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成り上がる?戦記  作者: 今野常春
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第二十一話

 順調にブラッドたちは移動し、無事アレントル帝国ドマニステルへと入る。アレントル帝国の国土はその大半が砂漠と言う環境である。ここドマニステルはオアシスを中心に発展を続けている都市である。またセント王国と国交を結んだことでドマニステルとウォータルを結ぶ街道が結ばれることでさらなる発展が期待されている。

 但し、セント王国の人間は覚悟しなければならない。


「あっつい!」

「暑いー」

「……」

「暑いですわー」

 此の暑さである。加えてブラッドたちはコーンステッド騎士団の出で立ちである。金属製の鎧が此処ではネックになる。セント王国は、西にアオロント王国連合を抱えている為に此方に回す戦力はない。だからこそ、国交を結んで友好関係を構築したいのだ。その証として王太子、即ち未来の国王が来ることで、相手を信頼し且つ未来永劫仲良くと言う意思表示を見せている。


「それにしても凄いなこれは…」

 ブラッドたちが目にしたのは種族の区別なく行き交う人々である。此処には差別など起こりはしなかった。と言うのも皆平等に暑さを体感してるからである。加えて貴重な水を取り合う愚かさは即命の危険へと繋がるのだ。厳しい中種族を超えて生きて行こうと言う考えが自然と生まれたのだ。

「それに暑くないのかしらね…」

 ローラは特に暑さに弱い。出発の際、アレクレシアから念のためにと夏用の鎧へと変更されている。さらには必要最小限まで脱いでも良いと許可を受けていた。彼女はその最小限に達していたのだ。


「お待たせしました。セント王国の人間と連絡が取れました」

 エルミナが彼等のもとにやって来る。彼女も最小限度に鎧を脱いでいる一人である。

「それでどうなるんです?いい加減クラウディアとイリエナを休ませないと不味いかと…」

 ブラッドが言うように二人は限界を迎えようとしていた。出発時から一貫して鎧を脱ごうとせず、此処までやって来ているのだ。既に茹で蛸状態である。曰く、どちらが最後まで我慢できるか勝負なのだそうだ…

「そうですね。王太子殿下とは明日御会い致しますので、問題は在りません。早速私たちの宿へと向かいましょう」

 彼女はそう言うと先頭を歩き始める。


 ドマニステルには敵から護るための城壁と言う物が存在しない。オアシスを中心に家屋等が立ち並んでいて行政機関が外側にあるなど歪な造りになっているからだ。街を造り直すには手遅れな状況であった。彼等は気が付けば街中へと進入していた。最初は不味いと思ったが、近くに居る兵士に話しをするととても気さくに対応されてしまった。その気質がアレントル人なのである。


「ここが私たちがお世話になる宿舎です…」

 エルミナは手に持つ紙を見ながらそう告げた。造りは立派で、材料は光沢のある石を積み重ねていた。

「はー凄いな…」

「場所が変われば建物も全く違うのね…」

 造りにも圧倒されているがブラッドとローラも暑さに限界を迎えている。

『……』

 イリエナ達は限界を超えていた…


 ブラッドたちが建物を眺めているとその中から人が現れる。

「ようこそお越しくださいました。皆さまがセント王国のコーンステッド侯爵、コーンステッド騎士団の方々ですね?」

 そう出迎えたのは犬族の者であった。体格は人間と等しいが特徴的なのは耳と尻尾である。まんま犬のそれに近い形をしている。

「はい、私たちはコーンステッド騎士団の者です。私はエルミナと申します。暫くの間宜しくお願い致します」

 そう言ってエルミナは頭を下げる。

「わ、わ。そんな頭を下げないでください!」

 聞けばこの国では頭を下げることは不満を意味しているのだそうだ。頭を下げることでお前の事は見たくない。それが不満であると言う意味に代わるのだそうだ。場所が変われば何とやらである。


 何とか馬を預けて室内へと入る。室内は何故かひんやりとした冷気が感じられる。

「ああ、涼しい…」

「だな、生き返る!」

 ブラッドたちは火照りすぎた体から熱が逃げて行くのを感じていた。

「す、すずし…い・涼しい!」

「れ、れいき…冷気ですわ!」

 その空気は彼女等も覚醒させるほどである。

「これはどう言う造りなのでしょう?」

 エルミナは犬族の使用人ハチに尋ねる。此処は貴族の屋敷なのだそうだ。この時期は避暑地へと移り住んでいる為、現在は使用されないと言う。ハチたちは、この日の為に此処に居ると言うのだ。


