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成り上がる?戦記  作者: 今野常春
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第十話

 取り調べ、調査は苛烈を極めていた。

 事前の話しで三人の司祭、ソロエン・ワット・キヤンは横領を行い、それを分からない様に細工していたことが判明している。教会本部への報告は数字上では違和感のないものに為ってはいるが、引退した元司祭ヴァレンチナの証言で虚偽であることが分かっている。拘束されて以後、彼等の住んでいた家は騎士団員が徹底的に調べ尽くしていた。

 幸いなことに彼ら家族は荷物を纏め家の中には物が無かった。後は証拠に成りそうな物を建材の中から探していくだけである。


 彼等の家は借家では無い。その為彼等の財産として見做されて、罪人として拘束されて以後は教会所有となるのであった。その為団員は周囲に被害が及ばぬ様、繊細に家を壊していく。先ずは屋根からである。次に二階、一階とバラバラにしていく。証拠は何処にあるか分からない。間違っても証拠不十分で終わる事が出来ないのが今回の事件である。

 家財道具一式は三家とも馬車に積んであり、これまたコーンステッド家へと移動させ一つ一つ虱潰しに調べている。


 では人間に対してはどうか、何でも有りである。とにかく自白させること、これに重きを置いている。人権などと言ったものはあり得ない事であった。初めは易しく話しかけて相手の緊張を解く、それで話し始めればよし。駄目ならば次第に態度を豹変させる。棒切れで叩きつけるなどは序の口である。痛めつけ肉体的に追い詰める。これでも駄目ならば最初以上に易しく、友達同士の様な雰囲気を作り出して話し始める。若しくは牢屋では無く、普通の家に住まわせて今までの事が嘘だったと思い込ませる。そして油断させた所一気に攻め立てる。これで精神的にも追い詰めて自白させる。


 騎士団員は教会に絶対的な忠誠を誓っている。メルストン教に反する行為を行うと言うことは異端である。絶対に許してはならないと彼等は教育を受けているのだ。そこで行われることは可哀想だとの感情は無い。自分たちの行っていることはメルストン教会の為である。


 連日連夜元司祭の三人は第五軍の厳しい取り調べを受ける。コーンステッド家であろうとそれ専用の場所と言う者はある。何時始まり、何時終わるかも分からない取り調べは三人の心を蝕んでいった。


「フン、ようやく喋りだしたのね…」

 第五軍隊長のカナエは、コーンステッド次期当主のライストリの計らいで専用の部屋を用意されていた。その腹心ロト・バリアンは経過報告を提出していた。現在はそれを見てカナエは鼻を鳴らしていた。

「はっ、あ奴等は我らの手法を良く知っていますからな。二段階目で口を開きました」

 二段階目とは肉体的苦痛を与えることである。此処までであれば人として死を受けることが出来るのだ。彼女は机に報告書を置く。

「もう少し掛かると思ったけれど早く終わるわね。それで家の方はどうなの?」


 此処には元司祭三人の自白内容が書き込まれているだけあった。物的証拠に為る物の報告がなされていない。

「それに関しましては何とも…家の方は解体作業まで行いましたが証拠は発見できませんでした。家財道具も同様です」

 ロトはカナエが見つめるだけで冷や汗が流れ出ていた。黒い瞳が自分をのん込まんとしているように思えていたからだ。彼女は職務に忠実で、騎士団の人間であろうと容赦はしない。副官として彼女に仕えて四年を経過した。それまでに見る彼女は冷酷そのものであった。慈愛もあるがそれは敬虔な信徒へ向けるものである。


「そうですか…まあ自白が行われているのならば良しと致しましょう」

 そう言うとカナエは席を立つ。

「どちらへ?」

 ロトは頭に入っている予定を思い出しても、何にも入っていないことに気が付きそう尋ねた。彼は彼女のスケジュール管理まで行う秘書官でもある。

「ライストリ子爵から呼ばれているのよ。お昼でもどうですか、と誘われてね。貴方はどうする?」

 こう言われてはロトは付いていくしかなかった。


 二人は最早慣れたようにコーンステッド家を歩いていた。自由に歩けるのは騎士団の中で、この二人だけである。一階に設けられた彼女の部屋を出ると廊下を通り抜けて外へと出る。

