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成り上がる?戦記  作者: 今野常春
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第十二話

 ブラッドたちはイリエナの冒険者登録を行う為にギルドへと向かった。例の如くギルドは満員御礼状態である。三階建ての建物は三階部分が職員専用フロアになり許可なくは入れない。二階は多くの素材が集まる買い取り専用フロア。そして一階は全ての手続き等を行うフロアに為っている。手続きと言っても種類がある。重要なのが冒険者としての登録である。これは全てにおいて必要な手続きであり、これを行わないと冒険者ギルドのサービスが一切受けられないのである。


 と言う訳で、ブラッドたちはイリエナを連れてギルドに居る訳なのだが、受付をしていた職員マリーが慌て始めると、彼等一行の後ろで並び順番を待つ冒険者等に『此の場は終了いたしました』と言って他の受付へ向かうように指示出した。受付の上にはクローズという札が掛かっている。

 このようなことはまずあり得ないことである。他の冒険者らは不満を口々に言いながら長い列に再び並び出した。これにはブラッド等三人は『本当に御免なさい』と心の中で謝罪していた。


 だがこれはこの街で冒険者を始めて日が浅い者たちである。ブラッドたちはこの街では有名人である。 十代ながらランクAとして活動し、先般のロエト砦戦役では敵の大将を倒すなど功績を挙げているからである。さらに拍車を掛けているのが、彼等の人員構成である。女性もいるには居るが、全冒険者で見ると男女比八対二と言う割合である。それをブラッド一人に女性が二人、ましてや美人な女性が好意を寄せてパーティーを組んでいるのだ。これで有名にならない訳が無い。

 此処に最低でも半年は居れば『ああ、あいつらか』で終わる話に為っていた。


「ブラッドさん申し訳ありませんが…三階のマスターの部屋へと向かってください」

 マリーは暫くして受付前で待たされていた彼等のもとへと戻りそう告げた。加えていつもの通行証を渡す。恐らくは、と待たされている間に考えていたことが現実となれば慌てることは無い。

「ああ、分かったよマリー。ありがとな、それと迷惑掛けて悪い…」

 ブラッドがそう言うと、最早彼女の別れのあいさつ宜しく「食事に連れて行って下さいね」と言うと…

「わかった。今度時間が空いた日にな」

 珍しい事に彼はそう告げて此の場を後にした。彼は本当に申し訳ないと感じているのだった…


 四人はブラッドを先頭に階段を上り三階へと移動を始めた。今回は一列である。広い造りになってはいるが、横に広がれないほどに人が多いのだ。

 通行証を三階の警備に提示して奥へと進む。彼等の年齢でこう何度も三階へとやって来る者など居ないだろう。

「お待ちしておりました、ブラッド様」

 秘書のフッロンは、今度は部屋の前で待ち構えていた。前回はノックをして彼が間を置かずにドアを開け、さらに前はブラッドが許可を得て開けた。どんどん前に来ているな、と冷静に突っ込んでいる辺り、ブラッドも精神的に鍛えられていた。


「マスターブラッド様一行をお連れ致しました」

 フッロンを先頭に扉の無いコロコトの部屋前まで来て彼が告げる。

「おう、入れ」

 奥から声が聞こえて四人は部屋の中へと入る。


「済まないな、大分待たせてしまって…」

 四人はコロコトの前に立つ。彼は机に座り、イリエナが記入した登録証の原本を見ていた。これにコロコトのサインと判子が押されると晴れて冒険者となる。

「イリエナ・コーンステッド…お嬢ちゃんはやはりライストリの?」

 彼は確認するようにイリエナに尋ねる?

 彼の立場はそう言う言葉使いでも問題が無い。戦時、特にこの街が攻められれば一司令官として戦場に立つ。貴族の階級でもそれなりの地位に該当するのだ。貴族の娘でも爵位は無い。立場上は彼が上である。

