第二章 11
第二章の戦いも、今回で決着がつきます。
ナナ、徹治の奮戦を見届けてやって下さい。
<ある男の供述 昭和39年12月聴取>
あれは……戦い始めて、どれくらい経ってたんだべ?
ベクラに喰らいつかれたガンテツはもがくのが精一杯。で、その薄く開いた瞳を通し、俺にも東京タワーが見えた。
ボロボロの大展望台、断裂した鉄骨へ沿うように沈んでいく夕陽が、眩しい、って思った時、な。
途切れかけてる心ン中、遠くから、ナナの呼ぶ声がしました。
「……轍冶君、起きてっ」
微かにそう聞こえた。
俺、耳がおかしくなったと思ったけんじょ、続いて体揺らす地響きも感じた。気合入れて目ぇ見開くと、自衛隊の飛行機だけじゃなく繭も地上へ攻撃してたなし。
楕円球のアチコチからコンパスの先っぽに似た鋭い砲身が突き出してな。ベクラの周りへ雷、落としてたっちゃ。
ナナさん、繭の中さ、いる。
俺、咄嗟に思った。
大鋼獣もそう感じたようで、一旦ガンテツから離れ、空へ向けて牙剥いた。体の表面が波打ち、鼠から鳥の姿へ戻ろうとしてた。
けど、ナナがいたのはそっちじゃねぇ。繭は、強い心の力使って、外から操ってただけだ。
あいつ、全速力で大通りを走ってくる三輪オート、運転してたなし。俺も改造に手ぇ貸した社長のニコニコ号だなや。
ちっぽけな車の接近に気付いたベクラは、変身途中で通りへ降り、振り上げた前足で潰そうとする。
でも、瞬く間に車から人型へ変わったニコニコ号は、えらく身が軽いんだべ。
身長4メートル弱。小さすぎて、操縦席に座ると言うより、人型の外枠に運転者がはまった感じになっちまう。
そんな軽い機体が右へ左へ大鋼獣を惑わし、股の間くぐって、見事、ガンテツの体へ駆け上った。そして繭の砲撃で胸辺りに巻き付いたベクラの抜け殻ぶっ飛ばした後、ナナはニコニコ号を降りたんでがす。
開いた扉から陽の光が差し込み、真っ赤な夕焼けを背にして操縦席のド真ん中さ、ナナの体が落ちてくる。
俺、両手広げて、受け止めた。柔らかいわ、良い匂いするわ、温かいわでちょっと困ったなし。
初めて会った時は逆です。俺がナナの操縦席さ、飛び込んだ。
顔を見合わせた途端、二人で自然に笑っちまったから、ナナもあの日の事、思い出したのかもしンねぇな。
「小光輪を使って、ガンテツごと奴を別の場所へ飛ばします。危険ですから、あなたは降りて下さい」
すぐ真顔になったナナは、変形し続けているベクラ睨んで、言った。
鳥と鼠の中間みてぇな姿から、全身の筋肉が盛り上がり、グッとでかくなる。口から左右の牙がはみ出し、顎の下まで伸びました。
脇腹に生えてる二本の長い触手さ別にすれば、子供の頃、図鑑で見た昔の虎にそっくりだべ。確か、サーベルタイガーだったっけ?
