デザートのあとが長いんですが!
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よろしくお願いします。
明るかった外も、いつの間にか夜の気配が漂いはじめていた。
電灯の明かりはすでに、辺りを照らし始めている。
あの後すぐに、ひーくんパパも帰ってきて、みんなでのごはんとなった。
私にとっては、ほんとに久々の大勢での食事。
いつもはお母さんを待って2人で食べるか、忙しい時は1人で食べるかだから、こんなにたくさんで夕飯をいただくなんて・・・中3の修学旅行以来かも。
お母さんたちはずっと笑いながら話しをしている。
ひーくんママ、もとい恵美さんも、ひーくんパパ、もとい亮さんも覚えてる。
時々、ひーくんから強〜い視線を感じたけれど、久々に会ったひーくんがあまりにも変わりすぎていて、まともに見ることができない。
・・・へたれでごめんなさい。
ひーくんの方を見て話しをすることはできなかったけど、みんなで過ごす時間はすっごく楽しくて、あっという間に時間が過ぎて行った。
恵美さん特製のデザートもいただいて、そろそろお開き・・・なんて時に、事件は起こったのである。
「杏、ちょっと話しがあるの。」
「? なに?」
「驚かないでね。」
「?うん??」
「お母さん、恵美さんたちの後任として、3ヶ月間海外に出張になったのよ。」
・・・
「かっ海外・・・?」
「そう。」
「そ・・・んな、突然・・・。」
「そうなのよ。それでね、杏は学校があるでしょ?」
「あ・・・。」
その言葉で、全てを悟った。
そっか。
ひーくんの次は、私が海外に行く番なんだ・・・。
「分かった。」・・・そう、口を開こうとした時だった。
「お母さんがいない3ヶ月、杏は武藤さんちにお世話になる事になりました〜!!」
・・・・・・・。
『武藤さんちに お世話になる』・・・?
ん?
「え・・・っ、ええええええーーーーーーーーー!!!!!」
「ちょっと、十和子さん、杏ちゃんに言ってなかったの?」
「十和子さんらしいな。」
「えっ?ちょっと、お母さん!?何、どういうこと!?」
「どうもこうも、行った通りよ?」
「それじゃよく分からないて!!」
バン!と勢いよく、机に手をついて立ったから、座っていた椅子がひっくり返ってしまった。
ああ、よそ様のお家の家具を・・・と、頭の片隅に一瞬よぎった考えは、お母さんへの怒りと驚きで一瞬にして消えた。
「と、とにかく、3ヶ月の海外出張は決まりなのね?」
「そうなの。杏、いい子にしてるのよ?」
そう言いながら、三つ編みの頭をガシガシとなでる母。
もはや、この人の言動にいちいち驚いていたら、こっちが疲れちゃう。
半分あきらめモードで、自分を無理矢理納得させながら話しを続ける。
「お母さん、私、あのアパートに一人でも大丈夫だよ!?」
「それはダメ。」
「なんで?家事も大丈夫だよ?」
ようやく落ち着いて、倒した椅子をゆっくり直しながら、元の場所に座る。
お母さんは、相変わらず私の頭をガシガシなでているから、もしかすると髪が乱れているかも・・・。なんかもう、なるようになれって感じが・・・。
「杏は家事も大丈夫だし、一人でいいかなとも考えたんだけどね。・・・あのへん物騒でしょ?」
「大丈夫!それに、亮さんにも恵美さんにも悪いし!!」
「あら、杏ちゃん。うちならいいのよ?」
「そうだよ。むしろ、杏ちゃんにはこの家にいてもらった方がありがたいかな。」
亮さんと恵美さんは、にこにこしながらそう言った。
「あのね、実は私たちも明日から1ヶ月、十和子さんと一緒に海外に行っちゃうの。」
「は!?」
「杏、仕事には『引き継ぎ』っていうのがあるのよ?」
「・・・ひっ引き継ぎ!?」
「そっ♪だから、1ヶ月は聖くんとふたりでガンバってね!」
・・・。
・・・・・・。
「えええええええええええーーーーーーー!?」
「もう!杏ってば、騒がしい子ねぇ。」
「ちょっちょっと待ってよ!」
「だから、決まったって言ったでしょ?」
「えっ・・・決まってないでしょ!?だって、ひーくんだって迷惑じゃ・・・」
「ん?俺はいいよ?」
ひーくんは、私ににっこりと笑顔を向ける。
「えええええ???」
「うちとしても、聖一人じゃ心配だから、杏ちゃんがいてくれると安心だよ。」
「聖、杏ちゃんと仲良くね。」
いやいや。
幼なじみとはいえ、年頃の男女が2人きりで1つ屋根の下って、ダメでしょう。
けれど、「よかった〜」なんて話しているお母さんたちには、まるで通用しない模様。
ひーくんの方を盗み見ると、こちらも美しすぎる笑顔を私に向けていらっしゃる!
なぜ!?
「という事で、杏、3ヶ月間、いい子にするのよ?」
そう言うと、お母さんは持ってきた大きな荷物を私に渡した。
・・・ま、まさか。
そっと荷物の中を見ると、私の服や生活用品がしっかりと入っていた。
そんな訳で、「キング」と同じ屋根の下、居候生活が始まった。