「ええ、初めてお目にかかりますわね。わたくし、ライストリが一子イリエナと申します」

 そう言って彼女はお辞儀をする。


「なるほどな…ああ、悪いお前たちはそこに掛けてくれ」

 コロコトはソファーを指す。彼も立ち上がるとそちらへと移動する。

「さて、俺はコロコト・ドローセンと言う。冒険者ギルドウォータル支部のギルドマスターだ。イリエナに尋ねる。冒険者がどんなものか知っているか?」

 彼は威圧的に自己紹介をすると、これまた彼女を呼び捨てにして話しかける。一応彼女とて貴族のお嬢様である。このような態度は家族以外で初めての事であった。


 これには彼女は少しムッとした。

「ええ、よく知っておりますわ。依頼を受けて、その依頼をこなすのでしょ」

 簡単だと言わんばかりに言い返す。その言葉の端端に棘が含まれていたが、コロコトには通用しない。

「なるほどな。おいブラッド、お前さんしっかりとこの嬢ちゃんに教えたのか?」

 彼はブラッドを睨む。まさか自分に来るとは思わずに狼狽する。

「どうやらしっかりと教えてねぇようだな…」


 とは言え、彼が言っている事が何を指すのかがブラッドたちにも分からなかったのだ。流れ自体はその通りである。登録完了後はランクに応じて依頼を選び、受付で処理をして貰い引き受ける。その後書かれている内容に沿って行動を始め、目的が完了すればギルドに戻り報告し、証拠若しくは目的物を提出して終了となる。そしてギルド側の評価により結果が言い渡されて報酬を受け取るのだ。その過程を省きすぎているが…


 コロコトは戯れでそう言ってはいない。例えこの街の最高権力者の娘であろうとも、冒険者に貴賎は無い。この職に為るからには俺、私は貴族だ、と言ってもどうなる訳でもない。むしろ狙われる可能性を考慮すべきである。


「良いかブラッド。ギルドの冒険者ランクの昇格の仕組みを覚えているか?」

 コロコトがそう言うとローラがハッとなる。彼女も失念していたが、思い起こせば彼等とて最低ランクから此処まで登って来たのだ。そしてブラッドに代わりローラが彼と話しだす。

「もしかして、制限ランクでしょうか?」

 彼女が言うのは高ランク冒険者とのミスマッチである。


 最低ランクの冒険者は適した依頼がある様に、高ランク者には適した依頼がある。高ランク者が低ランクの依頼をこなせば、妨害の何者でもない。逆に低ランクが高ランクの依頼をやってしまえば成功する訳が無い。

 その為に依頼にはランクがあり、冒険者ランク上下一つまでが受けられると言う制限を付けている。

 さらにはパーティーと言う物がある。ブラッドたちの事である。一人ひとりのランクを平均してパーティーランクを出すのだが、彼等は個人でも全員がAランクである。だから問題は無かった。


 だがイリエナは最低ランクHから始めることになる。彼女が加わればランクはCへ落ちるのだ。これにより受けられる依頼に制限が掛かる。つまり上はBランクである。他にも報酬面で減額されるようになるのだ。

「そうだな。まあ大体はお前さんたちが不利益を受け入れるならば、問題は無い……無いんだけどな…」

 コロコトはそう言って無い髪を掻き毟る様に頭を掻く。

「今お前さんたちにランクを下げられるとなぁ……」

 彼には都合が悪かったのだ。冒険者は時として傭兵として戦地へと赴かなければならない。ロエト砦戦役でも古い情報によって低く見積もられた戦地ランクで、低ランク冒険者が傭兵として戦地へと向かった。その数五百である。これに一割の高ランクの人間が随伴する。その時はCランク以上が選ばれた。


 そこにブラッドたちが加わっていたが、これはコロコトの要請である。さらにはウォータルは安全地帯である。高ランクの冒険者は辺境に多くが在籍している。高ランクでもCがいい所である。ブラッドたちは貴重な存在なのだ。

 彼等はこの街に来た時に彼らか多大な恩を受けている。借家の件である。出身地では成人でも、ウォータルではその年齢に届いていない為に家を借りることが出来なかったのだ。故に、彼にはブラッドたちは借りがある。


「確かにランクCに下がれば難しいと言うことですか…」

 ローラはコロコトの言葉と態度で察する。イリエナがコーンステッド家の娘だから難色を示してはいない。既に彼のもとにはライストリからイリエナの件を記した書簡が届けられ確認していた。そこには幾らかの報告等を含めて『娘を宜しく頼む』と言う一文が書かれてあった。


「ああ、いつ何時戦争が起こるか分からねぇ…その為にも計算できる戦力は確保しておきたい」

「だったらよ。手っ取り早くランクを上げられればいいんじゃないか?」

 ブラッドがその言葉に提案する。何も明日、明後日何かが起こる事はあり得ない。この言葉にイリエナ以外はまさか…と考える。


「もう一度アルノバの木を採りに行こう!イリエナは強い、後は実戦でどんどん鍛え上げれば問題ないだろう」

 確かにこれが簡単にランクを上げる手段としては最適である。しかし、コロコトはその提案に青ざめる。前回の出来事を思い出すととても諸手を挙げて、とは言えなかった。

「ああ、確かにそれならば簡単にいけそうよね!」

 クラウディアもイリエナの強さを知っている人間だ。コーンステッドの屋敷に居る間に何度となく手合わせをしている為に、ブラッドの言うことに賛成であった。実践でしか手に入らない経験が不足しているのだ。そう彼女は考えている。この事はローラも賛成であった。


