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成り上がる?戦記  作者: 今野常春
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第二十四話(中篇)

中編になります!

 第四夫人に斬り殺された侍女にも当然家族が居る。子が生まれた当時は、自分のせいで継承権が二位となってしまったとその侍女は考えていた。勿論正常な思考力を維持していた第四夫人はその事を責めることなく、今まで通りにしていればいいと話しかけるほどである。夫人の侍女は大体が縁者か気心知れた幼馴染を登用するのである。今回は縁者であり、幼馴染でもある。彼女の名はカミラと言う名であり、これでもれっきとした貴族の娘である。

 二人の関係は良好であった。普段二人だけの時は名前で呼び合うほどである。第四夫人であるサラが懐妊したと聞くと我がことのように喜んだのである。継承順位で負けて落ちこむカミラをサラは励ますほどである。


 だが、二人の関係はサラが第二子を産んだ辺りから変わり出した。変わったのはサラである。カミラは原因をサラの母親であることを突き止めている。室内から二人以外を締め出してはきつい言葉を産後間も無いサラに浴びせていたのだ。最初は気丈に振舞うサラであったが長続きするはずも無く、心が荒んでいった。

 やがてストレスと溜めこんだサラが取った行動は周囲の者への八つ辺りである。特にカミラへの攻撃が激しかった。対して、彼女もその原因の一端を担っていると思っているからこそ、どんなことにも耐えていた。


 この頃には周囲の人間もその異常さに気が付き対応を取ろうと試みた。だが既にその時期は失していたのだった。サラは誰の言葉も受け入れず、自分の良い様に解釈するようになり、全ての原因はカミラであると言い出す始末であった。王宮内ではその噂でもちきりで、各大臣らは対応に苦慮していたのだ。

 そして遂に事件が起こる。錯乱に近いサラが突然カミラの首を絞めたのだ。突然の悲鳴に駆け付ける者達は急いでサラの部屋へと入る。馬乗りになり両手で首を絞めるサラの姿が目に映った。


 駆け付けたのは全員が女性である。その為、錯乱状態である彼女を取り押さえるのには大人数を要する事に為る。何とか引き剥がし、サラを落ちつける。カミラは咳き込みながら空気を取りこんでいた。

 しかし、そこで思わぬ隙が生じたのだ。カミラを介抱している女中は目を違う方へと向けて誰かに話し掛けている。サラを抑えている者は大丈夫と自己判断で拘束を解いていた。


 その瞬間をサラは見逃さなかった。壁に飾ったある宝石がちりばめられた剣が飾ってあった。それを手に持つと規制を上げてカミラの首を刎ねてしまったのだ。目の前で見せられた女中は悲鳴を上げそのまま失神してしまった。事此処に来ては王宮警護を任せられている部隊が出るしかなかった。奥向きの事で当初は不介入を決定していたのだが、人を殺すまでに発展すれば仕方のないことであった。


 実は気を失った女中が最後に見た光景は首を刎ねた後であった。切れ味鋭い宝剣はスパッとカミラの首を刎ねた。首だけになった当初は目を見開いた状態であった。しかし、その後首だけとなったカミラが安堵の表情に作り変えたのだ。これを見て女中は気を失ったのである。


 此処までがあらましである。カミラの母親もまた王宮務めをする者であった。位も娘以上である。サラ付きの侍女が娘であることから、サラが生んだ子供は彼女が教育を行う事が決まっていた。未だ幼子である二人。カミラの母はこう考えたのだ。全ては第三夫人、クリスティーナとその一派の責任である。アーネムル王に言及しないのは、彼がサラに慰めの言葉などを掛けて可能な限り尽くしていたからである。

 娘を殺され、未だに教育を任せられるこの状況。又とない好機である。そう彼女は考えたのである。貴重な駒として二人を教育する…この瞬間彼女は復讐に生きる女性となったのである。




 それからというものカミラの母、リサは必要な教育を施すと共にクリスティーナや息子のアームストの事を恨み骨髄に教え込んだのである。アーネムルは勿論他の妻や大臣等、王宮貴族にすら気が付かれることなくスクスクと成長した二人、見事リサの思惑通りに貴重な手駒へと為っていたのだった。


 アームストは第一継承権を与えられ、それに見合った待遇と教育を施されていた。王とは言えども全てが全て平等にとはいかなかったのである。年は十を過ぎた頃から教育と才覚を生かして人格者としての片鱗を垣間見えさせていた。とかくこの国の将来をこの年齢で考え、少しでも早く王であり、父であるアームネルの力に為りたいと一心に努力を重ねていたのだ。





