第二十五話(後編)
後篇です…後編として纏まっているのかな……
情事の後と言うものは疲労感とは別に安らぐ、達成感だとか様々な余韻と言うものがあるだろう。アームストは少なくとも安らいだ気分を感じていた。
「ごめんなさい。本当は泣くはずじゃ…」
セレナはその先を言おうとして彼に止められる。
「違うな、抱きたいから抱いた。それでいいだろ…」
二人は暫く無言のな中時間を過ごす。先に動き出したのはセレナであった。
「もうすぐ日の出ね」
気が付けばカーテン越しに日差しが差し込み始めている。彼との付き合いの長さからタイムリミットを悟ったのだ。
「その様だな、後一日はこうしていられるな」
「そうね。国境を越えればこの様にはしていられないものね」
セレナは最後にもう一度彼に抱き着く。対してアームストも彼女を抱き締める。何度となくこの様に過ごしてきては名残惜しさを感じる二人であった。
「時間だ。そろそろ眠るとしよう。妹によろしく伝えてくれ」
「ええ、わかってるわ、アームスト」
そう言うとセレナから彼に口付けをする。
「前のお返しよ、おやすみアームスト…」
「おやすみ、セレナ……」
そうして彼は眠りについた。丁度、日が出たその瞬間のことであった。
王太子一行は暫く進むと帝国最北の街ユキトセンスに辿り着く。ここがセント王国とアレントル帝国国境の街と言っても良い。両国の仲が進展すれば国境に両国の街が出来る可能性もある。セント王国側は国境界線付近は王国が所有している。だが、セント王国西部の経済はウォータルとバブリャンコ間を中心とした経済圏が確立している。特に大消費地であるウォータルの流れが強い、その為に国境付近に出来るであろう街はコーンステッド家の色が濃くなるだろう。
「うーんこの辺りもまだ暑いわね」
セレナ改めシャリーは再びブラッドたちと行動を共にする。一行は夜再び行動を開始する。それまでは休むもどうするも自由と言うのが王太子の言葉であった。前日、ブラッドたちは送り届けた侍女セレナは幻の姫君と噂されたシャリー姫である事をアームストから聞かされた。
ブラッドたちは暫く休息を取っていると自由に出歩いているシャリーを発見する。野営地として簡易的に仕切られた中である為に危険ではないが、何とも不用心な姫だと思ったのだった。
その為にブラッドたちは彼女に付くことになった。あくまでも彼女は一侍女である。姫では無い為に護衛が付かない。ブラッド、ローラ、クラウディアの三人がシャリーの護衛として街中を散策する。早速シャリーは暑さに堪らず露出を多くして、近くで売っていた飲み物を購入する。そして冒頭の言葉である。
「なあ、シェリー良いのか俺たちだけで此処に来てしまって…」
ブラッドも一国の姫君であり、侍女である彼女の扱いに困っている。そんな態度であった。他の二人も同様である。これで年齢が変わらなければ良いのだが、彼らよりも四つは上と言うのも影響している。
「良いのよブラッド。ちゃんと爺には出掛けてくると言ってあるし、ほら飲む?美味しいわよ」
何を気に言ったのか彼女は自分が口を付けていた物を彼に勧める。雰囲気は違えど、イリエナと同じようなグイグイ攻めるタイプであると二人は見ていた。それも彼女以上の、本物のプリンセスである。
「いやいいよ。今は咽乾いてないし、美味しいんだろ。全部飲んじゃえよ」
ブラッドはそう言う性格で良かったと、本人が歳を取ってから述懐している。シャリーはそう言われては仕方が無く飲み続けるしかなかった。だが、間違いなく彼に気がある事は確認できたのである。
「ねえ、ブラッド。貴方たち本当は冒険者なのでしょ。冒険者ってどんなものなの?」
彼女の中では戦闘集団とは騎士団である。他にも兵士となる者がいるのだが王宮に居ればそれを目にすることはできない。口頭で説明を受けることぐらいである。だが、冒険者となると話しは別である。王宮貴族は冒険者と言うものを知らないのだ。
イリエナや彼女の父ライストリは確かに冒険者であるが、領地を持たない貴族は大概がその様なものである。王宮内での地位の確保と各人脈の維持拡大に心血を注ぎ、冒険者などをやっている余裕が無いのだ。だが、宮廷闘争に敗れればその限りでは無い…
時間までは暫くある。シャリーを含めた四人はこの街にある食堂兼酒場へと足を向ける。そこで冒険者などの事を話そうと言うことになった。住民に話しを聞きつつ移動して辿り着いたのは石造りの大きな建物であった。
「いらっしゃい!あれ、お客さん旅の人かい?見かけない顔だけど…」
営業中であるが店内の客は疎らである。丁度忙しい昼時を過ぎていたからだ。
「まあね。四人なんだけどお勧めか何か頼めるかな?」
こう言った場所ではブラッドが頼りになる。店主もフランクな雰囲気で彼と接している。
「四人だな、好きな場所に掛けてくれ。料理はそうだな…ケッペンだがいいかい?」
ケッペンとは羊の肉を使用した料理である。スパイスの効いた食べたら病みつきになるのが特徴な料理だ。彼等もアレントルへと来て嵌った口である。
