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レイ・ライダー  作者: 真中太陽
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反乱の真相



 扉を開けて部屋を出ると、まず、その広さに驚いた。


「わあ……」


 その広さは城で見た王の間と同じくらい。岩を削ってできたようなドーム状の空間が広がっている。

 向かって右側には、俺たちが出てきた扉が他にいくつもある。

 そして、向かって左側の中央には一際大きな扉があった。


『む、来たか。こっちだ』


 レイが俺たちに気づき、声をかける。

 大きな広間の中央にはレイ、レジーナ、ケイア、そしてティストが、ホームシアターのスクリーンぐらいの大きさの机の前で何やら話し合っていたようだ。

 その少し離れたところで、カロをはじめ小さなブタやヤギ――明らかに子供だと思われる動物たちが楽しそうに走り回っている。

 俺たちはレイに促され、そちらに向かう。正直、あまり行きたくはなかったが。


「大丈夫かい? シンイチくん」


 俺たちの到着を待って、最初にティトスが声をかけてきた。

 本当にそっくりだ。当然、声まで似ている。


「は、い……」


 心臓がドクンとなったが、俺は平静を装い、心の中で落ち着け、この人は違う、と何度も唱える。


「……あの、先ほどは、失礼しました」


 俺はティトスに向かって頭を下げる。

 彼は微笑み、なるべく優しい口調で俺に接してくれた。


「いいんだよ。……レイ王様たちから、君になにがあったのか教えてもらった。私と兄は、一卵性双生児でね。昔からよく似ていると言われていたから……。兄に代わって謝るよ。本当に、申し訳ない……」


 ティストが深く頭をさげた。


「……あ、謝らないでください。あなたのせいじゃ、ないですから。」


 謝ったって……と思わなくもなかったが、その不満を彼にぶつけてもしょうがない。

 しばらくして、頭を上げたティストがまた微笑む。


「……そう言ってくれると、ありがたい。そういえば、自己紹介がまだ途中だったね。私はティスト・テラー。アメリカで科学者をしていた。改めてよろしく」


 彼が右手を差し出す。


「あ、はい。俺は、玄道晋一と言います。よろしくお願いします、ティスト……さん」


 そう言って俺はその手を、今度はちゃんと握り返す。


「ティストでいいよ」


「いや、さすがに、それはちょっと……」


 ためらっていると、隼人が提案してくる。


「ならよ、ティスト博士って呼ぶのはどうだ? 確か博士号取られていましたよね?」


「まあ、飾りみたいなものだけどね。それでもいいよ」


「じゃあ……よろしくお願いします、ティスト博士」


 手を放し、俺はまっすぐに彼を見る。

……うん、大丈夫。


『……ふむ。とりあえずこれで全員、自己紹介は終わったか』


 椅子の上に立っているレイが全員を見渡し、確認する。


「……そういえば、うろ覚えですけど、助けてくれたあのオオカミみたいなのが、マルフォウス――さん、ですよね? 彼はどこに?」


 この大きな広間には、どこにも見当たらない。当然いると思ったんだが。


「……マルフォウスなら、外で見張りだ。昔からの習性でな。用心深いし、あまり中には関わろうとしないんだ」


「そうなんだ……」


 レジーナが説明してくれる。……なんか、少し優しく感じるのは気のせいかな?


「では、改めて情報の整理をしましょう。シンイチくんたちにも、知る権利はあるでしょう……いや、知らなければならない、といったところでしょうか」


 ティスト博士が、沈痛な面持ちで話す。


『……そうだな。当初の我らの予定とは、かなり状況がかわってきているからな』


「……俺のせい、ですよね……」


「……」


 レジーナが見てくる。が、相変わらず何も言ってこない。


『……おぬしだけのせいではない。だが、その通りでもある。良いことも悪いことも含めて、な』


「……」


 良いことなんてあったか? ほとんど全部、俺が悪いんじゃ……。


「シン、あんまり自分を責めるなよ。俺もちらっとはさっき話聞いたけど、お前はちゃんと良いこともしてるよ」


 俺が寝ている間に隼人も聞いたんだろう。

 でも、本当にそうか?