「どうかなさいましたか?」

 セレナは物思いに耽るアームストを見て尋ねる。

「ふっ、あの二人の名を聞いて昔を思い出していたのだ」

 アームストは口に笑みを作って答える。

「ああ、そうでしたか…昔と言っても僅か十五年前では在りませんか」

「僅かでは無いぞ。既に十五年も時を費やしてしまったのだ。そう言えばセレナと出あって何年になるか…」

 アームストはそれでも昔を懐かしむ。実はクリスティーナ付きの侍女こそがセレナの母親である。彼女はクリスティーナがアームストを産む前年にセレナを出産していた。クリスティーナとセレナの母、ヘレイナもまた縁者であり、幼馴染であったとは皮肉である。ほんの僅かの差が天国と地獄を生み出してしまったのだから…


「物心付く前からですと二十六年ですね。私とアームスト様が同じベッドで育てられていたとは思いもしませんでしたが」

 これはクリスティーナの判断である。こうして子供のころは気兼ねなく二人は交流できたのである。当然成長していけば立場や性別の違いを意識するものだ。しかし、この二人にはその様な事は些細な問題としか映っていなかった。

「それを真剣に話していたヘレイナには笑ったものだな。本当に懐かしい…」

 アームストは件の二人を覗いては頗る関係は良好である。特に姉からは可愛がられ、下からは尊敬の眼差しを受けている。しかし、それでもセレナは彼に取り、特別な存在であった。その特別とは男女の仲と言う言葉も含まれてのことだ。


「そうですね…アームスト…あれから何度も刺客が送られましたものね」

 車内で二人は横並びで座っている。彼女はアームストの肩に頭を乗せて甘い空間をプロデュースしている。だが、話している内容は決して甘いものではない。これが二人の日常会話なのである。

「あれは十二の時だな。初めてセントカールの城下町へと出掛けた時だったな」

「そうですね、暴れ馬がまさか仕組まれていたとは…」

 それを皮切りに偶然を装った事故がアームストを襲う。時にはセレナごとと言うこともあった。調べて行くとあの二人に関係する者の仕業であった。


 そこで最初に疑われたのがリサである。二人の教育係を務めて、さらには彼等の意を汲んで行動も出来る。しかし、今だ十二歳と十一歳である。その様な事は出来ないと偶然の事故と処理されたのだ。此の事が後に悲劇をもたらす。二人が二十歳と十九歳のときである。アームストが剣術訓練を受け、その傍らでセレナも同様に受けていた。見学している者は数多く、この時はアーネムルを始め王族た騎士団の者、有力な領地持ち貴族等が集まっていたのだ。

 当然実母であるクリスティーナと侍女のヘレイナも同席している。クリスティーナは奥様同士和気藹々と談笑しながら子供の訓練を見ていたのだ。そんなときである。ヘレイナが突然二人の訓練へと飛び出したのだ。


 周囲はその行動に驚く。彼女がその様な事をするとは思わなかったからだ。飛び出した彼女はアームストを突き飛ばす。王家の多数が居る中での蛮行である。不敬罪が適用されて然るべきの行動である。

「ヘレイナ!」

 そう叫んだのはクリスティーナであった。ヘレイナはアームストを突き飛ばした瞬間ほぼ垂直に背中から腹へと鋼鉄製の矢が突き刺さったのだった。間違いなく暗殺である。突き飛ばされたアームストは最初は気が動転した。何故と言う気持ちが在ったが、よく見るとヘレイナが地面にうつ伏せとなり倒れていたのだ。


 セレナは混乱の極みである。母親の行動に最初は驚き、その結果茫然自失であったのだ。仰向けに起こされ、今はクリスティーナが抱いている。既に虫の息である。口から血を流し、とてもではないが治療など施す状況では無かった。周囲は既に騎士団が取り囲み周囲を警戒している。王を始め王族は直ぐに避難を行っていた。加えて他の貴族もである。残されたのは四人である。ヘレイナとセレナ、クリスティーナとアームストである。


「お、お母様…」

 既に血の気が引いている手をギュッと握りしめてセレナは声を掛ける。しかし、ヘレイナは声を出せないでいた。その代わりに彼女に微笑み、息絶えたのである。恐らく最後の力を振り絞っての娘に対するエールで在った。残った三人は等しく泣いた。アームストにとってももう一人の母に近かったからだ。


 事件後アーネムル王は激怒して各大臣を始め王宮警護、果ては騎士団までも叱責した。だが誰も反論できなかった。王が言う事は一々最もなことしか言わなかったからだ。その後の調べでは放った場所は特定出来ても犯人までは特定出来なかった。この報告に再度王は激怒する。これは不味いと貴族は連合し総力を上げて犯人捜しを行う。だがそれでも見つからない。そこでふとアームストに関係する事件を再度調べ直すことにした。一つずつ分けてみれば関連性が無い、単なる事故で片付けていた。しかし、繋げてみると作為的な者である事を匂わすことになったのだ。


