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成り上がる?戦記  作者: 今野常春
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第六話

「なあブラッド君、良かったら私の従者としてコーンステッド家へ行ってみないか?」

 貴族専門で商いをするアブレット・ノートンは彼に尋ねる。

 ノートン商会は彼が一から立ち上げたお店で、小さなツテを生かして様々な人脈を形成するようになった成功者である。そんな彼が危惧しているのはコーンステッド家を中心としたこの城塞都市ウォータルの激変である。特に貴族が入れ替わる様な事があれば身の破滅であった。彼が商人となり早二十年が経つ。 貴族から節目の祝にと多くの商品を買ってもらったこと思い出すと、その苦労は半端なものではないと改めて思い出す。

「え、えーっと、どういうことでしょうか…」

 ブラッドは、突然の提案に思わず飲みかけていたカップを落としそうになった。

「簡単な話だよ。ローラ君の話しではシスターはコーンステッド家に囚われているのだろ。だったら調べてみると言うことだよ。幸いこれから行商に出ようと思っていてね」

 本来アブレットはロエト砦へと向かう予定であった。そちらでも貴族相手の商売が可能であったのだが、現在育てている者がやりたいと言ったことで、やらせてみることにしたのだ。実践に勝るものは無いとはよく言ったものである。

「つまり、アブレットさんはブラッドと共にコーンステッド家へと入り情報を集めようと言うことですね」

「そう言うことだローラ君。どうかなやってみないかね?」

 此処まで関わればブラッドは否とは言えなかった。特に仲間のローラが関わることである。何とかしてやりたいと言う気持ちが勝った。

「分かりました、やります。アブレットさん宜しくお願いします」

 そう言うと彼は直ぐに動き出す。今から移動を始めないと日が沈んでしまうからだ。最悪第一城壁の門が閉じられる可能性があった。アブレットは直ぐに人を呼ぶと幾つか指示を出し、ブラッドには着替えるようにと衣装を渡した。それに着替えて行商へと望むのだ。


「それじゃあ行ってくるぜ」

 ブラッドはローラとクラウディアにそう告げると、ノートン商会の一員として違和感なく溶け込んでその場を後にした。行商は馬車四台に山ほどの物資を積載して移動する。街中とはいえ貴族に販売する品を乗せている為に、馬車には護衛が付いている。ブラッドはアブレットの弟子見習いと言う立場で、今日初めて現場を体験させると言う設定で潜り込んでいる。常に先頭を行くアブレットの斜め後ろに着き従って歩いている。

 馬車四台が纏まって移動するのは内のエリア、貴族のエリアへと入るまでだ。四代はそれぞれ決められた場所へと向かう。行商をするにあたり、相手の趣味・趣向は調べることは必須だ。そこから何を欲するか、までを考えるのが彼等商人である。各馬車にはそれぞれに合った内容の物を積んでいる。当然アブレットはコーンステッド家へ向かう。


 アブレットとブラッド、さらには護衛は無事コーンステッド家の屋敷へと辿り着いた。顔パスとはいかずアブレットは証書を門番に見せる。確認が取れると奥から別の兵士がやって来て護衛の兵は此処でお役御免となる。


「久しいなアブレット。今日は父ではないからお前の品を購入することないかもしれないぞ」

 正面玄関前に馬車を止めると荷を解き次々に屋敷内へと商品を運び入れる。これを行うのはコーンステッド家の使用人たちだ。応接間へ難なく運び入れ、アブレットとブラッドは待つこと暫く、件の当主代理であるマクコットの長男ライストリが現れて言葉を発っした。

「お久しゅうございます、ライストリ様。この度はお父君の御戦勝誠におめでとうございます。つきましてはそれを祝うに当たり本日参りました次第です」

 実に滑らかに話すアブレットにブラッドは驚きの連続であった。目の前に居る明らかにマクコットの血を受け継いだ男が居る。年を重ねれば確実にマクコットの様になるとブラッドは感じ取った。

「なるほどな、そう言うことにしておこう。それでその男は誰だ。今まで見たことは無かったが」

 ライストリはそう言ったことは絶対に忘れない男である。貴族は人付き合いを非常に重視する。特にパーティー等で一度会った、見たなんてことは良くあることでも知り合いとしてカウントされる。そして次回仲の良い体で現れるのだ。その時名前を覚えていないなどはあってはならない。彼はその様なことが無い記憶力を持っている。