「子爵、本日はお誘いいただき有難う御座います。こんにちは皆さんお元気そうでなによりです」

 カナエは敵対者で無い限りはとても物腰柔らかい女性である。雰囲気も落ち着いている。これでもブラッドより二つ上の人物であるから驚きである。

「いやいや。来てくれて感謝いたしますよ。さあ、席に着いてください」


 此の場にはライストリの家族とカナエたちが参加している。イリエナの二人の兄は現在王都セントカールで王直轄部隊の騎士として働いている為出席していない。下の弟二人と妹一人が参加している。当然ライストリの妻も同席している。

 この日はブラッドたちは参加していない。彼等は家に戻り冒険者として活動しているからだ。


 昼食は良い雰囲気で始まる。こうやって食事を摂るようになり五日が経過していた。ライストリの家族とも打ち解けているカナエは、すっかり騎士団隊長では無くお客様となっていた。これこそ彼女の怖い所であるが、その姿が彼等に現れないことを祈るのみである。

 こうして楽しい昼食は過ぎて行ったのである。




 ブラッドたちは漸く日常と言うものを取り戻し始めていた。とは言え、貴族専用商人のアブレット・ノートンと共にコーンステッドの屋敷へと赴いてから一週間しか経っていないのだ。よく中身が濃い時を過ごせばあっという間だった等と言う話しを耳にするが、彼等は違っていた。

「ようやく!ようやーく!!よ・う・や・く!我が家で寝られるぞ!!」

 そう叫んだのはブラッドであった。此処まで叫べばローラたちが怒るはずだが、そうならないことで総てを察して頂きたい。


 室内は定期的に大家スマットの娘、イルマが掃除をしている為に埃と言うものが溜まる事は無い。三人は久々の我が家だとこんなにも落ち着くものか、という思いがしていた。

「ここがブラッドの家ですの…結構綺麗にしていますのね」

 イリエナが家に入ると至る所を見まわして言った。何故彼女が付いて来ているのか、それは今から遡る事七日前の摸擬戦での事であった…


 二人はトーエとイリエナと言うなで戦った。その時手も足も出せなかった彼女は完敗した。そして、偶然コーンステッド家に滞在していたドワーフ族のロワンデルがトーエをブラッド・レイフィールドであるとライストリへ告げたことから始める。

 彼の経歴は素晴らしいものである。イリエナと同い年のブラッドは、冒険者として上から数えた方が早いランクAを与えられている。さらに傭兵としてもマクコット侯爵から賞金を貰うほど対人戦でも力を発揮している。


 この時まではイリエナは自信過剰であった。一度として摸擬戦などで負けたことがなかったのだ。故に少し男を見下す行動や言動が見られ、ライストリや祖父のマクコットは頭を痛めていた。それ故にライストリは荒療治にと、ブラッドに忌憚の無い様に娘イリエナの実力を目の前で評価させたのだ。

 効果は覿面過ぎた…その遠慮のない言葉にイリエナは、泣いた事など幼子以来なかったが、泣きながら自室へと戻っていく始末であった。しかし、それで彼女は今までの事を振り返り態度を改めると言う気持ちへと変わっていたのだ。


 ではなぜブラッドたちにくっ付いているのか…イリエナは常々周囲の人間に、結婚相手は自分より強い相手でなければ結婚しないと断言していた。それは気持ちを入れ替えた後も変わりはしなかった。いや、むしろ悪化していったと言っても良い。

 イリエナはブラッドを夫として迎えたいとライストリに相談していたのだ。当然彼は娘の幸せが一番であるが、貴族は横のつながりで繁栄するものである。貴族でも無い彼との結婚はライストリが許しても、コーンステッド家に連なる一門が許すことは無いだろう。