『ふむ……そういえば、お主は初めて我と出会ったときにした質問を覚えているか? まずはあれに答えよう』


「え……あ」


 そういえばした気がする。あの時は気が動転していて、何を聞いたのかあまり覚えていないけど……なんて言ったらまた怒られるだろうから、黙っていよう。


『まず、この世界だが、お主たちからすれば間違いなく異世界だ。少なくとも、”チキュウ”という星でないことは確かだ』


「……」


『この世界は主に二つの種族に分けられる。我ら”ケモノ”と呼ばれる存在と、そして”人”だ』


「……”ケモノ”」


『”動物”と言ってくれるなよ。その呼び方をひどく嫌悪するものたちもいる。……昔そのことで殺されかけた者がいたな』


「……!」


 呼び方だけで!? でも”ケモノ”ってのもなんか……とにかく、気を付けよう。


『細かく分けるとケモノも人もかなりの部族になるが、まあ今は気にしなくてよい』


 その方が助かる。


『ここはどこかという問いだったが、我らがいたのは”フェーダの森”と呼ばれるところだ。ちょうど、このアジトと城の中間ぐらいの位置だな。今は、アジトだぞ』


「……それぐらいわかりますよ」


 バカにされてる? それとも冗談で? わかりずらいよ……。


『もう一人とは、ハヤトのことだったな。彼は幸運にもこのアジトの近くで発見され、ケイアとティストに保護されていたようだ。そこで、だいたいの話は聞いたのだったな』


「まあ、軽くですけどね」


 そっか。とにかく、無事でいれてくれたのは良かった。……俺もそっちに落ちたかった。


『余談だが、この世界を含め、”異なる世界”は無数に存在する。そしてなぜか、我らがいるこの世界には、よく異世界の者たちが迷いこむ』


「……そうなんですか?」


 俺はレイたちを見回して、視線はケイアで止まる。彼女は静かにうなずいた。


『”歪”と呼んでいる、一種の時空間移動と言えばよいのか……とにかく、なぜ起こるかはわからぬが、少なくともやってくる者たちのほとんどは、その”歪”を通って我らの世界にやってくるようだ』


「そういえば……」


 隼人が何かを思い出したようだ。


「シン、覚えているか? お前がシロを追って走り出して、途中で道が無くなっていただろ? お前は見ていなかったかもしれないけど、オレは見たんだ。まるで空間にヒビが入って、そこからぱっくりと口を開けるように俺たちを飲み込むのを……」


「そんなことが……」


『ふむ。その言葉が真実なら、お主たちもこちらの世界に迷いこんでしまったということになるな。本来、意図せずしてやってきてしまった者たちは、記憶を消し、レジーナとマルフォウスの契約技によって送り返すことも可能なのだが……』


「?」


 レイが言いよどむ。今はできないと言いたげな感じだ。それに、契約技って?


『送り返すには城が一番安定している。この場でもできるが……元の世界に返れるかは、賭けになる』


 うん、絶対に城でやってもらおう。


「……あれ、でも、今城って……」


 思ったことを口にした瞬間、自分が地雷を踏んでしまったことに気づく。


『……前に話したとおり、反乱にあって情けなくも城を追われ、今は逃亡の身だ』


「……」


 なんか、ホントすみません……。


「あの、そのことについてなんですけど、話を聞く限り、敵ってケビンという人一人ですよね? どうやって反乱を成功させたんですか?」


 重くなってしまった空気に隼人がメスを入れてくれる。ありがとう、親友!


『それは……』


「それは、私から話しましょう」


「ティスト博士……」


 彼がレイからの話を引き継ぐ。


「私と兄は、アメリカで科学者をしていた。主には、異世界へとつながる空間移動――この世界でいう”歪”と呼ばれるものについてな」


「え?」


「当然、その界隈ではつまはじきものだったよ。でも、遂に兄はある発見をし、そのおかげで私たちはこちらの世界に来ることができた」


「じ、自分たちから望んできたってことですか!?」


 隼人が驚きの声を上げる。……なんとなく、俺もそれがすごいことだとはわかる。


「……でも、送り返されたりは、しなかったんですか?」


 ちらっとレイたちの方を見る。


『むろん、我らもすぐに元の世界に返そうとしたが、当時はある大戦の真っ最中でな。構っている余裕もなく、またこやつらも帰りたくないと言い、挙句にはその戦争に参加すると言ってきた時は驚いた』