「流石ライストリ様でございますな。此方に居るのは私の弟子見習いであるトーエと言う者にございます。我が商会は実践に勝るもの無し、と言う言葉を座右の銘にしておりまして。本日連れて参った次第にございます」

 この言葉はアブレットがよく従業員に使用する言葉で、ライストリも度々彼から耳にしていた。

「なるほど、確かに此処は一番実戦としては上位に入るな」

 ライストリは現在子爵である。しかし、時期コーンステッド家の当主、即ち侯爵位を襲爵する立場である。最初からウォータルで最上位に位置する所で商いを見せれば想像以上の経験が彼に入るであろう。

「はい、我が商会の意向で勝手に連れて参りました事を謝罪させてください」

 アブレットはそう言うと頭を下げた。

「よい、気にするな」

「お心遣い感謝いたします。トーエ挨拶させて頂きなさい」

 そう言ってブラットへと視線をやる。

「はい、旦那様。初めまして、本日ライストリ子爵様に御意を得ますトーエと申します」

 あまり多くを述べる必要はない。初見の場合は形式ばった挨拶でいいのだ。

「うむ。しっかりと励めよ」

 それだけ言うとライストリはアブレットへと視線を戻す。此処からが商売の始まりである。基本的な商品は女性物が多い。至る所から集めた装飾品やドレスと言ったものである。ライストリは後ろに控える執事へと声を掛けると、直ぐに煌びやかな衣装を纏った人間が現れる。

 この家の女性たちだ。全部で五名がアブレットの持ち込んだ商品を見定めては身に着けたりしている。ブラッドはそれをただ見ているだけである。丁度彼がアブレットの商人としての動きを見ている時だった。彼の後ろから声を掛けられる。

「貴方見ないお方ね。それに商人らしくないわね…どなた?」

 ブラッドが振り向くと髪はショットカットに切り揃えたプラチナブロンドの女性が立っていた。見た感じは騎士団などに所属するような服装であるが、彼女が発する高貴な雰囲気がこの家の関係者と思わせている。

「トーエと申します。本日は旦那様からお許しを頂き此方へ参らせて頂きました」

 即席ではあるがノートン商会に居る間に仕込まれた礼儀作法である。付け焼刃ではあるが違和感は無かった。

「そう…ねえお父様。彼に訓練相手に成って頂いても宜しいかしら?」

 ブラッドにはその質問に対する答えは用意されていない。全てはライストリの胸先三寸である。ライストリはちらりとアブレットを見る。彼は頷いて返答をする。

「構わないぞ、イリエナ。トーエ済まないが娘の相手をしてやってくれ」

 それだけ言うと視線は再び商品へと戻す。


「さあこれでいいわね」

 老執事を含めた三人は広い庭先へと出た。イリエナは木刀を持ってこさせると一本をブラッドへ投げ渡した。

「いいかしらトーエ。わたくしイリエナは手を抜かれる、と言うことが我慢なりませんの。ですから本気で掛かっていらっしゃいな。わたくしが怪我をしても何もありませんわよ。それにもし貴方が勝ちましたら、わたくしが一つ何でも言うことを聞いて差し上げますわ!」

 彼女はそう言うと木刀の切っ先をブラッドに向ける。最早ブラッドには戦う以外に道は無くなった。老執事は二人が構えると合図を出した。

「先手必勝ですわ!」

 どこかに魔石を仕込ませているのかイリエナが異常な加速を見せる。両手で持つ木刀を右上段から振り下ろす。しかし、ブラッドは右足を後ろに引いて躱す。

「あらやりますわね。まさか初撃を躱されるなんて…面白いですわね」

 イリエナは直ぐに後ろへと戻ると、ぐっと力をためて再度ブラッドに突進する。

 今度は数で勝負、とばかりに一撃必殺でなくダメージの蓄積を計る。上段、下段からの振り上げ、振り下ろしに加え左右から横薙ぎと攻撃のペースが緩まない。中には足蹴りも攻撃の最中に盛り込んでくる。

 それでもブラッドは冷静に対処している。躱せる所は躱し、防がなければならない場面は力を受け流して刃を逸らす。そうやってイリエナの体力を削る作戦に出ていたのだ。特に躱された時のダメージは意外に大きい。