 しかし、それを説明して聞き入れるほど彼女は人として出来てはいない。

「ならばわたくしを廃嫡してくださいな」

 つまり、娘を止めますよと言いだしたのだ。政略結婚が当たり前の貴族社会の中で、恋愛結婚はあり得ない話である。あり得ないから物語として話題に為るのだ。


 これには言葉が無くなるライストリは仕方なく、ブラッドたちを呼びだしてこう願いを言うしかなった。

「娘を君たちのパーティーに入れてくれないか?」

 この時ローラとクラウディアの二人は馬車で屋敷へ連れてこられ、ブラッドとイリエナが仲良さそうに腕を組んでいる?…一方的にイリエナが腕に抱きついている状態を、二人のアイには映っていたのだ。

 そんな後に四人は呼び出されるとお願いされていたのだった。



 話しは彼等の家に戻る。イリエナは庶民の生活と言うものが初めてである。目に映る全てが彼女には新鮮であった。この狭さも彼女には斬新なものとして捉えられていた。

「あら、お風呂は我が家と同じですのね」

 イリエナも魔力を持つものである。この風呂が持つ価値を、全く理解していない彼女はそう思うだけであった。そもそもブラッドたちと他の庶民を一緒に考えるのが良くなかったのだ。ブラッドたちは今で言う高額所得者である。世界のOO百人的な経済関係のランキングでも、貴族を省けばその中に入りかねない所得があるのだ。


 基本彼女はお嬢様である。何かをするでは無くさせると言う考えが彼女にはある。それが貴族の中での上流社会では当たり前であった。

「ローラさん、お風呂に入りたいわ」

 いつもならそう言えば後は使用人が全てをやってくれていた。勿論お湯を出すのはイリエナである。服を脱がす、体を洗う、乾かし服を着させる。此処までを使用人がやるのだ。それが彼女の常識であった。


 三人にはそれが通用しない。光熱費と言うものが無い為に、入りたいのならばどうぞと言った所であった。しかし、イリエナは動こうとしない。どうしたのかと思って、ブラッドが代表して尋ねれば…

「わたくし、お風呂の入り方存じませんの…」

 そう言ったのだ。これには三人は驚く。理由を聞けば先程の彼女たちの常識であった。


 常識は非常識と言うものがある。今回はそれが当てはまる事であった。今まさにイリエナの中の常識が覆されようとした時であった。

「分かりました。今回は私が一緒に入り、やり方を教えます。しかし、次からは一人で入れるようにしてくださいね」

 ローラは淡々とイリエナに言う。本能的に彼女は敵だと言う感情が芽生えていたのだ。ブラッドに好意を寄せる人間は極力排除するに限る、ともう一人クラウディアとは協定が結ばれていた。


 風呂場へと連れて行かれ、服を脱ぎ出すもイリエナは今着ている服の脱ぎ方さえ分からなかった。これには怒るよりも哀れに思うローラである。丁寧に一つ一つ教えていると子供に何かを教えている気持ちになったしまった。…二人は同い年である。さらには体形もイリエナの方が発育が良かったのだ…

 どうにか服を脱ぎ終わると今度は体の洗い方である。タオルを渡して体を擦る様に見せながら教える。イリエナの頭はバカではない。むしろ優秀である。単にここでは非常識過ぎて何にも分からなかっただけである。

 事実体を乾かすのは問題無く出来たし、服も同じ衣装の変えが何着かあり、それを自分で着られるようになっていたのだ。ローラはそれ以外にもしっかりと教えれば問題ないとこの時判断したのだった。