「これはですね。この国原産のコオル(せき)と言う石を使用しているからです。この石は自然と冷気を生み出す不思議な石なんですよ。ほら、此処を触ってください」

 ハチは説明しながらとある一角を示す。建物内の壁に所々埋め込まれている石がそうであった。サッカーボール程の大きさの石が冷気を生み出している。

「確かに、とても冷たいですね…」

 エルミナは驚いた。まさかこんなものがあるとは思いもよらなかったからだ。

「でしょう。この石で一部屋は軽く冷やすことが可能なんです。ですので快適に眠れると思いますよ」

 ハチは何だか嬉しそうに話す。尻尾がバタバタと揺れ動いているのが良い証拠である。


 その後も屋敷内を紹介しながら彼等が寝泊りする部屋へと通される。

「此処からが皆さまのお部屋となります。各部屋同じ造りですので、お好きな所をお選びください」

 そう言って案内された部屋はとてもセント王国ではお目にかかれないものであった。

「ああ、すげぇ…今までも凄かったけど此処は特に凄いな…」

 ブラッドが手前の部屋を開けると外壁と同じ光る石を使用し、天井も高く広々とした空間が存在していた。皆はぞろぞろとその部屋へと入る。

「これが一人部屋ですか…」

「二人、いいや三人でも暮らせるわね…」

 ローラとクラウディアはそう言って驚きを隠せない。


「こ、これは!」

 イリエナの驚きの声が響く。それに反応して皆がそこに集まる。

「どうしたイリエナ…」

「お、お風呂、お風呂ですわ!しかも見なさい!!」

 そう言って彼女は蛇口を捻る。すると勢い良く水が溢れ出てくる。それには一同が同様に驚いた。

「これは魔石を使用しているのですか?」

「ああ、これはですね。コオル石とモエル石を組み合わせた仕組み何ですよ。詳しくは分かりませんが…」

 ハチはシュンと項垂れる。同時に尻尾の垂れ下がる。これでは感情を隠すことは出来ないであろう。しかし、肝心の水の部分は全く原理が分からず仕舞いであった。


 食事は旅塵を落としてからと言うことになった。各部屋に散った皆は今頃此のお風呂場の性能に驚いている事であろう。

「はーさっぱりした!」

 ブラッドはタオルで水分をふき取ると豪快にベッドに跳び込む。一人しかいない為に何も身に着けていないことは許してあげたい。仰向きで寝転がると天井を見つめながらぼんやりとする。

 「こんな旅だったらいいのになー」

 思ったよりも疲労しているのか気が付けば目を閉じていた…


「起きて、起きなさいブラッド…」

「ん…んん、クラウディアか…」

 気配に敏感なブラッドだが、彼女が揺さぶり声を掛けるまで目を覚まさなかったのには、起こした彼女自身が驚いた。普段寝過ごすことがあっても、誰かしらが近づけば目を覚ますのがブラッドなのだ。

「そうよ。そんなに疲れていたの?」

 今の彼がどんな姿をしているのかは、優しい彼女は黙っている。

「まあな。こんなに快適なんだ。思わずベッドに倒れこんだら目を閉じてしまった…」


「そうだったの。それよりも着替えて食堂に集合だそうよ…」

 彼女は必要な部分以外は黒色のシースルーを纏うだけであった。

「クラウディア、お前、その格好…」

「どう似合うかしら?此方での衣装なんですって」

 彼女はそう言うとアピールするようにポーズを取る。彼女は言うまでも無いが御年十六歳である。成人しているとはいえ、とてもその年齢であるとは思えない妖艶さを持っている。

「ああ、似合ってるよ。綺麗だぜクラウディア!」

 だがその魅力に鍛え上げられているブラッドには、そう言葉を投げかけるだけの余裕が感じられる。

「そう…あ、ありがとう…ブラッド……」

 彼女はそう言う言葉に弱い、強気な性格なのだが実はこの手に弱いのがクラウディアである。対しローラはこう言った褒め言葉でも表情を崩すことは余りない。そう思わせるだけで内心は物凄く喜んでいるのだが…