 あとはコロコトであろう。あの後、ギルド職員にとり地獄であった。アルノバの木以外にも獣の処理が待っていたのだ。鮮度を保つために保管庫へと入れてあったものを一体ずつ取り出しては処理をする。全職員が強制的にその日は残業となったのだ。そうしなければ翌日の業務に支障が出かねない状態であったからだ。

 勿論、急なこと故に不満が至る所で噴出していた。臨時ボーナスの上乗せが必須であったのだ。


 しかし、悪い話ばかりでは無い。アルノバの木、一千本と言う大量供給によりウォータル支部の評価が上がったのだ。ギルドは独立採算制である。一定の金銭を本部へと納めれば後は各ギルドの収入である。 収入のやり繰りは各ギルドの腕次第である。それ以外にも王国側から補助金が支給されている。この予算が馬鹿にならない額であった。 

 本来ならば補助金は運営が厳しい所や赤字になっているギルドに入れるべきだが、此処ではそうではないのだ。『毎年どれだけ頑張ったか』で予算の配分が変わってくるのだ。この配分を決めるのが本部の評価である。あくまでも国からの補助金は用途が限定されていない。故に冒険者ギルドが独自に予算の配分が出来る。コロコトはこの補助金を当て込んで、臨時ボーナス支給を考えたのだ。


「どうだろうコロコトさん、もう一度言っても良いかな?」

 ブラッドはギルド職員やギルドの運営の裏を知らない為に期待を持って話しかけている。此処でノーとは言えないような空気に為っていた。

「ああ…分かった、分かった。認めよう、まだまだアルノバの木の依頼は後を絶たない。だが、今回は本数を指定させてもらうぞ、五百だ。アルノバが五百。獣が合計で二百。どちらもその数以上は受け入れない。それで良いならば認めよう」


 コロコトはイリエナの登録証原本にサインを入れて、判子を押した。

「これでイリエナ、お前さんは晴れて冒険者だ。いいか、良く聞け。これは元冒険者としての、先輩からの忠告だ、危ないと感じれば絶対に逃げろ。絶対に戦おうとか考えるんじゃねぇ。命は一つだ。怪我をしても治すことはできるだろう。しかし、命だけは治すなんて出来はしねぇ…これだけは決して忘れるんじゃねぇぞ」

 彼は冒険者としての心構えを、現役時代から言い続けてきたこの言葉を言い聞かす様に語る。こう言っても多くの冒険者が彼よりも先に亡くなっている。彼はエルフ族であり、寿命がとても長い。此処で言う先にとは寿命を全うできなかったということである。


 目は口ほどにものを言う、まさに今のコロコトはそうであった。イリエナに対して真剣な表情で話し掛ける。それに対して彼女もまた真剣な面持ちで聞いていた。

「分かりましたわマスター。わたくし、イリエナ・コーンステッドはマスターの言葉を肝に銘じて冒険者として精一杯生きてやりますわ!」


 ブラッドたちはそのまま別れの挨拶をすると、ギルドを後にした。彼等が居るかもわからない通りをコロコトは眺めている。彼は先程のイリエナを思い出していた。女性とはいえまるっきりライストリの性格であったのだ。

 ライストリが若かりし頃、彼はコロコトと共に冒険者として旅をしたことを思い出していた。彼よりも遥かに歳上であるコロコトは同じ言葉を言った事を思い出していた。

「同じ目をしておったな…」

 何かに燃えるような、どこか決意の籠った目である。彼はそんな目をする人間が好きだった。


 人間の一生は七十年。これがセント王国の平均寿命である。エルフ族であるコロコトにしてみれば遥かに短い。しかし、だからこそ人間族はここまで進化したと彼は考えている。太く短く、これこそ人がエルフよりも技術が発想が、閃きが高い証左ではないかと考えるようになっていた。

 毎日を必死で生き、その過程で閃きを得る。それこそが人間の強さであると思うのだ。人間では分からないことも、それ以外の種族から見れば見えてくることがある。ドワーフ族のロワンデルも見方は異なるが、似たような気持ちになり人間と言うものが好きになったのだ。



 晴れてイリエナはブラッドたちの仲間になった。その事がうれしくてついつい浮かれてしまう。彼女は既にポジション化し出したブラッドの左腕を抱きしめている。積極的な彼女に対し、忸怩たる思いで見る二人と言う構図が出来ていた。

