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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

解体担当をクビにされた少女は、一人の冒険者になる

作者: GORO
掲載日:2026/06/22



「お前、もうここに来なくていいぞ」


ーーーそれは、ある日のギルド本部。

冒険者から受け取ったモンスターを処理する解体現場で解体担当のリーダーである男、バークは目の前に立つ一人の少女に仕事を辞めろと言った。


十四歳である少女ーーリンは、これまでこの解体現場に四年勤めていた。

男だらけの現場の中で、一人だけの女。

手も小さく、作業も遅い。

それでも何とか必死に食らいつき、低レベルくらいのモンスターなら、一人で捌けるほどに成長することが出来た。


だから、これからも頑張ろう。


そう、思っていた矢先のことだった。


「ぇ、それって……どういう」

「だから、クビだって言っているんだ。俺たちもお前を見てるほど暇じゃない」


解体担当のリーダーであるバークはそう言いながら、周囲に視線を向ける。

基本、解体現場に休息という時間はなく、次から次へとモンスターが運ばれていく。

だから、誰を指導する、等といった時間すら取れない過酷な環境だった。

そして『見て覚えろ』というのが、ここでの常識だった。

だが、


「俺は四年、待った。だが、お前はその間に成長できたのは、低レベルのモンスターを解体することだけだ」

「そ、それは」

「はっきり言う。お前の場所を置いておくこと自体、邪魔でしかない。だから、クビだって言ったんだ」

「っ……」


反論できない言葉に、唇を紡ぐリン。

二人の間に短い沈黙が流れるが、それもまた次々と出てくる仕事の騒音で一蹴されてしまう。


「わかったか? わかったなら、さっさと出ていけ。そこにいるだけで邪魔だ」


そして、バークはそう言い残し、その場を去っていく。次の仕事に就くために。

もう関わる必要すらないと言わんばかりに。


「…………っ」


思いすら伝えることすらできない。

残されたリンは喉奥で言葉を殺し、



「…………こ、これまで、お世話に……なりました」



リンは涙を溜めつつも、小さく頭を下げた。

だが、誰もそんな彼女を見ようとはしなかった。


そうして、リンは自分の荷物をまとめた。

ーーー四年間勤めた解体現場を背に、その場を去っていったのだった。



◆ ◆ ◆



解体現場を離れてから数日、リンは寝込んだ。

精神的ショックが強かったこともあって、何も手がつけられなかった。

だがしかし、そのまま塞ぎ込んでもらえる時間すら、彼女には与えてもらえなかった。


「ギルド所属じゃないんだろ? だったら、悪いけど早くここを出ていってくれないかしら?」


ギルド所属であることを理由に住まわしてもらっていた宿屋。その大家である女性から、退居するようにと開口で、その言葉が告げられたのだ。


突然の事に驚きを隠せなかったリンは焦った様子で、仕事を見つけて宿代もちゃんと払います、と懇願した。

だが、その言葉に対する返答は、三日だけ待つ、という言葉だけだった。

そして、このまま宿代を払える見込みがないのなら、強制的に出ていってもらう、とまで言われてしまった。


「……わ、わかりました」


これ以上言っても、どうしようもない。

リンは、伏せる気持ちを胸のうちに押し込みながら、すぐさま仕事探しを始めた。

そして、何とか宿代だけでも稼ごうと、と。

そう思った。

ーーーーだが、


◆ ◆ ◆


「それじゃあね」

