海に浮かんだ小さな島に取り残されたような不安
王子様があまりに白々しい質問、工夫も何も無いご質問をされていたので、雨音で聞こえていない振りをして、黙りを決め込んでいたのですが、雨が止む気配はありません。
王都の城下町が、靄で見えなくなっていきます。都で一番高い建物。王様の住む城が、まるで雲の上に浮かんでいるかのように見えて、それはそれは幻想的な光景です。お城がまるで、おとぎ話の世界、夢やまぼろしのように思えてきます。
私が雨宿りしている丘の下も、白い靄が覆い、緑色だった草原が真っ白に染まっていきます。空は暗く、そして私のいる丘を残してその他は真っ白。見渡す限り海の、小さな無人島に取り残されたかのような、私自身がどこにいるのかも分からないような、自分の居場所を失ったような、そんな不安をかきたてる景色です。
「ソフィアに、故郷の実家に帰ろうと思っておりましたの」と私はついに答えました。流石に、周りが白く覆われていく景色を眺めて居ると、人間、不安になるということでしょう。夕暮れを見つめる心境に似ているのかも知れません。止む気配のない雨も、原因の一つだと思います。私も誰かと会話をしたくなったということでしょう。
「それはどうしてですか?」と王子様は間髪を入れずに私に質問をします。もしかしてこの王子様は、私が答えるのをずっと待っていたのでしょうか? 15分以上無視をしていたのですが、私が答えるのを待っていたのでしょうか? 王子様はどうやら、筋金入りの暇人なようです。
それにしても、「それはどうしてですか?」とは、また阿呆な質問ですこと。女が、手荷物一つで、しかも独りで都を出て故郷へ、実家へと帰る。その理由って、1つしかないではありませんか。
私の故郷、王都の隣町のソフィアと言えど、歩けば6時間の距離です。そんな所へ、馬車でもなく、付き人も無く、独りで歩いて向かっている。残念ながら雨によって、この場に立ち往生していますが……。
随分と、無粋な質問をされる王子様。