俺を支えるみんなの力
『……どういうことだ?』
隼人のつぶやきに、レイも反応する。
「ああ、すいません。ただ、なんとなくそう思っただけで……」
『……話してくれるか?』
「はい……いやただの推測というか、偶然かもしれませんけど……なんとなく、シロは知ってたんじゃないかと……」
隼人は自信なさげに話す。
「……先ほどから出てくる”シロ”というのは?」
「あ、シロっていうのは、昔シン――晋一が飼っていた子犬です。子供のころに亡くなりましたけど……」
「……」
「……シロちゃんは知っていた? ”歪”が出る場所……開くタイミング……それを、あなたに教えようと……?」
ケイアの発言のあと、皆の視線が俺に集まる。
「え……い、いやいや、ちょっと待ってよ。そんなわけ……仮にそうだったとしても、なんで俺が?」
『それは我らもわからん……だが、現におぬしはここにいる』
「っ!」
レイの一言が、ズドンと胸をうったような衝撃を与える。
「……」
俺は、シロに導かれて?
なんのために……?
「……でも、役には、立ててないです。みんながこんなに困っているのに……もっと救世主っぽい人なら良かったんでしょうけど……俺は、迷惑をかけているだけで……」
「そんなことないわ!」
うなだれていく俺の顔を上げさせたのは、ケイアの否定の一言だった。
「あなたはカロを救ってくれた! レジーナの命も救ったの! 今みんながこうしていられるのは、あなたのおかげよ」
「ケイアさん……」
優しく微笑むケイア。
どうして、この人はこんなに優しいんだろう。
冷たい強風が心を吹きすさんでいくのを、あたたかい何かで包んでくれる。
目頭が熱くなるのを感じる。
「あなたがいなければ、私はカロちゃんまで失うところだったから……」
「……そう言ってくれて、ありがとう……」
俺はまともに顔を見ることができず、うつむきながら、お礼を言った。
『……まあ、運がよかっただけということもあるが』
「もう! レイ王様ったら! そんなこと言わなくてもいいでしょ!」
『……小言までシヴァに似てきおったな』
俺はそっと、目からあふれる物をぬぐう。
『……カロとレジーナを助けた。結果だけ見ればそうだろう。そして、もう一つ――』
「?」
『……”世界の法”』
レイが単語を口にした。
その瞬間、俺の胸がズグンと跳ね上がる。
「ぐっ!」
思わず胸を押さえる。
「シン!?」
隼人が心配そうに俺を見る。
「だ、大丈夫だ……」
すぐに胸の鼓動はおさまった。
『……やはりそこか……』
レイがやれやれといった感じでため息をつく。
俺の胸に、何が?
『……ここにいる皆には話したことだが……シンイチ、おぬしの中には、”世界の法”と呼ばれるこの世界最高の秘宝が入っているのだ』
「はあ!?」
秘宝が、俺の中に!?
「な、なんで……」
『さあな……”世界の法”は代々、王のみに継がれ守られてきたものだ。その存在も、我と一部の隊長たちしか知らぬ極秘情報として扱われてきた。……ケビンやティストも含め、外界のおぬしたちには本来なら決して話すべきではないのだが……現状ではやむをえまい』
……そんなに渋るほどの物なのか。まあ、”秘宝”だから当然か。
『……正直、我もこれに関してはよくわかっておらん。すべてを聞く前に、先代の王は戦いで亡くなられてしまった。極秘裏に調査もさせたが、口伝のみのために資料などは残っておらん。ゆえに、どういう扱いかも詳しくない』
レイも困ったように語る。
『……だが、ケビンはなぜか秘宝のことを知っていた。最重要機密事項だ。ほかの者が知りえることはあり得ん。……あり得んはずなのだが……』
「……」
レイが深刻そうに考える。そして再び、俺を見る。
『……シンイチ。おぬしは――』
レイが何かを言いだそうとしたとき、外から慌てた様子でマルフォウスがやってきた。
『王よ、逃げろ! 敵がやってきた!』
『なに!?』
それは突然の急襲の報せだった。
「バカな! この場所がバレたというのか!?」
レジーナが叫ぶ。
『みたいだな。まだ遠いが、確実にこっちに向かってきてやがる』
「そんな……ここは、ケビンも知らないはずなのに……」
「つけられた……いや、マルフォウス殿に限ってそんなことは……誰か、兄に触られたか?」
ティスト博士がレイやレジーナを見る。
「……私が知る限り、私と王はないはずだ。縛ったのもケモノたちだったからな。だが……」
