第五話
ブラッド等がウォータルへと戻り、依頼主である三日月亭の主人スマットへと報告をしようとしたところ思いもよらぬ話を聞かされる。
『シスターの逮捕』
メルストン教はセント王国の国教として保護されている。王国内各地には教えを説くべく、数多くの教会が設置されている。各教会には必ず神父(司祭)が居る。しかし、南ウォータル教会では前の神父が年齢により引退し、その間シスターであるアンナが一人で運営していた。
そんなときである。彼女が目を離した隙に英雄ゾルキスト像が破壊されていたのだ。当時教会内は彼女一人であった。敬虔な信徒である彼女がその様なことはしないであろうことは、誰にでもわかる話であった。さらに、日を追うごとに窶れる彼女を見て居たたまれなくなるほどだった。そこで南部の人間が立ち上がる。ゾルキスト像を新たに作成しようとしたところ、素材が希少なアルノバの木であった。そこでブラッドたちにスマットは事の経緯を説明して採って来て貰うことした。
そして話しは今に戻る。
ブラッドはそれとは別件の冒険者ギルドの依頼達成報告をするべく、クラウディアとギルドへと向かった。ローラはスマットから話しを聞く為にスマットの家に残ることになった。
「ブラッド、何か変な方向に話しが進んでいるわね」
まさかの事態にクラウディアは不安そうな顔で彼に話しかける。と言うのもこの南部のエリアが普段とは違う雰囲気なのだ。既に彼等はギルドがある中のエリアへ入っている。夜遅くまで活気のある町ではあるが、普段とはどこかが違うと感じていた。
「そうだな。それにしてもどうしてシスターが逮捕なんて…」
二人は極力周りに聞こえない様に話している。
「そうよね。私は分からないけれどシスターって事は敬虔な信徒なんでしょ。それが容疑者なんてね」
二人が話している内容は至る所で話されていることだった。噂レベルで、教会所有の騎士団が動き出していると言う話しも漏れ伝わっていた。これは王国が所有を認めている正式な騎士団である。貴族も騎士団を持つが、あくまでも見栄で名乗っているだけなのだ。
「教会の騎士団ってさ、裁判を行い処刑なども認められているんじゃなかったか?」
ブラッドはふと耳にした話に喰いついた。
「ええ、正式には聖光騎士団よね。確かにあそこは本部の権限が委譲されているわ。本部の総代司教と同等の権限だったはずよ」
クラウディアは思い出す様に声を絞り出す。曰く、騎士団は異教徒に対して弾圧を加え、メルストン教の教えに背いた信徒を罰する。そうセント王国では知られている。つまり、彼等が動くと言うことは、今回は後者である。罰することは即ち死である。此処の教えに反する罰則は全てにおいて死である。故に教えは絶対なのであった。
「そうか…ローラが話しを聞いているんだ。俺たちで何か出来ることがあれば協力はしようぜ」
そう話していると彼等は冒険者ギルドへと到着した。
「ああ済みません。依頼達成報告なんですが、マスターをお願いします」
ブラッドは一階受付でそう目の前の職員に言いつつギルドカードを提示する。職員は男性で、お待ち下さいと言い残すと奥へと向かった。ここだけは別世界である様に普段と変わらない活気に満ちていた。
「お待たせ致しました、ブラッド・レイフィールド様。マスターが御会いになります。三階へとお進みください」
男性職員はそう言うと前回も貰った許可証をブラッドへと渡した。
それを持ち二人は三階へと移動して、警備兵に許可証を提示し三階へと進む。
「へー三階はこうなっていたのね」
クラウディアは初めて来た場所を興味深そうに見渡していた。ブラッドはお構いなしに先へと進む。秘書室のプレートがあるドアの前に立ち、ノックをすると直ぐに秘書のフッロンがドアを開けた。
「お待ち致しておりましたブラッド様。マスターがお待ちしております」
前回はブラッドが開けたのだが今回はノックを待っていた感じであった。
「マスターお二人が参りました」
例の如くドアの無い入口手前でフッロンはそう言って奥にいるコロコト・ドローセンギルドマスターに声を掛ける。
「待っていた。中へ通してくれ」
