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成り上がる?戦記  作者: 今野常春
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第十三話

 ブラッドたちは予定通りに再びコットロール岳へ向かった。目的はイリエナを実戦で鍛えることと、冒険者ランクを上げることである。ギルドマスターコロコト・ドローセンはライストリ・コーンステッド子爵に連絡を入れていた。早朝、彼等が家を出て第三城壁の門が開くのを待っていると、彼等に声を掛ける人物がいた。

「ブラッド殿!」

 馬に乗り、鎧を着たその人はエルミナであった。


「エルミナ!」

 そう言ったのはイリエナであった。エルミナは本来彼女付きの護衛であった。しかし、優秀な彼女はロエト砦攻略に際して、祖父のマクコットが連れて行ってしまったのだ。彼女とはそれ以来会っていなかった。

「御無沙汰致しておりました、お嬢様」

 イリエナは嬉しそうに彼女に抱きつく。当然エルミナは彼女を抱きしめる。年も近いがイリエナにとっては姉の様な存在である。そんな彼女はある事に気が付いた。


「お、お嬢様髪の毛が…」

 長く、煌めく様なブロンドヘアーが特徴であったイリエナは現在バッサリと切り、肩までの長さになっていた。

「わたくしは冒険者ですの。よって長い髪は必要ありませんわ。それに駆け出しのわたくしが長い髪なんてありえませんわ」

 前日、彼女は色々と思うことがあり突然髪を切ってしまった。しっかりと揃えたのはローラであったが…

「そ、そうですか…」

 エルミナは少し残念がった。しかし、彼女の決意を汲んで敢えてそれ以上は発現しなかった。


「それよりも、エルミナはどうしてここに居りますの?」

 そう、ブラッドの名を呼んだと言うことは何か用事があったと言うことである。

「あ、そうでした。…ブラッド殿いきなりで申し訳ありません。私も御同行させて頂きたいのです」

 開門までには暫くの猶予があった。そこで事の経緯をエルミナは語った。


「つまりライストリ子爵がそう命令したと…」

 ブラッドが確認の為に問いただす。

 彼女が話した内容を要約すれば『娘が心配だ。お前ら何かあったら責任取れるのか?取れないだろ?だからエルミナを護衛として付けるから宜しく』と言うことである。

「はい、以後冒険者としてブラッド殿を助けられればと考えております」

 彼等にとって実戦経験豊富な人間は有り難い存在だ。聞けば冒険者登録は済んでいてランクもCというから驚きであった。


 三人が出した決論は許可である。

 今回は特に彼女の様な存在は貴重である。何といってもイリエナが初の実戦なのである。故にどのような事が起こるか全く分からないからである。加えて依頼ランクCのアルノバの木の伐採である。前回の様に連携が上手くいかない可能性が高いのだ。イリエナのフォローをしなければならない中、木を伐るブラッドを護らねばいけない。

 そう考えればエルミナを寄越したライストリは褒められる立場である。


 実際に彼女は有能であった。現場まで二日の距離であったが周辺の地理を深く知り、近道などを指摘していたのだ。これは偵察などで一人がばれない様に移動する為の知識であった。さらには野営する時も天幕の簡単な張り方など、ブラッドたちが知らないやり方を教えていた。これによってコットロール岳に入る頃には信頼を勝ち取っていた。




「それじゃあ、行くぞ。俺とイリエナが先頭で目的地へと向かう。クラウディアは俺たちのフォローを頼む。エルミナさんは遊撃で、ローラは後方で指示を頼んだ」

 ブラッドがそう言うと誰も反対せずに頷く。司令塔はローラだがリーダーは彼であるのだ。安全な場所には明確な境界は存在しない。存在を示す様に立て看板が地面に刺さっているだけで、それ以外はわからないのだ。


「イリエナ、ここからが獣の縄張りだ。油断するなよ。やばいと思ったらエルミナさんの方に走るんだ」

 しかし、ブラッドは経験からその境界線を肌で感じている。雰囲気が違うのだ。それに微かに漂う獣臭も鼻に付く。そう言うことはやはり、実戦で無ければ分からないことだった。