「…………」


その三日後。

大家の言葉を最後に、リンは宿屋を退居することになった。


「………っ」


新しい仕事を探そうと、必死に駆け回り、何件かの店に雇ってもらうことは出来た。

雇ってもらったからには、真面目にやろう。

その気持ちで一杯だった。


だが、これまで解体しかやって来なかった彼女にーーーーすぐさま違う仕事を覚えることは出来なかった。

その上、彼女自身が持つ不器用さが仇となり、早二日で、出ていってくれ、と言われてしまうほどだった。


「………これから、どうしよう」


そして、ついには、


「悪いけど、帰ってくれ」


店々での情報が行き交ってしまったのか…。

どの店も、リンを雇ってくれなくなってしまった。



◆ ◆ ◆



「冒険者登録でよろしいしょうか?」

「……はい」


どこかに雇われ、金を稼ぐ手段はなくなった。

そして、体を使って稼ぐ、気持ちも持てなかった。


だからリンは、最後の手段でもあるーーー冒険者になることを、決めた。



一人でクエストを受け、お金を稼ぐ。

生きたモンスターに遭遇したこともなければ、戦闘経験すらない。


それでも彼女には、これしか道は残されてはいなかった。

少しずつクエストをこなして、冒険者として力をつけていこう、と。


そう決意したリンは、外壁に囲まれた街を出て行くのだった。



◆ ◆ ◆



だが、ここでもまた。


「はぁ、はぁ、はぁ、っ!」


ーーー現実は甘くはなかった。


「ガゥ! ガゥ!」


薬草採取のクエストを受けただけのはずが、偶然にも群れを逸れた一匹のワーウルフに遭遇してしまったのだ。

そして、獲物と認識されてしまったリンは、今まさに追われていた。


まともな装備も買えず、護身用として、これまで解体に使っていたナイフ一本のみ。

リンはまさに、絶体絶命の危機に陥っていた。


ーーーそして、



「きゃっ!?」



ついに、その危機は現実のものへとなる。


「っあぁあーーーー!!!」


ワーウルフの顎が、リンの片足を噛み付いたのだ。

強烈な激痛に、リンは声を上げて泣き叫ぶ。

だが、今いる場所は森の中。

周辺に冒険者の姿もなく、誰の助けもない。


「痛ぃ!! 痛いーーーッ!!!」


リンは必死に泣き叫びながらも、もう片方の足を使って、ワーウルフの頭を蹴り続けた。

だが、その強靭な牙は未だに離れようとはせず、抵抗する度に噛む力は強くなっていく。


(こ、このままじゃ、こ、殺される…っ!)


痛みによって思考が鈍くなる中、リンは不意に腰に装備していたある物に目を向けた。

それは、これまで四年間の間、付き添ってくれた解体ようのナイフ。


「ーーーーッ!!」


リンはナイフを鞘から抜き取り、ワーウルフを睨んだ。

そして、これまで解体現場でやってきた事を思い出し、ナイフを振り下ろす。

骨格を避け、モンスターの外郭から脳髄にまで届く、その急所に向けて、ナイフを振り下ろした。



「ッガァゥ!?!?」



肉を割く音の後に、モンスターの悲鳴が聞こえた。

眼球から差し込まれたナイフは見事に骨を裂け、脳髄を貫いた。

リンは、ワーウルフをその一撃で倒すことに成功したのだ。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


噛む力が弱まり、牙の抜けた足から血が滲み出る。

普通なら、激痛で声を上げてもおかしくなかった。

だが、それ以上に、



「……ぁあ、っ、っぁあああああっ!! ぁあああああああっ!! ぁあああああああああーーーーっ!!」




なんでこんな目に遭わないといけないんだろう?

私が何をしたの?


