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レイ・ライダー  作者: 真中太陽
12/31

逃亡者たちのしばしの休息



 どれくらい走っただろう。


 隼人から受け取ったスマホをちらっと見る。

 時計は日本時間で夜中の一時を超えた。

 三十分ぐらいは走ったんじゃないだろうか。


「……けっこう長いな」


「ああ、そうだな」


 小声で、隼人と話す。

 中は確かに迷路のようになっていて、右へ左へと分かれ道を進み、大きなカーブを描くようにぐるっと回ったりと、自分がどっちを向いて走っているのか、わからなくなってくる。……はぐれたら終わりだな。


「ティスト博士、大丈夫……なのか?」


 五キロ以上は走っていると思う。しかもなかなかの早いペースで。見た目六十歳前後の体にはけっこうきついのではないかと心配になる。

 すると聞こえていたのか、ティスト博士が振り向き答える。


「心配は無用だよ、シンイチくん。こう見えて、私はマラソンが趣味でね。まだまだ行けるさ!」


 軽く汗はかいているが、余裕のある表情をしている。


「それはいらぬ心配をしてしまいましたね。すいません」


「別に謝ることじゃないよ。……っと、そろそろ出口のようだね」


 先頭を飛んでいるレイの先に、ようやくの終わりが見えた。 


 出口の直前、レイが手を出して皆を止める。


『ここで待て』


 その横をレジーナが抜け、先に外に出る。


「……大丈夫そうです」


 外の様子をうかがっていたようだ。

 安全が確認できたようなので、全員も外に出る。

 いつ終わるとも分からなかった窮屈なマラソン大会から解放されたその場所は、森のちょうど境目、小さな丘の手前に出る。


「……ふう。ようやく出れたな、シン」


「……ああ」


『アンっ!』


 体力的には問題ないが、精神的にきつかった。それは隼人も同じらしい。


『……しばし休息をとる。だが、すぐにまた場所を移すぞ』


「……了解」


 レイの宣言で、皆がようやく一息つく。


「ふう。やれやれ……」


 隼人が地表に出ている大きな木の根に腰かける。

 その隣に俺も座る。


『アンっ!』


 カロがやってきて、同じく木の根に飛び乗り、俺の横にちょこんとお座りをする。

 尻尾をふりふりして、嬉しそうに俺を見てくる。


「……ははっ。本当にお前に懐いてるな」


「ああ……」


 俺はそっと手を出して、カロの頭を撫でてやる。


『アゥン』


 くすぐったいのか、でも気持ちよさそうに甘えてくる。

 さらさらの、柔らかな毛並み。

 それは、久しく忘れていた、あの頃の感触。

 二度、三度と撫でる。

 カロは嫌がるそぶりなどせず、俺に撫でられ続けている。


「――」


 その様子に、心が癒されていくのがわかる。


「シン……」


「ん?」


 隼人が振り返った俺の顔を見て驚く。


「……いや、何でもねえよ」


 嬉しそうに言って、正面を向く隼人。

 その時気づいた。……俺、今、笑ってた……?