「分かりましたわブラッド」

 彼女は武器を構え、手に力を込める。彼女は二刀流である。軽く短い剣を持ち、剣速と数で勝負するタイプである。力が男に比べ弱い為に、そうしていた。ブラッドは両手持ちの大剣である。これは一撃必殺を意図としている。


 案の定、ブラッドが指摘した場所から先を進むと、わらわらと獣が現れて彼等を襲う。前回とは違うルートで進んでいる為に襲い方も異なる。

「ほら前だけを見るな。イリエナ、横からも来ているぞ!」

「わ、分かっていますわ!」

 ブラッドは冷静に対処して、イリエナにアドバイスを送る。後ろのクラウディアも槍で獣を倒している。エルミナは危険があれば動くと言った感じで何時でも動けるように行動している。


「危ないわね…」

 ローラは間後ろからイリエナを襲おうとしていた虎を射殺した。茂みに対して背を向けてしまったイリエナは完全に虎の餌状態であった。

「イリエナ、茂みは特に注意しなければいけないわ。獣が息を殺して気配を窺っているの」

 虎は唸り声をあげて、飛びかかったところを射抜かれた。これにはエルミナも動けなかった。間一髪と言うのはこの事である。


「分かりましたわ、ローラ…有難う御座います」

 流石にビビったイリエナだった。しかし、まだ始まったばかりである。目的地へはもうすぐだが、そこからが長いのだ。

「そら、油断するなよ。あいつ等は隙を見せれば簡単に襲ってくるからな!」

 ブラッドは歩みを止めない。止まればそれだけ獣が集まるからだ。先頭を行く彼には次々に猪が突っ込んでくる。大剣で下から上に振り上げて後方へと投げていた。当然刃先が猪に当たっている為に絶命している。


「それにしても今回は多いわね」

 クラウディアが槍を狼に突き刺しながら言う。前回より幾分襲ってくる回数が増えているのだ。さらに狼と猪の他に虎もあれば鳥もいた。鷲である。鷲は真っ逆さまに彼等を襲う。早さがあり対処し辛いのだ。

「そうね…そうは言っても種類が増えた程度よクラウディア。数自体は変わらないわ」

 そう言いながらローラは猛禽類を連射して撃ち落としている。彼女の武器は特注のクロスボウで、引き金が二か所あるのだ。これで連射が可能になる。



 ようやくアルノバの木が密集して自生する場所へと辿り着いた。此処は前よりも密度が濃く生えている。

「よし、それじゃあこれから俺は伐採作業に移る。イリエナここからが本番だぞ。俺が無防備になる分!あいつ等に対する!動きが重要になってくる!」

 そう言いつつ獣の襲撃数が増大している。今も話しながら三体の狼を倒していた。

「分かりましたわ!」


 ブラッドは剣を仕舞うと斧を取り出した。ブラッドを中心に円陣を組む。前回は出来なかったが人が増えたことで可能になった。これはエルミナの提案である。野営中にアルノバの木の伐採中、どのように護衛するかを聞かれ説明すると今の提案がなされたのだ。


「そーれっと!」

 ブラッドは前回の様にミスはしなかった。全てがカーンと気持ちのいい音を鳴らせて木を伐り倒していく。失敗すれば金属音が聞こえるし、手が盛大に痺れる。

 次々に木は倒れるが襲ってくる獣も後を絶たない。

「これ数が多すぎではありませんの?」

 初の実戦が、まさかのアルノバの木伐採であった事が、イリエナには不幸であったろう。休む間もなく彼女は剣を振り続け、動き続ける。


 エルミナは少しでもイリエナを休ませたかった。と言うのも初の実戦である。当然緊張もするだろうし、慣れない道を登って来ているのだ。疲労が蓄積していない訳が無い。それに動きが鈍くなっているのが見受けられたのだ。彼女とて伐採に立ち会うのは初めてである。話しに聞いていたとはいえこれほど過酷とは思いもしなかったのだ。

