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レイ・ライダー  作者: 真中太陽
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闇夜の鬼ごっこ


「待て、ケビン!」


『逃がすか!』


 森の中を走るケビンを、俺とレイは木々の間を縫うようにして飛び、追いかける。


『まったく、こんなに早くあなたに会うつもりはこちらにはなかったんですけどねぇ。まあ、見つけたことは褒めてあげましょう。ですが、追いつけますかねえ?』


 そういって、ケビンはさらにスピードを上げる。

 レイもスピードをあげる――が、巨大な樹木やその枝に邪魔され、思うように出ない。

 差は徐々に開いていく。


『くっ……ん!?』


 突然、地響きと共に俺たちの少し先、ケビンの目の前あたりに突然金属の壁が出現した。


『んなっ!?』


 そこでケビンは急ブレーキかける。


『ケイアたちが、アレを使ったのか! だが、今は助かった!』


 金属の壁はどんどん出現して、あっという間に、ケビンの逃げ道を塞いでくれた。


『なっ……くぅ! レイ王たちが大戦後に隠れて何をしていたかと思ったら、これを造っていたのか! くそっ!』


 森の中を疾走していたケビンは悔しそうに、再び金属の翼を広げ空へと飛びあがる。

 俺たちもそれを追って上空へと駆け上がる。

 木々の間をすり抜け、葉っぱの密集地帯を抜けた先の曇天の空で、今、闇夜の空中戦が始まった。


『待て!』


 異様な金属の翼を広げて飛ぶケビンに、レイが迫る。


『ふん、これでも食らいなさい!』


 言葉と同時に、やつの翼を形成している鋭い金属の羽が、一斉に俺たちに向けて発射される。

 レイはそれを避けつつ、離されまいと食らいつく。


『ならば、お返しだ!』


 レイは火球をケビンに向かって放つ。ケビンはそれをギリギリのところで避ける。


『あっつ! ……何しやがるんですか、レイ王! いいんですか~? 大事なお友達のマルフォウスが黒焦げになってしまっても~?』


「レイ、火球はまずいよ!」


『くっ、おのれ……!』


 攻撃手段を封じられ、結局、奴を捕まえるしかなくなった俺たちに、ケビンは余裕の態度で、さらに攻撃を繰り出す。


『ヒャ~ハッハッハッハッ! いい気味ですねぇ、レイ王!』


 奴はさらに金属の羽を飛ばしてくる。よく見ると、失われた羽の部分に黒いモノが集まり、それが再び金属の羽へと変化する。

 ってことは、やつはある意味無尽蔵に撃てるのかよ!?


『ま~だまだ! いきますよ!』


 ケビンは間髪おかず発射してくる。避け続けるレイの右側に、今度はマルフォウスの尻尾が鈍器のようになって迫る。


「レイ、右だ!」


『な、尻尾まで操れるのか!? ……ぐぬっ!』


 完治していない右腕を狙ってくるなんて! ちくしょう、常套手段とわかっていても腹が立つ!


