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レイ・ライダー  作者: 真中太陽
24/31

隼人たちの戦い


 

 俺とレイは焦っていた。

 風圧で体が持っていかれそうになるのを、レイに張り付くようにして必死に耐えながら、ケビンを探しまくっている。

 やつよりもほんの少し遅かっただけなのに、すでに姿が見えない。絶対に助けるなんて大見えを切っておいて、見つかりませんでしたなんて笑い話にもならない。

 空は厚い雲に覆われ、星も月も見えない暗い状況がますます探索を困難にさせ、気持ちもネガティブな方向へと誘導させられそうになる。

 くそっ、奴はいったいどこなんだ!?

 雲の上かもしれない。それとも思った以上に広い、眼下に広がる森の中か? 方角は? もしかして、もうすでに別の場所に……。


『む、あれは』


「……あ!」


 レイの見ている方角、そこに視線をやると隠れたはずの子供たちが、必死に俺たちに向かって飛び跳ねながら何か合図を送っていた。

 どちらにしろ無視なんてできないし、俺とレイはそっちに向かうことにした。


『お前たち、こんなところで何をしている? 隠れていろと言っただろ』


 レイは普通に言ったつもりだろうが、ケビンを見つけられない焦りと苛立ち、それらが今の容姿と相まって、この子たちにはすごく怒られていると思われたかもしれない。

 少し怯えながらも、しかし勇気をもって必死にレイに向かってみんなが語りかける。


『なんだ? ……! なんと、でかしたぞ、お前たち!』


「え、レイ、どうしたんだ?」


『飛ぶぞ、シンイチ! しっかりつかまれ!』


「え――おわあっ!」


 レイは再び空へと舞い上がる。

 どうやら子供たちが城からケビンが出るのを目撃していたようだ。

 奴は西の空へ向かったあと、でもすぐに森に落ちたらしい。

 もしかしたら、まだ飛ぶのに慣れていないか、もしくは森だと見つからないと思ったんだろう。


『――! いたぞ!』


 レイの眼がマルフォウスの姿をしたケビンをしっかりと捉えたようだ。


『森に行く。振り落とされるなよ』


「わかった!」


 俺はしがみつく手にさらに力をこめる。

 




「先王の間は、確かこの上だったな……」


「ええ……」


 レジーナとケイアは塔の階段をひたすら上っていた。

 研究所を脱したあと、城の中は悲惨な状態だった。

 侵入していたケモノたちは、意識を失い、手当たり次第に暴れており、中はめちゃくちゃに破壊されていた。

 それだけではなく、暴力を振るっている彼ら自身も苦しそうで、見ている彼女たちの方が辛くなるほどだった。

 改めてケビンのしたことに対する怒りと悲しみが湧き上がり、胸を締め付けるもそれらを噛み殺して、彼女たちはシヴァに教えられた先王の間を目指してひた走る。

 本城とは少し離れた、通路でつながれた塔。その最上階に”先王の間”と呼ばれる大きな部屋がある。彼女たちは長い階段を上り、息を切らしながらやっと上り詰めると、今は使われなくなったその部屋へと入る。

 重厚な扉を開けると、目の前に巨大なベッドが一つと、その横に人用の小さな――小さく感じるベッドが一つ。部屋は必要最低限の装飾がしてあるだけだったが、そこに漂う空気は今までとは明らかに違っていた。

 本来は引退した王が住まう部屋であり、ゆえにそこにはかつての偉大な王たちがいたという痕跡が感じられる。

 近くは先の大戦で負傷した先王が、いられた時間はごく短かったが、彼女たちにも思い出深い場所である。

 急いでいる。が、自然と足は止まり、二人は無意識のうちに、深く礼をしていた。

 そして改めてその奥へと進む。

 ベッドの裏、その隙間に入ると、壁に違和感があるのを感じ、軽く押してみる。

 すると、ガコンという何かがはまった音がした後、目の前の壁が開き、こじんまりとした部屋が出現する。

 その中央に位置する五十センチ四方の床板が、他よりも五センチほど出っ張っているのが見えた。


「……分かりやす過ぎない?」


「……」


 あまりに露骨なそのスイッチに、さすがのケイアとレジーナも苦笑いが漏れる。

 開発途中とはいえ、あまりにもおざなり過ぎないかと文句を言いたくなるが、今は置いとくことにして、とりあえず、二人でそれに乗ってみる。

 床板は音もなく沈み、しかしその後、巨大な地揺れが起こる。


「な、なに!?」


「……外か!」


 二人は隠し部屋を出て、空からも入れるようにと作られた大きな扉の鍵をあけて外に出る。


「な!」


「これは……!」


 二人は驚愕していた。

 それは、この城を囲う城壁、さらにその外側を大きく囲うようにして、城壁の二倍の高さはありそうな金属の板が地面から出現し続けていた。しかも二枚重ねである。

 森の中からもどんどん出現してくる。空からの光は雲に遮られていて目では見えないが、気配でわかるのは暴走するケモノたちのほとんどはその城壁の中に閉じ込めることができたようだ。

