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ガンテツ 滅亡のパラドクス  作者: ちみあくた


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第三章 16



「畜生! ベクラが、光輪を使うとは……」


 顰め面で呻いた轍冶のみならず、繭に帰投し、セントラル・ホールへ集まった黒岩家の面々は、誰もが打ちひしがれていた。


 亜紀との死闘で満身創痍の美貴、阪田、心労の滲む笠井は元より、戦場に出た者は一人残らず重いダメージを抱え、立っているのがやっとの有様だ。


 それでも、彼らはまだ幸運と言えるのだろう。


 戻って来ない村正の機体は全体の四分の一に及び、洗脳から解放された亜紀、腰骨が外れた統也、巻き添えで全身打撲の米倉らは病室を出る事さえ叶わないのだから。


 せめて犠牲に見合う戦果が有れば……そんな報われない思いが、居並ぶ全員の表情に漂っていた。


 Jガイア攻略自体は成功したのに、肝心のGANコア=GANベクターは無傷のままで、ガンテツの切り札だった光輪を自在に操る巨人へ生まれ変わっている。


 その上、


「もし、敵が35年分の成長を戦闘力増強のみに使っていたとしたら、まともに戦っても勝ち目は薄いでしょう。ガンテツの場合、武装ではなく、時空制御の能力を主に進化させていますので」


 皆の中央に立つ三次元映像のナナは、深くうなだれていた。

 

「……只でさえ私が乗らない限り、ガンテツは完全な力を発揮できないのに」


「今更の話だっぺ、ナナ」


「……でも」


「体なんか無くたって、あんたの心がここにありゃ、俺は十分心強い」


 轍冶の慰めを受け入れ、ナナは頷いて見せたが、事態の深刻さは変わらない。


 この時、時刻は午後5時43分。

 

 地球の大空間転移が行われる午後11時39分まで6時間を切り、繭が漂う夕焼け空は暮色を深めている。

 

 戦って勝つ以前に、タイムリミットまでベクラが潜伏を継続し、所在を発見できなければ、それだけでゲームオーバーだ。

 

 

 

 

 

 しかし、セントラル・ホールが重苦しい沈黙に包まれ、募りゆく焦りに皆が耐える中、意外な形で貴重な情報が飛び込んできた。

 

 テレビ電波の傍受による、ニュース番組の速報である。

 

 およそ十分前、東京都・芝公園、東京タワーの真上に光輪が浮かび上がり、そこからGANベクターが出現したのだと言う。

 

 ビデオ映像をホールのモニター・スクリーンへ映し出すと、高度150メートルのタワー大展望台に異形の巨人が腰を下ろし、頬杖をついているのが見えた。


 都市の治安機構が全く機能していない為、迎撃を試みる自衛隊の部隊は皆無。警察の動きさえ見えず、パニックを起こした大群衆が、我先に路上を逃げ惑う。


 一方、足元の阿鼻叫喚に巨人は何の関心も抱いていなかった。

 

 白銀の装甲が夕日に映え、真紅に輝く瞳で町を睥睨して、何か物思いに耽る佇まいはロダンの彫刻さながらだ。

 

「……あん時と同じだなや」


 轍冶がポツリと呟いた。



「前に戦った時も、ベクラはあそこでガンテツを待ち受けた。今度こそ、決着をつける腹積もりなんだろう」


「他にも、小細工を仕掛けているみたいですし、ね」


 ナナはそう言ってテレビニュースを打ち切り、米・監視衛星から傍受した映像に切り替えた。


 Jガイアでの攻防には参加せず、世界の要所で駐留・監視を続けていた『彼岸』残存艦隊が一斉に動き出している。

 

 それだけではない。地球の衛星軌道上で大光輪を警護していた艦隊まで、大気圏を突破し、地表への降下を開始した様だ。


「24世紀の艦艇を全て合流させるつもりじゃな」


「ええ、ここまで来たら大光輪を守らずとも、タイムリミットまでにガンテツが近づき、あのサイズを閉じてしまう事は不可能ですから」

 

 笠井の口調にいつもの飄々とした趣きは無く、答えるナナの表情も暗い。

 

「ですが、それなら妙ではないですか? このままの進路だと艦隊の合流は太平洋上になります。こちらの標的がGANベクターなのは敵も承知でしょうし、少なくとも衛星軌道上の戦力は、直接、東京へ降ろす方が……」


「戦術上、当然の流れ、か」


 シゲルの指摘を受け、笠井は訝し気に首を傾げる。


 機甲自衛隊の元幕僚長でも読めない敵の狙いに、セントラル・ホールの誰もが戸惑う一時を経て、


「あいつ、闘いたいのかもしれない」


 ポツリと阪田が口を開いた。


「三佐、あいつって?」


「35年前、GANベクターに吸収されたベクターαの事だ。おそらく、あいつの意識はまだ生きている」


「三佐はそいつと一緒に未来から来たんだよね。一体、どんな奴なの?」


「それが……正直、俺にも良く分からない」


「ずっと一緒にいたのに?」


 率直な美貴の問いかけに、阪田はしばし考え込み、その場の全員が次の言葉を待つ。


「俺達の中で誰より優秀な軍人だったのは確かだよ。でも、およそ心を開いてくれないと言うか……近寄りがたいと言うか……」


「ストイックなタイプなら、自衛隊にも多いけどね」


「任務の先に意義を感じない……一度だけ、そう漏らした事がある。未来を守ると言う大義名分に何処か虚しさを感じていたのかもしれない」


「ベクラに自分の命を差し出してまで、任務を続けたのに?」


「多分、ただ勝ちたかったのさ。戦いの中にしか己の生きがいを見いだせない奴だと、俺は感じていた。だから……」


「わざわざ東京タワーの上に身ぃ晒して、今回もベクラとガンテツのガチンコ勝負さ、お望みって訳か」


 吐き捨てる様に轍治は言う。


 美貴も、火口から現れた直後のGANベクターが草薙を破壊できたにも関わらず、敢えて指先で弄って見せた時の記憶を噛み締めていた。

 