『ヒャハハハハ! そんなものですか、レイ王様~?』


『くっ、この!』


「ダメだ、レイ! 熱くなるな!」


『だが、どうすれば!』


 俺だけじゃない、レイも焦っていた。

 当然だ、下では暴走するケモノたちがいて、それがなぜか町の方へ向かっている。

 半ば強引に出てきた分、気にならないわけがない。ケビンだけに集中したくても、これじゃあ……。


『さあ! さあさあ! どうします~? 町は大丈夫なんでしょうかね? 私に構っててよろしいのですか~?』


 くそ、やつもこっちの状況がわかっているのか、煽ってきやがる。


『このっ!』


 レイが口を開け、そこから高熱が出るのが伝わってくる。


「レイっ!」


 俺は慌ててレイの名を呼ぶ。


『クックック。いいのですか、あなたの火球に、マルフォウスの体は耐えられませんよ~?』


『言われなくとも、わかっておるわ!』


 そういってレイは、今にも口から出そうな火球を、直前で首を曲げて、町の入口の方へと放った。

 それは威嚇射撃となり、暴走しているケモノたちも、本能的にそれを避ける。


「レイ……」


『ふん。我を甘く見るな。別に冷静を欠いてはおらぬ』


 それは若干の時間稼ぎにしかならない。しかし、レイが火球を吐いた直後、二つの影が町の入口へと向かうのが見えた。


「あれは……」


『レジーナとケイアが向かっている。あの二人なら、時間は稼げるだろう』


 レイは見えていたのか、二人が向かうまでの時間稼ぎに火球で対応していた。


『……そうですね、”時間は稼げる”かもしれませんね~。ですが、果たしていつまで持ちますかね~?』


 俺たちの様子を空中で止まって見ていたケビンが核心をつく。


『……やつの言うとおりだ。時間を稼げても、所詮二人しかおらぬ。いずれ、数の暴力で押されてしまう』


「なら、そうなる前にケビンを倒す!」


 俺たちは再びケビンに向き直る。


『なめるな、ゴミクズめ! 貴様ごときに、簡単に倒される私ではないわ!』


 ケビンは再び逃走を開始する。その後を俺たちも追いかける。

 くそ、早くこの鬼ごっこを終わらせないと、皆が……!





「きゃあっ! な、なに?」


「あれは、レイ王様の火球か!」


 突然、目の前に降り注いだ炎によって昼のごとき明るさが燃え広がった。

 そして、それが空からのレイ王の援助だということに二人は気づく。


「ありがたい、おかげで何とか間に合ったか!」


「ええ! ……でも、私たち二人で、どこまで持つかしらね」


 二人は炎の壁の前で、それぞれ剣と弓を構える。


「……さあな。だが、一匹も町には入れはしない」


「ふふっ、突攻隊長がいると、頼もしいわね」


「それは私のセリフだ。背中は任せたぞ、支援部隊隊長!」


「ええ、任せて!」


 道を挟んで両側の森から数匹のケモノたちが出てくる。

 そのうちの牛のようなケモノが一匹、二人に向かって突っ込んでくる。

 ケイアは足を狙って矢を放つ。放たれた矢は狙い狂わず、牛のケモノの足に命中し、突進していたケモノは転倒した。

 レジーナはその転倒したケモノを踏み台に飛びあがり、勢いをつけて後続のケモノの脳天に剣の腹で思いっきり叩いた。

 あまりの衝撃にふらついたケモノの足元を、着地と同時に瞬時に数か所切って、このケモノも転倒させる。

 彼女たちは、決して殺さない。暴走するケモノも、元は大事な仲間に変わりない。動きを止めることに集中し、決して命を奪おうとはしない。

 しかし、それはひどく分の悪い戦いだった。

 当然だが、そのような戦いは消耗がひどい。なのにケモノたちは次から次へと遠慮なしにやってくる。足止めし、さばき、傷を負わせ、あるケモノは倒せても、あるケモノはお構いなしに攻撃してくる。

 さすがの彼女たちも次第に押され始め、傷は増え、体力も失われていった。そして――。


「くっ……はっ! 矢が!」


 ケイアの矢が尽きた。


「ケイア!」


「危ない、レジーナ!」


「なっ!」


 熊のようなケモノの一撃。とっさに剣で防ぐも、直撃してしまった威力は弱った体にはかなりのダメージだった。


「ぐ、うぅ……」


「レジーナ!」


 ケイアが攻撃をかいくぐりながらレジーナの側に駆け寄る。


(ここまできたのに……!)