レジーナが俺を見る。
そういえば……あぁ、また、俺か。
「……確か肩のあたりを……」
「ちょっと失礼……」
近づき、俺の肩から背中、襟の裏側まで調べる。
「……やはりか……」
嫌な予感がする……予感というか確信する。
ティストは、俺の背中についていた米粒程度の小さな黒い石を発見した。
「発信石だ。兄は、王やレジーナ隊長にはバレると踏んで、シンイチくんに保険をかけておいたんだろう……」
『迂闊であった……』
レイが悔し気につぶやく。
また、俺のせいで――。
「ダメ!」
突然ケイアが叫ぶ。
「シンイチくん。ダメよ、自分を責めちゃ。あなたのせいじゃないわ」
「……でも、俺のせいでみんなに――」
また迷惑をかけてしまった――。
「……違うわ。敵が少し上回ってしまっただけ。あなたは何も悪くない」
「でも……」
心を、暗い何かに包み込まれ、そのまま押しつぶされそうになる。
『おい! 後悔してる場合じゃねえんだよ! ここにいたら、みんな捕まって今度こそ終わっちまうぞ! オレが敵をひきつけてる間に早く逃げろ!』
マルフォウスの一喝に俺を除く全員が行動に移る。
『……やむを得ん。話は後だ。今は逃げるぞ!』
「マルフォウス! 私も一緒に――」
レジーナもマルフォウスと共に囮役になることを志願するが、却下される。
『お前は王の護衛を頼む。まともに戦えるのは、お前とケイアぐらいしかいないだろうからな。ただ、本気でやばかったら、呼べよ。』
「……わかった」
レジーナが信頼の眼差しでうなずく。
『……それと、おいボウズ!』
「っ!」
強い怒りの声が俺のことを呼んだと気づいて、体がビクッと反応する。
皆への信頼と優しさを含んだ眼差しから一転して、マルフォウスの鋭い眼光が俺を捉える。
『いつまでうじうじしているつもりだ! もたもたしてると、てめえのせいで本当に俺たちまで捕まっちまうんだよ! ……ケイアも言っただろうが。おまえだけのせいじゃねえ。とっとと気持ち切り替えて、おまえのやるべきことをやれ!』
言い捨てるようにして、マルフォウスは再び外へと走っていった。
「シン……」
隼人が声をかけようか迷っているのがわかる。
『クゥン……』
カロもやってきて、心配そうに俺を見上げる。
うつむいたままの俺は、軽く息をすい、そして――自分の両頬を思いっきり叩いた。
パチィンッと良い音が響く。鼓膜を震わせ、頬からジンジンとした痛みが広がってくる。
俺は、顔を上げる。
「シン! ……よし、とりあえず今は逃げるぞ!」
「……ああ!」
『アンっ!』
俺の様子を見て、隼人もカロも大丈夫と悟ったのだろう。
正直、辛くて、悔しくて、情けなくて……泣きたい気持ちでいっぱいだ。
でも、マルフォウスの言ったように、今はそれどころじゃない。
せめて……これ以上迷惑をかけないよう、今はみんなと行動をとろう。
どうでもいい、すべてを投げ出したい――そんな気持ちを必死に抑え込む。
視線の先――マルフォウスが向かった外への道とは反対の方に、みんなが集結していた。
俺と隼人とカロも、そこに走り寄る。
数ある扉の中の一つ、そこを開けると、食料などの備蓄がされている保管場所のようだった。その狭い中へ、全員が入り、扉をしめて鍵もかける。
レジーナが奥の方から隠してあった武器を取り出す。弓、剣、防具、刀……。
「刀!? この世界にも、日本刀みたいな刀が存在するのか……」
「……それは大戦の時に、おまえたちと同じ異世界の男が置いていったものだ」
「ふぅん……」
俺は刀を手に取る。初めて握るにも関わらず、それはしっくりと手になじんだ。
『――』
全員に武器が行き渡った頃合いを見て、レイが呪文を唱える。すると一部の地面が四角く切り取られたように線が入る。そして少し沈んだかと思うと、スライドドアのように開いて地下への階段が現れた。
『抜け道だ。ここを通って外に出る。中は迷路のようになっているから、はぐれないようにしろ』
「……はい!」
俺たちはレイの後に続いて、階段を降りていく。
入口はすぐに閉まり、真っ暗で何も見えなくなるが、ここもあの光るコケみたいなのがあるのか、ぼんやりと光だし、すぐに洞窟の全貌をさらけ出す。
レイにレジーナ、ティスト博士にケイアとケイアが匿っていたケモノの子供たち、そして隼人と俺とカロ。
『行くぞ』
レイの合図とともに、全員が駆け足で小さな洞窟を抜けていく。