「中々やりますわ。こんなに殿方が強いとは思いもよりませんでしたわ!」

 徐々に、周囲からでは分からないが剣の速度が鈍りだしている。そうブラッドは判断した。イリエナ自身も気が付かないほどの微細なものだ。しかし、それが彼の狙いである。

「何時までも避けるばかりでは面白くありませんわね。貴方も攻撃してみなさいなっ!!!」

 最後の言葉を言い切らせる刹那ブラッドは動く。呼吸の合間を狙ったのだ。一度剣を振るう場合、呼吸を入れて振るう。ブラッドは呼吸した時を狙ったのだ。これが一番無防備になり易い。

「キャッ…やりましたわね……良いですわ。貴方本当に何者なんでしょう。商人にしておくのが勿体無いですわね」

 イリエナはブラッドが敢えて後ろへと下がったことで、幾分の余裕を持っていられた。当然次にあるのは鍔迫り合いである。そう直感が両者に告げるとほぼ同時に距離を詰める。先に動いた方がより距離を稼ぎ加速を得る。

 先に動けたのはブラッドだった。互いに右上段へと振り上げた木刀を振り下ろすと、二人の顔の前で木刀がぶつかり合う。勝負は一瞬だった。

「キャ」

 衝突のはずみで木刀は砕け散った。体格の大きいブラッドと衝突すれば当然イリエナは勝てないだろう。しかし、彼女には魔石による加速があるのだが、体力は別である。それが勝敗に現れたのだった。

 イリエナは可愛らしい声を上げると後方へと弾き飛ばされる。執事はそれまでと言い残すと彼女の元へと掛け寄った。

「イタタ、貴方トーエだったかしら。まさか、わたくしに勝つなんて本当にやりますのね」

 イリエナは執事に抱え起こされるとブラッドを称賛した。二人の激しさを物語る様に地面の至る所が抉り取られていた。綺麗に整備された芝が無残な姿である。

「中々見応えのある戦いで合ったな」

 ブラッドの後ろから声が投げ掛けられる。ブラッドが振り向くとライストリが立っていたのだ。


 イリエナ・コーンステッドは父にライストリ子爵、祖父にマクコット侯爵を持つ。コーンステッド家の直系である。長女として生まれ、上に兄二人、下に弟と妹を会わせて三人いる。そんな彼女は淑女とは程遠い性格の持ち主である。言葉づかいこそお嬢様?らしさがあるものの、武術を好み馬術を嗜み、見る物と言えば過去に起こった戦争を纏めた書籍である。年齢は十六とブラッドと変わらない年齢で、まさに結婚適齢期である。では見た目はどうか、誰が見ても美人であると言葉を揃える。お世辞抜きで彼女には美しさと気品を持ち合わせている。スタイルも申し分ないのだが結婚へと至らないのは、単にその性格である。侯爵家の孫と言う地位、誰もが羨む美貌、そんな彼女には毎日のようにお見合いの話しが舞い込んでくる。付き合い程度で合っては見るが彼女が男に求める物は自分より強いことである。立場、財力そんなものはどうでもよかった。唯一彼女より強いことその一点をイリエナは求めたのだ。


「ライストリ子爵さま申し訳ありません。お嬢様に怪我を…」

 ブラッドは再びトーエの態度に戻る。戦闘中はブラッドであったが今は違う。

「気にするな、トーエ。いやブラッド・レイフィールド」

 ライストリ子爵から思いもよらない言葉が彼に突き刺さる。まさか何処でばれたのかと一瞬で頭の中を疑問がわき上がる。

「なんでと言いたそうだな。簡単なことだ、我がコーンステッド家に君の戦いを見たことがある者が居てな。その者が教えてくれたのだ」

「そ、そんな…」

 ブラッドはばれた場合のことを想定していなかった。必ず上手くいくとどこかで勝手に思い込んでいたのだ。

「ああ気にする必要はない。アブレット、君も罰することはしない。むしろ何かあったからこうやって此処へとやって来たのだろ?」

 ライストリから見るとブラッドの表情は蒼白くなっていた。血の気が引くと言うやつだ。アブレットも多分にもれず、最悪死を覚悟した。

「こんなところで話すことも無い。先ずは汗を流してこいブラッド!」

 そう言うとライストリは使用人に声を掛けこの場を後にした。従者や使用人の大半は彼に着き従い、居なくなる。残されたのは彼とイリエナ、そして命令された使用人と執事であった。


