12 『最後の笑顔を』 他 10編
●● 朝の光 ●●
誰もいない道
遠くで聴こえる車の音
白い息
新しい空気
鳥の鳴く声
明けたばかりの空
一日が始まる
●● 夕暮れ ●●
時間を気にしないでたくさんしゃべったね
すぐに忘れてしまうような他愛もないことばかり
それは毎日の
当たり前にある時間だったのに
時が経ち
今では
私を支える大切な記憶
●● キャッチボール ●●
見返りを
求めることも
求められることもつらく
なにか汚い行為のように
それを目にすることを避けて
他人に触れないように生きていた
あれが嫌だ、これが嫌だと
粗探しをしたいわけでもないのに
そんな風にしか見れなかった
でも
優しくされたら
優しさを返したくなり
笑いかけられると
笑ってしまう
それは当たり前で自然なこと
それは今の私にとって大切なこと
見返りとか利益とかそういったことではなく
気持ちを投げて 返されて また投げる
それはキャッチボールのようなものだった
それはとても美しくかけがえのないものだった
●● 大切な私たち ●●
ある日の再会
変わったもの
変わらないこと
私の気楽さで
あなたが少しでも救われるなら
●● 向こう側 ●●
すぐ近くにいるのに
信号が なかなか青にならないね
私たちはもうずっとここにいる
●● 救済 ●●
苦しい時に
振り絞って
助けを求めた声は
みっともなくて
いやになったけど
あなたが
助けてくれたから
勇気を出してよかったと
みっともない
私のことを好きになれそうです
●● マイナス ●●
人を傷つけるのが嫌いだ
自分に否がなくても苦しくなる
人前で話すのが苦手だ
見えない嘲笑を受けているように感じてしまう
人に甘えるのが苦手だ
拒否されるという頑なな意識が邪魔をする
人前で泣くのが苦手だ
自分が同情を求めているように思えて嫌になる
人といるのが不安だ
いつ否定されるか、心の中はどうなのかと始終考えて疲弊する
●● 空虚 ●●
いま私は
全てが恐ろしく
全てが哀しい
あなたのいない世界を手にしたところで
何の意味があるというのだろう
●● バランスのとり方 ●●
傷ついても毎日は続き
傷つけても毎日は続く
そして時々どうでもいい人に
優しくされたり優しくしたりする
●● 最後の笑顔を ●●
泣くのも笑うのもしらじらしくて
言葉を探しても見つからなかった
あの夕日が沈んだら
君とお別れ
このまま時が止まればいいのに
永遠に哀しいままだとしても
君がいなくなるよりはましだから
もうすぐあの暁が私たちを飲み込むんだ
私じゃ日が沈むのを止められない
私達はただだまって 夕日が沈むのを眺める
朱に染められた世界が薄れていく
暗闇が私たちを取り囲む
別れの時はきた
私たちはきっともう会えない
怒りに似た悲しみで君を見つめる
微かな灯りに照らされて 君はとても美しかった
私たちはもう会えない
それなのに やはり何も言葉が出ないのだ
出会わなければ良かった
そんな卑怯な感情も心のどこかにはあって
別れないですむ方法を探しても見つからなくて
何も言わず 私たちは手を握りあった
相手が幸せになっていても知る手段なんてない
わかっている
でも約束をした
君は私のために 私は君のために
幸せになるのだ
絶対に
最後に互いの目をのぞいた
君は私で そして私は君なのだと
そんな気がした
さよならなんて言わない
もう二度と会えないとしても
私たちは自然に手を離し 声をかけずに離れた
君はあの時 少し笑っていただろうか