ガンテツの体を前より沢山齧ってる分、今回は見るからに強そうな姿で、ナナは変身が終る前に先手さ、打った。
いつもより大きめの光輪を作り、ベクラを捕えて締め付けたんだ。
「……これで、飛ばせる」
俺、ホッと一息ついてるナナに訊ねた。
「別の場所って、何処さ行く?」
「根黒島へ」
サラッと言ってのけ、ナナは又、俺に降りるよう勧めたんです。
「被害は最小限で済む筈。光代さん達に頼んで徳寛電機へ連絡し、他の町工場にも避難を呼びかけるよう手配したので」
「……俺達の工場、戦場にすんのけ!?」
「あの埋め立て地は全域が工場ばかりで、他に居住者はいませんよね?」
「んだ」
「周囲への影響を考慮し、封印してきたガンテツの武器が、あそこでなら使える」
「でも、工場は壊れるべさ」
「ガンテツの技術を提供する代わり、徳田社長には事前の了承を取り付けています。時空転移の目印となるGANコアを、地下へ埋め込む事も含めて」
「こあ? それ、何だ?」
「正確な座標を定め、ピンポイントに光輪で移動するには、目的地に時空の歪みを誘導する高エネルギー体の核が必要で……」
ナナの説明、最後までは聞けなかった。まぁ、どうせ、聞いてもわかんなかったけんじょ。
ベクラの奴、力任せに暴れて、拘束の光輪を壊しかけてる。俺、もう操縦席から降りるしかなかった。
「……ありがとう、轍冶君」
扉を閉める前にナナ、俺の頬に唇を寄せ、チュッと音をさせてから、そう呟きました。目に焼き付く、良い笑顔だったなし。
別れの言葉のようにも聞こえた。
でも、どういう意味か訊ねる前に、ナナはガンテツで一層大きな光輪さ作り、自分もその中へ入っていったんでがす。
羽交い絞めにしたベクラもろとも、そのまま眩い光で包まれ、光輪と一緒に消えた。
俺、路上に倒れたニコニコ号へ急いで駆け寄り、三輪オートの形へ戻して、すぐエンジンかけたんです。
徳寛電機目指して、大田区の街を車で駆け抜けっと、何処の工場も操業を止めてた。人っ子一人いねぇ。
きっと社長がうまくやったんだべな。そう思ってたら、前の方からひっきりなしに地響きがし、ニコニコ号の車体さ、跳ねました。
ガンテツが虎の大鋼獣へ拳を見舞い、地面へ叩きつけてる。まるで、シャープ兄弟のボディスラムみたいだっちゃ。
あぁ、強ぇなぁ。俺が乗ってる時と動きが全然違う。
触手を二本とも踏みつぶされたベクラは体をのけぞらせ、何度も吠えました。あんな苦し気な声、初めて聞いたっちゃ。
いける……イケる、これなら勝てる!
少し距離を取り、ガンテツは両手さ掲げた。お馴染みの光輪攻撃だども、今度は左右の掌で一つずつ、作ってる。
使った事がない攻撃って、これだべか?
もっと近づきたかったけんど、俺、根黒島の運河手前で止まった。ナナの邪魔、しちゃいけねぇと思ったんでがす。
「やっちまえ、ナナ!」
同じ血で共鳴する俺の声が届いたか、ガンテツはベクラへ二つの光輪を叩きつけようとしたども、ほんのちょびっと、敵が早ぇ。
光輪さ擦り抜け、ガンテツの喉笛へ咬みついたんだ。鼠の時と大違いの、物凄ぇ牙で。
高周波の唸りと蒸気の飛沫が天に舞い、半ば喰いちぎられたガンテツの首が横へ傾いたども、ナナは怯まなかった。宙に浮いた小光輪をガンテツの指先で操り、ベクラの死角から攻める。
光輪は刃物以上の切れ味で、敵の首を断ち切りました。んで、地面に落ちた頭部を鋼の足が踏み潰し、遠くへ蹴っ飛ばす。
ベクラ、ようやく動きさ、止めた。
俺、思わずその場で飛び上がっちまったよ。けんじょ、まだ終わってねぇ。
止まった筈の胴体、その首の切れ目から長ぇ角が生え、ガンテツの胸のど真ん中……丁度、操縦席のある辺りへ深々と突き刺さったんです。
ナナの悲鳴、聞こえた。
体を引き裂かれる痛みと一緒に、俺の胸ン中、流れ込んできた。
ベクラは、角から電撃を繰返し撃ち込んでいました。ガンテツの操縦席や全身の排気口から、ドス黒い煙が漏れた。
いくら何でも、あれじゃ助からねぇ……
頭ン中真っ白になって、気が付いたら俺、戦場へ走ってた。
丁度、そン時です。
角に土手っ腹貫かれたまんま、ガンテツがベクラの背中へ二つの光輪さ、落とした。輪の合わさった部分から光が迸り、小さな太陽みてぇな炎の球が生まれた。
二つの巨体さ包み、炎は見る見る大きくなって、辺りを綺麗に焼き尽くしたなし。
数十秒後、静かになった根黒島は見渡す限り焼け野原で、ベクラの亡骸も消滅してました。
俺、ガンテツへ走った。でっかい穴が開いた操縦席さ、覗き込んだども、誰も乗ってなかった。
ナナの奴、消えてました。
真っ黒こげのシートの上、骨の欠片も残ってねぇ。
名前呼びながら、泣いたなや。ガキの頃みてぇに大声で泣きじゃくって。
ゆっくり降下してきた繭は、ガンテツを収容し、そのまま作り上げた光輪の中へ消えちまった。
何処へ行ったやら? 又、根黒島の地下へ潜った気はしたけんじょ、確かめる所じゃなかったなし。
ナナを失った事しか、俺、考えられなかったんです。
胸にポッカリ開いちまった穴、金輪際、埋まらねぇって思った、一生……
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