「ほうそれが君の素顔か、中々イケているではないか」

 風呂へと案内され埃、汗をしっかりと落とすと専門の人間がブラッドの身嗜みを整える。さらには服装もコーンステッド家の家紋が刺繍された物が用意されていた。それに袖を通して使用人に案内された場所は広間だった。ライストリはブラッドを一目見て褒め称えた。

 席へと案内されるとそこに居たのは…

「おっさん!」

 ロエト砦戦役でも共に戦ったドワーフのロワンデルであった。彼は貴族が周囲に居てもお構いなしに酒を飲んでいる。

「久しぶりじゃなブラッド元気にしておったか?」

 ラッパ飲みの酒瓶を掲げるとそう言った。

「ブラッド、先ずは座れ。話しはそれからだ」

 ライストリは良く通る声で彼に言う。それだけで体が彼の言葉に反応した。席は右にイリエナが、反対にアブレットである。イリエナ側にはライストリと彼の妻が席に着いている。反対にはロワンデルとライストリに少し面影のある子供が座っていた。子供の名前はレイオンと言い彼の一番下の子供である。

「どこから話しをしたものか…」

 ライストリは顎に手をやり話しを整理している。ロワンデルは普段と変わらず酒を飲んでいる。イリエナは先程とは打って変わり大人しいお嬢様となっている。

「それじゃあロワンデルさんがどうして此処に居るかを教えてください」

 もう彼がライストリに話したとしか考えられないブラッドはそう尋ねた。

「そうだな。彼は元々領内にある鉱山開発の責任者なのだよ。しかし、後継者も育ちそろそろ外を見て回りたいと父、マクコットへ願い出てな。以降冒険者としてこの国を回っているのだ。今回は偶然当家が行った遠征に加わっていただけの事だ。そして久しぶりにと家で休んでいた訳だ」

「そう言うことじゃ。しかし驚いたぞ、お主が商人の弟子見習いとして此処へと来たことにな」

 ロワンデルは笑いながら言った。それは偶然が折り重なっていた。最初彼は商人のアブレットがやって来た時お酒の試飲を楽しんでいた。偶然酒を扱う商人がやって来ていたのだ。そして暫くすると、玄関口で大量の品を前にコーンステッド側の女性が品定めをしている場面に出くわす。未だ酔うと言う状態では無いロワンデルは、しっかりと商人一行を捉える事が出来たのだ。さらにはイリエナがトーエを庭へと引きずる様子を見て、近くを通りかかった使用人へと尋ねた。使用人は彼等の事を近くで見聞きしていた為に、その状況を事細かに話していたのだ。

 そしてロワンデルがよく知るブラッドの動きが確認できたところでライストリへと話したのだ。

「まあそうだろうな…」

「ところでブラッド、君は娘のイリエナをどう思う?勿論先程戦っての話しだ」

 威厳に満ちたライストリではあるが実は娘が大事なパパさんであった。内心では娘を結婚させたくはないと常日頃から思っていたのだ。親子で思いが似通っていた。

「そうですね…」

 ブラッドは一瞬イリエナを見る。これはハッキリと言って良いものかと悩んでのことだ。

「構わないハッキリと言ってくれ。そうした方が娘の為だ」

 この言葉でブラッドも胸襟を開いて話しを始める。

「では、筋は悪くありません。私は先日冒険者ランクがAとなりました。速度、打ち込みの技術、体力と申し分ないでしょう。ただ…」

 ブラッドはここで言い淀む。あくまでもあれは摸擬戦である。ある一定のルールでならば彼女は強いのだ。しかし、これを殺し合いと言うステージへと上げればその限りでは無いと感じていたのだ。

「ただ何だね?」

 ライストリは早く答えを知りたいのか先を急かす。イリエナも同様であった。

「こと戦場でと言うのであれば弱いです」

「なっ、どう言うことですの!」

 これには本人が動揺を隠しきれなかった。一度褒めてられて、叩き落とされた彼女は怒りが込み上げて来ていた。今にも噛み付かんばかりである。

「殺気ですよ。貴方には殺気がない。つまり命を取られるかどうかと言う極限で戦って来た私としては貴方の動きが単調に写ってしまうのです。思い出して下さい、貴方の攻撃は私にダメージを与えましたか?」