悲しさと悔しさ。

孤独に苛まれながら、リンはその悲痛な想いを声に乗せながら、一人泣き続けた。


誰にも助けてもらえない、この厳しい現実の中で……。


これが、リンにとってのーーーーー孤独な冒険者となる始まりの一歩でもあった。



◆ ◆ ◆


片足を引き摺りながら、街の外壁までワーウルフを引きずって持ってきたリンは、ギルド本部にそれを提出して、お金をもらおうとした。

だが、


「嬢ちゃん。悪いけど、そのモンスターを持ち込むことはできねぇよ」


門番を担当する二人の兵士。

その内の一人によって、街に入る事さえ止められてしまった。


「どうしてですか!? だって、みんな!」


これまで解体現場にいたリンにとって、ギルドにモンスターを持ち込めることは十分に知っていた。

なのに、何故自分だけがソレを許可されないのか、訳がわからなかった。

だから、リンは荒れた様子で疑問を投げかけようとしたが、それより先に兵士の男が呆れた様子で口を開いたのだ。


「仕留めた後の処理すらしてないからだよ」

「………ぇ」

「血抜きや異物の撤去、解体前にやるのが前提なんだ。だけど、嬢ちゃんのそれは、それすらしていない」


血抜きや異物の撤去。

解体現場では聴かなかった言葉に、動揺を隠せないリン。

だが、兵士にとってーーーーいや、


「血の匂いはモンスターを引き寄せる原因にもなる。冒険者なら当然の常識だ」


それは、冒険者にとって、知っておかないといけないルールでもあった。

例え、それが駆け出しの冒険者であってもだ。


「だから、悪いがそのモンスターを捨ててきてくれ。それをしない限り、嬢ちゃんを街に入れるわけにはいかない」

「ま、まって」


リンが、どうにか声をかけようとするも、兵士の睨みがその言葉を飲み込ませてしまう。

モンスターを捨てなければ、街にも入れない。

モンスターを売らねば、お金も稼げない。


リンはその場に一人立ち尽くしながら、唇を紡いだ。


そして、兵士たちの冷たい視線を背に、再びモンスターを引き摺りながら、その場を後にした。




夕日が沈み、街の入り口でもある門はついには閉まってしまった。

リンは血が滲む足を引き摺りながら、川沿いへとモンスターを運んだ。


「血抜き、異物の撤去」


そして、言われた通り、血抜きと異物の撤去。

初めての作業を始めた。

だが、


「うっぷ」


臭いとグロテクスな光景。

解体現場で持ち込まれていたソレらとは違う、その現実を間近で見てしまったリンは、遂には耐えられずに嘔吐してしまった。


「ぅげ、ぇ……っ!」


幸いにも胃に何も入っていなかった為、嘔吐は直ぐに治った。

だが、それからが地獄だった。


何度、吐いたわからない。

何度、誤って手を切ったかわからない。



「っ……ひくッ……」



それでもーーーーやるしかなかった。

どれだけ泣こうと、どれだけ嫌気がさそうと、生きていくためにはーーーーやるしかなかった。



◆ ◆



朝日がのぼり、門の扉が開く。

夜は内側を守り、日中は外側を守る兵士たち。

昨日に続いて街の門番を担当する兵士たちは、欠伸を交えながら、昨日の夕暮れにやってきた冒険者の少女についての話をしていた。


「おい、あの嬢ちゃん、結局丸一日帰ってこなかったぞ」

「仕方がない。それが規則だ」

「いや、そうだけど」

「お前なぁ、毎回そう言って、冒険者の誰それを助けるつもりか?そんなのキリがねぇぞ」

「……わかってるよ。でもあの嬢ちゃん、あれって新米の冒険者だろ? それなのに」

「それこそキリがねぇじゃねえか? なぁに、新米の通るさがって奴で、ちゃんと成長の足しに」


そして、そう談話をしながら開き切った門の先に足を踏み出した兵士たち。

その眼前で、


「……………」


リンは立っていた。

全身には、血抜きを失敗して、飛び散った血がシミのようについている。

異物の撤去をした時についたであろう、臭いもその全身にこびりついていた。

だが、


「っ……!?」


それを告げる言葉を兵士たちは、口に出せなかった。

それほどまでに、前髪の隙間から見える黒に染まった眼光が、それを許さなかった。


「処理もして、血抜きもしました。………これでも、まだ入れてはくれませんか?」

「……確認する」


血で濡れた手から渡されたモンスターの死体。

それらを震えた手で確認する兵士たち。


「処理の確認は取れた。……行って、いいぞ」


そして、その言葉を聞き終えたリンは、モンスターを受け取り、胸に抱き上げながら、街の中へと入っていく。

通りからは時折、悲鳴のような声が聞こえきたが、


「「…………」」


それ以上の言葉を、彼らは口にすることが出来なかった。


◆ ◆ ◆




やっと門番の兵士たちに許可を貰い、リンはモンスターを抱きしめながら、ついにギルド本部にたどり着いた。

だが、ここでも、


「これじゃあ、受け取れないね」


ああ、まただ……。と、リンは思った。


「品質が悪すぎる。水にも濡れて、一文すら出せない。アンタ、解体にいたくせに、そんなことすら知らないわけ?」


リンを見下すようにして、態々周りに聞こえるような大きな声で言葉を続ける受付嬢。


「悪いけど、これの処分は自分でやっておいてちょうだい。こっちも、タダじゃないんだから」


そして、その声に注目が集まる中、解体現場から一人の男がやってきた。


「おい、お前何やってんだ?」


それは、リンにクビを告げたバークだ。

バークは、受付嬢とリンを交互に見た後、テーブルに置かれた一体のモンスターの死骸を見た。

そして、その余りの杜撰な処理がされたモンスターの様にバークは舌打ちを打ち、


「この面汚しが、お前のせいでこっちの解体現場にイチャモンがついちまうじゃねえか!!」


リンに向かって、かバークは怒鳴り声を飛ばした。

そして、それから続く罵倒の数々、


「………」

「おい、聞いてるのか!」


真上から浴びせられる怒号。

周囲から聞こえる自分を嘲笑う冒険者たちからの声。

哀れみの感情が込められた視線。


「…………」


リンの周囲の視界が、徐々に暗くなる。

心の余裕が狭まる。

雑音が次第に遠くなり、心が沈んでいく。


ーーーこれまで頑張ってきた。

ーーーー待ち繋いでいた、心が、ひび割れていく。


そして、ついに。


(ーーーーもう、どうでもいい)