「さっぱり致しましたわ!」

 イリエナはブラッドたちのもとへと戻るとそう言い放った。後からは少し疲れた様子のローラが居たことでどの様なものであったかを理解した。

「イリエナさん、髪の毛は纏めないのですか?」

 彼女は風呂から出た後は髪の毛を解いたままにしていた。長さは腰まである。クラウディアも同じように今は髪を纏めている。長さも彼女と同等となり気に為っていたのだ。

「勿論纏めますわ…でもわたくしやり方が分かりませんの…」

 彼女の良い所はしっかり意思表示をすることだ。分からないことは分からないと言いう。時にはそれではいけないのだがこの場合はそれで良かったのだ。


「では此方に来てください。今回は私が髪の毛を纏めますからしっかりと覚えてください」

 クラウディアはそう言って彼女の髪を櫛で溶かし始める。

「お願いいたしますわ、クラウディアさん」



 本来はこの日冒険者ギルドへと赴いて依頼を受け、実行する予定であった。しかし、思わぬ事態がブラッドたちを襲っていた。……そうイリエナの非常識であった。

「ねえブラッドあれはなんですの?」

「ねえブラッドこれはどう言うものですの?」

「ねえブラッドあれは……」

 永遠に終わらない質問攻めにブラッドたちは質問に答えるだけで疲れてしまった。しかも、ずーっとイリエナは彼から離れようとはしなかった。彼等を知る人間はああまたか、と言うもので終わる辺りに普段どう過ごしているかが判断できる。


 結局冒険者ギルドへは彼女の登録を行い、依頼を受けるだけで終わった。


「え、えーちょ、ちょっと…ちょっとお待ちください!」

 受付で登録しようと並んだ場所は、以前から知り合いであるマリーであった。ブラッドたちとは何かと面識があり日常会話などもする仲である。この時は初めてブラッドたちが仲間を加えると、ギルドに登録申請を行いに来たのだ。その時彼女はイリエナの顔があのお嬢様だとは知る由も無い。あらお綺麗な方ですね、と本心からそう述べる程度であった。心の中では羨ましいと思ってもいたが…


 職務に忠実なマリーは必要書類を渡すと記入するように言うと、待つ間に後ろの人間の対応を始めた。

「終わりましたわ」

 イリエナはそう言うとマリーへ書類を渡した。字の書き方などはお手のもである。達筆のレベルを超えるほどである。

 マリーは書類を受け取ると書かれていることに驚愕し、さらには顔を蒼くして慌てだした。


 マリーは直ちに上司を呼びだす。それと同時に記入された書類を三階に居る秘書、フッロンへと転送する。転送とは単に上に上げるだけである。ギルドの最終的な決裁はギルドマスターが行う。依頼を冒険者が受ける場合もその場では仮契約なのだ。その後、最終的にギルドマスターのもとへ流れて決裁を行い初めて本契約となる。

 しかし、今すぐに答えが必要な場合がある。そんなときがこのて転送である。優先、最優先の二種類であり、受付にある箱に乗せボタンを押すことで、その書類などがフッロンのもとへと運ばれる仕組みである。そして彼の判断でマスターのコロコトへと伝わるのだ。


 今は上も大慌てであろう。マリーはそう思っていた。もう驚くことは無い…最初にそうなったのだから、と考えていた。今は上司が連絡待ちでオロオロしている状態であった。マリーの受付場所は休業状態である。ブラッド一行の後ろに並んでいた冒険者は違う場所へと流れていた。


 マリーは心の中で呟く、『このストレスはどなたにぶつけてやりましょうか』とイリエナが未だに抱きつくようにしている男を見て思うのであった。

 最後までお読み頂き有難う御座いました。

 文字数を六千ほどに落として書いてみました。

 

 イリエナはお嬢様で、一人では何一つ出来ないと言う設定で書いております。仕事を作るのが貴族と言う考えで彼女は行動していました。

 普通の人では考えられない事でもそれが彼女の中では当たり前だったのです。


 御感想お待ちしております。

 誤字脱字等も御座いましたら御一報頂けると幸いです。


 それでは次話で御会い致しましょう。

              今野常春

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