 ブラッドたちは三人で前回依頼を達成している事を知る彼女は、改めて彼等が凄い事を実感していた。


 数をカウントしているローラが残り本数を言いだした。

「残り九本よ。集中して!」

 これはイリエナに言った言葉である。疲労が蓄積して思考力が落ち始めていると判断したからだ。これには他も気が付いている。ブラッドは相も変わらず伐採作業に集中している為に知らなかった。


「あうっ!」

 遂に恐れていたことが起こる。イリエナが狼を斬り伏せ、次の狼へと足を踏み出した時である。右足を前に出した瞬間スコーンと膝の力が抜けてしまった。踏ん張りが利かずに地面へ倒れる。

「お嬢様!!」

 瞬時に気が付いたのはエルミナだった。クラウディアは別に槍を振り回し、突き刺しを繰り返しす。ローラも遠距離から向かう獣を狙い倒していた。つまり、今イリエナを助けられるのはエルミナしかいないのだ。


 イリエナは倒れる瞬間を見ていた。地面に叩きつけられ、一瞬目を閉じてしまい、開けた瞬間には次に狙いを付けていた狼が口を空けて襲いかかろうとしていた。

「あ……」

 体が硬直して言うことを利かなかった。覚悟の無い危険には人は目を瞑ってしまう。イリエナは目を閉じて身構えていた。

 しかし、そうはならない。エルミナが緊急時に持つ小刀を投げつけて倒した。直ぐに掛け寄り彼女を起こす。

「大丈夫ですかお嬢様」

「え、ええ…問題ありません…わ。有難うエルミナ」

 そうは言うが彼女には分かっていた。初めて殺される恐怖を味わい体が震えている事を。それを必死に抑えようとしている事は理解できるがそろそろ限界であるとも思った。


 アクシデントはやはり発生したものの、無事に目標を達成した。これによって暫くすると獣は襲うのを止めてた。

「大丈夫かイリエナ」

 ブラッドやクラウディア等は回収をする前にイリエナのもとに集まる。エルミナの声は全員に聞こえて、あの時のことが視界に入っていたのだ。

「え、ええ大丈夫ですわブラッド…」

 そうは言うがイリエナは足に力が入らなかった。

「休んでいた方がいいわ。……エルミナさんイリエナを頼みます。これを彼女に飲ませてあげてください」

 ローラはそう言うとエルミナにコップを渡した。スポーツドリンクの様なものを彼女に渡した。

「済まない、ローラ」

 そう言ってエルミナはイリエナの介抱に努める。


「よし、それじゃあ俺たちは回収を行おう」

 数は前回よりも少ない為に早く終わる算段が付いている。しかし、である獣の制限が大きく影響している。

「獣は虎を優先的に回収するわよ、次が鷲その後に狼と猪ね」

 ローラが指示を出して優先順位を決定する。これは取れる素材が多いのと高価なものを優先した結果である。

 三人は慣れた手付きで次々にマジックポーチに放り込んで行った。口を対象に当て、魔力を流し込むとポーチに中へと吸い込まれている仕組みである。


 イリエナは三人の作業を呆然とした気持ちで眺めていた。彼女にとって冒険者には少なからぬ憧れがあった。それに自分の実力には自身があったのだ。しかし、ブラッドと対戦した後に言われた言葉で今までの価値観が崩れ去り、さらに今回の事で完全に気持ちが変わっていた。




 

 五人は暗くなる前に下山して野営に入っていた。イリエナは自力で下山出来ていた。

「それじゃあ、みんなお疲れ様!特にイリエナ良く頑張ったな!」

 前回とは違い物資は保存食だけでは無い。しっかりと調理も出来るように調理器具もあるため熱々の料理が食べられる。今五人の目の前にある物はクラウディアとエルミナの合作である。エルミナは此処でも優秀さを発揮してた。特に獣の捌き方だった。猪の肉を使用した料理が振舞われている。