「い、いいえ…わたくしの攻撃は一度も貴方に当たりませんでしたわ」

 ブラッドに言われ戦闘中の事を克明に思い出す。手数は圧倒的にイリエナが勝っていた。しかしその一撃が最後まで入らなかった。

「命のやり取りはその一瞬が本当に後悔のもとになります。ああすればよかった、と思う前に絶命しているかも知れない。だから何が何でも初撃を入れる、成功させる。また絶対に殺されない、殺してやる。様々な感情が渦巻くのです。それが貴方には感じられなかった。貴方が行っているのは剣術です。私には通用しない、唯それだけです」

 ブラッドは遠慮することなく、堂々と話してしまったことに今に成って気が付く。隣に居るイリエナは完全に泣くのを我慢している状況だった。一瞬声を掛けようとしたとき、イリエナは勢い良く立ちあがるとこの部屋を後にした。


「追わなくて良い。娘には良い薬だ」

 ライストリは追おうとする使用人らを留めた。心を鬼にしてや千尋の谷に突き落とすと言った所である。

「済まんなブラッド。損な役目を負わせてしまった…イリエナには丁度良かったのだよ…」

 ライストリは訳を話した。彼女は生まれてからと言うもの、男勝りな性格で腕白であった幼少期。二次性徴を遂げている今もその感覚が抜け切れていないこと。さらには一度も負けたことが無いと言う中で、男を軽く見ていると言うことを彼は語る。自身を持つのは良い、しかし、負けたことを知らない人間が負けた相手の気持ちを知ることが出来るのか。この先男を軽んじて見れば必ずしっぺ返しが待っているであろうこと。貴族の世界は男女ともに、嫉妬と恨み辛みがが入り混じる世界である。つまり娘の将来を不安視していたのだ。イリエナがあの瞬間にブラッドに恋心を抱いたことは話さなかったが、それ以外は全てを話した。

「気に為さらないでくださいライストリ子爵様。傷つけてしまったことには変わりありませんが、彼女はこれから強くなりますよ!」

 ライストリはこの時思った。勘違いしている人間をイリエナに当ててしまったことに…彼は娘がお淑やかに、なればいいと思って彼を嗾けたのだ。それがどうもブラッドは勘違いしていた。


 以後軽く出された食事を食べ終わると、ライストリとロワンデル、ブラッドにアブレットの四人は狭い部屋へと移動した。入り口が狭く、部屋の中は薄暗い、さらには窓が無いと言う造りである。

「さて此処は防諜対策がなされている。今回我が家へと赴いた理由を話して貰おう」

 ライストリは、嘘は許さぬと言った目つきで二人に話す。二人は見つめあって出来もしないアイコンタクトを行っていた。

「安心せい、ブラッド。ライストリの坊ちゃんはお主らが思っている様な事はせんよ。今は包み隠さず話すのじゃ」

 ロワンデルは安心させようと気さくに声を掛ける。これが功を奏してかブラッドがポツリポツリと話しだす。


 事の起こり、南教会に安置されているゾルキスト像の破壊の件から始まった。ここでアブレットも知らされていない、アルノバの木の伐採の件も包み隠さず話す。その時の三人の顔は面白い物である。さらには南の教会にいるシスターが此処に囚われたこと、その人物を罰する為に聖光騎士団が明日到着することである。さらに、情報が錯綜する中、アブレットと利害が一致して此処に至ると言うことを説明した。

「なるほど…ブラッドは相当優秀な冒険者なのだな」

 コーンステッド家も冒険者ギルドに大量に注文を出している。もう何件も出していて古いものでは五年は経過している。それだけ困難な依頼をこなす程だ。冒険者では無いライストリでさえ理解は容易であった。

「当然じゃライストリの坊ちゃん。ブラッドはマクコット様から王国大金貨を頂いてもいるんじゃ」

 ライストリは初耳だったのか笑いだした。

「そうかそうか…ブラッドはそれほど優秀だったのか」

 そこで話しを区切ると雰囲気を変え真剣な面持ちに成った。


 最後までお読み頂きまして有難う御座いました。お嬢様と言えば的な感じで出しましたイリエナと言う少女。まああのしゃべり方は現実ではあり得ないでしょう。だからこそ小説の世界では登場させたかった。そう考える今野常春でございます。

 

 誤字脱字等御座いましたならば御一報頂けると幸いです。

 それでは次話で御会い致しましょう。

                今野常春

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