奥からの声でフッロンは二人を手で指して奥へと案内した。
「よく来た二人とも。どうやら成功だったようだな」
コロコトは重厚な机を前に座っていた。そう言った彼は立ち上がると客席のある席へと移動する。
「二人とも此方に来て席に掛けてくれ」
その言葉に素直に従い越し掛ける。それから程なくフッロンがお茶を運んできた。
「それで…先ずは数を聞かせてくれ」
「えーっと、アルノバの木が千本、それに狼と猪合わせて約三百五十体だ。獣の方はそちらで数えてほしい」
コロコトはその数に驚かされた。依頼総本数の二十分の一にならんとする量を僅か三人で手に入れてきたからだ。
「おいおい本当か、ウソだったら承知しないぞ…って冗談だ。そんなに睨むなよ、まさかそんなに持って来てくれるとは思わなくてな」
コロコトはせいぜいが二、三百が良い所だと思っていた。依頼の処理もそれに沿って行われていた。嬉しい誤算であろう。彼は直ぐに秘書のフッロンを呼ぶと処理の数を増やすように指示を出していた。
「これでいいな。それじゃあ早速物の確認と行こうか…」
コロコトはそう言うと建物裏へと移動を始める。ギルド職員専用の通路を通り、階段を下り外へと出ると大きな平地が広がっていた。普段冒険者が持ち込む素材、依頼で必要な素材は此処に置かれる。今も職員がせっせと素材を移動させている。広場は建物を中心に半分に別れている。一つは職員が走り回る様に素材を保管している小屋があり、種類別に納められている。コロコトはもう一つの方を指差した。
「じゃあ、先ずはアルノバの木をあそこに出してくれ」
物が一切ないガランとした平地である。そして十数名の職員が待機していた。ブラッドとクラウディアは指定された場所へと次々にアルノバを出現させる。直径二メートル、長さ六、七メートルほどの木々が綺麗に置かれる。それだけで職員には驚きの声が上がる。枝はそのままではあるが面白いのはこの部分は手で取り払うことが可能である。職員はここで丸太として依頼主が求める物へと加工を行う。その為に集められた者たちは現れる木を丁寧に五、六人で一本を加工して行く。何れは増員も求めなければならないと作業状況を見てコロコトは判断した。
「しかし…改めて現物を見せられると凄い物だな……」
彼が驚く光景は全職員が思っていることだろう。事前に全職員へと通達があり準備していても悲喜交々と言った状態である。木、一本が一財産になる。貴族はその木に対し惜しげもなく財貨を投入する。あの家がそれだけ出すなら当家はこれだけ払う、と言ったことはざらである。
この後には獣の処理が待っていることは既に彼の頭には無かった。その時になると阿鼻叫喚と言ったものにこの場は変化し、コロコトは全職員に対して臨時ボーナスを出すことを宣言せねばならないほどであった。この場で人出が増えれば通常業務をしている者の負担が増すからだ。
二人はホクホク顔でコロコトの執務室でお茶を飲む。裏手広場で声を張り上げながら素材処理に当たる職員には申し訳なく思いつつも、それが彼等の役割と割り切っている為に罪悪感は無い。
「悪い、待たせたな。先ずは結果から報告する。アルノバの木は千本だ、これはブラッドが言った通りだな。で、獣だが狼が二百三十一頭、猪が百六十四頭の計三百九十五頭だ。未だに獣は捌き切れていないから最終的な報酬金額は判らんが、アルノバの木に対して…これだ、確認してくれ」
コロコトはそう言って紙を差し出す。割符五枚という文字が記入されていた。この国には一円が銅貨、十円が大銅貨で銀貨は百円、大銀貨は五百円となる。此処までが日本でいうところの硬化に相当する。お札では金貨、中金貨、大金貨がそれぞれ千、五千、一万に相当する。此処まではセント王国内の複数の貴族が鋳造許可を得ている。流通量は王国側が管理しているが劣化した貨幣を溶かし新たに造り上げることが可能になっている。それだけで莫大な利益を上げている。セント王国が続く限り鋳造利権は安定した利益を生み出すのだ。
此処までの貨幣は一般庶民が使用するものだ。だが、この世界は貴族という特権階級が存在する。それだけでは貨幣が足りなくなるのだ。さらに貴族に貨幣の鋳造権を与えては、何れ王家は力を蓄えた貴族に取って代わられるだろう。それを成さない為にはそれ以上の価値を生む貨幣を生み出すことであった。王国にはそれ以上の貨幣がある。
