第一話
至る所で金属のぶつかり合う音が聞こえる。それに合わせ、人の悲鳴や怒号様々な声も混じる。此処は戦場だ。中には濛々と煙が上る場所もある。もう少しすればその熱によって雨が降りだすだろう。
戦場は小高い丘に造られた砦の争奪戦である。既に城門は破られ、攻撃側の兵が雪崩れ込んでいる。落城は時間の問題である。その中でも激戦を潜り抜けて只管に大将首を狙う者たちがいる。この砦の構造は砦と言う枠であるものの、昔は城として機能していた。その城が意味の無い物にとなり現在の軍事拠点に変わる。地下には当然牢屋が在り、さらには貯蔵庫もある。建造物は地上四階建てで城壁に囲まれた建物である。
一行は大将首を目指し上へと目指す。
「ブラッド次右よ」
彼女は先頭を行く男へと指示を出す。その間に彼女は自慢の弓で支援する。
「分かったぜっ、ローラ!」
勢いよく声を出すと敵兵を一刀のもとに斬り伏せる。通路をまっすぐ進むと左右に道が分かれる。指示通りに彼は右へと折れる。束の間に敵兵が目の前に再び現れる。
「おらっ!」
彼は出会い頭に敵兵を見ると横薙ぎに剣を払い胴を切った。
「お見事ね」
「まあな、クラウディアもやるじゃん!」
彼女は槍を持ち、ブラッドが斬った後ろの兵を突き殺した。反動を付けて槍を動かし兵の体から抜いた。
「経験がものを言うからね。ねえローラそろそろ階段に差し掛かるんじゃない?」
三人は言葉を交わしながらも正しい道順で最上階を目指している。さらには潜んでいる敵兵を一撃で仕留める。
彼等は流の傭兵である。このような戦場ではよくあることで、このような場所でお金を稼ぐ者を傭兵と呼ぶ。戦闘集団には分けて二種類在る。一つは彼等の様な傭兵だ。戦場があれば参加して功績を上げて金を得る。中には懸賞金などもあるし、覚え目出たい者は貴族(別名特権階級)への道が切り開かれる。
しかし、これには代償がある。基本戦場でのことは自己責任であると言うことだ。食料も武器も全て自前で揃えることが基本である。これを満たすべく存在するのが従軍する商人である。商魂逞しい商人は戦場であろうとも金が動くのであればやってくる。
二つ目は貴族軍である。細分化すると幾つかあるが此処ではひっくるめてそう呼称する。
貴族は領地を持つ者は兵を集めることが可能である。これを徴兵などと呼ぶ。与えられた領地内で兵士を集めるのだ。集められた兵は衣・食・住が保障される。また決まった給金が支払われるし、戦死すれば幾らかのお金が遺族に支払われる。この最後のシステムが傭兵との決定的な違いだ。
傭兵は死んだらそれまで、であるからだ。だから傭兵は腕に覚えのある者しかなろうとはしない。もしくは一攫千金を求める者か…
この二つの軍は実は切っても切れない間柄なのだ。傭兵は戦場が無ければ生きていけない。それを提供し、金を出すのが貴族または国である。貴族は兵士を失いたくないと言う事情がある。それは自領でかき集めた兵という理由だ。兵士は元々貴族の領地に住む者であり、働き手である。その兵が戦死すれば巡り巡って貴族のもとへと損害がやって来るからだ。
だから多少の金を支払っても傭兵を雇い入れるし、それを知る傭兵だからこそ戦場に集まる。互いに持ちつ持たれつの関係が生まれていた。。
ブラッドたち傭兵もその様にいて攻撃側に参加している。傭兵も個人や複数名のチーム、果ては部隊が編成できるほどの集団までと多岐にわたる。今回の戦い、規模はそれほど大きくは無い、傭兵は個人や彼等の様なチームしか参加していなかった。
彼はコーンステッド侯爵軍に配属されている。侯爵が攻撃側の総大将であるからだ。例によって危険な場所への攻撃は雇われた彼等である。当然援護射撃のもと彼等は動く。初めは攻城兵器(投石機、バリスタ)と弓兵の攻撃である。これは城壁から攻撃をさせないことで、牽制して城門の攻略を助ける目的である。この城門へは傭兵が集団となって攻撃する。指揮官は貴族の一人が行っている。ブラッドたちは此処に居る。相手も必死に守りきろうと最優先で城門の攻撃部隊を攻撃する。傭兵部隊は大小様々な盾で防ぎつつ城門の破壊に努める。
