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レイ・ライダー  作者: 真中太陽
15/31

残酷な再会


「はあああああ!」


 レジーナの気合の一閃が、最後のケモノを吹き飛ばし、倒す。

 素直にすごいと思った。

 強いと思っていたけど、まさかここまでとは。

 俺は一匹で精いっぱいだったのに、レジーナで四体、ケイアで三体、レイも三体――一体は俺が相手していたやつだけど――を倒している。あんな小さな体のレイの、どこにそんな力があるんだろう。不思議だ。

 ……俺、戦わなくても良かった?

 若干の戦力外を感じて落ち込んでいるところに、パチパチと乾いた拍手の音が響く。


「う~ん、素晴らしいですね。主力部隊でないとはいえ、契約しているケモノたちを次々と。さすがはレイ王様の側近の方々といったところでしょうか。一人……役に立っていない者がいたようですがねぇ?」


 くっ! わかってはいることだけど、こいつに言われるとなおさら腹が立つ!


「次は――貴様だ」


 レジーナの剣の切っ先が、まっすぐにケビンに向けられる。


「おお~、こわ。勇ましいですねえ」


 小さく両手を上げて体を震わせながら、怯えたようなリアクションをとる。

 こいつのやることなすこと、すべてが嘘くさい。

 その思いは俺だけでなく、ここにいる全員が共有していることだろう。

 レジーナの手にさらに力がこもる。今にも階段を駆け上がり、斬りかかりそうだ。


「まあ、契約技も使えないのでは仕方ありませんけどねぇ。とりあえず、ファーストステージ・クリアということで、おめでとうございます。では……セカンドステージに参りましょうか」


 そう言ってケビンがニィッと笑う。

 左手でパチンと指を鳴らす。


「なっ!」


 すると、急に足にあった床の感覚がなくなる。

 俺たちのいた場所の床が消え、暗い闇が顔を出す。


『くっ!』


 飛んでいたレイが俺たちを助けようと動く。それを見たケビンが袖から俺を貫いた剣を出し、レイに向かって――発射した。


『ぐあぁっ!』


 剣がレイの背に突き刺さる。


「とっとと落ちてください。懐かしいお仲間が、お待ちかねですよ」


 俺たちはなすすべも無く、その闇に吸い込まれるように下へと落ちていった。



 地面に激突する直前、レイは力を振り絞り、俺たちを捕まえ、一瞬だけ持ち上げて落下のスピードを殺す。

 十メートルぐらい落下しただろうか。あのまま落下してたら、ひとたまりもなかっただろう――少なくとも俺は。本当に助かった、が……。


「レイ王様!」


「しっかりしてください、すぐに手当てをします!」


『アンアンっ!』


『すまぬ……』


 レジーナとケイアがすぐさまレイの下に駆け寄り、安否を気遣う。


「っ!?」


 そして俺は驚く。

 レイに刺さった剣を抜き、その背中にケイアが両手をかざす。目を閉じ、精神を集中させ、何事かつぶやくと、彼女の両手から淡い緑の光が、レイを包むように広がっていく。

 すると、まるで押し出されるように背中に突き刺さった拳銃の弾がコロンと地面に落ち、傷がみるみる塞がっていく。


「ケイア……それって」


 俺は平静を装いつつ、彼女に尋ねる。


「ヒールリングの力よ。シヴァと契約したときに貰ったものなの」


 嬉しそうに、そして大事そうに指輪をなでる。


「シヴァ?」


『ケイアの契約者のケモノだ。我の相談役でもあり、皆の母のような存在でもあった。特に、我らにとっては……む!?』


 レイが説明をしてくれているとき、薄暗かった場所に人工的な光が点灯する。


『地下に、このような場所を造っていたとは……』


 そこは、金属板を組み合わせたような、しかし頑丈そうな造りは漫画でよく見る実験施設のような嫌な空間だった。そして、それを示すかのように――。


「そんな、あれは……」


 ケイアの目線の先、壁際の角の方に、緑色に光る大きなカプセルがある。

 嫌な予感しかしなかった。

 漫画やゲームで見る、マッドサイエンティストの実験――そしてそれは、現実として俺の目の前に現れる。

 傷が治ったレイを先頭に、皆が近づく。


「――っ!」


 皆、声が出なかった。

 中にいたのは、人型の三体のケモノ――一体はつぎはぎの、明らかに違う生物同士をかけあわせたような腕や足を持ち、真ん中の一体には、金属でできた刃が両手首の先からつけられている。そしてもう一体は、何でできているのか、黒くうごめくようなものが右手の方にひっつき、胸の半分ほどまで侵食しているようにも見える。