 ブラッドも満更でもない様子であった。無理も無いだろう、イリエナは美人である。誰もが振り向くほどに美しいのだ。そんな彼女が一身に彼に対して好意を向けていればそうなるのも無理は無い。


 二人は後ろからイリエナの事を羨ましそうに眺めるだけである。既に何度となく離れるように注意したが暖簾に腕押しである。二人とて彼女には負けていない魅力がある。例えるならばイリエナはお嬢様としての美しさを体現している。ローラたちはキャリアウーマンとして、出来る女、カッコいい女を体現している。両者共に魅力的という意味では変わらないが、その美しさと言う方向性が違うのであった。


 ローラは例の如く明日の準備である。これにはクラウディアも付いていくと言うことになり二手に分かれることになる。彼女たちはブラッドたちを心配しているが、チームとしてやるべきことはやらねばならず致し方なかった。



 時間的には午後四時、五時と言ったところ。

 ブラッドたちは家に戻った。鍵が掛かっていないことで、大家であるスマットの娘イルマが来ているのが分かった。そしてその予測は当たった。

「あらお帰りなさい、ブラッド……」

 イルマは調理中で汚れない様にエプロンを掛けて出迎えた。もう通い妻状態である…そして彼女は固まる。二人の密着具合に言い知れぬ怒りがこみ上げる。


「ねえ誰よブラッド、この女は?」

 知らないと言うことは素晴らしい。この後紹介した後にどうするかが分かるブラッドは気まずい気持ちになる。

「何ですのあなた。ブラッド、この家には使用人が居ましたのね?」

 イリエナも盛大な思い違いをする。一般人の家庭には使用人は普通存在しない。居るのは豪商の様な家や、豪農の家ぐらいであろう。

『あ゛ん!』

 二人の言葉がぶつかり合った瞬間であった…


 ブラッドは何とかイルマを鎮めて室内へと入る。粗方調理は終わっていたのか彼女は火を消して席に着く。既に二人は席に着いていた。妙にピリピリしている事には触れたくは無いブラッドだった。

「でっ?」

 席に着くなりイルマはそう尋ねる。明らかに怒りを内包している表情である。

「ああ、今度一緒に冒険者として行動することになったイリエナだ」

「イリエナですわ。宜しくお願いしますわね」

 彼女は彼に紹介して貰うとそう言った。こういったのはイルマが未だに此処の使用人であると勘違いしているからであった。


「それで、イリエナ彼女はイルマ。此処の大家の娘だ」

 繰り返しに為るがイリエナには庶民の、通常当たり前と考えることが非常識となっている。ブラッドはそこを失念していた。

「オオヤ?何ですの、それは?彼女はブラッドの使用人ではありませんの?」

 そうイリエナは家を借りると言うことを知らないのだ。

「ちょっと、何なのよこの女は!私は使用人では無いわよ!」

 イルマは思い切りテーブルを両手で叩きつける。これは怒っても仕方が無かった。使用人を卑下するつもりはないが、イルマは打算ではあるが此処には厚意で掃除に来て、料理を作りに来ている。


「この女ですって!」

 イリエナもその言葉に怒りを露わにする。彼女からすれば言われた事が無い言葉である。加えてイルマは庶民であり、イリエナは貴族である。階級社会であるセント王国は頂点に王、貴族がいる。その下は平民としてさらに細かく階級訳が為されている。そんな彼女が言った言葉であるから不味かったのだ。


 イリエナが認めた者であれば言葉使いは自由である。今のブラッドやローラたちである。しかし、その他は基本、馴れ馴れしい言葉使いはしてはいけないのがこの世界である。イルマも常識としてその事は理解している。だから良く申し込まれる結婚話で来る貴族にはしっかりとした言葉使いで断りを入れる。ましてや、家業として宿屋を営んでいるのだ。言葉使いはイロハのイである。


 つまりは、イルマの言葉使いとイリエナの勘違いは、しっかりと紹介をしなかったブラッドが悪かったのだ…


 最後までお読み頂き有難う御座いました。


 今回、遂にイリエナお嬢様が冒険者となりました。これでハーレム要因が一名追加されました…

 また番外編ではありますが女の戦いが勃発しそうですね…イルマの扱いをどうしていこうかと考えていると、どうしてもちょい役になりそうです。本当は加えてあげたいのですけれど、実力を考慮すればまだその段階では無いと言うことですね。


 御感想お待ちしております。

 誤字脱字等御座いましたら御一報頂けると幸いです。

 それでは次話で御会い致しましょう。

              今野常春。

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