門の素材は主に木で造られ、補強するように鉄が這わされている。城門破壊を主眼に置いた兵器で攻撃すること六度、遂に門に綻びが生じる。取り付け部分にガタが来たのだ。さらには門自体にも亀裂が走る。傭兵部隊は次かその次で破壊できることを確信した。
これと同時並行で城壁をよじ登り上に居る守備兵を倒す傭兵もいる。今回はその手の傭兵が居て大分楽に攻略が進んでいた。城壁に居る守備兵は主に二つの役割がある。一つはよじ登る敵兵の排除、二つ目が攻城兵器の破壊である。主に城門の破壊を意図とする兵器は最優先である。
守備側も兵器を破壊するべくバリスタが上には備え付けられている。守備側も必死で抵抗を試みる。攻撃側の攻城兵器や兵士に損害が生まれていたのだ。しかし、これは侯爵軍には想定内の被害である。むしろ軽微という判定であった。
辺りに激しい衝突音が鳴り響いた。同時に木製の門が物理的な衝突で引きちぎられるような異音がけたたましく鳴り響くと攻撃側が盛り上がる。遂に城門が破られたのだ。これに参加した傭兵はこれで言っていの報酬が約束された。彼等は基本的に自由である。この後も報酬の上乗せを狙い砦内に侵入し、敵兵を倒して施設を制圧するもよし。ここで止めて安全地帯まで下がるも良しであった。
一番乗りを果たしたのはブラッドたちであった。剣を持つブラッドが破壊された門の残骸を乗り越えると目の前にはわんさかと守備兵が襲いかかる。それをものともせず冷静に斬り伏せる。届かない場所は後ろに居るクラウディアの槍とローラの弓がカバーしてくれる事は織り込み済みで動いている。。
彼等の目的は大将首である。首には王国大金貨二十枚が掛けられている。これは二年間、三人が働かなくても良い値段である。その他にも事前に賞金首が列挙され、道中にいれば倒そうと言うことで三人の意思は決定していた。
「おお、お主らが先頭か。やはり流石だのぅ」
ブラッドたちは声のした方を向く。この辺りは他とは違い静けさが支配している。
「おっさん!生きてたか」
ブラッドは目の前にいるドワーフ族の男へと声を発した。背は小さいが力があり、酒が常に必要など空想でよく知られるドワーフの典型である。彼等も傭兵である。
「まあな。それより後続はどうした?全く来ておらんが…」
ドワーフは全部で三名、此処には計六名の傭兵が揃う。
「そう言えば来てねぇーな…どうしたかな?」
「どうしたかじゃないわよブラッド。私たちが突出しすぎただけよ。まあこれくらいで遅れを取るようじゃたかが知れているけれどね」
ローラは冷めた感情で言った。規模で言えばこの戦い、さらにこの砦に詰める兵の錬度と士気を考えればそうなるのも無理は無かった。確かに城壁の上で戦う兵士の気迫は鬼気迫るものがあった。しかし、砦内へと侵入すると今までの激しさが嘘のようになる。
「そうじゃったのか。それは知らなんだ」
「ところでおっさんどこから来たんだ?俺たちとは違う部隊だろ?」
傭兵は配属される部隊以外は基本知らされない。所属が違う傭兵は部隊間の情報交換を禁止されているのだ。これは情報流出を懸念する貴族側の考えである。同じ国の者であろうともいきなり戦場に現れ、参加しますと言う傭兵を手放しで信用することは出来なかった。このことは国法でも定められている。
「わし等は地下じゃよ。ほれ事前にこの砦の見取り図を教えられたじゃろ。そこでこの地下には牢屋と貯蔵庫が備え付けられておる。そこでこのドワーフ傭兵隊の出番と言う訳じゃ」
ドワーフは掘削作業とそこから取れる金属などでの鍛冶が得意であった。そこから生まれた物が、三人が使用してきた先端が金属製の尖った道具であった。彼らが魔力を流し込むと金属が回転しあっと言う間に地中を掘り進めることが出来るのだ。彼等曰く『ドリル』と言う物だった。
「ああ、なるほどね。流石ドワーフ族だな」
「まあそれは置いておいてじゃ。ローラ、これからどう進めばいいかのぅ?」