 そうだ、あの野郎、あたし達にケンカを売ってる!

 

 腹立たしい。美貴からすればムカッ腹も良い所だが、この場合、敵の誘いに乗る以外の選択肢などあり得ない。


 艦隊戦力が東京へ到着し、GANベクターと合流する前に決着をつけねば戦力差は歴然。勝負にならないだろう。

 

 こちらの戦力を二つに分け、一軍を敵艦隊へ差し向けて時間稼ぎするしかない。


 その場合、当然、ガンテツを含む精鋭は東京タワーへ向う事になるが、早期決戦に持ち込まんとするGANベクターの姿勢そのものが、ガンテツに対する絶対的自信の裏返しなのだ。

 

 おそらく、全ては敵の掌の上。


 どう考えても先行きに決定的な打開策は無く、のしかかる不安が、より重い沈黙となってセントラル・ホールを包み込んでいく。

 

 

 

 

 

 数分後、不調の大蛇、草薙を万全に調整すべく、アカネさん、ツネタさんら、黒岩製作所の面々が格納庫へ向い、轍冶達もそれぞれ決戦に備えて退出した。


 だが、静まり返ったホールに真希は残り、機材の陰で身を潜めている。

 

 見つめる先にナナと七海がいた。

 

 皆が解散した後、出て行こうとした七海をナナが呼び止め、不審に思った真希がこうして密かに様子を伺っているのだ。

 

 合わせ鏡の虚像と実体。


 澄んだ眼差しが互いにもう一人の自分を捉え、交錯する様子は幻想的だったが、ナナには苦悩の翳りが色濃い。


「……あなたの体を、私に下さい」


 やっと絞り出す言葉は、七海と、盗み聞きする真希の想像を絶していた。


「七海さん、GAN―8としてのあなたは元々、私のバックアップ用に作られたの」


「……バックアップ?」


「任務を遂行するヒューマノイドが何らかの理由で機能不全に陥った場合、その記憶、人格を脳へ上書きし、代行者となるべき存在」


「……上書き……私の脳に……」


「ベクターβが洗脳に使った技術は、本来、ヒューマノイド間で任務を引き継ぐ為、開発された物なのです」


 茫然と聞いていた七海は、いきなりナナへ背を向け、セントラル・ホールから逃げ出そうとした。


「七海さん、待って!」


「そんなの、嫌です! 私が、私で無くなっちゃう」


 立ち止まる七海の顔は激しい恐怖で強張り、今にも泣きだしそうだ。

 

「……そうよね、怖いよね」


 真希の目には、ナナも又、ひどく怯えているように見えた。


「でも、あなたの人格が、それで消えてしまう訳ではない」


「え?」


「あなたと私、二つの人格が一つの体で共存する事になるわ。いずれ、統合への道を辿るでしょうけれど」


 七海は俯き、ナナを見ようとはしない。

 

「私、残酷な事を言ってる。でも、ガンテツが負けたら、私の大事な人も、あなたの真希君も未来を奪われてしまうの」


「……真希君の未来」


「七海さん、あなた、それに堪えられる?」


「……ナナさん、あなたの大事な人って、轍冶さんの事ですか?」


 質問に質問で返され、ナナは困惑した。


 僅かに恥じらうその顔が、七海には十分な答えだった。


「少し、考えさせて下さい。時間が無いのはわかっているけど、やっぱり私、一人で考えたくて……」


 七海が言い終える前に、物陰から真希が飛び出す。


「ナナさん、あんたにゃ悪ィが、考える余地無ぇから! 皆の為に一人が犠牲になるなんて、俺、絶対認めないから!」


 頭に血が上った勢いで、真希は七海の手を引き、ホールから通路へ向う。しばらくガムシャラに走っていると、強く手を握り返す七海に気付いた。


 息が切れても、そのまま走る。


 昔、観た映画……結婚式場から花嫁を奪うラストシーンを思いだし、更に足を速める。懸命についてくる七海が愛おしかった。つないだ小さな手の温もりを、決して失いたくないと思った。

 

 岐路で足を止め、真希は二度目のキスにトライする。


 目を閉じた七海に向き合い、前よりうまくやらなきゃと思った時、背後からブッキラボーな声が飛んできた。

 

「バカモン、そんな所で何やっとる!?」


 慌てて振向くと、轍冶の仏頂面に加え、車椅子に座った光代と伝の姿もある。亜紀が目を覚ましたと聞き、一緒に医務室へ向う途中なのだと言う。


読んで頂き、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
こんな極限な状況下でもやっぱり気まずい(^-^;
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