『こやつらはもしや、大戦中にいなくなった……』


「ひどい……!」


 まさしく合成獣キメラ。あいつ、こんなものまで研究してやがったのか!?


「いかがかね、私の作品たちは?」


 どこからか、胸糞悪いやつの声が響く。

 上の方に人影が見えた。長身で白髪、分厚い眼鏡をかけ、白衣に身を包んだ男が。


「ケビン! 貴様、これはどういうことだ!」


 レジーナが烈火のごとく怒り、殺意を込めた視線で見上げる。

 いや、レジーナだけじゃない。ここにいる全員が同じ気持ちだ。


「ん~? どういうこととは、どういうことかな?」


 奴はこちらの怒りを逆なでするかのように聞き返してくる。

 マジで、ハラワタ煮えくり返って吐きそうなくらいだよ!


『これは、大戦中にいなくなったものたちではないのか! いったいこやつらに何をしたんだ!』


 レイの怒声が、その小さい体に似合わず、この広い空間に爆音のように響き渡る。よほど怒り心頭らしい。

 そんなレイの様子を見て、ますますニヤニヤと嗤うケビン。


「さすがレイ王様。よくこんな役立たず共のことまで覚えておりましたね~? 何をしたかって? 見ての通りですよ! 彼らにはね、実験台になってもらったんですよ! ヒャハハハハ!」


 高笑いをしながら自慢気に話しだす。


「い~いサンプルが取れましたよ~。おかげで、計画は上手くいった! これも、彼らが実験に協力してくれたからこそですね~。ま、彼ら自身はある意味失敗作になってしまいましたが、実験に失敗はつきもの、成功のための尊い犠牲というやつですかね~」


『ふざけるな!』


 レイの憤慨の叫びが、まるで地震でも起きたかのように俺たちの体を揺らす。カロはびっくりして俺の後ろに隠れながらも、足の隙間からケビンを睨みつけている。


『貴様は……貴様は、こやつらの命を何だと思っている!? 役立たず? 何も知らぬ者が、偉そうにこやつらの価値を勝手に決めるな!』


 レイがケビンに飛びかかる。

 握りしめた小さな拳。しかし、そこには並みのケモノたちを吹き飛ばす力があり、ただの人間にまともに当たったら、致命傷は免れない。

 それを知っているのかはわからないが――いや、身をもって体感しているはずのケビンは、避ける気配すらない。

 余裕の態度を、笑みを崩さない。瞬間、レジーナが叫んでいた。


「あぶない!」


『っ!?』


 殴りかかり、今にも拳が届きそうなところで、レイは、白い大きな塊に吹き飛ばされた。


『ぐはっ!』


 ボールのようにはじき飛ばされ、壁に激突するレイ。

 その衝撃に地面に倒れ、何とか起き上がろうとする彼の前に立ちはだかったのは……。


『そう、だったな。当然、お主も、か……』


 心底、残念そうにつぶやくレイ。


「クックック。と~ぜんですよ。一部を除いて、ライダー全員のケモノに埋め込んだのですから!」


 せせら嗤うケビン。


「そんな、うそ……」


 ケイアは信じられないものを見るような――いや、信じたくなかった、といった方が正しいのかもしれない。


「……シヴァ」


「え、シヴァって、確か……」


 ケイアの契約者?