ブラッドは三人の司令塔は彼では無い。ローラがブラッドとクラウディアとをうまく使いここまで来ていたのだ。
「そうね、なんてことは無いわよ。此処までくればあとは一直線よ。ブラッドとクラウディア、それにロワンデルさんが前衛で進んでちょうだい。そちらのお二人特性を私は存じません。ロワンデルさんが決めてくださると助かるわ」
冷静なローラは直ぐに指示を出す。余り此処で休むわけにもいかないからである。此方へと向かってくる足音が大きくなっていた。この足音は味方の傭兵である。
「よしわかった。ロードン、マルクオお主らは援護を頼む。ローラわしは前衛、二人は後衛じゃ、君に二人の指揮を頼む。さあブラッド行くぞい!」
ロワンデルは肩に担ぐ斧を振り上げるとブラッドへと言葉を向ける。此処で音頭を取るのはブラッドの役目である。
「よっしゃ!それじゃあ行こう!絶対遅れるなよ!」
ブラッドは声を発するとともに気迫を周囲にぶちまける。こうやって雰囲気を作り上げる。彼は勢いよく砦内を駆けだす。これに合わせ、息を殺していた生き残りの守備兵が襲いかかる。戦闘を行うには十分な広さがある。ブラッドは剣で敵を倒す。斜め後方でクラウディアが槍で、反対ではロワンデルが同じように敵を倒す。後ろにいる三人はローラが射殺す対象を指示しながら邪魔にならぬように射撃を行う。
三階部分を制圧し、階段を駆け上がる六名は激戦であるにも拘らず息を切らせていなかった。四階部分の間取りは、事前の情報でワンフロアぶち抜きと記してあった。その情報が正しい様で、階段を登りきると目の前に重厚な門が現れる。間違いなくこの先に目的の人物が居ることを示唆していた。
ブラッドは左右にいる二人を見る。此処では言葉は発しない。その様なことなどをしなくても阿吽の呼吸で動けるのだ。その視線によって動くのはロワンデルである。怪力自慢の彼が、どのような金属にも負けないと豪語する斧を大きく振りかぶる。遠心力を生かし、全体重を傾ける様にに門へと当てる。門の素材は金属であったのだが一発で砕け散った。
「ほう、青銅製の門を一撃か」
室内はうす暗く、敢えて陽の光を取り入れていなかった。六人は土埃が薄れるのを待ち、足を踏み入れた。そうして先の言葉が響き渡り、聞こえてきたのだ。
「いたな、あれがモロルンド男爵だな」
事前に賞金首に上げられる特徴をブラッドは思い出し、目の前にいる人物と見比べる。言葉での説明であった為多少の誤差はあるが見間違うことは無かった。
「ふん、傭兵風情が軽口を叩くな、汚らわしい。我がアオロント国はお前らの様なゴミと貴族が話すことさえ許されんのだ」
彼らが教えられた特徴、大柄な野性味のある男。これが最初に教えられたことだ。モロルンド男爵はそう言うと今までは玉座に座っていたが立ち上がり戦闘態勢に入る。
「で、でけぇ…」
全長二百五十センチある大男である。しかも体形は筋骨隆々である。ドワーフと比べるととんでもない身長差があった。ブラッドも百八十七センチある高身長であるがそれでも見上げることで感嘆を禁じ得なかった。
「この砦も陥落間際。だがこのワリホト・モロルンド男爵いる限りこの場は陥落せん!」
その気迫だけで彼ら以外であれば簡単に気押されるものだった。ワリホトは体格を裏切る様に高速で彼等に向かってくる。部屋の薄暗さもあり速度を計り切るのが困難であった。
「くそ、暗くて判りずれぇ…ローラこの部屋、窓は無いのかよ!」
幸いこの元城は石材で造られている。声は響き渡る為に戦闘中であろうと問題なく声が伝えられる。フロアぶち抜きであるが天井を支えるべく柱が行く本も存在する。彼等はそれを利用して先ずは目を鳴らすべく室内を動き回る。
「ないわよ。まさかここで、こんな相手が待っているなんて想定外だわ!」
ローラはそう言いながらも死角を狙いクロスボウを射る。残り二人の後衛のドワーフも同様に行う。
「ははは、そんな矢は効かんわ!さあ死ね!死ね!死ね!」
だんだんと声を大きく、感情を爆発させていくワリホト。それに合わせ両手に持つ金砕棒(鬼が持つ金棒)を振り回す。至る所で石の破片が飛び散る。柱も無事では済まなかった。数本は折られている。
