第二章 12
今回は第二章のエピローグとなります。
『大鋼人事件・事情聴取に関する補足事項』
東京都大田区・根黒島における戦闘が終了した直後、現場の約900メートル先に落下し、放置されていた大鋼獣の頭部について、奇妙な目撃談が報告されている。
激しい損傷の為、息絶えようとしている『首』へ黒衣の男が二人接近していき、その内一人が自ら進んで『首』に喰われたと言うのだ。
間も無く、辛うじて息を吹き返した『首』はモグラと酷似した形状に変化し、アスファルトを掘り起こして土の中へ消えた。
この目撃談が真実であるか否か、黒衣の男が「ベクター」と名乗る所属不明の工作員であるのか否か、については今だ判明しておらず、引き続き調査を要する。
尚、この度、作成した事件関係者の調書等については政府機関への詳細報告は行わず、聴取に携わった私直属のチーム内に情報を留め、封印する事としたい。
(私自身が当事者の一人である為、聴取の際には直接関与していない)
他国からの干渉、政権交代などの可能性を考慮した場合、政府に全ての情報を把握させ、歴代政権に引き継がせていく事は、状況次第で対処方針がぶれ、誤った決断を行う恐れにも直結する。
現時点でも米国からの情報提供要請は極めて執拗であり、知らぬ存ぜぬを通せた方が、後々好都合になるのではないか?
それに宮城で大鋼獣へ仕掛けた米軍艦艇、航空機による攻撃が殆どダメージを与えられなかった事。東京での大破壊。「ベクター」と名乗る工作員の行方を掴めない現状が、米国の不安を煽っているようだ。
彼らが当初抱いていた目論見通り、大鋼人を捕らえられたとしても、米国本土へ運べば何処であれ、ベクターの標的になり得る。そのリスクを同盟国に背負わせて、メリットだけ享受したいと考えるのも無理はない。
彼らは大鋼人の調査から手を引き、少なくとも表向きは、日本政府の裁量に任せると通告してきた。
得られた情報の共有、技術の提供・輸出、大衆への徹底的秘匿を前提としているものの、これは我々にとっても悪い話ではない。
到来するか、否かも不確かな未来の危機について現時点で知りうる全てを晒し、人心を煩わせるのは、高度成長期に差し掛かった日本国の大いなる発展を妨げる弊害となるだけだろう。
根黒島の地下に潜伏する『繭』については、活動を停止した訳ではなく、むしろ徐々に大きくなっている、との報告があった。
機械であるにもかかわらず、生物同様に成長を果たすのだとすれば、現在の日本の科学技術では到底解明できまい。下手に刺激せず、可能な限り現状を維持したまま、監視を続けるのが上策と思われる。
大鋼人から得た情報・技術の活用に関しては官民共同で検討すべきだろう。現代科学の常識を超越するテクノロジーを確保した上、如何なる大国にも従属しない力を保持、政治的にも経済的にも世界をリードしうる体制を作り上げる。
嘗ての五か年計画に代わる国家成長戦略として、我々は、これを『世界の中心・プロジェクト』と名付けた。
そのより良い実現の為にも、徳田寛一氏、事情を知る自衛隊幹部、及び私の後ろ盾である政財界のフィクサーと定期的に綿密な打合せ、調整を重ね、1999年に備える事としたい。
日本国と、その未来を担う若者達に、我々が残すこの資料が役立ち、未だ不明な点が多い大鋼人事件の全容が、いつの日か明らかになる事を切に願う。
昭和40年2月10日
内閣調査室主査 柘植壮介
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