日本円で十万を王国金貨、百万で王国大金貨、一億以上で割符…小切手の様なものと理解頂きたい…と言う物になる。これらは全て王国が鋳造権を保持し、王家の家紋が彫り込まれている。全て職人による手作りである。此処に価値を産ませ、貴族を支配しているのだ。これを保持させることで家の価値を知らしめるバロメータとする。
ブラッドが賞金でコーンステッド家から貰った王国大金貨二十枚、実に日本円で二千万と言う額になる。但し、あの場に居た者での頭割である。つまりドワーフのロワンデル等三名を含む六名で分けることになっている。受け取ったのは確かにブラッドである。コーンステッドの天幕を後にしてからしっかりと十枚ずつに分けていたのだ。
つまり一人あたり三枚、日本円で三百万となる。ローラはそれを二年は何もしなくても暮らせると言ったということは年百五十万となる。それだけで暮らせる程の物価と理解して話しを進めていきたい。
「わ、割符五枚って…マジかよ……」
ブラッドは目が飛び出んばかりに紙に書かれている額を見やると、確認するようにコロコトを見る。体は諤々と震えている。隣に座るクラウディアも同じ状態であった。一庶民が王国大金貨を手にするのもあれなものだが、割符など一生涯目にすることはないのだ。
「まあ正当な価値だ。むしろこれでも安いと俺は思っているぞ。貴族はアルノバ一本に王国金貨百枚…王国大金貨十枚枚…までは払うとか言っているくらいだ」
最早庶民と貴族の貨幣価値は乖離が激しい。アルノバの木は一本王国金貨五十枚で取引される。これだけで五百万という金額だ。最大で王国金貨百枚は一千万と言う価値である。即ち王国大金貨十枚を支払うと言う貴族が現れる。アルノバの木は一千本、つまり日本円で五十億から最大百億が合計金額として考えられる。ブラッドたちは一割を貰ったに過ぎない。
「まあ正当な額として貰っておけ。困る物でもあるまい」
ブラッドたちはどうせ貰った額の半分は国に税として納めなければならない。つまり割符二枚と王国大金貨五十枚が手元に残る計算になる。
結局獣の処理は後日にと言うことになった。一日で終わらせるならばギルドの業務を停止させ、全職員を持って事に当たらねばならないからだ。大金にランクの昇格という思いもよらない出来ごとに半ば放心して二人は帰路に着いた。
「ただいまー」
二人が戻るとローラが二人を出迎えた。本来ギルドに行くべきはローラであった。このチームの金庫番である彼女はああ言ったことはお手の物である。
「お帰りなさい、二人とも。大分疲れている様ね」
ローラは二人がこうなると分かっている様な口ぶりだった。
「まあな、あんな金額見たのは初めてだ。ほらこれが現物だ」
ブラッドは、ポーチから税金を差し引いた割符二枚と王国大金貨五十枚を念じてテーブルに置いた。さしもの彼女も、想像していたとはいえ始めてみる大金に咽を鳴らした。
「流石に凄い金額ね…でもこれで馬車など移動に必要な物をしっかりと揃えられるわね」
彼等は何時までもこの街に居ようとは考えていなかった。であるならばこのお金で家を購入するはずだからである。長距離移動は馬車が必須である。身体能力強化をして移動しても馬車には勝てないのだ。
「そうだな、アルノバの木で馬車の製作を頼んでみるか。…ところでローラのほうはどうなった?」
「その事なんだけれど、明日にも聖光騎士団がウォータルへと到着するそうなの。シスターはコーンステッド家で囚われていると言う話しだわ」
この話しはスマットから聞かされて話しだ。ゾルキスト像の作成は直ぐに教会から許可が下りた。これはウォータルにある残り三つの司祭が合同で出したもので。ブラッドたちは先に予備として計三本のアルノバの木をスマットへ渡している。話しによれば木は既に職人へと渡され、早速作成に当たっていると言うことだった。
「ああ、俺たちも騎士団の話しは聞いたぜ。街中でも噂になってた。なっ、クラウディア?」