 これによって浮かび上がったのがリサと言う女性であった。最初はああ、女性かで済んだのだが、経歴を調べて行くと二人の王子の教育係である人物と判明したのである。これには王家を始め貴族社会を大きく震撼させる。不敬罪どころの騒ぎでは無い、クーデターに近いものである。継承権を持つ者の教育者が暗殺を指揮していた。つまりは順位が上のアームストを殺して継承順位を繰り上げると言う事を画策していたのだ。


 この時二人の実母サラは幽閉されている。事の経緯が継承権であると考えれば自ずと犯人は絞り込める。王宮警護隊は速やかにリサが住む家に急行する。彼女も貴族の生まれである。しかし、この家はカミラ以外子が生まれず断絶が決まっていた家であった。そして現在はリサ一人が暮らしていたのだ。

 警護隊の兵はドアを家破ると中へと侵入する。虱潰しに探し出していると二階でリサを発見する。隊長は報告を聞くと自分で突き刺したナイフをそのままに、ベッドで無くなっていたのだ。だがその顔は穏やかな表情であったのだ。

 そもそも事の起こりは子が生まれたとの報告を扉を早く開けた者である。それはヘレイナが最初に開けた、よく考えればそれさえなけれ丸く収まったのかもしれない。リサは大分年を召している。娘のカミラが侍女になるほどだ。ヘレイナとカミラが近い年なのである。


 だがそれにしてもと隊長はリサを見て思った。余りにも白髪過ぎたのだ、頬も腕も足も体十至る所が皮と骨状態である。前日まではそうでは無かったことから全ては恨みを晴らすべく命の炎を燃やしていたのだと感じたのであった。




「母を失ってもう七年ですか…私も年を取ったものですね。母は私の歳では子供を産んでいましたよ」

 セレナに加えて双子の弟を産んでいたのだ。その二人は現在子の護衛の兵に含まれている。

「済まないな、お前を妻にしてやれなくて…」

 ここで、王位継承権一位の壁が大きく二人の前に立ちはだかるのである。次期王と目される彼は他国からの姫を迎えなければならない。今回彼がアレントル帝国に来たのも、国交樹立に際して婚姻を結ぶ為でもあったのだ。顔合わせも済み、次はセント王国での挙式を待つばかりである。他にも国内の有力貴族の子女を嫁に迎える手筈となっている。


 セレナの家系は貴族と言えども格は低い。どう望んでもセレナとアームストが結ばれる事はないのだ。貴族社会は政略結婚が主流である。セレナの父親は健在であるが、彼は娘をそうするつもりはなかった。つまりセレナの自由である。彼女は心に決めていたのだ生涯独身でいる事を、隣に居るアームスト以外とは結ばれないと。彼女の美貌は有名である。クールビューティーな雰囲気の女性である。結婚の話しも実家に届いているがその全てを断っているのだ。


「いっそのこと継承権を破棄しようか、とも考えた時もあるんだぞ」

「それはなりません。決して、決してその様な言葉口にも出さないで下さい!」

 そう言ってセレナは声を殺して彼の胸で泣いた。気丈に振舞う彼女も、目の前に存在する現実に押し潰されそうになるのを堪えているのだ。それがヘレイナが死ぬ瞬間に見せた顔である。あれが在るからこそ気丈に振舞えるのだ。『しっかり仕えるのよ』そうヘレイナが言ったようにセレナは思ったのだ。

「悪かった。お前を泣かすつもりはなかったのだ」

 そう言うとアームストはセレナの顔を上げて口付をする。泣いていようともその美貌は失われる事はないのだ。アームストには日中であるがその他の者は夜である。夜は始まったばかりであり、馬車は防音がしっかりと為されている。

 セレナが体を預けるのは自然な流れであった。




 彼女には夢がある。何時か、何時の日か人知れずアームストの子供を産み、育てたいと言うものだ。叶わぬ夢、届かぬ思いであるそれは、言い換えれば悪夢でもある。例え子を生しても、その子は庶子として王家で養われるのだ。だからこそ、彼女は彼の腕の中で抱かれるのであった。何時の日か、叶わぬ夢を実現させたいと願って……

 最後までお読み頂き有難う御座いました…

 疲れた!前話投稿から三時間、二話合わせると一万三千字程でしょうか…まさか投稿までに至れるとわ!!王子と侍女の叶わぬ恋をお届けしましたが如何でしたでしょうか?ちゃんと描けているか気になる所であります。


 ご感想、採点等お待ちしております。

 誤字脱字等々在りましたら御一報いただけると幸いです。

 それでは次話で御会い致しましょう。

               今野常春

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