彼等が席に付くと店員が水を置いていく。日本では当たり前だがこの場、この世界では大変に珍しいことだった。渇いたのどをこれで潤したブラッド達三人はシャリーの質問に答えて行く。とは言え、冒険者とは、と聞かれて明確にこれだと言える確かなものはない。日々の糧を得る為の手段と言うのが一般的だし、中には一か八かの活躍で貴族に叙される事を夢見る者もいる。短絡的に金が直ぐに稼げるや、自由気ままにやっていけるなどがあるからだ。
「ふーん、冒険者って言うのも大変なのね…それで、ブラッドはなぜ冒険者をしているの?」
此の質問が一番説明に苦慮するのだ。彼ら三人は農村出身の平民である。毎日農作業の合間に狩り等をして生計を支えていたのだ。特に成人として迎える年齢が低いのが農村である。十二歳を迎えれば、男女共に大人として村人に認知されるのだ。
三人は共に家が近く産まれもほぼ同じと言う中で生活してきた。何をするにも一緒であった。成長するにつれてブラッドは前向きな考えが、中心的な人物として必要な能力を備え始める。クラウディアは魔力に長け、ローラは知性的な、合理的な考えが出来る様な人間へと成長していた。農民として生涯を送るよりも一攫千金を狙える冒険者へと進んだ方がいいのではないか。そう、彼等の親は考え出した。
一方ブラッド達も冒険者と言う考えを進路の一つとして考えるようになる。人には無い能力があるのならばそれを使用しないのは勿体無いと言うものだ。しかし、その時はまだ十歳である。成人年齢となるまで二年の猶予があった。
詳しく、色々ぼかしつつ話しながらブラッドたちはシャリーへと冒険者になった理由を話した。それでも彼女はとても楽しそうに話しを聞く。よほど外の話しに飢えていたのだ。気が付けば料理も来てそれを肴に話しを聞くと言う事をしている。
「冒険者も大変なのねーでも羨ましいわ…」
これに彼女の全てが詰まっている。両者共にその立場にならなければ、絶対に分からない境遇である。
立場の違うものが互いを理解するためには、その者の立場に実際になればいい。考えると言うのは多聞に自分の経験則で物事を想像してしまう。だから、シャリーは大変なのねと言う言葉と羨ましいという言葉を使ったのだ。
「まあシャリーが思うほどでもないがな…それよりもそろそろ時間だぜ。戻らないと怒られる」
ブラッドはそう言うと会計を済ませる。三人は既に店を出て彼を待つばかりである。
「あーあ、もう少し一緒に居たいわ…そう思わないブラッド?」
店を出ればこれである。甘えるような声で彼女はブラッドの腕に抱きついてそう話す。しかし、相手は王族である。ローラたちにとっても拭いきれない壁と言うものがある。その壁が思いの他に分厚いのだ。イリエナには言えてもシャリーには言えなかったのだ。結局のところ数日我慢すれば良い訳で、彼女は悪く言えばお客様なのであった。
夕刻、例の如く王太子アームストが目覚める。それに合わせて彼の従者、護衛の騎士団も出発に合わせて動きが目まぐるしく成る。各言うブラッド達も同様である。しかし、彼等はセレナに呼ばれアームストの馬車に呼ばれていた。
「我が寝ている間またも妹が世話になったそうだな、感謝する」
そう言って二度目である。彼が頭を彼等に下げるのは。周囲からは見えないし、声も聞こえない。其れゆえの行動であるがされる方は心臓に悪いのだ。
「さて、今夜の移動で国境を抜ける。そこで、皆に申し渡さねばならぬ事がある。確実に襲撃がある、と言うことだ。いいか、冗談では無いぞ。既に情報を此方は掴んでいる。我が護衛もそれに合わせて万全の態勢で臨む。本来ならば貴様たちにも何かをしてやりたいが、それをすると相手に気取られる可能性がある故許せ」
彼は一方的に話すとブラッド達を解放した。時間の無い中での彼なりの最大限の配慮である。それからほどなくして一行は出発したのだ。帝国最北の街ユキトセンスを出てからも何事も無く進んでいる。この辺りは星空が雲海の如く煌めいている。少し場所が違うだけでこうも空が違うのかと思いながらのアレントルであった。
国境を超えるとやはり空気が変わる。国境線は地図上では分かるが、実際にはそれを示したバリケードが無ければ分からないものである。しかし、それでもブラッドたちは空気の違いを身を持って感じた。何だかんだと彼等はセント王国が母国なのである。それと同時に戦いの空気を感じるようになった。
これは命のやり取りと行って早四年が経過したブラッド等三人が感じるものだ。他にも騎士団やエルミナもそうである。イリエナはそれを感じてはいない。
程無くして先頭が本来通り道を変える。道を真っすぐ行けば問題なくウォータルへと辿り着くのだ。
「どうして道を変えますのブラッド?」
イリエナはブラッドに尋ねる。エルミナは話しを聞くべく前に移動していた。
「恐ら戦闘が起こると思う」
「そうね、私もブラッドと同意見。でしょローラ?」