「そうね。それに雰囲気も少し怪しかったわね。どこか刺々しいと言うか…」
二人はギルドへ向かう途中のことを思い出しながら話しをしていた。
「そうなの…」
「でもなんでシスターは逮捕されたんだ?どう見たってあれを粉々に破壊するのは無理だろ」
木を伐り倒す時ですら失敗すると金属を相手にしている様なものなのに、とブラッドは経験者であるからこそ思うことがあった。話しを聞いていると像の原形は台座と脛位までで、後は木端微塵であったのだ。
「その話を聞いてもシスターが犯人だって思えないわね…」
クラウディアは経緯を聞いて余計に疑問が沸いて来ていた。誰もがそうなのだから仕方のないことだ。
「そうなのよ。でももう駄目よ、この決定は司祭様が決定され、コーンステッド家に要請されて行われたのよ。さらには本部へと報告して本部の意向により騎士団が向かっているの。もう後は裁判を待つしかないわ」
彼女はそう言うと残念そうにするだけであった。敬虔な信徒であるローラには教会が方針を固めた以上反論は許されない。何とかしようにも手元には何もないのだから…
「なあローラ、これってコーンステッド侯爵は分かっているのか?」
ブラッドは未だにロエト砦に居るコーンステッド家当主のマクコットの顔を思い出した。いかに国教であるメルストン教であろうとも騎士団を貴族が治める街へと勝手に入れていい訳が無い。必ず許可が必要になるのだ。
「どうかしら、今は代理でコーンステッド侯爵の長男…ライストリ子爵が務めているはずだわ。でもどうしたのよ?」
突然のことに理解が出来ないローラはそう尋ねる。
「いや、向こうで侯爵と話したろ。あの人は狡賢い貴族では無くてさ、清廉潔白とまでは言わないけどさ。なんて言うんだろ…怪しい場合は調べ、徹底的に洗ってから判断すると思うんだよ。事実ロエト砦に近づくまでにも多くの偵察を行って、それでモロルンド男爵の存在が判ったんだし。今回だって、話しを聞いた俺たちですら怪しいと感じるんだぜ。あの人なら絶対何かするはずだろ」
ブラッドは対面した時に感じたマクコットの雰囲気がまさしく上に立つ者の風格であった。だからこそ、代理が勝手に決めて良い話しでは無いはずだと考えたのだ。これは下手をすればウォータルを治めるコーンステッド家の存亡にも関わって来る話しである。であるならば当主が帰還するまではこの件は現状維持で留めておくはずである。
「確かにそうだけれど…私たちは一度きりよ。侯爵様にお会いしたのは」
ローラはブラッドの言葉は一々御尤もと頷かざるを得なかった。しかし、それでも侯爵から見れば次期当主の腕の見せ所と思い、一任した可能性も考えたのだ。
「ねえ二人とも。私は侯爵様の事良く知らないけれど、詳しい人に話しを聞けば良いじゃない」
クラウディアは悩める二人にそう言った。その言葉に二人して誰とでも言わんばかりに彼女を見る。
「ほら私たちが戦場から帰るときに一緒だった…」
『アブレットさん!』
二人の声は重なり合うようにその名を発した。ロエト砦からウォータルへ帰る中、徒歩を想定したブラッドたち。しかしそこで運よく商人のアブレット・ノートンと知り合う。護衛の代わりに馬車に乗せて貰うと言う条件であった。三人は気さくな雰囲気のアブレットと気が合い、ウォータルへ到着する頃にはファーストネームで呼んでいたほどだった。
「そうね、アブレットさんならば貴族専門で取引をしている。もしかすれば侯爵様のことも何か知っているかもしれないわね」
ローラがこの言葉を発すると、善は急げと以前教えられた場所へと三人は駆け出す様に家を後にするのだった。
ブラッド等が住む南部外のエリアから東にある中のエリアへと移動した。三人は周りの人に場所を尋ねながら目的地へと辿り着いた。そこはとても商売をするような環境では無かった。暗がり、道は狭く匂いもとても商売に適さないものだった。
「こんなところに合ったのかよ…」
ブラッドは目の前にある大きな倉庫を見ていった。二棟連結された五階建ての煉瓦造りの立派な建物である。周辺の建物と比べても異色の存在感を放っていた。三階辺りにはノートン商会と書かれる看板も見られる。