『プギュ! プギュ!』


『メェン! メェン!』


「おわ! な、なんだ!?」


 気づくと、一緒についてきていた子豚や子ヤギっぽい子たちが俺たちの周りに集まり鳴いていた。

 戸惑っていると、正面から優しい声がかけられる。


「ふふっ。みんな、カロちゃんみたいに撫でてほしい、って言ってるわよ。シンイチくん」


「あ、ケイア……」


 手を後ろに、嬉しそうに微笑んでいるケイアがやってきた。

 その少し向こうにはレジーナ、丘の上にはレイとティスト博士の姿が見えた。


「え、あ、あの……撫でても、いいんでしょうか?」


 俺はおずおずとケイアに聞いてみる。


「ええ、もちろん。みんな、それを望んでいるわよ?」


 促され、カロを撫でていた手を、そのまま目の前にいた子豚(?)の頭に置き、そっと撫でてやる。


『プギュルウ……』


 気持ちよさそうに目を細める。


『プギュ! プギュ!』


『メェン! メェン!』


 さすがに今度は俺でもわかる。それを見たほかの子たちも、やってやって、とせがんできているのは。


「わかった、わかったから!」


 俺は次々と、優しく、丁寧に撫でてやる。


『アンっ!』


 するとカロも催促しだす。


「うえっ!? カロもか? ちょ、ちょっと待ってくれよ」


『アンっ!』


 早く、と頭を差し出してくる。


「うふふ。モテモテね、シンイチくん」


「だな。良かったな、シン」


「ふ、二人とも、他人事だと思って~」


 どこかのんびりとした、優しい時間を感じながら、俺はこの子たちが満足するまで、ずっと頭を撫で続けた。






「なあ、隼人」


「ん?」


 満足した子供たちがようやく俺の周りからいなくなったので、改めて俺は隼人に聞いてみる。


「俺たち……これからどうなるんだろうな」


「……」


 それは最もな疑問。

 こんな状況になっちまって、果たして、俺たちはどうなるんだろう。

 俺は、どうすればいいんだろう。


『クゥ……』


 隣ではカロがケイアの膝の上でうたた寝をしているようだった。

 その姿に癒されつつ、でも、現実を受け止めなければいけないと思っている。


「……あくまで憶測の域を出ないことだが。シン、お前はもう、無関係とは言えない状況にある。お前の話と、レイ王様たちから聞いた話を照らし合わせると……ものすごく面倒くさいことになってるな」


「……だろうなぁ」


 俺も、空を見上げてしみじみとつぶやく。

 空は、今の俺の心を移すように、分厚い雲に覆われていた。


「……一番知りたいのは、オレたちがこれからどうすればいいか、だが……」


「……」


 俺はじっと、隼人の言葉を待った。


「……ケビンを倒すしか、道はないだろうな」


「……まじか」


 予想はしていたが、やはりその答えに行きつくのか。

 俺はなんとも形容しがたい、やりきれない気持ちになる。


「オレたち二人に何ができるのかは置いといて、結局のところ最終目標はケビンを倒す、ってことになる」


「……ああ」


 まあ、それは間違いないだろうな。元凶であるのは誰がどう見ても奴だ。


「で、そいつを倒すにはだが……かなり厳しい」


「……だろうなぁ」


 さすがにそれは俺でもわかる。


「まず戦力が違い過ぎる。レイ王様にレジーナとケイア、ティスト博士とオレとシン、カロと――まあ子供たちが数匹か。今はいないが、マルフォウスさんも加えても、まともに戦えるのは十にも満たない。対して、ケビンの方はケモノたちが――まあ、数匹じゃすまないよな。下手すりゃ百は超えてるかもしんねえ」


「そんなにか……」


 あんな化け物たちが百もいたら……考えただけでぞっとする。


「戦力は十倍以上。……普通なら絶対に勝ち目はねえ」


「……普通なら、な」


 俺はそこを強調して言う。

 隼人がこういうことをいう時は、だいたい策がある時と知っているからだ。

 俺の言葉に、隼人もニヤリと笑う。


「さすが親友。そう、我に策あり、ってな。……でも、成功率は極めて低いけどな」


 沈痛な面持ちになった隼人に、声がかけられる。


『話を聞かせてもらおうか』


「レイ!?」


 気づけば、目の前にはレイとティスト博士、それにレジーナまでやってきていた。


『何やら策があるようだが……ハヤト殿、おぬしの考えを聞かせてくれ』


「いや~……良いもんじゃないっすよ?」


 隼人もさすがにバツが悪そうに言いよどむ。

 ……そんなにひどいのか?


『かまわん。それを良くしていくものが”会議”というものだろう』


「あ、作戦会議になっちゃいます? んなら……」


 隼人は一つ大きく息を吸った。


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