「ええ、だから道を変更した。恐らくこの規模で護る事の出来る何かがあるんじゃないかしら」
そう言うローラの言葉は戻って来たエルミナの言葉で証明される。
「此処より先に正体不明の一軍が居るとのことです。現在、使い古された砦であった場所へと移動中とのことです」
そう言って移動する事僅か、朽ち果てた建造物へと辿り着く。どう見ても昔砦であったとは言えない造りである。
直ちに総出で補修に当たる。これには貴賎問わずである。アームストが参加している以上ただ事ではない事が窺える。
それでも簡単にしか行えないのが現状だ。何せ必要な資材が無い。マジックポーチを持とうとも中に何もなければ宝の持ち腐れである。と言う訳で馬車を二台を残し解体する。王家の馬車である。これは特注品である為に壊す事が出来ない。だがそれ以外は全て解体し砦補修の資材に当てる。
とはいえ岩と板を並べただけの造りである。千、二千が向かってくれば一溜まりも無い。
「皆ご苦労。先程偵察から連絡があった」
アームストは主だったものを集めてそう言う。此処にはエルミナが代表で参加している。
「丁度正体不明の軍勢が判明した。アオロント王国連合の衣装と判明した」
そう彼がうと周囲がざわめき出す。それなりに時間が立ったがロエト砦はコーンステッド家がしっかりと押さえている。つまりこの位置にその軍勢が居る事がおかしいのだ。
「落ち着け、話しを続ける。そいつらは自分の所属を示す旗を持っていない」
そう言うと一人の騎士団員が尋ねる。
「つまり殿下は何者かが化けていると?」
そう言うと彼は頷く。仮にも国境線付近は王家ががっちりと押さえている。加えて敵国兵が侵入してきて対処もしていないようでは統治能力が欠如していると言っても良い。それはコーンステッド家となる。 だが、その様な話しは一切ないのが現状である。ならば、同県がえても誰かが鎧だけを着て変装しているとしか考えられない。
この場にはアームストに忠誠を誓う者だけが付いて来ている。侍女、従者、騎士団共に個人的に忠誠を近く親衛隊である。政敵が誰なのかは誰もが知ることである。つまり、アオロントの兵に化けて攻めてくるのは第二王子アヌツルと第三王子アンセルの意を汲んだ集団である。
「エルミナ」
「はっ!」
「君たちにも戦闘に参加して貰う」
「元より覚悟の上で御座います。我らは殿下の盾となり御守りする覚悟で御座います」
それにはこの場に居る誰もが思うことである。エルミナらは飽くまでもコーンステッド騎士団の人間である。つまり、指揮命令系統が違うのだから、この言葉は暗に下に付いて欲しいと言うことである。
「恐らく日の出とともに襲ってくるだろう」
その言葉に皆が気を引き締める。即ちアームスト不在で防衛戦を行わなければならない事を意味しているからだ。御旗はシャリーである。此処では彼女を知らぬ者は居ない。立派に務めを果たせるだろう、そうアームストは考えている。
「我が居ない間シャリーが貴様等を導くことになる。まだ未熟な妹である。ルードルト、ハインツ頼むぞ」
『はっ、我ら親衛隊。必ずや御守り申し上げます!』
騎士団の二人は立ち上がり言葉を返す。
「暫く耐えればウォータルから援軍が来る。それまでだ、何としてもそれまでは防ぐのだ!」
彼の言葉で会議は終了する。エルミナは直ちにブラッド達のもとへと戻り話しを伝える。
「やっぱりか…いいぜ。やってやろう!」
「私、最近暴れていなかったからウズウズしていたのよ!」
「弓の腕衰えていないかしらね…」
「コーンステッドの領内で賊共が…許せませんわ!」
イリエナの中では二人の王子が既に賊扱いとなっていた。
夜明け、示し合わせたように砦に向かってくる集団が見えてくる。二階部分からはアームストとセレナがその軍勢を見ている。
「やはり来たな…」
「そうね、私の諜報網は完璧だもの」
「別に疑った訳ではないぞ。ただ、これからは明確にあの二人は敵となる」
「そうね。今までは明確な証拠を残していなかったけれど、それも今回でお終いね」
長かったと二人は思っている。アームストは偶然を装った事故から始まり、セレナは母を殺されてから互いの敵が漸く本性を現したのだ。
「直接指揮を執れんのが辛いが、それはシャリーに任せるとしよう」
そう言って彼は馬車の中へと入って行く。
「任せてよお兄様!このシャリーが必ず勝利へと導いてみせるわ!」
彼女はそう言ってもう一台の馬車で目覚める。彼女にとっても大好きな兄と姉の様なセレナを苦しめている二人を快く思っていない。いや、明確に敵だと判断している。血が濃いからこそ、その憎悪と言うものは計りしれないのであった……
最後までお読み頂き有難う御座いました。
一応これで後編は完了と言う運びになります。三話で王家の血みどろのと言いますか、継承権とかで起こりうる政争を表現いたしました。
最近題名と内容が離れてるように感じます、今野常春でした。
それでは次話で御会い致しましょう!




