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異世界スキル整備士  作者: なるかめ
第2章 都市整備編

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12/24

第11話 失敗の整備 ―正しい手順が、街を壊す―

整備が整えば、街は安定する。

そう信じていた。


手順を揃えれば、誰がやっても同じ結果になる。

だからこそ、街は守れる――はずだった。


だが。


正しさが揃ったとき、

それは必ずしも安全を意味しない。


整備とは、壊れたものを直すことではない。

流れを整え、均すことだ。


だからこそ、揃いすぎた流れは、

逃げ場を失う。


第11話は、整備局(仮)が初めて“制度として動く”回です。

そして同時に、その制度が初めて“街を壊す”回でもあります。


正しい手順が、なぜ失敗するのか。

その理由は、まだ誰も知らない。


朝の光が、整備局(仮)の窓から斜めに差し込んでいた。

机の上には紙束。記録帳、依頼書、都市地図。

昨日までの会合の名残はもうない。

ここはもう、議論する場所ではない。動かす場所だ。


俺は手順書をめくる。

整備局の正式手順。ノード基準、緊急時運用、記録形式。そして――整備手順。


結節確認。

負荷測定。

同期補正。

流量均一化。


誰がやっても同じ整備になるための“言葉”。


「……これで回るはずだ」


背後で椅子が軋む。

レイナが腕を組んでいる。

「紙が増えたな」


グランが鼻を鳴らした。

「現場は減ってねぇ」


セリスは机に張り付いている。

「記録がないと整備できません!」


ミレイが静かに言う。

「都市を動かすのは記録です」


俺は手順書を閉じた。

「今日は違う」紙を叩く。

「これで整備する」


「整備局! 北三区画、街灯回路異常!」


俺たちは外へ飛び出した。

通りには人だかり。

屋台の明かりが不安定に明滅している。


子どもが泣いている。

「怖いよ……」


母親が抱き寄せる。

「大丈夫、大丈夫だから……」


俺は街灯に触れた。

視界に線が浮かぶ。

ノード。結節。流量。――揃っている。


嫌な揃い方だ。だが・・・

「手順通りにやる」


セリスが頷く。

「はい!」


結節確認。

負荷測定。

同期補正。

流量均一化。


俺は自分の感覚を切る。

手順に従う。

“誰でもできる整備”に。

線が整う。


《安定》


街灯が一斉に灯った。


「ついた!」


「助かった!」


子どもが笑う。


母親が頭を下げる。


レイナが肩をすくめる。

「ほらな、問題ねぇ」


俺は頷いた。

「当然だ。手順通り――」


その瞬間、光が強くなる。

白く、焼けるように。


「……おい」


視界の線が重なる。

全部が、同じ形に揃う。

逃げ道がない。


「離れろ!!」

レイナの声。


遅かった。

街灯が爆ぜた。

光が弾け、火花が走る。

屋台の布に火が移る。


子どもが悲鳴を上げた。

「いやああああ!!」


レイナが飛び込む。

剣で火花を弾き、体で庇う。


グランが怒鳴る。

「水持ってこい!」


セリスが震える声で叫ぶ。

「同期が跳ねてます!!」


俺は――動けなかった。

「……なんでだ」


手順通りだった。

一つも間違えていない。

なのに。


「なんで壊れる」


整備局。

焦げた匂いがまだ残っている。


監察官が言う。

「説明しろ」


俺は答えられなかった。


ミレイが記録を見る。

「手順は正確です」


監察官

「結果は」


沈黙。


レイナ

「現場で抑えた。死人は出てねぇ」


監察官

「今回は、だ」

一拍。

「制度の失敗だ」

その言葉が刺さる。

「整備局の運用を停止する」



夜。整備局。灯りは一つ。


俺は手順書を見ていた。

「……俺が作った」

指が震える。

「誰がやっても同じ整備になるはずだった」

紙を握る。

「だから俺は――」

言葉が詰まる。


「現場を捨てた」


沈黙。


「見えてたのに」

あの揃い方。あの危うさ。

「分かってたのに」

手順に従った。

「……逃げたんだ」


レイナが立っている。

「違う」


「同じだ」

俺は言う。

「俺が壊した」


「違います!」

セリスが入ってくる。

紙を抱えている。

「全部見ました!」


グランが続く。

「おかしい」


セリスが紙を広げる。

「この手順です」


グランが指で叩く。

「負荷均一化」


俺は呟く

「俺が作った」


グランがそれを否定した。

「違う」紙を叩く。

「この閾値、入れてねぇ」


セリスが加えていう。

「揃えすぎる設定です」

「逃げ場がありません」


俺は紙を見る。

確かに違う。

わずかに。

だが致命的に。

「……改竄」


グラン唸る

「いや、それだけじゃねぇ」

別の紙を出す。

同じ書式。

同じ罫線。

同じインク。

「全部同じだ」


セリスが補足する。

「紙も同じです」指でなぞる。

「この繊維、同じ製紙所です」


さらに・・・

紙の端。小さな印。同じ位置。同じ形。


グランが低く言う。

「一人だ」

「いや――一つだ」


俺は息を呑む。

「配ってるのか」


セリスが応える。

「はい」


グランが紙を叩く。

「誰かが広めてるんじゃねぇ」

「“良い手順”として自然に広まってる」


沈黙。


俺が考えながらいう。

「……誰かが手順書を流してる?」


グランは首を振る。

「もっとタチが悪い」


一拍。


「整備士が、自分で選んで広めてる」


俺はようやく気づいた。

壊したのは俺じゃない。


だが、俺の整備は使われた。

手順は、書き換えられ、配られ、街に広まっている。


敵は、回路の中じゃない。

整備の“教科書”となるはずの手順書の中にいる。

そしてそれはすでに街の中に根を張っている。


第11話 完

第11話を読んでいただき、ありがとうございます。


今回は、カイトにとって大きな転換点となる回でした。

これまで「壊れたものを直す」ことで前に進んできた彼が、

初めて「正しく直したはずのものが壊れる」という現実に直面します。


ここで描きたかったのは、単なる失敗ではありません。


正しさそのものが、別の形で利用される怖さ。

そして、善意や効率が、そのまま危険へと繋がってしまう構造です。


敵はもう、目に見える場所にはいません。

回路でも、魔術でもなく――

「手順」や「記録」、つまり人が信じて使う仕組みの中に入り込んでいます。


だからこそ、この物語はここから一段深い局面に入ります。


カイトは、自分の技術だけでは届かない領域――

“仕組みそのもの”と向き合うことになります。


そして次回。


止められた整備局。

揺らぐ制度。

それでも止められない現場。


その中で、彼らが選ぶのは「止まる」か、「進む」か。


第12話も、ぜひ見届けていただければ嬉しいです。

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