と、リンの、わずかに残っていた、心の光が黒に染まってしまった。

全ては敵。

もう、誰も信じない。

もう、誰にも頼らない。


だから、


「もう、いい」

「あ?」


バークの言葉を遮り、リンは言う。


「もう、わかった。もう誰にも頼らないし、もう誰の助けも受けない」


顔を上げた前髪の隙間から覗く、黒に染まった瞳はバークや受付嬢、野次馬のように集まっていた冒険者たちを見渡し、談笑、怒号を黙らせた。


「解体も。食事も。住む場所も。全部、自分で何とかする」


リンはテーブルに置かれたモンスターをひったくるように掴み、その場から離れていく。


「ハツ! 泣きべそかいて、戻ってくるのがオチだろッ!」


後ろから聞こえてくる罵倒すら、雑音に捉えながら。

リンは、一人歩いていった。


街の門を抜け、外の世界。



ーーー孤独の道を、歩いていった。




◆ ◆ ◆



ーーーそうして、あれから二ヶ月の月日が経つ。


「おい、あれって」

「馬鹿、口に出すなよ」


ギルド本部の受付前。

そこに、一人の少女ーーーリンの姿があった。

モンスターの血で黒に染まったコートで着込み、首元にはワーウルフの毛皮が巻かれている。


「………」


彼女の目的はモンスター討伐の報酬ではなく、冒険者の規則によって決められた『ある一定期間内でのモンスター討伐』その条件を満たすために、ここに足を運んだのである。

そして、リンは、目の前にいる女を冷たい目線で見据える。

そこに立つ、以前自分を馬鹿にした受付嬢。

その女の前に血抜きなどの処理がされたモンスターを置き、


「鑑定をして」

「っ、わかったわよ!」


討伐証明であるワーウルフ一匹の提出した。


「銅貨、六十枚よ」

「……………そう」


出された報酬を手に、その場を後にしようとするリン。

すると、そこに解体担当のリーダー、バークが姿を現した。バークは受付嬢にリンが提示したモンスターの品質を聞き出す。


「おい、本当に品質が良かったのか?」

「……ええ」

「ちっ、一丁前にいきがりやがって」


聞こえるようにそう悪態をつくバーク。

だが、リンはそんな言葉すら気にすることなく、その場を後にしようとする。



だが、そんな時だった。


「何騒いでやがる」

「あっ、ギルドマスター」


ギルド本部の二階へと続く階段、そこから一人の大男が降りてきた。

その男、ギルド本部のマスターのガストラは周囲を見渡しながら、受付嬢に視線を向け、


「………」


正確には、提出されたモンスターを見定めていた。

そして、その品を深々と見た後に、


「ほぉ、品質共に上等じゃねえか」

「え、ええ。はい」

「それで、いくら出した?」

「……え」


まるでさっきまでの光景を見ていたかのように、態々聞こえるような大きな声で、受付嬢に尋ねる。


「これなら、銅貸百はいくだろ? その上で聞くが、お前さん、その嬢ちゃんにいくら出した?」


ギルドマスターが口にする、威圧を乗せた言葉。

ガクガクと震えて言葉を出さない受付嬢、そして、その余波に怯えて立ち尽くすバーク。

二人が畏怖しながら黙り込み、周囲に緊迫とした沈黙が漂う

だが、リンはそんな空気に臆することなく、その場を後にしようとした。

ーーしかし、その時だ。


「おい、嬢ちゃん」


ギルドマスターから、リンに声が掛けられた。


「………はい、何ですか?」

「俺はギルドマスターのガストラだ。ちょいと話があるからこっちに来てくれるか?」


◆ ◆ ◆


場所を移そうと提案され、リンは今、二階のギルドマスター部屋へと招待されている。


「………」

「………」


ソファに向かい合うように座るリンとガストラ。