「此処で間違いないわね。行きましょう」
ローラはブラッドに先を促す。進んでいくと屈強そうな大男が入り口前に佇んでいた。
「なんだお前ら、此処はお前らが来るような場所じゃねーぞ」
柄の悪い、黒く日焼けした大男は威圧するように言った。しかし、冒険者であり、傭兵でもある彼等にはどうってことは無かった。
「アブレットさんに会いに来ました。ここはアブレット・ノートンさんのお店で宜しいでしょうか?」
ブラッドは臆することが無く、目上の人間に対する言葉遣いで男に話す。
「ああん。確かに此処はノートン商会だ。だがお前ら平民だろ。そんな奴が旦那様に何の用なんだ」
「ブラッド・レイフィールドが会いに来たとお伝えください」
ブラッドはそれ掛け言うとそれ以上は口を開かなかった。威圧しても動じない三人を前にどうしたものかと悩んだ末に、男は待っていろと言い放ちこの場を後にした。
暫くしてドアが開くとアブレット本人が出てきた。後ろには先程の男も控えている。
「やあ久しぶりだね。あれから元気だったかい?」
アブレットは人当たりの良い表情で三人を出迎えた。後ろの男は何とも風雑な顔をしていた。アブレットは中へと案内すると階段を登ると一際大きな部屋へと案内する。
「さあここに掛けてくれ。…ヴァネッサ、彼等のお茶を出してくれ。…それで此処まで来て何かあったのかい?」
アブレットは確かに別れ際に此処を尋ねて来てくれと、言ったのを覚えている。しかし、あれは社交辞令を多分に含んでの話しで合った。まさか本当に来るなどと思いもしなかった。それ故に此処へ来ざるを得ない何かがあったと判断した。
「アブレットさん、南教会で事件が起こったことは御存じでしょうか?」
話しをするのはローラである。彼女の方が事件の話しに詳しいからだ。
「ああ聞いているよ、確か三日前の出来事だよね。教会に安置されているゾルキスト像が何者かによって破壊されたって話だろ。で、それを調査すべく聖光騎士団が此方に向かっているって話しだ。確か明日だったか…」
アブレットの話しで此処に来たのは間違いではないとローラは感じ取った。
「アブレットさんその話しはどちらで?」
明らかに彼女が聞いた話と違う点があり、それを確認すべく尋ねる。
「あんまり話しの出元は言ってはいけないんだが、俺も耳にした程度だからな…フォロート子爵家だよ。一昨日取引の為に子爵家へと向かったんだよ。そこでそんな話を聞いてな」
フォロート子爵家とはと再度尋ねると丁寧に説明を始めた。この家はコーンステッド家に代々仕える家系だとアブレットは説明する。特に当主はマクコットと幼馴染の関係で気心知れた仲というものらしい。現在は当主代理のライストリ子爵を補佐しているが本来はマクコットの右腕として動く人間だと彼は話す。
「でもどうしてそんな話を?」
ローラは事の経緯を掻い摘んで話す。彼の全てを信用した訳ではない為に、アルノバの木の話しは伏せてある。
「なるほど、シスターの拘束と裁判か…巷の情報には疎いからな。貴族様相手だとどうしても情報はそちらに合わせた話しになってしまう」
「いえ、私たちもアブレットさんのお話しで少し自体が掴めそうです」
彼女はそう言うと頭を下げる。
「おいよせよローラ君。俺はただ知っていることを話しただけだ」
「それにしてもどちらが本当の話しなんでしょうか?」
ブラッドはアブレットに尋ねる。彼には何が正しいかが判断できていなかった。
「それはだなブラッド君。両方の話しであり得そうなことは騎士団が明日此処へとやって来ることだ。さらに俺の話しは調査、つまり壊された原因を調べることだろ。それに対して君たちの話しはシスターは既に拘束されて裁判を開くと言う話じゃないか。どちらがより逼迫しているかは分かるだろ?」
彼の言葉にようやく納得する。
その時にヴァネッサがお茶とお菓子を持ってやって来て此処で一息という雰囲気となった。
お読み頂き有難う御座いました。今回は貨幣価値についての記述でつまずいた感がありました。アイデアと言う物は出無い時は出無い物なのですね…
誤字脱字等ありましたら御一報頂けると幸いです。
それでは次話で御会い致しましょう。
今野常春