは、こけさせただけだ。勢いまで、殺せちゃいない。

 突進の勢いのまま、やつはコケる……目の前に、黒く大きな背中が、迫ってくる。オレはもう、動けなかった。


【ハヤトおおおおおおおおっ!】


 スピーカーみたいなものから博士の声が響く。そこでかすかに、パネルをタンッと力強く押した音が聞こえた。最後の一つを打ち終えたんだろう。もう、皆大丈夫だ。


 ……シン。あとは、頼んだぜ……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