「済まない遅れたな」

 ブラッドはクラウディアを伴い食堂へと入る。そこにはクラウディアと同じ衣装を色違いで着飾っていた。ローラは青、イリエナは赤、エルミナは緑と言った配色であった。偶然選んだにしては皆色がマッチしていた。

「そうでもないわよ。それでも時間が惜しいわ、早く座って」

 彼はそう言われてローラの隣に腰かける。反対にはクラウディアが座り対面にはローラの前にイリエナ隣にエルミナが座ると言う席順である。料理はこの国でよく食べられる物が多く出されて皆美味しいを連発しての夕食となった。


「さて、明日の話しをしましょう。エルミナさんお願いします」

 食事も終わり、お茶を出されている中ローラが口火を切る。これからの事は重要な話になるのだ。ハチやその他の使用人は席を外している。念のためにとコーンステッド家が所有するキカ・レナイと言う一定時間空間内の声を漏らさないようにする魔道具である。お風呂の機能もその一種である。

「これでいいでしょう。明日の予定ですが、殿下側は日中の移動は避けたいとの思し召しです」

 いきなり変な事を言うエルミナに全員が首を傾げる。これはイリエナもであった。

「どう言う意味でしょうかエルミナさん」

「これは詳しくはお教え願えませんでしたが、王太子殿下が行う行事につきましては総てが夜行われるようです。今回無事に国交を樹立致しましたが、調印式も夜、陽が落ちてから挙行されたそうです」

 

 此の事は宮中貴族…領地を持たない貴族…が噂しているレベルとエルミナは断った上で話しを始めた。行動するのも、そうだが王宮を移動するときもその全てが夜中なのだそうだ。王太子としての役割はきっちり果たす為に、不満は出ていないものの余りいい事ではないと噂されている。そして付いたあだ名が蝙蝠王子である。当然面と向かっては言えない不敬罪で処罰されかねないからである。

「それでも王太子殿下は継承第一位ですよね」

「そうですローラさん。殿下はアーネムル王の絶対的な信頼を得ています。このように外交の使者として赴かれる場合は必ず王太子殿下が赴くことになります」


 アーネムル王は御年八十を超える。子は多くいたがその事如くは女子であった。男子であるアームスト王太子は年遅くに生まれた子である。その後は男子を七名設ける。しかし、その中でも絶大な信頼を寄せるのがアームストである。特に王の名代としては必ず彼が出向くことになっており、王宮内ではほぼ次期王で間違いないと言う見方になっている。


 嘗て家臣等は王に対しアームストについて質問したことがある。夜にしか行動できないのでは次期王として如何なものかと。それだけ取れば不敬ではあるが王は笑い飛ばした。王はこう言った『目に見えるだけが総てでは無い。夜にしか動けないからと言って何が不足なのか。たまたま息子は夜動きたくなるのだ。きちんとやっている間は何も言うな』王の権力は絶大である。以後王に対しては禁句となる。


「その様な些細な事はどうでもいいですわ。わたくしたちは無事に王太子殿下をウォータルへとお連れ致すことです。別にそれが様であろうがわたくしたちが我慢すれば宜しい事ですわ!」

「確かにお嬢様の仰るとおりです。我々は明日の夕刻、日が沈み次第仮迎賓館にて拝謁いたします。それまでは…少なくとお昼ほどですが、ドマニステルで観光が許可されております」

 随分と自由な事である。皆にとっては有り難いのだがどうも緩すぎるとエルミナは思っている。これは単に王太子、アームストが許したことである。

「拝謁後は直ちにドマニステルを出て移動出来る限り行動をするということです。なお我々は王太子殿下の後方を進むこととなっています」

「ちょっと良いですかエルミナさん。私たちは王太子殿下を襲爵の特使として受け入れるべく、此方へ参りました。これでよろしいのでしょうか?」

 ローラは体裁の問題を指摘している。向かいに出たコーンステッド家が蔑にされていると言いたいのだ。


「それも問題ありません。我等はお嬢様がおります。確かに騎士団の一員ではありますが、先方もこの件は承知しております」

 そう、王家とは囮の二部隊も含めて全てにおいて根回し等情報共有が完了しているのだ。そうでもなければ此処へと簡単に来られる訳が無いのだ。結局此のままエルミナの説明は終わった。ローラも納得したのかそれ以上は何かを尋ねると言うことはなかったのである。