直ぐに会話が始まると思っていたが、視線を交わすだけで一向に話が始まらない。

あまりの沈黙に、眉をひそませるリン。

すると、そんな矢先で先に口を開いたのは、ガストラだった。


「リン、お前さん。鑑定の儀は受けたことはあるか?」

「鑑定の儀?」


それはある年齢になると、街の教会が無償でスキルやジョブの鑑定をしてくれる、という儀式のことだ。

この世界においては、それは必須であり、またその鑑定の結果によって、人の生き方が大体決まるという。


「………」


だがしかし、生まれが孤児だったこともあって、リンはそれを受けておらず、


「いえ、受けてません」

「……そうか」


隠す必要もなかったため、リンは正直に話した。

そして、会話はそれだけとなり、再び沈黙が落ちる。

流石に我慢の限界となったリンは眉を顰めながら、立ち上がり、



「あの、もう用事がないなら、もう行ってもいいですか?」

「ん、ああ、すまないな。後、お前さんのちゃんとした報酬はこっちで払っておく」

「……………ありがとうございます」


その小さな礼に対して、リンは小さく頭を下げ、ギルドマスターの部屋を後にするのだった。

そして、帰り際に来る色々な視線を気にすることなく、また街を出て外へと歩いていく。


そしてまた、孤独の道へと、歩いて行った。


◆ ◆ ◆



彼女がいなくなったことで、一人となったガストラ。

しばらく天井を眺めた後、盛大な溜め息を吐いた。


「参ったな」


ポケットから折り畳まれた小さなメモを取り出し、そこに書かれていた文書。

冒険者リンの功績を、じっと眺め、


「新米冒険者が一カ月そこらでDランクモンスターを狩れるか、って思って調べてみたが」


瞬きと共に、その七色に光る片目を露わにさせる。

ギルドマスター、ガストラが所有するスキルはーー鑑定。

見たものの、ステータス、特にスキル等を調べることができる力だ。

そして、冒険者リンの事を調べるべく、その鑑定を使ったはいいが、



「ユニークスキル…………スキルマスター、か」




まさか、秘匿レベルのスキルを所持してるとは思いもしなかった。

ユニークスキル、スキルマスター。

所持者の願望に応じて多種多様のスキルを習得可能とする。

下町の少女が手にするべきではない、そんなレベルのユニークスキルをリンは持っていたのだ。


「………」


ユニークなだけあって、その力は強大である。

しかし、同時に下手に悪用すれば、最悪な力ともなる。

だが、それよりも大きな問題なのは、このスキルをその本人が一番に理解していないことにあった。

とはいえ、


「はぁ、当分は見張るしかないか」


結果はどうであれ、秘匿レベルのスキルを見つけてしまったのは事実。

ガストラは一先ずこの事実は自身の心の内で保留して、隠すことに決めたのだった。

そして、それと同時に、


「…………」


ガストラは、このスキルを不幸にも持ってしまったリンに対して同情するのであった。




それはーースキルを理解していなかったことに対して。


それはーーーたったそれだけの事で、彼女のこれまでの四年間が無駄になっていたことに対して。


そして、それは、ーーーーーユニークスキル、スキルマスターの副作用とも呼べる枷ことに対して、だ。



ユニークスキル『スキルマスター』

願望に応じて無条件で多数のスキルを所得することができる。

だが、そのレベルは全て『1』に固定されてしまう。



それこそが、彼女が四年間仕事を頑張ってなお上達する事ができなかった、不幸だったのだから。






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