 心を覆う絶望のように、ケモノたちが押し寄せてくる。炎の壁も、もはや足首ほどしかなく、今にも完全に消え失せようとしていた。





『ヒャ~ハッハッ。ほれほれ、どうしたんですか~? そんなゆっくりじゃあ、いつまでたっても捕まえられませんよ~?』


『くっ!』


「レイ……」


 やつを追いかけて、一体どれほど経ったのか。短いのか、長いのか、どちらにせよ、時間が経つにしたがって、こっちの状況は悪くなる一方だ。


『やれやれ、やはりゴミクズはゴミクズですね~。レイ王も本気で飛べば、私なんてすぐに捕まってしまうかもしれないのに、背中にそんなお荷物背負ってではまともに飛べませんよね~? わかってますよぉ、あなたが庇いながら飛んでいることはぁ』


 マルフォウスの顔で歪んだ笑みを張り付けたケビンが俺たちをなじる。


『貴様、我が契約者を侮辱するな!』


 レイが咆哮のように吠える。しかし、ケビンは動揺することもなく、攻撃の手も休めない。


『ヒャハハハハ! えらい役立たずを契約者に選んでしまいましたね、レイ王様あぁぁ!』


 嘲嗤うケビン。


『――貴様っ!』


 レイの怒りのボルテージがみるみる上がっていく。


「……」


 そんな様子を見て、俺はふっと笑ってしまった。


『!? シンイチ?』


『……ああ~ん?』


 二人が俺を見る。


「……いや、ごめん。その通りだと思ってさ」


『! シンイチっ!』


『……クックック。ヒャ~ハッハッハッ! ついに自分で認めてしまいましたか! そういうのを本当の大バカっていうんですよ!』


「勘違いするなよ」


『!?』


 空中で大口開けて笑い転げるケビンに、ピシャリと言い放つ。


「お荷物とかそんな話じゃなくて、レイが俺に気をつかわず、本気で飛べば、お前なんてすぐに捕まえることができるだろうと思ってさ」


 俺は余裕を持った態度で、ケビンに言い放つ。

 案の定、やつは俺の態度がひどく気に入らないようで、マルフォウスの大きな牙をむき出しにして、その顔を怒りにひしゃげて睨む。


『こ、このガキ! 偉そうにほざきやがって! だったら、やれるもんならやってみろよおおおぉぉ! 私を捕まえるために、自分から死ぬ勇気があるんならな!』


 そこまで言って、まるで急速冷凍のように冷静に戻っていくケビン。


『……そうか、おまえたち、私のインストールを防ごうとしているんだな。クックック。ヒャ~ハッハッハッ! できるもんならやってみろ! あと二分で完了するがな!』


 吐き捨てるように言ったケビンは、全速力で逃走に入る。俺たちもすぐにその後を追う。


『……シンイチ』


「ごめん、レイ。こんな大変な状況なのに笑っちゃったのは、なんか、レイが俺のために本気で怒ってくれていることが嬉しくてさ。……ありがとう」


『……お主は我の契約者だ、当然のことだ。それより、どうするのだ。あんな挑発までして……時間も残り二分しかないようだぞ』


 奴を追いかけながら、レイも困惑していた。


「うん、それなんだけどさ、レイ。本気で飛んだら、ケビンを捕まえることってできる?」


 俺はレイにしがみつきながら、言葉をかける。


『……今の速さが奴の全力なら、造作もないことだ』


 俺はレイの言葉にニッと笑って答える。


「だったら、作戦があるんだ」


『?』


 俺はレイに作戦を伝える。


『な、正気か、シンイチ! そんなものは作戦とは呼べん! ただのギャンブルだ!』


「確かにそうかもしれない。でも、このままじゃ埒が明かないし、俺たちには時間もない。俺は隼人みたいに頭良くないから、こんなことしか思いつかないけど……でも、信じてほしい」


『……』


 一瞬悩んだが、レイは頷いてくれた。


『いいだろう。お主を、信じよう。だが、一発勝負だぞ。外せば、すべてが終わる』


「ありがとう、レイ。絶対に成功させる!」


『うむ! よし、ではいくぞ!』


 俺とレイは火球を使いつつ、ケビンを雲に近い上空へと誘いこむ。そして、奴が十分に近づいたところで追うのをやめ、俺たちはさらに上空へと進み、雲の中へと突入する。


『!? どこへ向かうんだ、奴らは?』


 ケビンは怪訝な表情で見つめる。

 レイがスピードを上げる。思ったよりも厚い雲の出口が見えた時、俺はしがみついていたレイの首から静かに手を離した。



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