 彼女たちは知らないが、それはマルフォウスのおかげでもあった。

 彼が敵を引きつけて、また、レジーナに呼ばれて城へと向かうと、当然敵もそれを追ってくる。だからこそ、その城壁の範囲まで偶然にもおびき寄せる形をとることができた。

 一通り出現が終えて、ぐるっと囲む形になり、彼女たちは一安心――と思いきや、最後に出現した方を見て、愕然とする。

 それは東の方。北から西、そして南までぐるっと森が広がる中で、東だけは居住区として存在している。

 その肝心の居住区を守るための城壁が……ない。

 城から居住へ抜けるちょうど道の幅――巨大金属板あと半個分。それが、足りない。


「……うそでしょ」


「完成してないとは、このことだったのか……」


 二人は呆れつつ、しかし放っておくわけにもいかない。

 出現した金属の板を打つ音が響く。森の木々もバキバキと倒され、そしてそれはなぜか狙っているかのように、東の方へと進んでいるように見える。


「暴走しているはずなのに、なんでそんなに的確なのよ!?」


「わからん。さすがはライダーのケモノたち、というべきか?」


「関心してる場合じゃないでしょ! もう! シヴァもレイ王様も、やるならちゃんと最後までやり遂げてよ!」


 愚痴を言いつつも、彼女たちは急いで塔を下りて外へと走っていった。

 




「ありがとうございます、博士がいて助かりました」


「いや、礼を言うのはこちらの方だ。しかし、盲点だったよ。むしろ、なぜ今まで気づかなかったのか、我ながら情けない」


 ケイアさんたちと分かれて、用事をすませたあと、オレとティスト博士は研究施設のさらに奥へと進んでいた。


「気にしないでください。ティスト博士の場合はケビンに記憶を操られていたからだと思いますし、ケイアさんやレジーナさんたちも、状況が状況だけに、レイ王様や秘宝を守るだけで精一杯だったでしょうから」


「そう言ってもらえると、ありがたい。しかし、これでケイアくんたちの懸念は大丈夫そうだな」


 博士の意見に同意する。確かに、彼らがいれば、きっと二人は大丈夫だろう。


「ええ……でも、楽観はできません。状況はまだこちらが不利です。やはり、シンかオレたちがやり遂げないことには……」


「……そうだな。私も、やるべきことをやる――いや、絶対に、やってみせる」


「期待していますよ」


「ああ、任せてくれ。っと、ここだ、ハヤト」


「はい」


 廊下の一番奥。そこに金属の武骨で重厚な扉があった。

 博士は扉横の小さな金属を操作して、扉の解錠をする。

 ……今更だが、本当にこの双子は天才だと思う。向こうの世界ならわかるが、こっちの世界でよくこんな施設を造れたもんだと感心する。本当に、この技術をこの世界の人たちのために使っていたらと、心から残念に思う。


「……ハヤト。私は、あのキメラにされたケモノたちのことを知らなかった」


「? どうしたんですか、突然」


 博士は、開けるのをためらっているように見えた。


「兄の記憶操作がなくても、私にはアレに関する記憶はない。……しかし、もし君が中を見て、殴りたい衝動に駆られたなら、遠慮なく私を殴ってくれて構わない」


「いや、なにを言ってんすか、そんなこと――」


 博士の目は、いつになく真剣だった。


「冗談ではないよ。私はキメラに関する記憶はない。あれを手伝った記憶は、イエスに誓って有りはしない。しかし、知らずに手伝っていた可能性は、ある。いやそれ以前に、チップに関しては私も確実に関与していたのだから……。マルフォウスのことに関しては、特に、な」


「博士……」


 ティスト博士はまるで懺悔でもするかのように告げる。

 それほど、中にはひどいものでもあるのだろうか……。


「……開けるぞ」


「……はい」


 オレは覚悟を決めて、彼に頷く。

 パネルの最後のキーを押すと、ゆっくりと開いていった。


「……っ、うぷっ……!」


 そして中を見た時、オレは強い吐き気を催した。

 それを必死で耐え、無理やりのど奥に、胃へと戻す。


「……ぐっ……、こ、これは……」


 中は、異様な広さがあり、ケモノたち用なのか、人にはかなり大き過ぎる手術台のようなベッドが中央に一つ。

 そしてその周りには、乾いた血の跡が床一面にびっしりとあった。

 壁にかけられた白衣の作業着にも、その下で倒れている靴にも血がついていた。

 棚とその周りの床には、大小さまざまな金属の歪なコップみたいなのが散乱している。あれに薬品か何かを入れていたのだろうか。

 さらにそのとなりには、刃物やドリルもあり、当然、それらにも血がついていた。

 オレは、鼻で呼吸してしまった。一気にこの部屋に満ちる嫌なものが鼻孔を通って脳に伝わり、再び胃に押し込んだ胃液が逆流してきた。


「うっ……ぶはあっ!」


 涙をためて、それでもオレは耐えた。チラッとティスト博士の方を見ると、彼は胸のあたりに手をやり、まるで己の心臓を握り潰そうとしているかのように服を強く握りしめていた。