「さて、少し早いけれど明日に備えて休みましょう」

「そうだな、昼までは自由行動だろ。後でハチさんに良い場所を聞いてみよう」

 気分はすっかり観光気分である。これにはクラウディアとイリエナが続いてノリノリになる。鎧を脱がずに我慢するなど、意外な所で二人は息が合っている。




 翌朝、大したトラブルも無く無事に迎える。昨日話していた通り、昼までは皆で観光を楽しむべく行動を起こす。

「それじゃあ、ハチさん行ってきます。紹介有難う御座います!」

 ブラッドはしっかりとドマニステルの事を聞いていた。彼自身もパーっと何かをしたかったのだ。

「お気を付けて、皆さま言ってらっしゃいませ」

 ハチ他数名が屋敷の門に立って彼等を見送った。此の時ブラッドたちはこの国の衣装を着ている。なるべくセント王国の者と分からない様にする為だ。加えて、極力自分の名も、他の者の名も呼ばない様にしている。これは万が一を考えての事である。


「さっそれじゃあ行こうか…お、お前たち……」

 ブラッドは引き攣った顔で皆を見る。

『はい、旦那様!』

 エルミナは控えめであったが他の三人は積極的である。セント王国では新婚旅行と言風習はない。日本では坂本竜馬が最初だと言う話であるが、疑似とはいえ気分は新婚旅行である。海外で、その国の衣装に身に纏い観光をする。彼女たちにとってみれば正しくそれである。

 そうなると誰がブラッドと腕を組んで歩くかである。最初に動いたのはイリエナであった。


「ここは第一夫人であるわたくしですわね!」

 そう言って、あらあらまあまあ的な感じですんなりと彼の右腕を取る。

「な゛!あんた何勝手にやってんのよ!」

「勝手ではありませんわよ。わたくし第一夫人でしてよ。夫の最初は総てわたくしの物ですわ!」

「あんまりおふざけが過ぎると、その第一夫人の座、蹴り落とされるわよ」

 どうしてもローラは何処か恐ろしい事を言ってしまう。これはどうしようもないのだろうか…


 右腕を抱きしめるイリエナとローラクラウディアが争う中、平和な左腕を取ったのはエルミナであった。騎士団仕込み?の気配を消して、三人が集中するのを待ち、好機と見るや彼の腕を取ったのである。

『あっ、しまった…』

 ローラたちの声である。二人はイリエナを剥がすことに熱中して左を意識していなかった。さらにはエルミナの気配もである。

「出来しましたわエルミ…んん第二夫人。これで決まりですわ。さあ参りますわよ!」

 興奮のあまり彼女の名前を呼びそうになるのは御愛嬌である。エルミナはこう言ったことに免疫が無く、顔を真っ赤にして必要以上に腕を抱きしめてうつむいて歩くのだった。それが妙に初々しく、堂々とするイリエナに対しての存在が際立っていた。

 この辺り主従の住み分けがしっかりと為されていたのであった。


『ある意味最強の伏兵ね!』

 ローラとクラウディアは目の前の光景を見てそう感じてしまった。よくよく考えればエルミナと言う女性は今までにないタイプである。ブラッドの周囲には積極的に攻めている女性ばかりであった。彼女の様に引いていて、勇気を出して頑張りました。と言う状況が無かったのである。ギャップ萌えなんていう言葉があるが、正しくそれである。その萌えには彼女自身の日頃の行動も含まれる。常に凛とした態度で皆に接し、言葉使いも丁寧である。優しさの中に厳しさを持つエルミナが今の様な態度を取れば男は靡いてしまうかもしれない。

 だからこそ二人は最強のと言葉を付けたのである。ウォータルで待つイルマは大きく引き離されてしまったのであった…

 最後までお読み頂き有難う御座いました。

 今回は他国、アレントル帝国が登場します。疑問に思われるかもしれませんが帝国を名乗っても統治者は王でも構わないそうです。スペイン帝国、フェリペ2世がそうですね。さらには言葉使いです。日本語には最高敬語が存在します。天皇陛下にお使いする言葉です。最初は王にも使用しようかと書いていた所、しっくりこなくて辞めてしまいました。天皇と王は対等ではありませんから、格下の王には使用を辞めたと言うことです。

 詳しい方が居ましたら申し訳ありませんがこの辺りの事はこういうお話しだとご了承ください。


 御感想等お待ちしております。

 誤字脱字等々御座いましたら御一報いただけると幸いです。

 それでは次話で御会い致しましょう。

                今野常春

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