「あいつ滅茶苦茶だな」
ブラッドは偶然となり合わせたクラウディアに声を掛ける。
「全くね。私ああいう男大嫌いなの」
「別にお前の好みは聞いてないけど、その言葉には賛成だな」
二人はまだ軽口を叩ける程に余裕がある。呼吸もさほど乱れることが無い。
「それで?」
クラウディアは尋ねる。この先はどう動くと言う言葉を省略している。それで分かるほどに付き合いが長い。
「一応あいつも人間だろ。なら狙うはあいつの首だ」
ブラッドはそこで話しを止めると次は大声で叫ぶ。
「脚を止めろ!」
これを行わなければ首を狙うことなど出来はしない。ワリホトは全身を金属製の鎧で固めている。無闇矢鱈に攻撃しても此方の武器が駄目になる。脚を止めるにしても関節部を狙うしかない。これはピンポイントで攻めなければならない。
ブラッドの言葉が分かったのか全員がその指示に動く。ロワンデルとクラウディアは陽動でワリホトに攻めかかる。ブラッドも攻めるが、彼は何時相手が動きを止めても良い様に止めを刺す機会を窺う。此処で主役となるのはローラたちだ。今まで使用していたクロスボウでは無くして、一撃必殺を意図として製造された弓を構える。矢も大きく全てが金属と言う特注品である。三人は距離を取り、何時でも放てる用意をする。これに失敗すると第二射目までには大きく時間を要する。
「何を言うかと思えばそんな作戦とは!温いわ!」
ワリホトが金砕棒を振るうだけで風圧が辺りに生じさせる。それを生み出させるだけでも矢の方向を違える要因になる。しかし、結末は呆気ないものだ。最初に有効打を得たのはクラウディアだった。右腕を振り抜いたワリホトは左肩へと当たらんばかりに腕を回した。その瞬間こそワリホトが無防備になる唯一の機会である。左腕が機能しなくなるのだ。さらに関節部が一番広がる瞬間でもある。彼女は右手甲と前腕部の間を槍で突いた。これには彼もたまらず悲鳴を上げる。
「グォオオオ」
その瞬間クラウディアは槍を引き抜く、後を追うように鮮血が飛び散る。さらには金砕棒を痛みに耐えきれずに投げ捨てる。地面に重低音が響いた。
「隙ありじゃ!」
ロワンデルは痛んでいる反対側を狙い、斧を振りかぶり、一気に振り抜く。今度は左手が飛び、ワリホトの血が噴水のように飛び散った。両腕の武器が無くなり、さらに自慢の快足も今は止まっている。後はブラッドが首を取りやすいように膝を地面に着けるだけである。
「今よ、膝を狙って!」
ローラたちは後方から膝を狙った。人体の構造上前から狙っても意味がない。膝は前にしか曲がらないのだから後ろから狙うのは当たり前である。
「ぐ、グォオオオ」
最早声にならない言葉しか発することは出来ない。見事彼女らが放った矢は両膝を射抜いた。矢の質量もありワリホトはブラッド等の考え通り膝を地面に着けた。ここで、時間を掛けることはしない。たとえどんなに憎しみ合う者同士が戦おうとも、此処までの状況へと追い込めば楽にしてやるのが、戦い合った者への礼儀であった。
「みんなありがとよ。……楽になりな、モロルンド男爵!」
ブラッドは助走を得て高く跳び上がると剣を上段に構えて落下速度と重量を武器へ伝える。振り抜いた時はあっと言う間であった。首は綺麗に体から離れ、ボールよろしく転がると勢いを失くして停止した。 その顔は苦悶の表情であった。ワリホトの体は頭を失い土下座するように前に倒れ込んだ。
暫く静寂があたりを占める。未だに外から喧騒が聞こえてくる。下からは遅ればせながら後続の傭兵らが駆け付ける。それに合わせるようにロワンデルはワリホトの首を取る。 苦悶の表情で目を開けているワリホトを彼の手で目を閉じさせると、首をブラッドへ渡した。
「さあ、お主が声を上げよ」
そう言ってロワンデルはブラッドが目立つように距離を置く。先頭だけではなく後続もこの部屋へと入る。勢いよく侵入したのは良いが、雰囲気の違いに彼等は戸惑った。ブラッドはワリホトの首を掲げる。