 視線の先、そこには、マルフォウスより少し大きな、年老いた白い狼――いや、どちらかというと犬のようなケモノがいた。


「……っ」


『アンっ! アンアンっ!』


 レジーナは言葉にならず、カロも呼びかけるように必死に吠えていた。

 皆は、哀しさと悔しさの中に、どこか愛おしさをないまぜにしたような複雑な表情を浮かべている。

 それに反して、この男は……。


「ど~です、ケイア隊長? 貴女の会いたくて会いたくて仕方なかったシヴァ様ですよ~? 会えてうれしいですか? 感動のご対面ですよ? 私に感謝してくださいね! アッヒャッヒャッヒャ!」


「この!」


 ケイアは弓を構え、ケビンに向かって矢を放つ。狙いは寸分狂うことなく、彼の眉間に吸い込まれるように空気を割いて突き進むが、それより事前に動いていたシヴァがケビンの盾になるように体で矢を防ぐ。


「シヴァ!」


 ケイアが悲痛の声を上げる。

 地面に着地したシヴァは、ケイアに射られた矢が突き刺さっており、そこから赤い血がドクドクと流れ、白い毛を徐々に朱色へと染めていく。


「シヴァ! シヴァ!」


「よせ、ケイア!」


 レジーナの制止も聞かず、ケイアは取り乱してシヴァの下に駆け寄ろうとする。攻撃のためではない。彼女に刺さった自分の矢を抜いて治療するためである。

 しかし、操られているシヴァに彼女の思いが届くはずもなく、駆け寄ったケイアはシヴァの前足による攻撃で吹き飛ばされる。


「あぐっ!?」


 地面を転がり、倒れるケイア。


「シ…ヴァ……」


 つぶやく口の端から赤い血が流れ、目からは涙が流れた。

 そんな様子を、おかしくてたまらないといった様子で見ているケビン。


「クックック、ヒャ~ハッハッハッハッハ! 何をしているんです、ケイア隊長! 自分の大事な契約者のシヴァ様に矢を突き立てちゃ~いけませんよ~。それはシヴァ様も怒ってケイア隊長に反撃しちゃいますよ~? クック、ヒャ~ハッハッハッハ! 愉快! 愉快すぎる!」


「この……!」


「落ち着け!」


 俺は奥歯が割れるかと思うくらいかみしめ、歯をむき出しにして怒りに染まろうとしていたところに、レジーナの強い制止がはいる。


「……お前では勝ち目がない。それはいくらなんでもわかるだろう」


「……! だけど!」


 ああ、そうだ。さっきの、おそらく弱い部類に入るであろうケモノたちですら、俺は一匹でいっぱいいっぱいだった。当然、マルフォウスより大きなシヴァに、俺が勝てる見込みなんてゼロに等しいだろう。でも! だからってこのままじっとなんてしていられるか!


「落ち着けと言ったんだ! ……シヴァの相手は私がする。その間に、レイ王様とケイアのことを――頼む」


「レジーナ……」


 正直、驚いた。あのレジーナが、俺を頼るなんて。

 ……いや、今は猫の手も借りたい状況なんだろう。確かに、俺が戦うよりも、サポートに徹した方が、彼女も戦いやすいのかもしれない。

 情けないと感じつつも、おかげで怒りに没頭していた頭はクールになり、自分のやるべきことに専念することを誓う。


「あそこに、奴に続く階段がある。隙を見て、奴の手首をとれ」


「……わかった」


 俺はレジーナの言葉に素直にうなずく。


「よし、では行くぞ!」


「そ~は行きませんよ~?」


 俺たちの気合を絶つように、間延びした余裕を含むケビンの声が聞こえた。


「さぁ、開放してやりましょう!」


 ケビンが何かのボタンを取り出し、ポチッと押す。

 すると、先ほどの緑のカプセルから液体が漏れ始める。


「……ま、まさか……」


 カプセルは徐々に開いていき、その中から、先ほどの三体のケモノが目覚める。


「くっ……!」


 レジーナに、一筋の汗が流れた。


『アンっ、アンアンっ!』


 カロもやつらに向かって吠える。

 ずちゃっと水の踏む音が三体分聞こえ、生気を感じない、動物の皮をかぶったモンスターが降り立った。


「さあ、難易度上昇のセカンド・ステージ、スタートですよおおおぉぉぉ!」


 開戦の合図と同時に、レジーナはそっと祈る。


(頼む……早く来てくれ)



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