突然の雨
都を飛び出し、故郷へと続く草原を歩いていたら空には黒い雲。完全に雨が降る前兆だった。私の暗い未来を予言するかのように、先ほどまで照り輝いていた太陽が雲に覆われ、一気に暗くなる。しかも私は雨具など持っていない。どこか、雨をしのげる所を探さなければと足早に歩いていたら、小高い丘の上に1本の杉の木。風はそんなに強くならないだろう。垂直に振ってくる雨であれば、あの杉の木の幹に体をくっつけてさえいれば、大丈夫だろう。
私が一本杉に辿り着いて程なく、雨は降り始めた。
『ぽた、ぽた』という雨音から『ざぁ、ざぁ』という雨音に変わるまで、ほんの数分だった。一本杉に背を預け、目を閉じて耳をすませても、雨音ばかり。雷の音など聞こえない。この場で雨宿りをしても安全なようだ。
この小高い丘から見える遠くの草原は、まだ晴れているようだ。遙か遠くの方の草原で太陽が照り輝いているのが分かる。
この雨はいつ止むのだろうかとボンヤリと空と草原を眺めて居たら、こちらへと走ってくる人影。フード付きの外套を被っている。旅人だろうか。どうやら、その人もこの一本杉を目指しているようだ。
「やあやあ。これは酷い雨だね。私もここで雨宿りさせてください」と、一本杉に駆け込んできてその人はそのような趣旨のことを言った。雨音で聞き取りずらかった。私は言葉は発さず、軽く頭を下げた。
一本杉の真下に入ってからその人は外套を脱ぎ、水気を払う。外套に着いた水滴を払う際に、私に飛ばないように気を遣っているように思える。そういう気遣いは出来る人のようだ。草原に男女2人という間だし、雨宿りをするにしても、その人となりに感心を払わずにはいられない。私は内心、少し安心をした。
だが、フードを取ったその人の姿に私は唖然とした。金髪の髪。青い瞳。ため息のでそうな美丈夫。彼は、この国の王子だった。