「大将首、ワリホト・モロルンド男爵。ブラッド・レイフィールドが討ち取った!」
この瞬間砦攻防戦の幕は下りた。直ちにこのほうは砦内、外へと伝わる。守備兵はこれ以上の抵抗は無意味である。暗黙のルールと言う者がある。それがこの大将が討たれたなどの後の対応である。一般兵はそれを持って降伏してもいいと言うのがルールとして認識されていた。守備兵は大半がそれを守り武器を置いて降伏したのだった。
ただし、これは同じ文化や伝統を共有できるような場合である。異国の者とではこのルールが通用することは無い。
ブラッドの名乗りによって遅れてきた傭兵らは喝采を上げる。伝播するようにその声がジワリと外へも流れて行った。
戦後処理と言うものは、傭兵は殆んど関わらない。これは貴族軍の兵が行うことだ。熱気冷めやらぬ中を兵士らは忙しそうに動き回る。さらには砦上空に予測した通り雨が降り、熱を冷ますのに役立っていた。この戦いに参加した傭兵は契約の通りに規定の金銭支払われている最中である。これはブラッドたち以外、さして特別な働きの無い傭兵である。ブラッド等は未だに待機を貴族側から申しつけられていた。雨に濡れぬ様木の下で天幕を用意してお呼びが掛かるのを待っている。さらにブラッドは首桶の様な物に入った大将首を大事に持っている。これは懸賞金との交換であるからだ。誰かに取られる訳にはいかない。
「しかし、あの男爵だけだったな…強かったの」
ブラッドは隣に座るクラウディアに言う。戦場とは違い、穏やかな顔をしていた。
「そうね…危険と感じたのもあの場面だけだものね…」
クラウディアも放心している訳ではないのだが、戦いの後は得てしてこんなものである。 ローラを含めて三人は今年十六となる。この国では成人とカウントするのはもっと早い。
決まりはないが、十二~十四で成人と考えていた。
二人はボーっとするように、兵士の上げる声や報酬を受け取り喜ぶ傭兵の声を聞き入っていた。
「なんじゃ、二人ともロエト砦戦役の立役者がこのようにしおって」
現れたのはロワンデルだった。手には酒瓶を持ち既に顔を赤らめて二人の前に現れた。
「ああ、おっさんか。名前は決まったんだな」
必ずと言う訳ではないが記録に残す為に戦いの名前が付される。基本はその場所の名を取り命名される。今回はロエト砦の攻防戦である為にその名が付いた。
「そうじゃ、…んっ?ローラはどうしたんじゃ。お主らに気を使った訳ではあるまい?」
彼は少しからかうように言った。当然二人の反応を楽しむためだ。
「な、何をっ!」
「ローラなら消耗品の購入だよ。うちはローラにこの手のことは任せっぱなしだからな」
クラウディアは見事に反応したがブラッドは平然としていた。表情もクラウディアは赤面してあたふたしているのに対し、ブラッドは普通に答えていた。
「そうか、そうか、ほほほ。それじゃあ彼女に伝えておいてくれ、メンテナンスが必要ならば何時でも受け取るとな」
「わかった。今回もありがとな、おっさん」
ロワンデルはそう言うとこの場を後にした。未だにクラウディアの興奮は冷めやらぬ様だった。
それからしばらくするとローラが買い物から戻る。既に戦闘状態ではない為に大分近くまで商人が臨時の店を構えていた。ブラッドはロワンデルの伝言を彼女に伝え、買って来た品を整理していると騎兵が近づいて来るのがわかった。
ぬかるんだ地面を馬の爪が着くたびに粘着質の音が伝わってきたからだ。馬上では人の名を呼ぶ声も聞こえる。
「ブラッド殿。ブラッド・レイフィールド殿はどちらに居られますか!」
声を張り上げ、ブラッドの名を呼ぶ騎兵は煌びやかな金髪をたなびかせた女性兵士だった。
皆さま初めまして。この度初投稿を致します。至らぬ文章力とは存じますが精一杯完結目指して頑張る所存です。
戦記と言う単語をタイトルに着けましたのは戦争、戦闘描写を多くしようと考えている為であります。さらには、成り上がる?と書きましたのも、未来は不明瞭であると言うことだらかです。
色々おかしい場所があるかとは存じますが、生温かく見てくださると幸いです。