「兄さん……!」


 手術台を、この部屋を見て強い悲しみと怒りがこみあげてきているようだ。

 オレは、何とか冷静さを取り戻して、改めてこの部屋を見つめる。


「……この光景を見ると、もし、時間を戻すことができたら、なんて馬鹿なことを思ってしまう。それほど、私は……」


「……」


 過去に戻れるなら命を張ってでも兄の暴挙を止める、という思いがひしひしと伝わってきた。


「……行こう。この部屋の向こうに、兄の作業部屋がある。そこで全ての研究をしていたはずだ。そこなら、暴走を止めることができるかもしれん」


「……はい」


 ティスト博士はパネルを操作して、奥の部屋の扉を開く。オレもそっちに向かおうとした、その時。


「……なんだ?」


 地響きが聞こえる。

 またケモノたちが暴走して暴れているのかとも思ったが、どうもそうではない。

 ……近い。いや、近づいてきている。

 嫌な予感がする。全力で頭の中に警報が鳴り響く。

 やばい。

 後ろは絶対に振り向いてはいけない。が、そういうわけにもいかない。

 オレとティスト博士はほぼ二人同時に後ろを振り向いた。


『ブオオオオオオオオ!』


 そこには、黒い鬼のようなゴリラが、猛突進してくる姿が見えた。


「うわああおおおおおぉぉっ!?」


「ハヤト! 早く中へ!」


 軽くパニックになりかけたが、ティスト博士の叫びでとにかく走り出す。

 後ろのやつは、目が真っ赤になって迫ってきている。形はまさしくショルダータックル。あんなのくらったらひとたまりもない!

 博士はパネル操作で後ろの扉を閉める。ダメだ、間に合わない。

 そこで最悪のことが起きる。

 オレは間抜けにも、地面に転がるコップによって転んでしまった。

 一気に頭の血が引く。しかし、ここで諦めたら終わりだ。


「博士、俺に構わず、中に入って暴走を止めてください!」


「しかし、そんなことをしたら、君は……!」


「いいんです! 暴走を止めることは貴方しかできない! ここで二人ともやられたら、すべてが無駄になってしまいます!」


「しかし……!」


「お願いします!」


 ティスト博士は苦渋の決断をして、奥の扉を閉めてくれた。


「絶対に、死ぬなよ、ハヤト!」


 オレは親指をぐっと立てて合図する。……なんか、これって死亡フラグ確定じゃね?

 なんて考えてる場合じゃない。閉まっていく扉を確認して、すぐに起き上がり、横に飛ぶ。

 その瞬間、後ろの閉まりかけた扉をぶち壊すようにして鬼ゴリラが侵入してきた。


「ひっ!」


 ティスト博士も一瞬悲鳴を上げたが、こっちは閉まる方が速い。

 最初の扉は破壊できたものの、勢いは大いに殺され、二つ目の扉にはぶつかるだけで破壊はできなかった。


【ハ、ハヤト、無事か!?】


 ティスト博士の声が聞こえる。向こうの声は聞こえるようだ。オレはそれに大声で返す。


「平気です! オレに構わず、プログラムの方をお願いします!」


【わ、わかった!】


 こっちの声も届くようだ。お互いの無事に安堵しつつ、しかし、絶望的な状況には変わりない。

 扉の前で突っ立っている鬼ゴリラにオレは声をかける。


「……へっ、悪いな。そっちは通行止めなんだよ」


 鬼ゴリラがギロリとこっちを見据える。ちっ、呑まれちゃだめだ、気合で負けんな。

 オレも負けじと睨み返す。……しかし、こいつだけは、暴走しているという感じは受けない。たぶん、こういうことも見越して、ケビンがあらかじめ仕込んでおいたのかもしれない。来たのはこいつだけみたいだし。


「ったく。やることなすこと頭にくるというか、本当に頭がいいというか。ま、どっちでもいいけど……」


 オレは軽く深呼吸をし、そして構える。


「……さ~て、ほんじゃま、全国一位のオレの実力、お前にたっぷり見せてやるよ!」



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