表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界スキル整備士  作者: なるかめ
第3章 国家整備編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/24

第14話 国家回路の限界

帝国――

それは、この世界で最も整った場所。


技術も、制度も、流れも、

すべてが“正しく”管理されている。


だからこそ、カイトは違和感を覚える。


整いすぎている。


揺れがない。


逃げ道がない。


都市で起きた異変は、偶然ではなかった。

それは、より大きな構造の一部に過ぎない。


第14話――

国家という名の“完成された回路”の中で、

その限界が、静かに姿を現す。


―手順が完成すると、逃げ場が消える―


馬車は静かに揺れていた。


一定のリズム。

無駄のない速度。

衝撃すら均されているような走りだった。


だが、それが逆に気持ち悪かった。


カイトは窓の外を見ていた。


街道はまっすぐに伸びている。

石畳は均一で、補修跡がほとんど見えない。

路肩の排水溝も、流れに淀みがない。


《路面回路:均一》

《負荷分散:正常》

《同期率:高》


淡い表示が視界に浮かぶ。


どこにも“ズレ”がない。


カイトは小さく呟いた。

「……揃いすぎてる」


隣に座る監察官が、ゆっくりと顔を向けた。

監察官は低く言った。

「帝国の標準整備だ」


「標準、か」


カイトは目を細める。


「揺れがない」


監察官は短く答えた。

「それが理想だ」


カイトは答えない。


窓の外。

整いすぎた道。


狂いのない流れ。


本来あるはずの“遊び”がない。


逃げ場がない。


カイトは小さく呟いた。

「……逃げ道が見えない」


---


帝都が見えたのは、昼を少し過ぎた頃だった。


白い城壁。

巨大な門。

均一に並ぶ監視塔。


すべてが同じ形。

同じ間隔。

同じ高さ。


整いすぎている。


門をくぐった瞬間、空気が変わる。


カイトは思わず足を止めた。


人の流れが、揃っている。


歩幅。

速度。

視線の向き。


誰一人、ぶつからない。


誰一人、迷わない。


通りの角で、荷車が石を鳴らした。


その瞬間――


歩行者たちが、ぴたりと半歩だけ止まる。


視線も、足も、同じタイミングで止まる。


誰もぶつからない。

誰も苛立たない。


一拍後。


まるで合図でもあったかのように、同時に動き出す。


カイトは低く言った。

「……決められてるみたいだな」


監察官は横目で見た。

「それが管理だ」


カイトは答えなかった。


答えたくなかった。


荷の流れも同じだった。

浮遊板の動きも。

街灯の配置も。


すべてが“揃っている”。


《都市同期率:極高》

《逸脱:なし》

《補正:常時稼働》


補正。


常時。


それはつまり――


「ズレを許さないってことか」


カイトはつぶやいた。


監察官が答える。

「そうだ」


カイトはゆっくり首を振る。


「違う」


一拍。


「ズレを消してる」


---


技術監察院。


広い室内。

整然と並ぶ机。

無駄のない動線。


ここにも“揃い”がある。


中央に立つ男が顔を上げた。


帝国技術官だった。


技術官は言った。

「整備士カイト」


カイトは一歩前に出る。

「そうだ」


「なぜ、あの都市で装置が成立した」


カイトは答えた。

「手順が揃いすぎたからだ」


技術官は首を傾げる。

「揃うことは悪ではない」


カイトは言う。

「逃げ道がないのが問題だ」


技術官は即答する。

「逃げ道は不要だ。完全であれば破綻しない」


一歩、前に出る。


「一都市の歪みを許せば、次は十都市が崩れる」

「帝国は偶然の余地で回ってはならない」


カイトは静かに言った。

「壊れる」


空気が止まる。


「どんな回路でも歪む」


技術官は言う。

「歪まないように整える」


カイトは首を振る。


「揃えるから壊れるんだ」


---


輸送回路。


巨大な浮遊板が規則正しく動いている。


荷が流れる。

人が流れる。


完璧な流れ。


だが――


カイトの視界に、違和感が走った。


一つ。


ほんのわずかな遅れ。


《逸脱検知》

《補正開始》


次の瞬間。


周囲の回路が引きずられる。


一系統。

二系統。

三系統。


連鎖する。


隣の浮遊板が、わずかに沈む。


その沈みを埋めるように、別の回路が引き絞られる。


荷を固定していた金具が、甲高い音を立てた。


一つの遅れを消すために、周囲全部が無理を始めている。


「……広がってる」


カイトは呟いた。


さらに外側。


さらに。


ズレが消されていく。


いや――


「引き寄せられてる」


流れが一点に集まっていく。


異常な収束。


「やめろ!」


カイトは叫んだ。


だが止まらない。


負荷が圧縮される。


膨張する。


足元の石畳が鳴る。


ミシ、と。


歪み。


崩壊の予兆。


監察官が低く言った。

「止められるのか」


カイトは答えない。


答えられない。


だが――


「……同じだ」


都市崩壊装置と。


構造が。


ノードに手を伸ばす。


だが――


《外部介入:拒否》


「……っ!」


触れない。


操作できない。


技術官が言う。

「逸脱は補正される。それが正常だ」


カイトは叫んだ。

「それが壊す!」


負荷が限界に達する。


このままいけば――


全体が巻き込まれる。


カイトは歯を食いしばった。


「ずらせ!」


結節を強引に崩す。


流れを乱す。


同期を壊す。


《同期崩壊》

《負荷分散》


流れがほどける。


圧が逃げる。


崩壊寸前で止まる。


静寂。


誰も動かない。


監察官が低く言った。

「記録しろ……これは逸脱じゃない。“構造”だ」


---


技術官が言った。

「……非効率だ」


カイトは息を吐いた。


「効率が良すぎると壊れる」


監察官が問う。

「つまり?」


カイトは帝都を見渡した。


揃いきった街。


逃げ場のない構造。


「ここは――壊れたら全部壊れる」


技術官は静かに言った。

「それでも最適だ」


カイトは首を振る。


「違う」


一拍。


「これは事故じゃない」


技術官の視線が揺れる。


カイトは言った。


「設計だ」


---


夜。


帝都の灯りは整然と並んでいた。


揺れがない。

狂いがない。


完璧な光。


カイトは窓の外を見つめていた。


都市は揺れていた。

だから助けられた。


だがここは違う。


揃いきっている。


逃げ場がない。


カイトは拳を握る。


止められたはずだった。


都市では。


だが――


届かない。


規模が違う。


構造が違う。


「……俺じゃ、足りない」


その言葉は、はっきりと出た。


そして理解する。


これは事故じゃない。


意図されている。


完成させるために。


その先の崩壊ごと。


そこには――


壊れる未来すら“正しい”と見なす意志がある。


止められないように設計された――


国家そのものを巻き込む“装置”。


第14話 完

第14話をお読みいただきありがとうございます。


今回は「国家」というスケールで、

これまでの問題を一段引き上げた回になります。


整っていることは、本当に正しいのか。

効率を突き詰めた先にあるものは何か。


帝国は間違っているのか。

それとも、正しすぎるだけなのか。


そしてカイトは初めて、

“自分の整備では届かない領域”に直面しました。


ここから物語は、

技術だけでなく「思想」の衝突へと進んでいきます。


次回、第15話。

整備とは何か。守るとは何か。


その答えが、少しずつ試されていきます。


引き続き、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