 レイは懐かしいといった感じで話す。


『だが、おかげで勝利は我らが手にした。失ったものは大きかったが、ようやくの平穏が訪れたのだ。……それも、ほんの数日前に破られたが、な』


「……兄が、反旗を翻したんだ」


「え!?」


 俺はティスト博士を見る。


「大戦が終わってしばらくしたあと……兄は徐々におかしくなっていった」


 ティストが悲しそうに眉を寄せる。


『我もうかつだった。先の戦争で彼らの功績は大きかったため、そのまま王宮に住まわせ、多くの権限を与えてしまった。奴は巧妙にバレないように動いていたようだった……』


「私も、最初は兄を手伝っていた……これまでの研究も、その時の戦争も、そのほとんどは兄によるところが大きい。私は……兄のようにはなれない。だから、精いっぱい、兄を支え、手伝っていこうと思っていた。だが、あることをきっかけに、私は怖くなって、兄を避けるようになっていった……。私は、兄を止めることができなかったんだ……」


 ティスト博士は頭を抱える。


「……あることって、いったい?」


『我らケモノの頭に、”チップ”というものを埋め込むといったことだ』


「え?」


 頭にチップを?


「今、日本でもある、犬や猫にIDチップを埋め込んで飼い主が誰かわかるようにするとかいう、あれのことか?」


 隼人があごに手を当てながら聞き返す。


「……そうか、日本でも今はそんなことが……。兄がやろうとしていたのは、そんな簡単なものではなかった。この世界の鉱物は、向こうの世界にはない珍しいものばかりでね。電気を帯びたものや、声を録音できたり、ある一定の周波数を出しているようなものまであるんだ。そしてそれを変換し、通信機のようにする技術も兄が見つけ出した。兄がやろうとしていたことは、それらの鉱石を組み合わせて頭に埋め込み、テレパシーのように意思伝達させようとしていたんだ」


「なっ……!」


 驚愕したのは隼人の方だった。


「もし、そんなことが本当に可能だったら……軍事目的で使用すれば、ものすごい効果を発揮するでしょうね……」


「その通りだ。言葉や合図など必要ない。離れていても、即座に連携プレーが可能となり、敵に悟られることなく一網打尽にできる。まさに夢のような製品が、できてしまったんだ」


「できてしまったって、完成したんですか!? でも、そんな簡単に受け入れられるとは思わないんですけど……」


 確かに。もし自分がチップを埋め込まれるなんて考えると、ちょっと抵抗はある。


『もちろん、いかに有用といえど、そう簡単に皆が納得するはずはない……普通なら、な。

だが、その時は大戦によって皆が戦いの恐怖を痛感しており、チップを埋めるのも王宮にいるライダーのケモノたちに限るという条件付きだった。意見は二分したが、結局はすることに決まってしまった……最後まで反対していたのは、ライダーのいない我と、マルフォウスだけだった』


「……ライダー?」


「……それが、ある意味、すべての悪夢の始まりだったのかもね」


 ケイアが悲しげにつぶやく。


「そう……チップの埋め込みに成功すると、最初は皆がその効果を実感し、歓喜した」


『まだ各地で戦火はあったものの、事態は迅速に収束に向かい、長き平穏が訪れる、と誰もが期待していた』


「しかし、兄は、定期的なメンテナンスと称し、恐ろしい計画を実行し始めていた……」


「ケモノたち全員の――支配」


 隼人がぽつりとつぶやく。


『……察しがいいな。そう、それが今の現状だ』


「兄は、マスターコードと呼ばれるものをチップにインプットしていき、それによってチップを埋め込んだケモノたち全員を支配することに成功した」


『そして数日前。不覚にも我は力の源である”竜玉”を奪われ、こんな姿に成り果て、ここにいる者たち以外、全員が捕まった』


 レイは悔しそうに拳を握りしめる。


『そんな折に、おぬしたちが来てしまったのだ』


「……そうだったのか……」


 そんな大変な時に、俺たちはやってきてしまったのか……。

 でも、どうして、そんな……まるで――。


「……まるで、導かれるみたい、だったよな」


「え……」


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