「ありがとうブラッド…」


 イリエナとしては不甲斐ない気持であった。あれだけ戦いが始まる前は自信に溢れていたが、今はそれが嘘のようである。しかし、悪い状況では無かった。恐らく現実を見たあと、地に足を着けているのだろうと皆は思っていた。

「そうよイリエナ。貴方は初めて戦いに出たのよ。あれだけやれれば上出来よ」

「そうね。あれほど実践の中で出来るとは思わんかったわ」

 クラウディアとローラはそう言った。彼女たちはイリエナを認めたのだ。


 経験者である四人は誰もが通ったことをである。今のイリエナを見て誰が非難でいるだろう。今回の依頼は難易度が高いのだ。クラウディアが言うように上出来であった。アルノバの木伐採が一番困難な部分が獣の襲撃である。全方位、まるで全ての獣がある意志を以って侵入者を襲っている様な行動を取る。

 木の伐採は特殊な斧とコツさえ掴めば意外と簡単である。後は先程挙げた獣の対処である。


 人数を増やせば良いのだが、ブラッド達以外だと百名以上は動員しなくてはならない。さらには伐採できる人間がほぼいないと言う中行う為に費用対効果が悪い。アルノバの木一本は非常に高価ではあるが動員人数が多ければ実入りが減るのは当然である。

 傭兵の時は死亡時の補償が無いのだが、冒険者の時は指定した人物に補償金が支払われる。今回の依頼では半数は亡くなることで有名なのであった。



 

 天幕を張った中で三人が寝て二人が見張りを行う。交代は一人ずつ心太式である。イリエナは先に寝かせて一番最後に見張りを行わせることに決定した。最初はブラッドとクラウディアから始まる。つぎはローラ、エルミナそしてイリエナの順番である。これは疲れているブラッドたちにも有り難いことである。

「やっぱり、人数がいると良いのかな…」

 クラウディアがブラッドにポツリと言葉を漏らす。五月蠅く為らぬように小声で話す為である。彼女は今まで三人で行動していてもそれほど辛さは感じなかった。しかし、今回新たに二人加わったことでその有難味を知ってしまった。


「そうかもしれないな。前も大変だったけれどさ、俺たちだけだったら恐らく失敗してたよな」

 ブラッドは、イリエナが加わらなければ此処へは来なかったであろうことは除外している。あくまで三人であればと言う仮定で話しを進めているのだ。冒険者は臨時で合同パーティーを組むことがある。あくまでも合同と付けるだけあり連携などは各チームバラバラである。一緒に行動するだけである。

 ブラッドたちも経験があるが同じパーティーは初めてのことであった。


「そうよね。私たちは今回のことで多くの経験を得たわ。今後のことを考えれば限界だったのかもしれないわね」

 偶然にもクラウディアはブラッドと隣り合っていて、彼の肩に頭を預ける形で話しをしていた。小さな声で話さなければいけない為の行為であると予防線を張ってはいるが、彼女にとっては好機である。焚き火の明りが二人の雰囲気を幻想的に創りだす。

 口数は少ないがそれが二人には心地のよいものであった。これはローラと交代するまで続いた。




 翌朝には天幕を片付けて一路ウォータルへと戻る為に行動を開始する。

 帰りは街道を進むことにした。若しかしたら空きのある馬車が通るかも知れないからだ。しかし、それは望み薄である。特にこの街道はウォータルへと向かうものが通る道である。荷物を満載にした馬車がウォータルへ向けて移動しているからだ。

 どの馬車も恐らく後一泊して街へと入ることになる。


 案の定ブラッドたちは馬車に乗ること叶わず、一泊した後ウォータルへと戻ることになった。

 最後までお読み頂き有難う御座いました。

 イリエナの初実戦でした。あんまり戦闘描写と言うものが描かれておりませんね…


 御感想お待ちしております。

 誤字脱字等々御座いましたら御一報頂けたら幸いです。

 それでは次話で御会い致しましょう。

               今野常春

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